2016/09/02

アダルトゲームとLGBT

  アダルトゲームにおけるLGBT。おおまかな覚書として。


  いわゆる「エロゲー」分野は、基本的に男性向けにチューニングして作られているアダルトメディアなので、LGBTの扱いにも特有の傾斜がある。それぞれの属性について、どのような扱われ方をしているかを素描してみよう。

  最初にいくつかコメントしておく。
  第一に、性自認の問題は、本来は性的指向の問題とイコールではないが、恋愛関係や性描写がクローズアップされる分野であるため、本記事では便宜的にしばしば後者(とりわけ性行為の対象選択)の側面で取り上げる。
  第二に、ゲームというメディア形態からして、「主人公(プレイヤーキャラクター=ユーザーの直接的な操作対象)」「ヒロイン(攻略対象=ゲーム遂行の目的そのもの)」という位置づけがきわめて重要な意味を持つ。本記事では、「主人公」「攻略対象」のカテゴリーを参照しつつ、それぞれを概観していく。
  第三に、アダルトPCゲームは、いくつかのカテゴリーに区分されている。すなわち、いわゆる「エロゲー」分野(男性ユーザー向けと見做される)、「乙女ゲー」(女性ユーザー向けと見做される、女性主人公の異性愛もの)、「BLゲー」(女性ユーザー向けと見做される、男性同士のシチュエーション)の三者が主要な分野として存在する。この記事では、いわゆる「エロゲー」カテゴリーを主に取り上げつつ、他のカテゴリーにも適宜言及する。



  L(女性同性愛者)に関しては、『サフィズムの舷窓』『その花びらにくちづけを(シリーズ)』『ひとりのクオリア/ふたりのクオリア』『きみはね』のような百合特化タイトルが存在したり、あるいは白箱系/黒箱系のサブキャラで登場することがある。しかし、全体の中ではかなりの少数派であり、大部分の作品ではキャラクターとしても行為としても登場しない。これは典型的に、男性主人公とヒロインとの間の性描写が最優先されるこの分野ならではの、意識的な取捨選択の結果であろう。とりわけ近年では、リソース集中の観点から、サブキャラ同士のアダルトシーンが減少しているため、よりいっそう男性主人公基軸のジェンダー表現に拍車が掛かっている(――ただし、アダルトゲーム分野には女性主人公ものも相当数存在する点に注意)。Erogamescapeには、POV「女の子同士」があり、多数の実例が容易に確認できる。男性主人公が女性同性愛者キャラクターに対して、翻意させて結ばれたりあるいは無理矢理に蹂躙したりするようなタイトルは、ほとんど存在しない。

  この分野においては、総じて女性同性愛者ネタは敬して遠ざけられているといった様子である。それは、端的に言えば、「女性同性愛者は、分野的目的からして、登場させるメリットが無い」ということに帰着するのではなかろうか。現実世界とは異なり、創作物の世界では、さまざまな要素が意識的に取捨選択されて、描かれたり描かれなかったりする。男性主人公の視点を基軸とするこの分野で、それと関わりを持たせにくい存在がめったに描かれない(あるいは、そうした要素を導入することにコストが割かれない)のは、その一例だと言えるだろう。ユーザーサイドでも、女性同性愛描写は、内容上忌避されるものではないが、「無駄」「不要」として批判されることがある。

  しかし、通常「男性向け」と見做される分野にもかかわらず、興味深いことに、女性同士のシーンは完全に無視乃至排除されているわけではなく、たしかに一定数存在する。いわゆる「エロゲー」分野は、男性向けと見做されがちであるが、その実態はどちらかといえば、「性表現要素を含む『アダルトゲーム』のうちで、『乙女ゲー』と『BLゲー』という二つの大きな下位分類を除外した残り全て」と認識する方が妥当であろう。実際、「エロゲー」分野には、女性ユーザーも一定数存在する(――割合としては10%以下のようだが、完全な例外というほどの少数ではない。店頭でも女性客を見かけることはある)。そうした状況下で、女性同性愛表現がこの分野で取り上げられることがあるのは、驚くべきことではなく、フィクショナルな性表現における性嗜好の多様性を健全に反映しているものと見ることができる。



