目次
・はじめに …このページ
・第1章:前史(前世紀から00年代前半まで)
・第2章:可動フィギュア分野における胎動(00年代後半)
・第3章:HASEGAWA「フェイ・イェン」の登場(2007年)
・補論1:メカガールについて
・第4章:KOTOBUKIYAの継続的な試み(00年代末から10年代半ば) …2ページ目
・補論2:10年代前半の模型メーカー各社の動向
・第5章:BANDAIの広汎な実験(10年代後半にかけて) …3ページ目
・補論3:雑誌、イベント、マテリアルの広がり
・第7章:20年代の最新動向 …6ページ目
(別掲記事「海外のガールプラモ概観」も参照)
・第8章:ガールプラモのパラダイムとその意義 …7ページ目
・第9章:ガールプラモの多様性 …8ページ目
・おわりに
【 はじめに 】
00年代から10年代に掛けて、ガールプラモ(美少女プラモ)分野は大きく成長してきた。20年代の現在では、毎月いくつもの新作キットがリリースされて、模型店でも店内の一角を大きく占めるようになっているし、模型雑誌でも取り上げられることが増えており、プラモデル趣味の主要分野の一つとして今や完全に定着している。ガールプラモ分野の拡大と普及は、今世紀の模型文化の一大現象だと述べてよいだろう。
ただし、その歴史的推移や技術的展望について、幅広くまとめた記事や論考はなかなか現れていないように見受けられる。模型現代史の重要なシーンについては、早いうちにきちんと記録しておく必要があるだろう。そう考えて、2023年春の時点でのガールプラモの全体像を、一素人モデラーなりに書き留めておきたい(※発売日などの細かな情報は、別掲「ガールプラモの年表的メモ」を参照)。
最初に、本稿で扱う「ガールプラモ」について、おおまかな定義をしておく。
- おおむね15~16cm(6インチ)級の、
- 関節可動のある(つまり、固定ポーズのディスプレイモデルではなく)、
- 女性をモデルにした、あるいは女性型ロボットの、
- 可愛らしさやセクシャルな魅力を強調した(つまり、美少女路線の)、
これらの要素を標準としたものを、本稿では「(狭義の、現代型の)ガールプラモ」と呼ぶことにする。もちろん、それ以外の女性型プラモデルも本稿の対象であるが、上記のようなパラダイムが近年のガールプラモ文化の中心地であることは、最初に押さえておきたい。
これらは「美少女プラモ」と呼称されることもある。オタク向けの美少女キャラクターが主流であるため、「美少女プラモ」という捉え方にも一定の妥当性はある。しかしその一方で、「美少女」とは言いがたいデフォルメ体型の女性キャクラター(例:「ホイホイさん」)や、そもそも生体素肌を持たない女性型メカキャラクター(例:「機動動姫MoMo」)も多数存在しつつ、大きなジャンルとして成立している。こうした事情に鑑みて、本稿では基本的に「ガールプラモ」という名称で記述する。
【 第1章:前史(前世紀から00年代前半まで) 】
女性を模したキャラクター立体物を愛好する文化は、ドール/フィギュア分野に長い歴史がある。また、プラモデルとしては、スケールモデル分野には情景再現用の1/35女性型プラモデルが存在してきた。
「女性キャラクターの(オタク向けの美少女キャラとしての)可愛らしさを重視した」+「組み立てプラモデル」という限定を付してみると、ガンダムやマクロスのロボットを擬人化(女体化)した「アーマードレディ」(1985年?)シリーズや、『うる星やつら』の「ラム」シリーズ(1983年頃?)をBANDAIが発売したり、HASEGAWA(?)が『鉄腕アトム』のキャラクターをプラモデル化したり(「アトム & ウラン Designers Quality」)、アニメ『超時空騎団サザンクロス』のキャラクターのプラモデルをARIIが発売したり、といった実例があった。これらは1/12相当のスケールながら、いずれも造形はごく簡素で、色分けも関節可動もほぼ皆無のようだ(※筆者は店頭で目にしたことがあるが未所持)。
00年代前半には、カプセルトイや食玩にも、簡単な組み立て要素のある女性キャラクターのミニフィギュアが多数存在した。また、一般的な商業流通ではなくイベント販売されるプライヴェートなレジンキットの中にも、女性キャラクターの組み立てキットが現れていた(※後述する「レイキャシール」も、レジンキット文化から登場した)。また、関節可動ドール分野がすでに形成されており、海外でも「G.I.ジョー」シリーズ(1/6スケール)に女性キャラクターの可動フィギュアが存在していたようだ。
