2025年11月の新作アニメ感想。
現時点での感触は、『悪食』70点、『最後に』50点(第9話で放棄)、『ツーリング』70点、『ラスボス』80点。
●『悪食令嬢と狂血公爵』
第5話は、砦で過ごす穏やかな一晩。坂泰斗氏の安定感のある芝居が心地良いし、配下騎士たちも、やけに良いキャストを揃えている。
ストーリー等はおそらくほぼ原作/漫画版に準拠しているが、ヴィジュアル面での見せどころも、ストーリー面でのニュアンスも、きちんと掬い取られている。
ドラゴン騎乗時に、風に揺れるアホ毛のアニメーションよ……。
第6話は魔魚のフライ料理。原作設定の巧みさがあらためてよく伝わる。すなわち、
・グルメものだが、単なる個人レベルの美食ではなく、社会関係の中でそれを扱う。
・食糧難の世界で、主人公は魔物を食用可能にできる知識を活用できるという状況。
・魔物食は世間的には禁忌のゲテモノだが、パートナーは彼女の試みを理解してくれる。
・パートナー公爵の領地で、彼の配下たちとともに魔物食を賑やかに楽しめる。
・双方の固有事情がしっかり噛み合っていて、お互いを支え合う関係に説得力がある。
・二人の関わりも、初心で微笑ましい共同作業の描写に終始する。
つまり、前世紀的なグルメバトルでもなく、かといって「欲望としての美食」でもなく、必要に迫られつつ、二人のそれぞれのアイデンティティと目的意識が噛み合った結果として、領内に豊かな食生活を創出していくという視野の大きな物語になっている。そして究極的には、「良い食事を通じて社会的な幸福を広めていく」という意味で、グルメものとしての独自の価値をはっきりと提示している。
ストーリーとしては、「亡母の遺志を継いで魔物食を試みている少女が、それを理解してくれるヒーローとともに賑やかなレア食材パーティーを開きまくる」という、一見シンプルなエンタメなのだが、それを支えている作劇上の構造は非常にしたたかで意欲的な作りになっている(※ちなみに、彼女の魔力吸い出しスキルは、後に魔物食以外にも発揮されるようになる)。
そして、そういう構造の上に、今のところこのアニメ版は、楽しい美食パーティーを通じた初々しいカップル描写に終始している。12話の短い枠内では、この路線で押しきるのは妥当だろう。
二人の距離感も良い。露骨なイチャイチャでもなく、コメディに走るのでもなく、えろ要素も避けている。そのうえで、男性側はクールに甘いささやき台詞を口にしながら内面では相手に惚れきっており、その一方で女性側は天然キャラで、恋愛感情を意識していないまま、男性の可愛げをにくからず感じているというバランスで、お互いにちょっとしたことで照れあうという微温的な関係が好ましい。
今回のアニメ版も、予算規模は小さそうで、動画表現にも限界が見て取れるが、コスト配分にはぎりぎりの取捨選択をしつつ、上記のようなコア部分(コンセプト)をきちんと押し出しているので、総じて印象は良い。
第7話。ドラゴン騎乗中の二人での会話が延々続き、カット数も明らかに少ないが、原作由来の情緒ある台詞のおかげでじっくりとその雰囲気に浸ることができる。BGMは大ぶりに切り替わり、幸せな二人から、影のある回想、そして状況の好転、さらに魔鳥の襲来と、パートごとの変化を明確に表現している。
けっしてゴージャスな大作アニメではないのだが、原作の勘所と美質をきちんと掬い取って映像に反映させているのは確かなので、総合的には成功作と言ってよいだろう。その功績の大半が、原作(と漫画版)のおかげであるとしても。言い換えれば、漫画版からの上乗せはほぼ皆無なのだが(※あっさりした着彩のフルカラーになって無難な声が付いたというだけ)、それでも、まあ、大元の魅力を外してはいないので、これでいいかなという感じ。
モブメイド2人の芝居がびっくりするくらい下手だったので検索したら、声優ではなくて主題歌を担当しているアイドルらしい。こんなしよーもないことで作品に大きな傷を付けるのは、けっして誉められた判断ではないし、本業以外の仕事で大失敗させられた2人も可哀想だ。
第8話は、物語2/3のクライマックス。前半は魔鳥戦で、風防眼鏡姿でのドラマティックな戦闘シーンで、ドラゴンたちの空中戦闘を頑張って描いている。そして最後は、上空から新居たる城塞都市に到着するシーンが、柔和で牧歌的なBGMとともに描かれる。主人公二人のそれぞれの過去の鬱屈から、それを解決していけるという希望へと転換していく手つきがたいへん心地良い。
第9話。ようやく館に入ったが、まだ館内での正式な紹介すらしていないというのんびり進行。
今回の序盤は、市井の人々の生活を頑張ってアニメーションさせている。風になびく頭髪アニメーションも、毎回丁寧に付けている。ただし、モノローグを延々続ける箇所はあまり上手くない。また、BGMの切り替えが乏しく長時間流しっぱなしなのも、会話のムードから外れてしまうことがたまにある。前半であれだけ慌てていると、その直後(後半)の凜々しさがどうしても不釣り合いに見えてしまうのも、脚本構成の問題だろう。