  G(男性の同性愛者)に関しては、「エロゲー」分野は、いささか偏見の再生産に乗っているきらいがある。つまり、ゲイキャラクターが登場する際には、「化粧が過度に濃い」「口調や身振りが過度に女性的である」「性的なアピールを頻繁かつ執拗に行う」「他のキャラクターからは敬遠されている」「常識とは異なった視点を提供する」といったようなステレオタイプなキャラクター造形がしばしば採用されている。有名な『恋姫†無双』シリーズの貂蝉は、その典型例だろう。また、作品外の話になるが、00年代に各ブランドが行っていたエイプリールフール企画でも、「製品版の男性サブキャラを攻略対象にしてみせた新作のフェイク告知」のような、ゲイを茶化すことによって笑いを喚起しようとするものが非常に多かった。もっとも、ゲイキャラクターの造形に関する偏頗は、BLゲーやいわゆる「ホモゲー」(男性ユーザー向けと見做される、男性同性愛シチュエーションのタイトル群)にも見出される。

  ただし、白箱系(学園恋愛系)タイトルで男性主人公の友人として登場する場合には、それはおそらく差別的な認識に由来するものではなく、脚本上の要請による設定かと思われる。すなわち、男性同性愛者の友人は、ヒロインとの恋愛関係を目指さないという意味で、主人公との競争関係に立たない安全なキャラクターになるからである。女性への性的好奇心を示さないという意味では、ナルシストキャラクター(例:『こころナビ』)やオタクキャラクター(例:『こみっくパーティー』)と同根の存在であろう。また、後述するように「男の娘」友人キャラが頻繁に登場することに鑑みても、ジェンダーのレベルでのゲイ嫌悪や男性嫌悪ではなく、むしろ外見のレベルでの可愛らしさこそが最優先される価値観なのだと考える方が理に適っている。

  また、男性主人公が、(生物学的/社会的な)男性キャラクターと付き合うことはほとんど無い。男性同士のアダルトシーンがあるとしても、低年齢外見のショタもの(CAGE作品などごく少数)か、女性的な外見の「男の娘」もの(代表例として脳内彼女作品)がほとんどであり、一般的にイメージされるような男性らしい外見の男性キャラクターが攻略対象になることはまず無い。しかも、いずれの場合でも、アダルトシーンで男性主人公が「受」側になることはほとんど無く、男性主人公-女性ヒロインのシーンとあまり変わらない書きぶりで描写される(――ただし、『はなマルッ!』『Festa!!』では、男性主人公が男性キャラクターの行為を受け入れる側になる)。珍しい例として、『彼女を寝取ったヤリチン男を雌堕ちさせるまで』がリリースされたが、これは男性向けブランド「ルネソフト」からの発売であり、男性ユーザーをターゲットにしているのではないかと推測される。

  Erogamescapeの「♂×♂」にあるとおり、多数のタイトルが存在するが、ゲーム上の趣向としては、ユーザーからは警戒乃至反発されがちな要素である。作中キャラクターが、男性同性愛への生理的嫌悪をはっきりと表明することも、けっして稀ではない。これは、この分野に特有のなんらかの内在的事情があるというよりは、ただ単にヘテロ男性向けのアダルトメディアという性質からしてその多数派的な意識に合わせているにすぎないと思われる。
 
  女性向けと見做される「BL(ボーイズラブ)ゲーム」は男性同士の恋愛描写を主目的とする分野であり、その多くは性描写を含む。このジャンルで描かれる男性像は、総じて「美形」であることを前提にしており、その下で「アグレッシヴなエリート(生徒会長や貴族)」「信頼できる年長者(教師や執事)」「自由奔放/お気楽/女好き」「アウトロー/野性的」「謹厳実直(武道家など)」「儚げ/ショタ」「ミステリアス/不機嫌」「おっとり眼鏡」といった様々なキャラクター類型が展開されている。

『MxS(エムエス)』
(c)2003 abogadopowers
SMクラブの店長という設定もあって、非常にステレオタイプに誇張されたゲイイメージのキャラクターである。ただし、単純な偏見の所産というわけではなく、作品全体が非常に戯画的なテイストであることも注意すべきである。
『カルマルカ*サークル』
(c)2013 SAGA PLANETS
友人キャラクターとしての男の娘は、主人公との競合関係に立たず、同性愛的くすぐりのコメディ要素をもたらし、視覚的にも可愛らしいキャラクターを追加できるという効果がある。



