2018/10/21

雑感:アダルトゲームのUI変遷

  雑感:アダルトゲームのUI変遷。


  【 セーブ/ロード 】
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  QS/QLは、はたしてそんなに画期的だったのだろうか? 機能それ自体としては、出来ることを増やしたのではなく、操作をショートカットしたという程度のことであり、たしかにUIの問題ではあるけれど、それほど大きな注目は集めていなかったと思う。90年代末くらいの比較的早い(?)時期から機能実装していたメーカーはあって、そんなに急速に普及したわけでもなかった。実装率が50%を超えたのは00年代後半だったろうか。その意味でも、(少なくともメーカーサイドでは)べつに画期的だとか決定的に重要だと見做されてはいなかったことが窺われる。ユーザーサイドでも、そんなにQSが多用されているかは疑わしい。QSスロットは、10年代後半のタイトルでも1個だけで、気軽にポンポン押せるものではないし、多くてもスロット10個を順繰りに上書きしていく形だったりして、管理しづらい。もちろんコメントも書きこめない。

  通常のセーブスロットは、00年代初頭までは、10個くらいしか置いていないタイトルも多かった。それが00年代前半のうちには、スロット100個が標準化していたと思う。

  どちらかといえば、「中断(suspend)」機能の方が刺激的だった。つまり、終了時の状態で(自動)セーブをしておき、次回ゲームを起動して「continue(続きから読む)」を選択すれば、すぐに再開できるというもの。これは、AVGが完全な読み物になった地平の上に成立する機能だ。

  そういえば、QLをしたその場面(その瞬間)のテキストでは音声が流れないというタイトルがあり、かなりモヤモヤした憶えがある。


  【 音声再生 】
  クリックしてもヴォイスが途切れない(あるいは、そのようにコンフィグで選択できる)というのは、えーと、00年代半ば頃からだっただろうか。00年代後半のうちにかなり浸透していき、10年代に入る頃には――レガシーなエンジンを使っている低価格帯を別とすれば――ほぼスタンダードになっていた。しかし、そんなに重要かというと……あっ、ベッドシーンのための機能か。テキストをポンポン読み進めながら、BGVのような使い方が出来る。

  音声周りでいえば、ゲームエンジン内部でマスター/音声/BGM/SEの音量を個別設定できるようになったり、さらにはキャラクター個別の音量設定が出来るようになったり。キャラ別on/offはstudio e.go!が早かった。00年代前半のうちは、まだまだ音量設定が行き届かないエンジンがあったので、windows側でその都度ボリュームコントロールをすることも多かった。


  【 テキスト 】
  個人的には、個々のテキストの既読判定がついたのが、非常にありがたかった。とりわけSLG作品では、フレーバーイベントがランダム発生したり、イベント分岐が複雑だったりするし、そもそもゲーム進行分岐が一元的ではないので、個々のテキストイベントを読んだかどうかが把握困難だったところ、既読判定がついたので非常に楽になった。既読イベントは安心してスキップできるようになったので、ゲームのテンポも良くなった。SHCだと、『LEVEL JUSTICE』(2003)までは既読判定が存在せず、『巣作りドラゴン』(2004)で初めて実装されたくらい。機能それ自体としては、90年代のうちから試みられていたが、00年代半ば頃にはようやく一般化していただろうか。

  テキストスキップ機能は90年代から存在していたが、既読判定と併用されることで、読み飛ばしの心配をせずに安心して使えるものになった。00年代後半頃までは、やたらもっさりしたスキップとかもあったけど……。ctrlによる強制的スキップも、00年代半ば頃にようやくアダルトゲームの標準規格になったくらいだったか。

  フォント選択は、原始的なものは90年代からあったかと思うが、00年代後半頃から次第に浸透していった。このあたりは曖昧な記憶だし、メーカーによって対応がかなり異なっていた。マウスジェスチャーも、00年代末か、10年代に入ってからの流れ。

  バックジャンプは確かに画期的だけど、実のところ、ユーザーはこの機能をそんなに使っているだろうかという疑問もある。フローチャート機能と併用しなければ、せいぜい数行前に戻るのに使うくらいの中途半端なundo機能で終わるのではないか。
  もちろんバックログそれ自体も、00年代初頭までは、まだ実装されていないものが多かった。あったとしても、テキストボックスの中で一行ずつ戻るだけのものとか(特にTriangle)。


  こうしたUIレベルの機能改良は、SLG作品こそが大きな恩恵を得られた筈だったのだが、実際にはSLG系メーカーがこうした動きを主導することはあまり無くて、純AVG系メーカーの側でエンジン改良が活発に行われていたという印象がある。SLG系メーカーのプログラマたちは、一作品ごとに新規ゲームシステムを作り上げる仕事に忙殺されていたのに対して、AVG系メーカーのプログラマたちや汎用AVGエンジンの製作者たちはゲームエンジンの機能拡充に専心できる余裕があった、ということかもしれない。
  おおまかに言うと、2002年頃には、アダルトゲームのUI周りがいったん近代化された、あるいは、当時のプログラマたちにはその道筋がはっきり見えていたのだろう。つまり、セーブスロット数を100個に増やし、音量の個別調整を可能にし、既読判定も搭載し、バックログや音声リピートも出来るようにする。そしてそのうえで、00年代半ば以降に向けて、フォント選択や、QS/QLボタン、フローチャート、中断機能、キャラ別音量、さらにはスクエア/ワイドディスプレイの両対応や絶頂カウントダウンに至るまで、様々な実験と改良が試みられていった。

  大体のことは、エロゲについてのあれこれが整理して下さっている。