●『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』
第5話。映像としては月並だが、バトルシーンでの瞬発力と、比較的整った美形作画、そしてからかい系シチュエーションのおかげで保っている。しかしそれも今回のように長所を出せないと、本当につまらなくなる。バトルシーンは止め絵で誤魔化しており、敵役サイドの中途半端なシーンを差し込んでは下品な顔を大写しにしてがっかりさせ、そしてストーリー全体としてもあまり魅力が無いという……。今期はたまたま視聴候補に残ったけど、他のシーズンだったら『ゴリラ』のようにバイバイしていた可能性がある。
第6話は、王都を離れて教会編(?)に入った模様。新キャラのディアナは、力の入った作画でその可愛らしい所作を健やかに表現している。ただしそれ以外は、演出もストーリーも空転の気配が兆している。テレネッツァの正体と意図にドラマの焦点が向かいかけていたのにそれを大きく外してきたのは、(少なくともこの時点では)けっして上手い脚本構成とは言いがたい。
幼き聖女ディアナの役は、前田佳織里氏。難しい低年齢キャラだが、ツヤのある声色で元気良く演じている。ほとんど聴いたことが無いが、『あこがれて』のマジアマゼンタ役か……あまり覚えていないが、印象は悪くなかったと思う。
第7話。バトル要素はマンネリと省力作画に後退してしまったが、代わりに新ヒロインと主人公兄のロマンスが大きな魅力を発揮している。これはこれであり。
それにしても、殴り倒される悪役モブたちが、いずれも醜悪な外見と下品な表情で長台詞を喋っては殴打されておわりというのは、さすかにげんなりする。汚いものを大写しにされても、視聴者としてはちっとも嬉しくないので。
第8話。面白くない。作中設定に関してはいきなり大量に情報開示されているのだが、映像としての面白味がまったく無い。ロシア風の伯爵に聴き覚えがあると思ったら上田氏だったのが、せめてもの収穫。
神々が出てきたというのに、内実はみみっちい内輪揉めのトラブルにすぎず、むしろかえって物語の格が下がったというのがひどい。
第9話は、聖女ディアナの過去話から現在へのつながり。前回から一話見逃したかと訝ってしまうほど、前後の流れが悪い。一話単位ではそれなりにまとまっているのだが……(※ただし、ディアナ兄の経緯など、物語を動かすための作中設定がひたすら粗雑で御都合主義なのは相変わらず)。
最初の数話でネタを使い切ったかのように、ただただつまらなくなっている。バトルシーンも瞬間芸だけで省力進行するようになり、巨悪ではなく手近な小物を叩きのめすばかりなせいで主人公への印象もそろそろ悪くなりかけているし、王子からのからかい要素も無くなり、ディアナの可愛らしさという梃子入れもストーリーによってスポイルされているし、キャストもぱっとしないし、最後の頼みの主人公の止め絵の凄味のある美しさも出てこなくなってしまった。
うーん、一応最後まで視聴するつもりでいたが、虚無アニメになっているので、もうやめる。もはや良い中身が期待できそうにないので。
●『終末ツーリング』
第5話。キャラクターの細かな所作も丁寧にアニメーションさせており、その一方で竜巻乱立のスペクタクルや、水飛沫と大波の動画、そして遠景の緑の廃墟に至るまで、たいへん充実した画面作りになっている。
ただし、問題もある。シチュエーション頼みで、コンテそのものは平凡だし(移動中の真横カメラ構図はイージーで、非常にダレやすい)、音響表現やカットつなぎもダイナミックな自然現象のインパクトを掬い取るのに失敗している。巨大満月から竜巻の間を渡橋するシーンまで、とにかく見どころ満載の回で、もっと良い映像に出来そうだったのに、もったいない……。主役がどちらも一本調子なのも(片方はひたすら「うわー!」「おおー!」で、もう一方はダウナー系)、抑揚のニュアンスを乏しくさせている。これも監督/音響監督に責任がある。制作素材と現場スタッフは良い仕事をしているのだから、それらを全体としての完成度に結実させていくのはディレクション側の問題だろう。
月面に、何か巨大な物体が衝突したかのような大きな亀裂(ヒビ)が入っているが、真面目に考えても仕方ないだろう。
第6話。元々は、OP前のアバンタイトルは特殊な演出だったが、現代ではそれが普通のことになり、かえってアバンタイトルが無いと何か特別な回なのかと感じてしまうようになっている。
今回は千葉の海ほたる。朗らかな歓談と、周囲の廃墟および窓外の嵐の対比が刺激的。ただし、根本的には驚きが無い。これまでも、戦闘車両に攻撃されたり竜巻群が発生したりといった危機はあったのに、あまりにも能天気なままで来ていたので、改めて深刻な語りをされても肩透かしに感じてしまう。
主演二人は、稲垣氏も台詞ごとのニュアンスが出てきたし、アイリ役の富田氏も堅実。
第7話。いよいよ「昔は良かったノスタルジーを美麗背景で彩る」しか見どころが無くなってきた。つくば博(1985)をフィーチャーするということは、原作者は50台後半以上の世代なのか?