  B(両性愛者)は、特別に大きく取り上げられることはほとんど無い。これは、ゲームという媒体の特性ゆえに、両性愛者が表現しにくいからではないかと思われる。主人公(プレイヤーキャラ)が両性愛者である場合には、男性キャラと結ばれるシナリオと女性キャラと付き合うシナリオがあったとしても、それらはそれぞれ枝分かれした別世界の出来事になってしまうので、「男性とも女性とも付き合う主人公」という一体のアイデンティティとして受け止められにくい。また、攻略対象側が両性愛者である場合でも、作中で描写されるのは主人公との間の関係のみであり、したがってこちらも両方の側面が描かれることは無い。こうした事情から、この分野には両性愛キャラクターはめったに登場しない。『Rance』シリーズのミリ・ヨークスのように、キャラクターアイデンティティとして明示されている例はあるが、これはおそらく性豪キャラというコンセプトからの帰結であって、両性愛者のアイデンティティそれ自体に意味があるわけではないだろう。

  ユニークな例として、『ジンコウガクエン』では、キャラクター(NPC)を作成する際に「異性愛/同性愛/両性愛」のいずれかを選択することができる。何又関係でも実現できる恋愛シミュレータ作品であるため、両性愛に設定した場合は、そのキャラクターが他の男性キャラとも付き合い女性キャラとも付き合うという状況が生じうる。



  T(トランスジェンダー)に関して。男性の女体化については、古典的な『XChange』シリーズがあり、さらに2005年発売の『処女はお姉さまに恋してる』『はぴねす!』を契機として普及したいわゆる「男の娘」ものの趣向がある。ただし、『XChange』は後発的な女体化であり、また、基本的にはバカゲーと見做されており、しかも、この路線のタイトルはその後ほとんど現れていない。その他、シーメール主人公の『バルバロイ』があるが、作中では「故あって女装している男性」として振舞っている。男性的な女性については、『THEガッツ!』シリーズや一連の聖少女作品があるし、また、SM趣向という形をとって間接的に取り込まれているように見受けられる。

  女性が男体化することは、きわめて稀である。男装キャラクターについては、『輪罠』のように男装して男子校に潜入する女性主人公や、あるいはほとんど男性的に振舞う謹厳な武道ヒロインがあるが、全体としてはかなり少ない。珍しい例では、『桜吹雪』には男装女性の友人キャラクターがいる。

  「男の娘」について。
  1)主人公が「男の娘」である場合は、ほとんどの場合、「女性的な容姿を持っているが、内面的には徹頭徹尾男性であるキャラクター」である。男の娘主人公が付き合う相手は女性だけであり、男性キャラクターとの恋愛関係に入ることはまず無いし、それどころかネームドキャラクターから性的好奇心を向けられる描写すら稀である(――男性友人キャラクターと付き合うことになる『ねがぽじファンディスク』は、稀少な例外であろう)。アダルトシーンのテキスト描写においても、男の娘主人公はあくまで男性として振舞い、ヒロインとの関係はけっして女性同性愛的なものにはならない。なお、男の娘主人公の場合は、アダルトシーンでも主人公の身体が堂々とフレームインされるという大きな特徴がある。
  2)攻略対象側が「男の娘」である場合は、先に述べたとおり、「一部に男性的な生理機能を持っているほかは、ほぼ一貫して女性のように振舞う」存在である。彼等の体躯は非常に小柄であり、男性主人公からの行為を受け入れる側として振舞う。実例として、XERO系列や脳内彼女の一連の作品がある。
  3)サブキャラが「男の娘」である場合は、カジュアルな「男の娘」ネタであることが多いようである。つまり、精神的には男性寄りでありながら、男性主人公への好意を匂わせるといった描写がなされることが多い。「男の娘」キャラクターは、2010年代後半以降、この分野で大きな人気を博して多用されているキャラクター属性である。しかし、「エロゲー」分野がどこまで「男の娘」趣味にコミットしているのかは、はっきりしない。男の娘キャラクターは発売前の話題になりやすく、また、本編中でもトリックスター的に自由な活躍をさせやすいのは確かだが、「男の娘」人気に乗っかるための単なる方便のように見えるものも少なくない。

