2025/06/06

漫画雑話(2025年6月)

2025年6月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。


●新規作品。
 眞山継(まやま・けい)『シャンバラッド』第1巻(アフタヌーン)。チベットとおぼしき架空国家(※作中の中国は清代らしい)。主人公は、追放された一族の末裔であり、その一方でヒロインは、未来予見や運命予知のできる特殊な幼体固定シャーマンとして国の中枢にいる。その二人が協力して、国の運命を変えていこうとする物語のようだ。舞台設定は個性的だし、意志的なヒロインも魅力的、さらにその「占い」異能も物語の緊張感を上手く引き出している。作画はやや簡素だが、インパクトと手応えのある作品になってくれそう。期待したい。作者はこれが3度目の連載のようだ。『3×3 EYES』かよとか言わない。三つ目キャラが出てくるけど。
 宵野コタロー『滅国の宦官』第1巻(ジャンププラス、原作あり)。こちらはトルコ(オスマン帝国)風の架空世界。主人公は少年宦官として後宮に入り、3姉妹の世話をしながら廷内の殺人事件に取り組んでいく……という話のようだ。お色気要素は多少あり、全体の掘り下げはまだ感じられないが、舞台設定にオリジナリティがあり、豪奢な衣装や特殊な慣習などに大きな個性が見出せる。
 林守大『Bの星線』第1巻(ジャンプ、小B6判サイズ)。ベートーヴェンが現代日本に蘇っており、それを助けた元ピアニストの少年とともにいろいろやっていく話のようだ。ベートーヴェンのごつい体格の描写や、ピアノ演奏シーンの迫力も良いし、コマ組みもたいへん独創的かつ効果的で、コマを階段状の段々に配置したり、五線譜模様を枠線として使用したりと、非常に面白い。カメラワークも大胆。一発ネタのように見えたが、読み続ける価値がありそうだ。なお、作中に登場する不思議な鍵は、作者のデビュー作(?)の短編「GO BACK HOME」にも同じ形状の鍵が描かれている(※ただの小ネタかも?)。
 志村貴子『そういう家の子』第1巻(スピリッツ)。架空の新興宗教の「宗教2世」たちの物語。オムニバス風だが、次第にキャラクターたちの関係が形成されていくようだ。特異な文化集団で生育した若者たちが、外部世界との溝やアイデンティティ問題に触れる有様を、落ち着いた筆致で描いている。良い作品になりそう。
 のゆ『新聞記者ヴィルヘルミナ』第1巻(アルファポリス)。16世紀ドイツ風の架空世界。主人公は過去に、「疫病は魔女のせいだ」というデマのせいで母親を失っている。現在の街でふたたび同種のデマが生まれつつあるのを見て、主人公は本当の実態を調べ上げて人々の行動をとどめようと決意する。一見するとシンプルな物語だが、非常に多面的な性格を持つ作品になりそうだ。すなわち、「デマで荒らされている現代社会の寓喩」、「ジャーナリスト活動のドラマ」、「近世ドイツ社会の生き生きとした描写」、「自立して生きようとする女性の物語」、「トラウマを克服しようとする主人公の物語」、等々。作者は過去に『赤髪の女商人』という作品も連載しており、そちらも近世ドイツ風の世界で商才によって生き抜こうとする自立した女性のドラマのようだ。買い揃えて読みたい。
 竹掛竹や『吸血鬼さんはチトラレたい』第1巻(講談社)。吸血鬼ヒロインは、監視役の青年に好意を抱いているが、もう一人の吸血鬼に吸われた後の彼の血液は普段よりも甘美だった……という物語。「寝取られ」ならぬ「血取られ」という駄洒落一発ネタのような作品だが、キャラも良いし表情も色っぽく、雰囲気も良い。ネタ切れにならないかぎりは、ひとまずついていこう。ちなみに作者は本作以前に、自撮りネタのフルカラー漫画(※電子版のみ)を連載していたとのこと。
