2025年10月の新作アニメ感想。
5本くらいに絞り込んで精読(丁寧な視聴)をしたいところだが……。
●『悪食令嬢と狂血公爵』
第1話。アニメとしての出来は、下の上程度で、けっして芳しいクオリティではない。動画はあまり動かないし、見せ場の演出も乏しく、モノローグによるベタ説明も多い。漫画のコマであれば説明テキストも引っかかりなく読み流せるのだが、アニメの音声台詞として語られると押しつけがましさが増して鈍くさくなる。キャスティングも不満があり、主人公は華が足りないし、相方の公爵も地味すぎる。このレベルなら、いっそノヴェルタイプのゲームにしてしまった方が良いのではないかとすら思う。作画も、アニメらしいべったりした絵で、漫画版の繊細さが失われてしまっている。
ただし、食材作画はまっとうだし、劇伴はアコーディオンなどの音色が明確で、活気がある。そして何より、原作(漫画)由来の穏やかで微笑ましい雰囲気は一応表現できている。SD表現も漫画版由来だが、しつこくならない範囲に収まっている。よほどひどくならない限り、期待して視聴していきたい。
女性向けアニメは、低コスト作品になりがちなのがもったいない。ポテンシャルを活かせていないアニメ版が多すぎる(※その一方で、しよーもないタイトルもぽろっとアニメ化されるというところも面白いけど)。
絵コンテは、漫画版のレイアウトをかなり踏襲している。主な省略箇所は、魔獣の涎が肩に掛かるところくらい。追加要素としては、公爵が魔物を斬り捨てるところでカットを数枚増やしている。絵コンテの上田氏は20年以上のキャリアのある方だが、それでもこんな漫画の猿真似コンテというひどい代物を出してしまうのか……(※漫画そのままの模倣再現を上から指示されたという可能性もあるけれど)。
美術的意匠の大切さを改めて実感させるアニメ化でもある……残念ながら、悪い意味で。漫画版は、緻密で華やかなカバーイラストに始まって、繊細なタッチの作画とおおらかなデフォルメカットの取り合わせが作品全体の心地良い雰囲気を作り上げていて、原作由来の筋運びの強引さも気にならなかった(例えば、貴族の野外バーティーにいきなり魔物が侵入してくるのだが、この映像では、アニメ絵の安っぽさと音声芝居の薄さやレイアウトの凡庸さのせいで、シチュエーションの粗が強調されて、チープな御都合主義展開を露呈させてしまっている。低予算企画ならではの限界もあるとはいえ、やはり失敗作と言わざるを得ない。……できれば最後まで視聴したいけど。
第2話は、かなり安定してきた。遠景の自然風景の広がりが気持ち良いし、ここぞという場面での晴れやかな青空も良い。主演の芝居はやや精神的に幼すぎて品が無いように思うが、許容範囲。
自立したアニメ作品としてはまったく評価できないが、「漫画に音と声と色とちょっとした動きをつけただけのもの」として見るなら、これでよい。
●『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』
第1話。設定はガバガバでナンセンスだが、映像としては独自の面白味がある。悪者を殴り飛ばしまくるシーンの動画はレイアウトや空圧エフェクトを巧みに組み合わせて力強さを演出しているし、婚約者からの理不尽に対して三白眼で睨み付ける主人公の迫力ある表情も良い。主演の瀬戸氏も適役で、芯のある芝居で視聴者をカタルシスへ引っ張っていってくれる。
出オチの一発ネタなのでどこまで勢いが続くかは分からないが、ひとまず視聴継続しても良さそう。『レベル99』のように、一発ネタから出発しつつ神経の行き届いた作りで完成度を高めた事例もあるので、本作もそういった成功を望みたい。
それにしても、理不尽に耐えて最後に殴りまくるというのは、まるでヤ○ザ映画のノリだ……。
第2話。気になっていた歯車演出は、時を操るスキルだったのか。今回も坂本監督自身の絵コンテで、見せどころの大見得はきれいに決まっているし、ワルツBGMでの優雅な格闘描写もユニークな個性がある。日常シーンも動画を自然に動かして説得力を確保している。さらに今回は、黒いドレスで視覚的印象を一変させてきた。前回の赤いドレスと好対照で、こうしたコントロールも旨味がある。赤いイヤリングを目立たせているのも、そうした視覚演出の一環だろう。
