2026年3月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。
今月分も、各作品におおまかな評価点をつけてみる。
●新規作品。
小堀真『修理屋ロッジの工具箱』第1巻(講談社モーニング、1-5話、2月刊行)。機械化の進んだサイバーパンク的ディストピアで、メガテック企業からメンテナンスを拒絶されている野良アンドロイド(「イレギュラー」)たちが暴れ回っており、主人公はとあるアンドロイドに対する復讐を目指して、アンドロイドを狩ってはパーツを売って生活しているという物語。小物として周囲に散らばっているメカディテールの密度は迫力があるし、その一方で、主人公がたまたま助けたアンドロイド少女たちのいたいけな姿形も雰囲気豊かに描かれている。心地良い広がりのある空間性演出も、モンスターのような攻撃的アンドロイドたちのデザインも秀逸。作者はこれまで、2本の連載経験があるようだ。80点。
朝倉ギイチ『普通の本はありません!』第1巻(講談社マガジン、1-8話)。アダルト専門書店でアルバイトを始めた大学生主人公の話。しよーもないエロネタがベースで、シチュエーションの掘り下げも浅いが、しかし「なるほど、この絵を見せたかったのか」とか、「このキャラのこういう情緒を描きたかったんだなあ」というのが明確に伝わってくるし、各話のオチも上手い決めゴマできれいに締め括られているので、気持ちよく読める。作者はこれが初連載のようだが、そういう見せ方のコントロールがやけに上手い。75点。
TNSK『とりまとります』第1巻(講談社、1-6話)。田舎に引っ越してきた少女が、喋るビデオカメラとともに怪異を封印して回る話。この作者らしく、デフォルメを強めに利かせた可愛らしいキャラデザから、身体動作表現の躍動感、そして外連味のある演出とユーモラスな描写の取り合わせ、明暗のコントラストなどが楽しめる。80点。
中陸なか『グリッタリング』(祥伝社、単巻)。中編「グリッタリング」「グローイング」の2本だが、内容的に連動している。望むことと、望まれること、そして望みを失ったことを巡る思春期の物語を、苦みとともに印象深く描いている。80点。作者には、いくつかの連載作品がある。
平方昌宏『春雷卓球』第1巻(集英社、1-7話)。こちらも方向性は近いが、『グリッタリング』がアイドルモティーフだったのに対してこちらはスポーツで、戦うことで自分のアイデンティティを取り戻そうとする苦闘の物語。キッズコミックや少年漫画のようなテイストで、可愛らしいデフォルメ画風の上に、誇張的な必殺技や、切れ味の良い視覚効果表現をふんだんに投入している激しい漫画。80点。
宇河弘樹『エンゲージ フォー プリンセス』第1巻(少年画報社、1-8話)。不思議な指輪を持つプリンセス候補たちの物語で、大枠はベタなのだが、この作者らしい個性に溢れている。ちょっと面白いのが、使われている影トーンがどれも波状にうねっており、それが不思議な立体感(の錯覚)と、半ツヤの柔らかそうな印象をもたらしている。それにしても、暑苦しく騒々しいマッチョ中年男性をレギュラーで出すのは、いかにも少年画報社らしい悪癖だなあ。70点。
ゼリハン『パリに咲くエトワール』第1巻(講談社アフタヌーン、1-4話)。世評の高い新作劇場アニメのコミカライズだが、うーん、この第1巻を読むかぎりではベタな物語にしか見えない。劇場アニメの尺だと、2-3巻で完結しそうだが、ここから面白くなっていくのだろうか? ちなみに漫画版の作者はフランス人とのこと。65点。
●カジュアル買い、買い足しなど。
朝比奈ショウ『「かわいい」は、ときどき苦しい。』第1-2巻(ガンガン、1-4話、5-8話)。第2巻が先月発売だった。幼時から外見のコンプレックス(社会的抑圧)に苦しんできた主人公は、整形してまで自分の尊厳を守るための完璧な装いを追求している。その一方で、同じ大学のボーイッシュな美人女性は、容姿には恵まれているが、可愛らしい服装がなかなか出来ずにいた。その二人が、非常に激しい本音での口論も含めて、自分の「素直」なアイデンティティを取り戻そうと苦闘する。象徴的表現や斜めコマなども大胆に多用しつつ、その一方でファッション関係の描写もさすがに高い説得力を持ちつつ、悲しくも力強い物語が展開されている。作者は基本的に女性向けジャンルで、これまで3作の連載経験がある。既刊も買ってみようかな……。80点。