 朝際イコ『カフヱーピウパリア』(単巻、イースト・プレス)。震災直後の大正時代関東のカフェ。相貌失認の少女や、長身にコンプレックスを持つ女性、そして震災のトラウマで緘黙症になった少女など、社会性やアイデンティティに苦しみを抱いている女性たちが働いている。彼女たちはこの繭(ピウパリア)で働くうちに、次第に自分を解放する道を見つけ出していくのだが、そこには依然としてカフェオーナーの不気味な欺瞞性を初めとした男性社会の抑圧が存在し続けている。女性のエンパワーメント意識に導かれた作品として誠実であり、また物語としても繊細なニュアンスを湛えており、そして漫画構成および作画の面でも充実している。
 にことがめ『ヒト科のゆいか』第1巻(ウルトラジャンプ)。様々な亜人種的体質を持った人々を含む高校生活の物語。コメディではなく、アイデンティティの軋みを描くシリアスな物語。登場するのは雪女、吸血鬼、猫娘、河童など。作者は本作の前に、新興宗教犯罪もの(?)を連載していたようだ。
 山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(単巻、秋田書店)。オーダー眼鏡店で仕事を始めた大学生の物語。神戸市内の実在の眼鏡店をモデルにしているとのことで、背景にも三宮~ハーバーランド界隈がくりかえし描かれており、元町のKANKO RECORD花森書林も出てくる。おすすめは北野町西公園か……ちょっと遠いけど、いつか行ってみよう。
 銃爺(Gunzi)『獄門撫子此処ニ在リ』第1巻(裏サン。原作小説あり)。鬼を食べて生きる少女と、それに同行する妖しい女性の物語(舞台設定はおそらく現代)。セーラー服主人公による和風オカルトバトルは、10年代のガンガンあたりが好んで取り組んでいたが、そうそう、こういうのが良いよね。筆触感を強調して陰影の濃いタッチと、外連味のあるコマ組み演出、そして逆転勝利のカタルシスに、長期展望をきちんと見据えたミステリアスな暗示。漫画表現としてのクオリティも高い。
 松本救助『陰陽廻天Re:バース』第1巻(モーニング)。7月からアニメ放映されるコンテンツの漫画化。眼鏡好きな漫画家さんで、このチャンスをうまく活かしてくれたらと思う(※ただし今作には眼鏡キャラはほとんど登場しないだろう)。コマ組みのレイアウトも、ページめくりを意識した演出も、そしてヒロインのクラシカルな可愛らしさも、とても良く出来ている。ただし、ストーリー面では、電子的擬似平安京+バトルファンタジー+ループもの+恋愛と、様々な要素を詰め込みすぎているのが少々心配。
 窓田究コ『けものみかん』第1巻(集英社)。人間に興味を持ったタヌキが、少女に化けて山のホテルで働き始める。主人公が人間社会に向ける憧れの感情表現。これまでの社会と訣別しなければならない苦み(彼女のタヌキ家族からの迫害と、現在の野生動物社会からの離別の両方)。そして人類からは、危険な「化ケモノ」として憎悪されていることを知った悲しみと苦しさ。表紙を一見すると穏やかな異種族もののように見えるが、たいへん複雑な情念の込められた作品になっている。作者はこれまで3本(?)の読み切りを商業発表しており、これが初連載のようだ。
 幌田『俺のカスみたいな人生は全部タヌキのせい』第1巻(芳文社FUZ)。偶然にも、化けタヌキの新作が続いた。数百万の人狸が人間社会に紛れて生活している社会で、たまたまタヌキ耳が見えるようになった入試浪人生の主人公が、タヌキ少女とタヌキ社会に関わっていく話。元気と愛嬌のあるヒロインが抜群に魅力的だし、作画面でも陰影の光源表現を丁寧に付けて情緒的な襞を描き出している。表情の崩し方も良い。一見すると日常もののようでいて、主人公の父親との衝突やタヌキ社会内部の対立構造といった劇的な要素も強く滲ませており、主人公の切迫した焦燥感も漫画として鮮やかに印象づけられており、今後がかなり気になる。作者は四コマ『またぞろ。』(全3巻)を連載していたとのことで、今回は初のストーリー漫画連載になるようだ。ちなみに、多摩市漫画でもある。
 松元こみかん『玉川さん 出てました?』第1巻(ガンガン)。コンビニの新人店員が、AVで見ていたのと同一人物ではないかと悩む店長の話。エロコメなのだが、過去と現在の二重写し演出がきれいに決まっているし、コメディシーンも読める水準だし、作画面でもしっかりした身体表現に説得力がある。作者はこれが4つめの連載のようだ。