このように、女性型の模型は様々な形で存在したが、現代的な意味での「ガールプラモ」は、まだ登場していなかったようだ。
【 第2章:可動フィギュア分野における胎動(00年代後半) 】
00年代前半には、カプセルトイや食玩にも、簡単な組み立て要素のある女性キャラクターのミニフィギュアが多数存在した。また、一般的な商業流通ではなくイベント販売されるプライヴェートなレジンキットの中にも、女性キャラクターの組み立てキットが現れていた(※後述する「レイキャシール」も、レジンキット文化から登場した)。また、関節可動ドール分野がすでに形成されており、海外でも「G.I.ジョー」シリーズ(1/6スケール)に女性キャラクターの可動フィギュアが存在していたようだ。
このように、女性型の模型は様々な形で存在したが、現代的な意味での「ガールプラモ」は、まだ登場していなかったようだ。
【 第2章:可動フィギュア分野における胎動(00年代後半) 】
00年代後半に入ると、まずはフィギュア/ドール文化から、「15cm前後の関節可動する女性キャラクターの完成品フィギュア」が展開される。具体的には、以下のとおり。
SQUARE ENIXの「PLAY ARTS」シリーズ(2005-)は、2006年6月に女性キャラクター「ユウナ」を発売している(※ただし25cmとかなり大きい)。
アトリエ彩は2006年8月に、『舞-乙HiME』の女性キャラクター「アリカ・ユメミヤ」「ニナ・ウォン」の可動完成品フィギュアを発売(1/10スケール)。
KONAMIの「武装神姫」シリーズ(2006年9月-)は、「アーンヴァル」「ストラーフ」など、1/12相当(≒14cm程度)の可動完成品フィギュアを大量に発売していった。
海洋堂の「リボルテック」シリーズも、1/12相当のサイズが中心で、「No.12 レヴィ」(2006年10月)以降、多数の女性キャラクターの可動フィギュア(アクションフィギュア)をリリースしている。なかでも「フロイライン・リボルテック」シリーズは、「フロイライン(Fräulein=お嬢さん)」の名のとおり、女性キャラクターをフィーチャーしている。
VOLKSの「カスタマイズフィギュア」シリーズは、ABS関節を仕込んだ可動レジンキットで、2006年頃には商品展開されていたようだ。ラインアップの大半は女性キャラクターで、サイズは20cm程度とやや大きめ。
翌2007年10月には、YAMATOがアニメ『ボトムズ』のキャラクターの可動フィギュア「1/12 フィアナ」を発売している。シーエムズコーポレーション「グッとくるフィギュアコレクション」シリーズも、「ヴィータ」(サイズは約20cm、2008年8月)など一部の製品が関節可動を導入していたようだ。比較的安価な「Q-JOY」(約12cm、2008年1月-)というシリーズも存在した。
さらに2008年2月にはMax factoryの「figma」シリーズが開始する(第1作「長門有希」)。1/12スケールの各部関節可動フィギュアで、現在までシリーズ継続している。同年に開始したBANDAI「S.H.Figuarts」シリーズも1/12相当のサイズで、2009年8月の「ハナ 19歳Ver.」から女性キャラクターをラインアップしている。FREEingの「ソニックダイバー」シリーズ(ガールは約11cm、2008/06-)、AOSHIMAの「モビップ(mobip)」(約13cm、2009/07-)、Good Smile Companyのコレクションドール「天海春香」「秋月律子」(1/6スケールで25cm、2008/01)や「actsta」シリーズ(約19cm、2009/11-)、EVOLUTION・TOY「ふるプニっ!」(約18cm、2010/04-)、グリフォンエンタープライズ「フィぎゅっと!」(約15cm、2010/07-)も可動女性フィギュアのシリーズ。
このように、15cm前後の可動美少女モデルの文化は、まずはフィギュア界隈で育てられたと考えてよさそうだ。ただし、この時点では、ボディサイズは12cmから25cmまでまちまちであり、分野乃至規格としての一体性はほとんど意識されていなかったようだ。