  Erogamescapeには、属性「性転換」POV「フタナリで二度美味しい」があるが、TGを広く取り扱うタグなどは設けられていない。

  実際の扱いには偏りがあるとはいえ、原理的にはおそらく、トランスジェンダー要素(特に女体化や女装する側)はアダルトゲームの分野文化的ムードと親和的である。男性ユーザーが支配的であるにもかかわらず、アダルトシーンのイベントCGでは、男性主人公の身体は余計なものとしてフレームアウトされ、その一方でヒロインの身体はひたすら大きく堂々とその存在を強調される。また、テキスト面でも、男性側の台詞はヴォイス無しで淡々と流されていくし、彼の心理や身体的反応はモノローグで素っ気なく述べられるのみだが、女性側はプロフェッショナルな声優たちによるフルヴォイスでひたすら饒舌にみずからの身体的反応や感情表現を表明し続ける。「アダルトゲームをプレイする男性ゲーマーは、実はヒロインにこそ感情移入しているのだ」という所説――実際には疑わしいが――が提起されることがあるのも、故無いことではない。建前としては男性向けアダルトメディアの一つであるが、男性的原理に支配された分野というわけではない。実際、先述のように女性ユーザーも相当数いるし、 女性クリエイターも非常に多いのがこの分野である。特に白箱系原画家では、おそらく男女比は半々、ことによると女性原画家の方が多いかもしれないほどだ。

『処女はお姉さまに恋してる』
(c)2005 キャラメルBOX
男の娘主人公は、当人が自発的に女装することはほとんど無く、外的事情で強いられた秘密の性別偽装であるのが通例である。内面的にも、女性らしく扱われることを受け入れてはいない。男の娘主人公は、女子校に男性キャラクターを通学させるための方便でもあるだろう。



  【 その他 】
  典型としての以上4種のほかにも、さまざまなキャラクターアイデンティティは描かれているし、また、さまざまなユーザーの性的アイデンティティに対応するようなキャラクターも、さまざまなユーザーの性的嗜好に対応するような描写も、そしてちっともセクシャルではないアダルトゲームも存在する。例えば二成、SM、ショタ、乱婚、グロ、スカ、体格差、超巨大バスト、等々。それらの広がりすべてをこの短い記事で紹介し検討しつくすことは不可能だが、アダルトゲームがそうした多様な要求を受け入れて展開されてきたことは疑いない。



  【 まとめ 】
  いわゆる「エロゲー」は、
- 日本国内で制作され販売されている(ただしごく一部は英訳版が海外販売されている)、
- (ヘテロ)男性ユーザーをメインターゲットにした(ただし女性ユーザーもそれなりにいる)、
- スタンドアロンPC用(つまりネットゲームではないし、基本的にディスクメディア販売される)、
- 商業(つまり同人ではなく、企業形態で制作され商業販路で販売される)、
- 18禁(つまり煽情的な性表現をほぼ必須的要素として含む。グロ要素を含むこともあるが)、
- コンピュータゲーム(Windowsパソコン用のデジタルゲーム)
の一分野である。言い換えれば、さまざまな側面で現代日本の若者文化の諸特徴を反映しており、性表現(そしてそれに相伴ったジェンダー要素)がほぼ不可避的にクローズアップされる分野であり、しかも男性向けとしての特性を比較的強く帯びており、さらにデジタルゲームの構造的特性によって規定されており、自主規制団体の下で適切に扱われている、商業創作物である。

  そのような分野的特性や構造的事情の下で、LGBTの扱いに際しても、特徴的な傾向が現れている。すなわち、ジャンル的な目的設定に関わるがゆえにLはめったに登場せず、男性向けと見做されるジャンルであるためGはしばしば低い扱いを受け、デジタルゲーム(読み物アドヴェンチャーゲーム)の特性からしてB要素はほとんど表現されない。T要素はいささか両義的であり、「男の娘」ものの流行以前から、もしかしたらその感性は分野内にすでに満ちていたのかもしれない。

  もちろん、アダルトゲームは、そしてゲームは、ヘテロ男性向けの「エロゲー」だけではない。最初に述べたように、女性ユーザー向けの異性愛ジャンル(いわゆる「乙女ゲー」)もあるし、女性向けの男性同性愛表現(BL)もあり、男性同性愛者ユーザー向けの作品も(タイトル数は非常に少ないが)『炎多留』のような有名なタイトルもある。そうした分野的棲み分けは、単なる名目上のカテゴリー認識で終わるものではなく一定の実質的作用を伴っているが、しかし同時に、それほど強い内容的制約を及ぼしているわけでもない。