個人的には、明珍氏(総作監)のクオリティと背景美術と動物作画と主演2人の芝居だけに注目して、ほとんど環境映像のように毎週視聴しているが、作品全体(コンセプト)についてはまったく誉められない。
今回までの描写から推測されるのは、
カタストロフ前のヨーコと姉はバイクツーリングしていた → 人類滅亡(?) → 姉は人格移植AIとしてシェルター内に擬似的に存在し続けている → 妹のヨーコを模した改造クローン(?)を製造して様々な教育を施した → オリジナルヨーコの記憶は、微妙に痕跡だけが残っている → クローンヨーコが(おそらく意図的に?)シェルター外に解放され、ヨーコは(気まぐれで?)姉の行程を辿る旅を始めている。だいたいこんな経緯だろうか。
第8話はサーキットコース訪問。バイクに興味が無いと、本当にただつまらないし、風景にも面白味を見出すのが難しい。ただし、音と風だけの幻想のバイク通過シーンは個性的な表現で、余韻も程良く確保されていたし、また魚や動物たちのアニメーションも傑出したクオリティ。
キャラ作画は基本的に2D(手書きベース)だが、バイクに乗っているシーンはたまに3Dで作られている。遠景ではもちろんだが、今回はコース上でバイクに跨がるクローズアップショットでも、かなり目立った3D動画が現れていた。
その他。『地獄の黙示録』ごっこは意表を突かれたとか、擬音等の文字表示が今回は特に頻繁に使われていて非常にダサいとか、まあいろいろ。
第9話は、ひきつづき茂木サーキットコースと、Honda博物館(コレクションホール)。冒頭からレイアウトや間の取り方に引き締まった緊張感があったが、本編も力強い擬似レースシーンと幻想的なイメージの取り合わせで、印象的な回になっていた。これが最終回でも良かったくらい。ちなみに徳本監督自身のコンテで、エンディングも特別仕様。
動物作画は、今回もきれい。ただし、作品全体としては、中割動画は控えめで、静止画+エフェクト+3Dでやり過ごしている箇所が多い。また、歌に合わせるために蛍火シーンを延々引っ張ったのは誉められない。また、Hondaの過去の名車(?)たちが威勢よく走っていくくだりは、まるでメーカーの宣伝動画のようなベタにポジティヴな雰囲気で、いささかミスマッチを感じさせるのは否めない。
●『野生のラスボスが現れた!』
第5話。キャンピングカーのゴーレムを錬成する……『通販』にも似たようなものがあったが、こういうおバカ進行はわりと好み。ただし、一つの回(話数)ごとのまとまりが無いままなのは、ベタ移植アニメの問題で、とりわけこうした日常寄りのシーンではそれが顕在化しやすい。絵コンテ(レイアウト)も、今回はやや面白味に欠ける。
動画表現それ自体としては、省力するところは思いきって止め絵で流したりカット再利用したりしつつ、キャラが身体を動かすところは初動のモーションを気持ち良く描いて生き生きした雰囲気を作り出している。なかでも前半の温泉脱衣シーンは、細やかに中割動画を付けている。ディーナが腕を元気よく上に伸ばすのも、キャラ個性の表現として上手くハマっている。アリエスのカラフルな頭髪グラデーションも、現代のデジタル作画ならではの表現だろう。
サブキャラたちの音声芝居がちょっとひどいが、まあ我慢しよう。
第6話は、天秤リーブラ編の終わりまで。メカ(アンドロイド)との戦闘を、錐揉みミサイル乱舞やロケット変形などの武器表現から空間戦闘のスピード感、そして大爆発エフェクトに至るまで、贅沢に描き出している。近代兵器キャラと黒翼ファンタジーキャラの戦闘という取り合わせもユニーク。その一方で、情緒のある画面レイアウトや溜めのタイミングコントロールが、主演小清水氏の緻密な芝居とともに展開される。中盤のクライマックスに相応しい回。
第7話は、これまで培ってきた表現力をシリアス方面に投入してきた。幼少期ルファスを演じているのは誰? これも小清水氏? 「ウェヌス」という魔物もエンドロールにクレジットされていないし(※おそらくディーナとの兼ね役)、「ソル」「ルーナ」というよく分からないキャラもクレジットされているし(※会議していた魔族のようだ)、今回はかなり不思議な内容になっている。