巖本英利『異世界バトルロイヤル』第5巻(23-28話)。昨年9月刊を見逃していた。トーンはごく控えめで、手書きでひたすらゴリゴリ描くパワフルな作画に魅力がある……が、今巻は女性キャラたちがバストを放り出したまま延々バトルしているので、なにやらおばかコメディめいている。70点。
ウオズミアミ『冷たくて柔らか』第6巻(26-30話)。こちらも12月発売のものを買い逃していた。これまでは主として内心の懊悩を描いてきたが、お互いの告白を経て、ここからは社会的な困難と直面していくようだ。古典的な少女漫画の技巧を引き継いだような複雑かつ自由なコマ組みを通じて、内心の繊細な震えが巧みに表現されている。強烈なインパクトのある黒枠演出や、台詞の内心のギャップを示唆するような顔のフレームアウト演出、そして大胆な余白演出など、実に素晴らしい。85点。
八寿子(やすこ)『かわいいのは俺である』第3巻(講談社、16-24話)。タイトルどおり、クールでいたい男性が、普通っぽい女性から、やや性的なアピールも含めてからかわれて動揺するというシチュエーションもの。男性側の愛嬌がフィーチャーされているという点で、『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』あたりに近いテイスト。既刊も買ってみようかな。75点。
おちR『勇者様、昨夜もお楽しみでしたね』第6巻(文藝春秋、51-60話)。一話完結寄りの全年齢エロ漫画だが、キャラ立ても良いし、素肌の柔らかさなども上手く表現されている。全年齢扱なおかげで、その種のシーンはしばしばスキップされる(要は前後のシーンだけが描かれる)ので、ハイカロリーベッドバトルを飛ばしてお色気部分だけを楽しめるし、各話が短めなのもあってスピーディーな展開の後味が良い。オチもちゃんとオチている。70点。
チノク『榮国物語 春華とりかえ抄』第3巻(原作あり、秋田書店、11-15話)。前近代中華風の架空国家で、金勘定の好きな姉は男装して文官として活躍し、代わりに弟は女装して後宮でわたわたする話。これは良いな! 既刊も買ってこよう。80点。……「これは良いな」だけで済ませてはもったいないのでもう少し書くと、作品全体の雰囲気は柔らかめで、あまり深刻にはならず、主人公たちの頑張りや、正体がバレないようにする奮闘などが楽しめる。女性主人公の意志的な表情も良いし、中華風のファッションやインテリアディテールも見応えがある。暫定で75点だが、最初から読めばもっと上がるかも。
●続刊等。
1) 現代もの(シリアス系を含む)。
雁木万里『妹は知っている』第6巻(46-54話)。キャラクターがそれぞれ独自に行動原理や美意識を持って相互作用していく。いわば一種のシミュレータのような雰囲気もあって面白い。75点。
眞藤雅興『ルリドラゴン』第5巻(34-43話)。こちらも、学園生活に特殊設定を持ち込んだシミュレータ的側面が見出せるだろう。ただし本作では、シャイな学生主人公に焦点を当てつつ、人間関係の変化や心情の動きをマイルドに描いている。その観点では、『ミナミザスーパーエボリューション』にもちょっと近いかもしれない。70点。
ひるのつき子『133cmの景色』第5巻(22-27話)。これまで職場の内外でさまざまな体験をともにしてきた関係は、ロマンス的な盛り上げをもはや必要としない。これは予想外の見せ方だったのだが、このアプローチは、本作のコンセプトにも合致していると思う。すなわち、お互いに相手の人格を認め合ってきたことの延長上に、どんな時でも人生を「伴走」していきたい個人として告白しあう姿勢は、この二人の関係形成のあり方として相応しい。美術的には、靄のような繊細なグラデーショントーンが画面をしばしば柔らかく覆っているのが特徴的で、これが本作の優しい陰影感をもたらしている。80点。
二駅ずい『撮るに足らない』第5巻(30-36話)。大学生カップルのやまなしおちなし日常エロコメになってきた。悪くはないけど、うーん。65点。