ストーリー面は、王子が女性主人公を挑発して苛立たせるという意味では、一種の「からかい」系とも言える(※主人公の怒りとともに、その都度「バキャッ」と激しい効果音を付けてあからさまに強調しているのは、その現れだろう)。そして主人公の側も、スピード感のあるバトルシーンできちんとカタルシスを提供する。これはなかなか上手い取り合わせだと思う。
例によってモノローグが多めだが、瀬戸氏の抑制の利いた芝居のおかげで、クドくならずに緊張感を漂わせたまま物語を進めている。その一方で、王子キャラは穏やかで楽しげな声色で、こちらはユーモア担当。このバランスも良い。ただし貴族社会の描写に関しては水準未満のガバ設定のままだが、そこは割り切って楽しめばよい。
漫画版をオンラインでちょっとだけ読んでみたが、「絵はきれいだがコマ組みや演出が今一つ」という印象なので、そちらは読まなくていいだろう。ただし、レイアウトやポージングなどは、漫画版からアニメ版に取り込まれた絵も多いようだ。
第3話。今回もコンテレベルでの演出がとてもきれい。例えば、会話とともに青空に向けてゆっくり斜めにパンニングしていくくだりは、明るく開放的な雰囲気としっとりした内省的空気を両立させている。また、街中のモブ雑踏を表現する仕方も、ロングショットを交えつつ、カメラを横切る子供たちという形で生き生きしたムードを形成している。総じて、適度に作画省力しつつ、動画のタイミングの良さで気持ち良い映像を構築している。絵コンテは迫田羽也人氏。企画サイズ(≒作画クオリティ)は、おそらく中の上くらいだと思うが、取捨選択と表現目標がきれいにできているので全体としての完成度は非常に高い。
ストーリー面では、緩めのコメディ+陰謀ものだが、台詞の応酬が小気味良く、それでいてかなり珍妙なことを堂々と喋っている(悪者たちを殴るのが大好き)のが、たいへんユニークな笑いを作り出している。
そして、悪役ヒロインのテレネッツァ(加隈氏ヴォイス)が、本格的な黒幕(?)として再登場。これは意外な展開だった。
●『終末ツーリング』
第1話。人類が滅んだ(?)関東地方で、二人の少女がバイク旅行をしている。富田ヴォイスのキャラはロボットで、もう一方の元気キャラもおそらく人間ではない(※腕の機械は、生身にサイコガンを装備していたという可能性もあるが、ここまでの描写では詳細不明)。晴れた戸外の『少女終末旅行』といった趣だが、それに留まらず、姉(?)との思い出や、過去/現在の二重写しの幻想的演出、そして緑豊かな廃墟風景の魅力、さらにはSFガジェットによる匂わせ(放射線量への言及や夜空の模様、箱根のオーロラ)など、いろいろとフックを利かせている。
「美少女もの」「ロードムービー」「バイク」「観光地」「SF(終末もの)」「ミリタリー」と、投入している要素が多岐に亘り、なんとも欲張りな作品だが、映像作品としてのクオリティは高い。キャラデザ&総作監は、あの明珍宇作氏。絵についても、背景美術のディテール密度や、水の動画のきれいさ、さらには様々な野生動物(ツバメからイノシシまで)も含めて、充実した画面作りになっている。動画表現も、例えば輸送車に向けて駆け下りていくカットはたいへん気持ち良く描かれている。劇伴もコロコロと電子音交じりにリズミカルで楽しいし、視覚演出もベタにならず洒落っ気がある。今回の絵コンテ&演出は、徳本善信監督自身による。
こういう終末享楽ものは、個人的には退嬰的だと思うのであまり耽溺したくないが、クオリティ面で説得力があるので、視聴していくつもり。終末+ミリタリー要素としては、傑作『ソラノヲト』が思い出されてちょっと懐かしい。
ただし、3D素材の部分はやはり苦手(過去シーンの自家用車や発電用風車など)。スケール感や重量感、さらには質感もいまだに表現できていないので、アニメの中で3D素材が浮きまくっている。このあたりは、日本のアニメ技術の未発達な点だと思う。