 篠宮しぐ『妹に婚約者を取られてこのたび醜悪公と~』第1巻(TOブックス。原作小説あり)。虐待をポジティヴ変換してしまう主人公ということらしいが、描写はあまり上手くいっていない。しかし、天然優秀ヒロインとして見れば十分に面白味はある。また、外見にコンプレックスがあって疑心暗鬼になっている領主との関係も微笑ましい。ただし、主人公を追いやった悪役たち(父や妹)の言動があまりにチープで説得力を欠くのがもったいない。どうやら2~3巻くらいで最後まで描ききるようなので、憶えていたら続刊も買おう。作者はこれが初連載のようだ。


●カジュアル買い。
 月ノ輪航介『ネットできらいなあいつの消し方』第2巻(完結)。表紙買いをしてみたが、モティーフは意欲的だし、問題意識も真摯だし、絵作りにも力があり、キャラクターの動かし方もなかなか大胆。他の作品も買って読みたい(※第1巻は、近所の書店ではどこも店頭品切れだった)。
 もりとおる『旭野くんは誘われ上手』第2巻。名古屋舞台の穏やかな日常+食事もの。作者はこれが2つめの連載(※原作のないオリジナル作品として初)のようだ。気に入ったので第1巻も買って読んだが、優しくて可愛らしい男子大学生主人公がなかなか個性的だし、彼の内面造形もデリカシーがある。愛想は良いが微妙な距離感を残す友人関係や、母親を失った過去、そして同居の祖父やその周囲の人間関係などを、穏やかで丁寧な筆致で描いている。
 ウニドン\120『異世界メイドがやってきた』第2巻(原作あり)。エロありのコメディだが、ワントップヒロインなのでハーレム的な騒がしさが無くて素直なイチャラブになっているし、かと思えばバックグラウンド(異世界で過ごしていた日々)の回想もなかなかハードだし、鬼族ヒロインの猛々しいバトルシーンも描かれているという、ちょっと不思議なテイストの作品。わりと気に入ったので第1巻も買って読んだ。

 石黒正数『ネムルバカ』(単巻、新装版)。大学生二人の寮生活。先輩はかなり才能のあるインディー系バンドボーカルだが、無軌道な暴走をすることがある。後輩は後輩で、自分が社会とのつながりをどのように形成していくのかが見えず、人生に迷っている。そして最後は、やや破滅的だが開放的なカタルシスを……それを目指したようだが、そこに到達できたかどうかは分からない。
 例えば安倍吉俊(1971-)が『NieA_7』を刊行し、木尾士目(1974-)が『四年生』『五年生』を連載していた90年代後半から00年代初頭の雰囲気が、この作品にも残り香として漂っているように感じる(※石黒氏は1977年生まれで、本作は2006-2008年の連載とのこと)。つまり、徹底的に自由なバンカラ的アナーキーと経済的に貧しいモラトリアムを楽しみつつ、同時に社会との関わりを求めてやけっぱちに無謀な行動に走ろうとするが、結局はそれほど大きなアクションを取れるわけでもないという悲壮な小市民的熱気が、おそらくこのあたりの世代にはあったのだろう。
 20年代の現在でも、似たような方向性の作品は多数存在する。しかし現代のセンスだと、キャラクターたちはもっと穏やかで、過激な暴走には向かわず、そして小さな人間関係の機微をもっと掘り下げることに集中して、大文字の「社会」との対決はひっそりと回避するだろう。2006年と2025年、つまり19年の時間的懸隔を意識しつつ、しんみりしてしまった。


●続刊等。
 空空北野田『深層のラプタ』第4巻(完結)。終盤はどんでん返し展開を連発しつつ、また外連味のあるレイアウトも効果的に用いつつ、この苦くも不気味な物語を締め括った。ショタ漫画でもあり、また神戸漫画(三宮など)でもあり、いろいろと満足。
 雁木万里『妹は知っている』第2巻。オフライン生活では寡黙な兄は、ラジオリスナーとしては抜群の面白投稿を連発している。そしてアイドルの妹(だけ)は、兄のそうしたユニークな価値を知っているというギャップ状況。全体としては穏やかな進行だが、ユーモラスな回もあれば、苦みのある回もあり、作中で描かれている投稿ネタもなかなか面白い(※プロのエンターテイナーが「大喜利協力」としてクレジットされている)。