  「エロゲー」は、1)オタク文化の中のほんの一ジャンルであり、多くの隣接分野との間に相互作用しながら存立し生成変化している。また、2)男性の性的欲求に応えうる内容を備えている、いわゆる「実用品」であるという一応の共通了解の下に置かれている。なおかつ同時に、3)「美少女ゲーム」でもあって、女性キャラクターの魅力が表現されていることに最大の意義がある。さらに、4)年齢制限のある18禁の商品である、つまり踏み込んだ性表現(ものによっては過激な暴力表現や遠慮のないグロ表現による18禁もある)を展開しており、十分な判断能力のある大人があくまでフィクションとして楽しむものである。ストーリー面では、恋愛関係や蹂躙行為から、戦争SLG、伝奇(オカルト)表現に至るまで、多岐に亘る内容を取り上げている。このような特殊な分野の中にも、LGBTの各要素はさまざまな形で現れており、その世界に新たな彩りをもたらしている。それらは、現実世界(現代日本の現実)と同様に、相対的にマージナルではある。しかし、創作表現であり、しかも性表現に関わるこの分野では、もしかしたら現実世界よりも多くの機縁を得ているかもしれない。



  【 実例紹介 】
  最後に、いくつかの個性的な作品を紹介しておく。『らぶKISS!アンカー』(ミルククラウン、2007)は、男性主人公一人と、数人のヒロインたち(女性)の物語であり、男性主人公が各ヒロインと結ばれる展開もあるが、それだけでなく、女性同士の同性愛関係(複数の組み合わせがある)が生まれて主人公を放置して結ばれるエンディングがあったり、仲良くなっていたメインヒロインを振って別のヒロインと付き合うシーンがあったり、女体化した男性主人公が二成ヒロインと結ばれるエンディングがあったりする。アダルトシーンでも、様々な組み合わせの様々な関係が発生し、さらには触手(に変化できるキャラクター)も介在しつつ、3人以上での行為も描かれたりする。大人向けのアダルトゲームらしい懐の広さと、そして、物語が分岐してさまざまな可能性を展開していくことのできるゲームメディアらしい自由さが、本作には横溢している。

『らぶKISS!アンカー』
(c)2007 ミルククラウン
(図1:)分岐によっては、異世界人の魔法力によって、男性主人公が女体化してしまう展開になる。左記引用画像は、女性の生活習慣が分からない主人公が、幼馴染の女性から下着の着け方を教わっているシーン。本格派のTS系ライターならではのデリカシーのある描写になっている。
(図2:)選択肢による分岐展開によって、物語は様々な結末を迎える。なかには、主人公を放置してヒロイン同士が付き合うようになるというエンディングも含まれている。現代の読み物AVGには「望ましいエンディング」「バッドエンド」という観念は希薄であり、このエンディングも別段「(主人公/プレイヤーにとっての)失敗エンディング」とは位置づけられていない。


  また、『オト☆プリ』(しゃくなげ、2008)は、可愛らしい「男の娘」主人公と、宝塚の男役のような格好をした凛々しい男装ヒロインたち(作中では「宝石の王子」という地位にある)との間のラブコメ作品である。アダルトシーンでは、主人公が受け身になり、ヒロインからの愛撫を受けるというスタイルが多い。さらに、サブキャラクター「大友真希」も、男の娘キャラクターであり、このキャラクターと結ばれる展開もある。つまり、女装男性同士のシーンになっている。00年代半ばに花開いた「男の娘」ブームに棹さしつつ、00年代末以降顕著になっていくソフトM趣向をも先取りしているという意味で、アダルトゲームに特徴的な分野文化を体現するような作品である。

『オト☆プリ』 (c)2008 しゃくなげ
本作においては、女装主人公大山瑠偉(CV: みる)の存在感が可能なかぎりの手段を尽くして強調されている。本作の顔窓欄は、この主人公のためだけに誂えられたものであり、彼はこの表示枠上で喜怒哀楽の様々な表情を露わにする(――ただし、主人公が一枚絵や立ち絵で表示されている間は、顔窓は使用されない)。