鎌谷悠希『同志少女よ、敵を撃て』第3巻(10-14話)。本格的な実戦が始まり、それとともに絵の迫力も一段階引き上げられ、演出面でもさらに大胆な表現が投入されている。ストーリー面では、スターリングラード決戦に入った。85点。
文ノ梛『灰と銀の羽根』第3巻(11-16話、完結)。スパイとして使われている被虐待少年の心を回復するエピソードに続いて、ロシア(っぽい架空国)の侵攻が始まり、ビターな結末を迎えた。子供の未来を守るために戦い、そして同時に、その子との約束を果たすために生きて帰るという二重性の間で、あくまで人の尊厳を大切にするという姿勢を一貫させて、きちんと締め括った。もうちょっと長く続いてほしいという気持ちもあるが、あまり長引かせるのもつらいしなあ……。繊細に流れる頭髪描写は、キャラクターの感情を豊かに表現するし、フィンランドの森と空の風景も美しい。おねショタはやはり悲壮なドラマが似合う。80点。作者の他の作品も買って読みたい。
うの花みゆき『雪と墨』第9巻(40-44話)。北欧ネタ3連発。兵器事業を巡る経済戦争になってきたが、主軸はあくまで主人公と姉のすれ違いにある。鋭い細眼ベースの画風から、ほわほわした恋心表情に、そして激情と迷妄に顔面が溶ける(物理)パターンまで出してくるとは驚きだった。75点。
斎創『うちの会社の小さい先輩の話』第12巻(115-123話)。運動会イベントからお泊まりへ。微温的な作品だが、まあたまには。65点。
『穴はある』第12巻。内輪ノリが特異な雰囲気を作ってはいるものの、ネタはだるくて面白くないのでやめようと思っていたが、おねショタを出してくれたのでひとまずOKとする。60点。
瀬尾知汐『罪と罰のスピカ』第6巻(39-43話)。強盗殺人犯に対する復讐のエピソードは、主人公の精神構造の異様さをあらためて浮き彫りにしつつ、苦みのある結末を迎えた。半ば予想された形であり、言い換えれば、もはや変えようのない状況になっているということでもある。さらにここから、敵キャラ(?)が追加登場し、後日談的に新たな問題が発生していく模様。75点。
2) ファンタジー世界(エンタメ寄り)。
フカヤマますく『エクソシストを堕とせない』第14巻(102-109話)。性差別構造との対決というモティーフが久しぶりに明確化されたが、その割には描写が上滑りしている。視覚的演出としては、面白い絵も多いのだが。70点。
宮木真人『魔女と傭兵』第8巻(57-64話)。いよいよアングラ寄りの、恐怖と威圧がドラマを作る荒っぽい物語になってきた。今巻はひたすら市街地での戦闘シーンが続くが、背景の空間的表現や、ゴーレムの巨大感演出など、漫画家の技量もずいぶんこなれてきた。75点。
生還『悪役令嬢と鬼畜騎士』第5巻(22-26話)。新章は、やや悲劇的な予感に彩られているが、カップル二人は相変わらず。いわゆる「Rシーン」(=ベッドシーン)も、柔らかそうな肉付きや全身の絡み合いがたいへん色っぽい。75点。
窓口基『冒険には、武器が必要だ!』第4巻(16-20話)。巨大キメラ(ゾンビ的ゴーレム)を、協力して退治するクライマックス。武器発明の独創性はもちろん、ファンタジー世界の掘り下げや、派手な視覚的演出など、今巻も実に楽しい。75点。
丸山朝ヲ『転生したら剣でした』第19巻(91-95話)。邪神召喚騒動のラスボスを倒しるところまで。激しいバトルシーンの空間的な見せ方も、クリーチャーデザインのリアリティも絶品。ただし、原作由来だから仕方ないとはいえ、技名を連発するのはあまり面白くない。ここだけは残念。75点。
岩飛猫『片白の医端者』第3巻(17-23話、ひとまず完結)。死体袋キャラクターの過去話、そして全身をミニ妖精たちに乗っ取られた「皮だけ」のヒロインについても、ユニークな解決が与えられた。なお、外伝の形で連載が続けられるとのこと。70点。
藤澤紀幸『ツインリンカネーション』第2巻(6-11話)。藤澤氏らしく、ふっくらした少年少女キャラに、ゴツゴツした迫力のある成人男性キャラ、そして超自然的現象を描くイマジネーションに、背景美術の影の濃いムードが存分に味わえる。転生の件はひとまず結着を付けたので、政治的陰謀の話にシフトしていくのだろうか。75点。