絵コンテについて。台詞や状況推移はほぼ原作漫画を踏襲しているが、絵作りやタイミングはかなり自由に再構成し、一映像作品として充実させている。例えばカーチェイスシーンは漫画よりもダイナミックに拡大されているし、ナイフで機械を止めるシーンもレッドランプが静かに消えていくように演出されている(まさに動画ならではの強みだ)。音響的な流れも良いし、溜めと解放のカタルシスも効果的に作られている。丁寧で良い演出。
時代設定は不明。現代技術を超えたテクノロジー描写があり、また、廃墟化した建物を突き破って木が大きく成長しているシーンもあるので、大災害(=人類絶滅?)から少なくとも数十年は経過しているものと思われる。ただし、木造家屋などがほぼそのまま残っているのは、現代との二重写しをするための演出上の都合だろうし、オーロラが出ているのも科学的にはかなり無理がありそうなので、必ずしも厳密なものではないだろうけど。
もしも宇宙人か何かと戦った敗北した後ならば、『スクラップド・プリンセス』や『ソラノヲト』と一脈通じる設定になる。本編中の状況は一見すると長閑だが、どうやっているのやら……。
第2話は横須賀界隈。今回も上手い。コロコロと転がる劇伴の個性に、充実した背景作画、そしてメインキャラの生き生きした動きをきちんと映像として映し出す動画。徳本監督自身による絵コンテも堅実なクオリティ。
設定面では、オーソドックスなSFアイデアを的確に用いて、インパクトのある演出効果に結びつけている。例えば、喋っている相手が、ただのディスプレイ映像(おそらくAI人格)だったり。言葉でだらだら説明するのではなく、映像描写そのものによって理解させようとしているところが良い。
ただし、童謡などを今後も毎回歌うとしたら少々しつこいかも。また、夢のような回想シーンも、ぼかしエフェクトを掛けすぎているのは苦手だし、今のところ位置づけがはっきりしないまま宙吊りなのも、なんとももどかしい。意味づけが明確化されないままこの種の回想が繰り返されるとしたら、ちょっときついかも。擬音などを文字としてそのまま画面内に出すのも、せっかくのクオリティを損なって非常にチープに見えるのでやめてほしい。
EDムービーは、各回で訪れた場所に応じてちょっとずつ変わっていくのかな。
第3話。これって、つまり、関東地方を丸ごと緑の廃墟として描き変えてしまう作品なのか。強烈だなあ……このコンセプトだけで有無を言わさぬ魅力がある。彩度を思いきり高めた色彩設計も、その風景の華やかさとともに超現実的な幻想性を匂わせている。今回の絵コンテは中西和也氏。全体に穏健な作りだが、ところどころ角度の付いたレイアウトを設けたりしている。ペンギンの作画も非常に丁寧。
コミケ121ということは、2032年末頃が人類文明を維持できた最後の時期だったという感じだろうか。
毎回なにかしらの歌を歌うのは、これでほぼ確定。最終回はレクイエム系になるかも。
●『永久のユウグレ』
第0話がYT公開されていたので視聴したが……うーん、映像が面白くない。レイアウトが全然美しくないし、色彩感もぼんやりしているし、動画表現としても見どころが乏しい。AI開発+人体改造+ポストアポカリプス未来+ロマンスものになるようだが、SFとしての掘り下げもあまりピンと来ないし、人間ドラマとしても類型的。このままだと期待を下回りそうだが、これはあくまで第0話の前日譚なので、本編では作風を一変させてくる可能性がある……という希望を持っておこう。
王真樹(おうまぎ)父娘は、上田氏&茅野氏、つまり、いみじくも『鬼人』の蕎麦屋父娘と同じ。ただし残念ながら、両者とも、今後は当分再登場しそうにないけれど。
義弟くんのプールでの(つまり上半身裸の)写真などを撫で回すように手を触れて、それからAIを黙らせて寝返りを打って、その後手を洗っているという、ずいぶん露骨な描写もあった。その描写って要るの?