 増田英二『今朝も揺られてます』第2巻。JR神戸線とおぼしき路線に毎日乗り合わせる中学生二人の初々しい恋愛未満状況と、それを秘かに見守る乗客たちの暑苦しいリアクション。ラブコメに観察者を取り入れたのは面白いし、内気で奥手なヒロインが抜群に可愛らしい。「朝露駅」は、明石市内の「朝霧駅」と思われる。また、「瀬尾見」を検索したら、作者の過去作『さくらDISCORD』の舞台(地理的には網干に相当)だったらしい。
 牛乳麦ご飯『ボーイッシュ彼女が可愛すぎる』第2巻。おしゃれのために眼鏡を掛けるエピソードがある。前半では、キャラの動かし方や見せ方に慣れてきた様子。それに対して後半では当たりの関係が進展していく。
 きただりょうま『魁の花巫女』第4巻。刊行ペースが速くて(やたら筆が速くて)驚くのだが、しかし内容面では何をしたいのか分からない。和風ファンタジーなのか、ハーレムなのか、お色気なのか、何なのか……それぞれを中途半端に混ぜたまま漫然と進めているせいで、昔の美少女ゲームの共通パートを延々読んでいるような気分になる。この巻でも、敵キャラとのバトルがお色気込みで中途半端に終わってしまう。
 たなかのか『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』第4巻(完結)。最後はマッチ売りの少女と対決して完結。無難な終わり方だが、ひとまず満足。
 瀬尾知汐『罪と罰のスピカ』第3巻。連続殺人タクシー運転手の長い人生を描きつつ、その暗部を抉り出してとどめを差した。殺人者だけを標的にする快楽殺人者主人公という不気味な設定だが、捻りが利いていてユニーク。
 閃凡人『聖なる乙女と秘めごとを』第5巻。とても上手い。ストーリーそのものは、異世界セクシャル練習ものなのだが、コマ組みとレイアウトによる演出の表現力が高く、それだけで充実した読み応えがある。キャラについても、「おお、こういう表情を描くのか」という驚きに満ちているし、感情造形やそれを体現する台詞回しにもオリジナリティと真情の手応えがある(つまり、単なる機械的なエロコメの域を脱している)。また、舌の描き方のディテールなどもユニークで、フェティッシュな迫真性が感じられる。また、長方形で表現されるエロ棒が枠線と一体化していたり、あるいはそれを描く代わりに枠線をヒロインが両手で握りしめていたりするという個性的な演出もある。
 ヨシアキ『雷雷雷』第5巻。作画面ではたいへん派手で激しい怪獣バトルを存分に描きつつ、ストーリー面では主人公の身体の謎に肉薄していく。まさに予想を裏切り期待を裏切らない、スピーディーでユニークな展開になっている。根っこのところではウルトラマンのような設定に見えるけど。
 文川あや『その蒼を青とよばない』第3巻(完結)。 色弱の主人公が、大学の写真部活動の中で自らのアイデンティティを再確認する物語は、学園祭の展示会でひとまず決着を付けて完結した。難しい題材で、ストーリーを追うのが精一杯の様子だったが(実際、漫画的構成としてはさほど見るべきものは無い)、なんとか上手く収めてくれた。
 mmk『となりの席のヤツがそういう目で見てくる』第3巻。エロ展開になりそうでならないが、ヒロインの表情も主人公の照れ顔も色っぽい。ストーリー面も、コメディ基調のようでありながら、二人だけの関係でしっとりと落ち着いており、わりと真面目でデリカシーのある心情のドラマになっている。
 Peppe『ENDO』第5巻(完結)。第二次大戦中の在日イタリア人たちの、半ばドキュメンタリー的な物語。最後は終戦以降の状況を描き、彼等の来し方をもう一度大きく回顧しつつ、一種の日本人論としての側面も示して(※endo≒internal=内的宇宙、内面世界とのこと)、静かに完結した。