第8話。ところどころに良いカットもあるし、したたかなユーモアも覗かせているが、少々ダルい部分も混在しているし(例えば尋問シーン)、ストーリー進行が強引なところもある(例えばディーナを疑い始める変化)。領主メラク役の平川氏が今一つなのもある。
ともあれ、リミッター解除はロマンだよね。殺戮アンドロイドの目が赤く光るのも、『ターミネーター』や『ブラックマジック M-66』以来の歴史ある表現。こういうネタを小気味良く掬い上げているのは、この作品の魅力の一部だろう(※原作由来か、漫画版か、それともアニメ版独自の演出なのかは分からないけど)。
第9話は、天翼族編の決着の回で、バトルにも演出にも力が入っている。動画で見せるところと、コンテ芸で瞬間的な動きを感じさせるところ、レイアウトで緊張感を持たせるところ、エフェクトで間を保たせるところ、モノローグ(ツッコミ)で進めるところが適切に使い分けられており、全体として非常に充実している。絵コンテは、福島宏之氏とほりうち監督の連名。
相手の行動を完璧に予測して追い詰める正確無比冷酷無惨なロボキャラは、味方にするとたいへん頼もしいという珍しい実例(成功例)も見せてくれた。
ただし、ディーナの正体ネタは、思わせぶりのまま引っ張りすぎている。キャラとしては抜群に面白いだけに、この扱いは少々もったいない。
脚本担当は、第7-9話の一連のエピソードは全て笹野恵氏。アリエス編は筆安氏、リーブラ編は村上桃子氏と、エピソードごとにきれいに分担している。こういう編成は、ありそうで、なかなか無い。ちょっと珍しいが、本作がとても丁寧な設計の下に制作されていることを窺わせる一事実だろう。
各作品の第4話のオンライン視聴数をサイトAで見ると、現時点で『ラスボス』35.2万人、『最後にひとつ』23万、『悪食』14.2万、『ツーリング』3.7万となっている。視聴していないタイトルでは、『東島』8.6万、『グノーシア』7.4万、『ユウグレ』6.3万、『ひとでなし』4.1万など。
『ラスボス』が人気なのはちょっと意外だが、コンセプトが明確だし、映像面の派手な魅力もあるので、けっしておかしな数字ではない。『最後に』は、内容面では今一つだがキャッチーな要素で客を掴んでいるのだろう。『悪食』は、女性向けの幸せなロマンスものとして堅実にまとまっているので、映像の低クオリティを覆すことに成功している。逆に『ツーリング』は、映像作りそのものは力作と言ってよいのだが、背景設定の中途半端さやノスタルジームードの平板さが足を引っ張っているのだろう。もったいない(※ただし、後述のように他の媒体に取られている可能性もある)。
『東島』は、私は第1話で視聴放棄したが、そこから内容が良くなっていったらしい。『ひとでなし』も、メインの芝居が苦手で切ったが、視聴している人たちの間では(少なくともストーリーについては)好評なようだ。オリジナル作品の『ユウグレ』は、動画表現はそこそこ頑張っていたが脚本レベルのチープさやコンテの退屈さに問題があったので、残念ながら妥当。『グノーシア』は、もっと伸びているかと思ったら、意外に控えめな数字だった。
もちろん配信タイミングや配信形態によって大きく変動しうるので、厳密な数字ではない(例えば、先行配信や独占配信をしていれば上がりやすいし、他に取られていれば下がる。TV放映でも、同じ時間帯の競合タイトルに影響される)。しかし、おおまかな傾向は反映していると言えるだろうし、「少なくともこのくらいは視聴者が存在する」という事実は示している。
ちなみに第4話を選んだのは、「ある程度進んで視聴者が定着し、なおかつ、未視聴組もいないであろう回」だから。第1-2話だと、「話題性で集まったがすぐに視聴者が減ったパターン」の場合があるし、最新話(6-8話)付近だとまだ追いついていない視聴者がカウントできない。
前の夏シーズンだと、『クレバテス』第4話が19.4万、『鬼人』(後半の16話)が5.9万、『第七王子』(2期、16話)が33.8万という状況。ただし、放映終了からかなりの日数が経過している(=後追い組や全話無料の上積みがある)ので、同条件での比較にはならない。しかし、個々の作品がどのくらいの人に話が通じそうかという目安にはなるだろう。