正式な第1話。「終末後の緑の廃墟の日本」ネタが『ツーリング』と被った(※しかも腕からビームネタまで被った)。しかし方向性はかなり異なる。
背景美術は『ツーリング』の方が上。しかしこちらは戦闘シーンで全力を出している。とはいえ、サーカスめいたアクションでいささか説得力に欠けるし、レイアウトもあまり美しくないが。ストーリー面では、終末後の社会を管理する邪悪組織「オーウェル」がいきなり出てきた。
文化面では、アフリカ系らしき雰囲気のある未来人類描写にユニークな個性がある。独自の多婚システムも、いかにも現代らしい描写と言える。
族長の妻「タベリナ」役の生き生きした芝居は、島田愛野氏。2017年デビューで、大きな役はまだ少ないが、サブキャラでかなり頻繁に役を取っておられるようなので、そろそろ注目されてもよい頃だが……。
対比的に言うと、SFエンタメロマン路線が『ツーリング』で、遠未来シリアスドラマ路線が『ユウグレ』という感じになるのだろうか。『ツーリング』は、属性要素は多いがコンセプトはきれいに絞り込まれていそうな感触。それに対して『ユウグレ』の方は、いろいろやりたそうなのは良いのだが、どうもまとまりが無くてとっ散らかりそうな気配がある。
第2話。会話センス(笑いのセンス)が妙に古く、まるで90年代あたりの気取ったシティボーイ系コメディ青年漫画を見ているかのような気分になる。敵役の造形にもそれが見て取れ、ステレオタイプに露悪的な行動や誇張された旧弊的なキャラデザ(※昔のミュージシャンと通俗的「ゲイ男性」イメージの混合のように見える)など、かなりがっかりさせられる。映像表現としても、かなり動画を頑張っているのは分かるが、場面やアクションや台詞の意味とあまり結びつかないまま適当に動かしているように見える。
プロットの観点でも、せっかくのオリジナル作品なのに非常に散漫でまとまりが悪い。キャラクターの行動原理も、説得力を欠く。例えばこの未来世界の奴隷制に対して、その点のみ、いきなり、主人公が強硬に反発するところ。いや、もちろんそれは現代人としてまっとうなのだけど、ここまであまり意志的な行動をしてこなかった主人公が、ここだけ唐突に拘泥し始めるのは、作劇として上手くない(※実のところ、新キャラ「アモル」のためのエクスキューズにしか見えない)。姉が残した映像で「私のことは忘れて」と言ったのを見て即座に(何の躊躇もなしに)「姉を探しに行こう」と決意したのも、明らかにキャラクターの内面造形と物語的演出が欠如している。
SFガジェットはいろいろ出てきているが、どうなることやら。ひとまず視聴は続けるけど……。上位の管理者が、未来の一般人たちを前近代的な非文明的状態に留めるようにコントロールしているのは、日本の二次元系作品だとやはり『スクラップド・プリンセス』を思い出す。それ以外にも『ナウシカ』『うたわれるもの』『新世界より』『ソラノヲト』など、類似の趣向を用いた作品は多いし、もちろん古典『タイムマシン』や『猿の惑星』などにも似たようなギミックがある。
今回は、内容面ではかなり詰め込んでいるのに、それを一話にきれいに収めている。ユウグレとの会話。村を出ていく経緯。冷凍睡眠ポッド(?)での同種アンドロイドたちとの遭遇。腕時計型メカの入手。青森への旅程。アモルとの出会いと、彼女の思いの描写。そして悪役組織の介入が一段落するまで。……よくもまあ、これだけ詰め込んだものだ。
「ユウグレ」役の石川由依氏は、同期の『ひとでなし』ともども、ツヤのある声色の魅力と安定感のある芝居で、聴きごたえがある。
富田氏はネイティヴアメリカン風(?)の「アモル」役。『最後にひとつだけ』の少年役は今一つだったが、こちらは激しく率直な感情表現とその背後の複雑な精神性を巧みに演じている。
視聴中は意識していなかったが、黒いボディスーツのアンドロイド「ヨイヤミ」役が沢城氏。そして今後は、小清水氏にサトリナさんまで出演されるようだ。
第3話。せっかくのオリジナルアニメなのに、展開がひたすら雑い。あまりにもイージーすぎる。