 木々津克久『フランケン・ふらんFrantic』第11巻。手術シーンを初めとしたグロテスクな描写と、切れ味の良い社会諷刺の取り合わせが刺激的。出色なのは、乳児を世話できる「赤ちゃんカフェ」が資本主義に取り込まれていく回。それから、冴えない少女が美人に成り代わろうとする回も秀逸。
 末太シノ『女北斎大罪記』第2巻。遊郭シーンで主人公の問題を大きく掘り下げているが、その一方でライヴドローイング企画など、少年漫画じみた熱血要素も顕在化してきた。コマ組みなどは生硬だが、絵には迫力があるので、読み続けよう。
 里好『かくして! マキナさん!!』第5巻。首が取れたロボットが、無線接続のために棹に引っかけられて晒し首になるところは面白かったが、まあそのくらい。
 白梅ナズナ『悪役令嬢の中の人』第6巻(完結)。すさまじい切れ味の表現力で最後まで描ききった。大ゴマで見せるべきところも堂々と見せているし、カメラワークやコマつなぎといった小技の演出も効果的に造形されている。畏怖の表情も真に迫っているし、その一方でおバカな表情のカットもぎりぎりのバランスで投入している。敵役「ピナ」の振舞いも名優と言ってよい。
 倉薗紀彦『ムーンリバーを渡って』第3巻(完結)。月面コロニーで規律正しく暮らす少女たち、しかしてその実態は地球の富裕層のためのドナー養殖場だったというもの。SFとしてはオーソドックスかつ現代的なアイデアで興味深いのだが、漫画表現としては生硬で、マクロレベルの組織的不正の問題と、ミクロレベルの脱出ドラマの描写が上手く連動していなかったのは残念。
 山田はまち『泥の国』第2巻。この巻では、魂の異世界転生によって暴虐王姫の身体を乗っ取ってしまった現代人女性の側にもクローズアップして、単なる無責任な存在では終わらない複雑な苦みを与えている。その一方で身体を奪われて「泥の国」に再生した王姫(主人公)も、その強靱な意志と行動力で現世への復帰を目指すが、そちらはそちらで悲劇的な状況に向き合う。激しい意志を持ちつつ人生に苦闘する女性キャラクターたちの姿を、作者は鮮やかに描いている。
 山口貴由『劇光仮面』第7巻。特撮スーツのリアルな再現を目指したサークルの人々が、本物の怪人たちと遭遇していろいろな(隠密裡の)解決を図りつつ、ヒーローのアイデンティティを問直すという展開が続いていくのかな。
 LEEHYE『生まれ変わってもよろしく』第5巻。韓国トゥーン漫画を再編成したフルカラー漫画で、おねショタ関係から転生した男女の物語。主人公カップルと妹側カップルのそれぞれに進展があり、男性側がおねえちゃん(前世主人公)を失った時の経験を吐露し、さらに彼女が死なずに生きていたらという想像上のカットも現れるが、その横顔のシーンは凄まじい迫力がある。ハグするシーンも増えてきて、視覚的にもインパクトが増している。
 万丈梓『恋する(おとめ)の作り方』第10巻。恋人関係が成立した二人が、大いに羞じらいながらイチャイチャし始める。今回のカラーページも多めに取り入れて幸せなカップルが描かれている。
 牧野あおい『さよならミニスカート』第4巻。襲撃を受けて引退した元アイドルが、男装した高校生活でさらに複雑なトラブルに巻き込まれる。少女漫画(りぼん)の枠を超えて女性の尊厳やアイデンティティを巡るシリアスな物語。ただし、イエロージャーナリズムやレ○プサークルなど、ガジェットのチープさは否めない。
 ツルリンゴスター『彼女はNOの翼を持っている』第2巻。主人公の少女が、カップルとして付き合いはじめたところを描く。個人の尊厳やアイデンティティを相互に大切にしつつ、それとは局所的に相反することになりかねない恋愛関係を形成していくことの難しさが丁寧に描かれている。例えば、自分を保持しつつ、しかし同時に相手に合わせようとする意識も持ってしまうという揺らぎが、初デートのための服装選びなどを通じて説得的に作劇されている。ただし、説明がいささか教条的で、物語進行から浮いているように感じる箇所もある(例えば性教育を語る教師たちのシーン)。
 森永ミキ『ルビー・オンザ・ケーキ』第2巻。第1巻と比べて、演出面ではややパワーダウンしたが、依然として一定の面白さはある。