警備の充実している施設にいきなり単独潜入して少女を救い出したかと思えば、早々に捕まって延々殴られるし、そのうえで強力なお助けアンドロイドヒロインもだらしない形で登場するので、カタルシスも何も無い。ステレオタイプなゲイキャラのような悪役もひどいし、シリアスとギャグを中途半端に混ぜているせいでどちらにも説得力が無くなっている。挙げ句は下着露出などのお色気を多用するし、チープなハーレム化のせいでキャラクターの内面造形もおかしくなっているし、そしてBパートはぽっと出のマフィア一家のごたごたをしつこく続けるし……。映像的な魅力も乏しいし、各話の区切りや筋運びも乱雑だし、これはもう無理なので離脱する。
まるで90年代のようなセンスも、最初の数話は「何かの演出かな」と見守っていたのだが、とりたてて捻りも無いまま最後まで行きそうなのが残念だ。もちろん「90年代風」が悪いという話ではなくて、前世紀にあったような牧歌的な展開から、数十年に亘って現代アニメは精緻化と改良のための技術や知見を積み重ねてきた筈で、そうした蓄積が無かったかのように――それこそまさにコールドスリープでもしていたかのように――「主人公が敵の施設に単身乗り込んでヒロインを逃がす」というような無頓着な描写をそのまま出してきているのが問題なのだ。あまりにも異様なので、もしかしたらトリッキーな布石を置いているのかもしれないけれど、これまでの描写の雑さを見るかぎりでは、スタッフの力量を信じる(期待する)のも最早難しい。4話も使っておいてそういう信頼を築けないようでは駄目なのよ……。
●『野生のラスボスが現れた!』
第1話は、設定説明のためもあって台詞が多い。しかし、PVで瞥見したとおりの美質は本編でも確かに見て取れる。外連味のあるレイアウトに、動かすべきところはしっかり動かす動画表現、そしてそれらを的確に支えるVFX。意外なことに、従者キャラのコミカルな振り付けも面白い味付けになっている。それ以外も、モブキャラたちの細やかな所作動画や背景美術の描き込みなど、アニメーション表現としてもオーソドックスに力を入れて作画されている。
そしてなにより、主演小清水氏の芝居。台詞一つ一つの意味を汲み取って複雑なニュアンスで演じつつ、過剰に大袈裟ぶるのではなく、それでいて強キャラとしての迫力を存分に引き出している。滋味に満ちた、聴きごたえのある芝居。奔放な役者と思われがちのようだが、私見では小清水氏は、台本を深く読み込んで繊細な解釈の下に、それを雄弁な芝居へと結実させていく、きわめて誠実な役者だ。作品によっては、真面目すぎるせいで萎縮して聞こえることすらあるのだが、今作では野生の、もとい「野性の小清水亜美」を堪能できそう。
本作で気になるのは、中の人キャラ(現代人男性)の軽薄なモノローグ。説明過剰だし、雰囲気を損なってしまいかねないので、第2話以降は控えめにしてもらえるとありがたい。この第1話でも、当初は男性ヴォイス(小野賢章氏)で始まったが、途中からは小清水氏の声でモノローグも演じるように切り替わっていった。
もう一つの懸念は、バトルシーン。派手な見せ方をしているのは良いのだが、時としてコンテ進行がごちゃごちゃして、状況が把握しづらくなっていた。このあたりは、外連味とシンプルさの間のトレードオフを、上手くバランスを取って演出していってくれたらと思う。
第2話も、洗練されたクオリティ。奥行きを強調する外連味のあるレイアウトに、明暗のコントラストの強烈な光源演出、味付けの濃い色彩設計、そしてモブキャラまできちんと描いている密度感、等々。中割動画も、動かすべきところをきちんと動かして映像的な力強さを伝えている。キャラクターに関しても、従者キャラがいよいよ賑やかに暴れ回って、画面を豊かにしている(※ネタ台詞や、可愛げのある表情、そしておどけたポージングなど)。絵コンテは今回も、ほりうちゆうや監督自身による。
そして何より、小清水氏のポテンシャルが開放されているのが素晴らしい。抑制の効いた迫力ある一言から、内面キャラ(現代人男性)としてのはっちゃけた驚き台詞、そして捕虜を村に届けた際の明るくユーモラスな台詞まで、物語を鮮やかに彩りつつその進行をリードしている。絶品と言うしかない(※ちなみに、中の人の男性ヴォイスは、今回は出てこなかった。すべて小清水氏の声だけで進めていくのだろう)。
従者「ディーナ」役の薄井友里氏は、2019年のデビューから、これが初レギュラーのようだ。キャラクター造形に相応しく賑やかな芝居をされていて、これなら今後とも大丈夫だろう。
本作といい、『最後にひとつだけ』といい、主役以外のキャラにEDムービーでおかしなことをさせるのが流行っているのだろうか? 過年の『レベル99』も、賑やかしサブキャラが主演と2人で踊っているEDだったし……。歌える声優を起用したという場合もあるだろうけど、今作は専業歌手が歌っている。
第3話も、ファンタジー系エンタメスペクタクルとしてやたら完成度が高い。瞳に映った像の演出を初めとしてインパクトのある見せ方を連発しているし、スーパーパワーの魔力バトルも迫力がある。モブモンスターたちのアニメーションも非常に丁寧に動かしているし、例えば指揮官がフェイスガードを下ろすカットなども、戦場の臨場感を巧みに盛り立てている。最後にアリエスが飛んで抱きついてくるところも、動きの気持ち良さを最大限に見せるアニメーションが上手い。パープル基調の画面作りも妖しい雰囲気と本作の個性を強烈に印象づけるし、劇伴の付け方(ON/OFF)によるムードの転換もきれいにできている。そしてその上に、主演小清水氏の多彩で説得力のある芝居と、従者キャラのコメディリリーフとしての完璧な役回りが大きな魅力を放っている。欠点らしい欠点は、「(今のところ)ただのエンタメである」くらいしかないという秀作。
絵コンテは、ほりうちゆうや監督とプリッチア(何者?)の連名。予算規模(≒作画クオリティ)は、上の下くらいはありそうな充実した内容だが、それをきちんと捌いて全体のクオリティを高めている。
※※以下、視聴断念。※※
●『私を喰べたい、ひとでなし』
第1話。オーソドックスな風光明媚(愛媛)+異種族(人魚)+トラウマ(タナトス)+百合……いや、属性が多いな? 学内外の空間的な広がりが良く表現されているし、演出面でも水泡や光源表現、時間帯変化、水中音響などを活用していて良い感じ。
しかし、主演の上田氏が全てを台無しにしている。『冥土様』の時はひとまず聴けて、しかし先の『鬼人』では迫力が無いなあと感じていたが、こんな大根だったのか……。台詞の意味づけが致命的に足りず、ただ空転しているのがまずい。家族を失って虚無的になっているキャラクターを演じるのに、ただぼんやりとしてとりとめもない発声にするのは、素人の所業であってプロのやることではない。台詞ごとの意味とニュアンスとデリカシーをちゃんと考えて、場面ごとのトーンや相手の台詞に合わせつつ芝居をするものだろうに……。こんな芝居をさせた(この芝居にOKを出した)音響監督にも責任がある。このモノローグに付き合い続けるのはきついかも。もう一方の石川氏(人魚キャラ)の方は、ツヤのある声色と落ち着きのあるテンポで、こちらは聴ける。
第2話。なんとか好意的に見るつもりで視聴したが、やはり主演の芝居が致命傷だった。「死なせてくれるかもしれない」とか「苦しい」といった、決定的に重要な台詞ですら、他の変わらない平板で弱々しい演技のまま、感情の方向付けをろくにしないまま一本調子で喋っているだけ。この芝居を聴き続けるのは苦痛でしかない。声優1人が作品全体を台無しにしてしまっている。一映像作品としては、心象風景的な演出とか、泡のアニメーションとか、光源表現とか、不気味な劇伴の付け方とか、良いところも多いのに、まさかこんなところでMAO並の災害に遭遇してしまうとは……。視聴断念。
それにしても、擬音を文字表示するアニメが増えたなあと感じる。ものすごーくダサくて安っぽいのでやめてほしいのだが……。この作品でも多用されているし(※もしかして漫画版の書き文字をそのまま模倣している?)、他の作品でも見かける頻度が急増しているという感触がある。
●『千歳くん』
第1話。一見するとクオリティは高そうだが、演出が空転していて、映像として意味を成していないところが多すぎる。不必要に顔アップでやり過ごすカットも多いし、要はコンテが悪い。00年代の学園ハーレムのような雰囲気も、アニメ媒体で公然とやらかされるのはきつい(※喫煙買春教員って最悪では?)。20年代風の「お互いに配慮した物わかりの良いキャラクター」と、00年代風の学園ハーレム状況を組み合わせた結果として、「美形優秀男性くんに選ばれるために、誠実に頑張ってライバルたちと競争することを堂々公言するヒロイン」というグロテスクなものが生まれてしまっている(※もちろん原作由来だろうけど)。
キャストはおおむね高水準なのだが、……えっ、あの中途半端なキャラは安済氏だったの? あれほどの役者さんに、どんなヘボディレクションをしたら、こんなに不味い芝居をさせられるんだ……(※登場シーンを聴き返してみたら、確かに安済氏らしい手応えも随所に見出せるのだが……。脚本とコンテに大きなミスマッチがあると言うべきだろう)。
タイトル略称も非常にキモいし、あまりにもnot for meなので切る。
●『東島』
第1話。主人公の幼少期は三瓶氏でした。
昔の作品へのノスタルジーと、劇画めいた暑苦しいパロディは、相性が悪いのではないかなあ。
●『ポーション』
第1話。一話13分という変則構成。しかも映像は、静止画をAfter EffectsかLive2Dで動かしているかのようなテイスト。主演の本渡氏はしっかり芝居をされているのだが、さすがにこれでは……。ただし、モノローグで延々説明するタイプの作品なので、朗読劇と割り切って流しておくのはありかも。
※※その他の雑感。※※
「シリーズ構成」の作業量。小説原作だと、一クールにつき文庫本3冊程度。長期展開も見据えておく必要があるので、実際には6冊なり10冊なりの内容を把握しておくことになる。ただ読むだけではなく、設定を整理したり、台詞を取捨選択したり、そしてアレンジを考えたりもするので、一冊だけでも多大な精読の時間を要する筈だ。
下準備として読むだけならともかく、それらを12話サイズに構成して脚本にする作業がある。ベースとして小説なり漫画版なりがあるとしても、一クール(=3ヵ月)のうちに文庫本2-3冊程度の台本を仕上げなければいけない……つまり、毎月単行本を出すペースの速筆が求められる。実際には、アニメの企画は年単位で進むので3ヵ月とは限らないが、しかし定期的に仕事をしていくには、結局のところ数ヶ月で脱稿していかなければ次へ進めない。
「シリーズ構成」は、全話脚本とは限らない(※実際には、各話脚本は、別のライターに割り振られていくことが多い)。しかし全体構成や話数ごとの整合性や各話のサイズをコントロールするためには、脚本(台本)執筆に近い水準の読み込みと下準備が必要になるのは結局同じだろう。
しかも、執筆作業だけではない。監督やプロデューサーらを交えて何度も打ち合わせをして、脚本サイドからの提案やプレゼンをしたり、あるいはディレクターサイドからの様々な要望を聞き入れたり、長い議論をして妥結点を見つけたり。場合によってはインタヴューなどで、隙のないトークもしなければいけない……さらには、(とりわけフリーランスの場合は)次の仕事を取るための活動もしなければいけない。
そう考えると、かなり大変な仕事だね……。アニメ脚本家、とりわけシリーズ構成レベルで担当して継続的な仕事をしている人は、よほど有能で仕事が早いか、それとも激務なのか……。ただし、手抜きをしようと思ったら、原作からの適当な切り貼りだけでもそれに近いものは出来てしまうので、クオリティ管理や自制心、職業倫理が問われる仕事でもあるだろう。
それにしても、不正貴族たちを喜々として殴打しまくるヒロインに、オークを皆殺しにするラスボスヒロイン、そして怪異を虐殺する人魚ヒロイン、人間を殴り倒せるアンドロイドヒロイン(ロボット三原則はどこに?)、そして魔物を捌いて食べるヒロイン……なぜか今期は血飛沫の似合う女性キャラが多いな? 『グノーシア』もそういう展開になる可能性があるし……。
とはいえ、夏クールは夏クールで、第1話でさっそくゾンビになった主人公とか、殺し屋ホテルの守護者とか、ライバルヒロインをちょんぱした妹キャラとかがいたから、これが日本アニメの通常運行なのかもしれない。
アニメ作品の公式サイトで、各配信サイトへのリンクがすべてトップページへのリンクだけ(つまり、当該作品の配信個別ページへのリンクではない)というものがあるけど……うーん、じんるいっておろかだわ!という感想を持ってしまう。
実際には例えば、「個別ページのアドレスが確定していない段階でリンク一覧を作ってそのまま」とか、「様々な事情で配信ページが変更されることがあるのでトップページにしておくしかない」とか、「契約条件としてトップページへのリンクにするよう指定されていた」とか、いろいろな事情はあるのだろうけど、それにしても不親切きわまりないし、これでユーザーを逃している部分もあるだろう。