なお、ハイエンドの固定ポーズフィギュア(スケールフィギュア)は、この時期にはすでに成熟しており、その一方でカプセルトイなどのカジュアルな美少女もののトイや、SD(頭身が極端に低いスーパーデフォルメ)体型の「ねんどろいど」シリーズ(2006年4月-)なども、大きな広がりを見せている。
この時期には、PC美少女ゲーム『ふぃぎゅ@メイト』(Escu:de、2006年11月)が発売されている。主題歌でも有名になったタイトルだが、作品内容は、雑駁に言えば「魂を持った生き人形フィギュア(メインヒロイン)を改造して育てるSLG」であり、この時期にはフィギュア愛好文化がオタクたちの中でも大きく普及し、しっかりと根付いていたことが窺われる。
漫画やアニメでも、ドール趣味や小型可動キャラクターをフィーチャーした作品が、定期的に現れている。とりわけ90年代末からは数が増えており、多数のドールキャラが登場する『スーパードール★リカちゃん』(1998-1999年、アニメ4クール)、小型ロボットを用いたバトル競技もの『ANGELIC LAYER』(漫画1999-2001年、アニメ化2001年)、退役した戦闘アンドロイドがメイドとして働く『まほろまてぃっく』(漫画1999-2004年、アニメ化2001/2002年)、ロボ少女との同居もの『ちょびっツ』(漫画2000-2002年、アニメ化2002年)、メイドロボットラブコメアニメ『HAND MAID メイ』(2000年)、動くアンティークドールたちの『ローゼンメイデン』(漫画2002年から断続的に2019年まで、アニメ化2013年)などがある。アニメ『Get Ride! アムドライバー』(2004-2005年放映、全51話)も、メディアミックスで多数のアクションフィギュアを発売した。
もちろんそれ以前からも、殺人ロボットを巡るSFドラマ『ブラックマジック M-66』(アニメ版1987年)、女性が全員ロボットである『セイバーマリオネット』(メディアミックスで1995年前後に展開)、メイドロボのいる世界『To Heart』(原作ゲーム第1作は1997年発売)、少女ロボットが主役の『Dr. スランプ(アラレちゃん)』(漫画1980-1984)、ロボットヒロインたちとのコメディ漫画『A・Iが止まらない!』(1994-1997)、人類文明の衰退期を穏やかに過ごす人型ロボット『ヨコハマ買い出し紀行』(1994-2006)、等々。こういったオタク/サブカル系におけるドール趣味や萌えロボット作品の広がりと蓄積の上に、現代のガールプラモ/フィギュアも立脚していると言うべきだろう。
【 第3章:HASEGAWA「フェイ・イェン」の登場(2007年) 】
2007年6月に、HASEGAWAが「フェイ・イェン(with ブルー・ハート/パニック・ハート)」を発売する。これは3D格闘ゲーム出自のロボットキャラクターで、スケール表示も1/100となっているが、当時流行していたメイド+ツインテールのオタク的デザインで、明確に女性型のキャラクターと見ることができる。HASEGAWAは元々は、航空機や自動車などのスケールモデルを中心にしている模型メーカーであり、この「フェイ・イェン」はいささか唐突な商品なのだが、現代の目で見てもきちんとした完成度のプラモデルとして成立している。
しかも、このキットは、先に述べた現代型ガールプラモの基本枠組を全て満たしている。すなわち、「15~16cm(6インチ)級の」+「関節可動のある」+「女性型のモデルの」+「美少女路線の」+「組み立てプラモデル」である。この意味で、「フェイ・イェン」こそは現代型のガールプラモの出発点であると言うことができるだろう。もちろん、文化的-精神的な意味では可動フィギュア「figma」「武装神姫」の影響もきわめて大きいが、プラモデル発の文化現象としては「フェイ・イェン」をまず最初に置くのが妥当と思われる。
「フェイ・イェン」のキットは、プラモデルとしての構造も、現代ガールプラモの基本型と言ってよい。可動箇所は、肩、肘、手首、首、股関節、膝、足首が全て自由に動かせる(※ただし、構造上、腹部屈曲はできない)。関節部は、足首など一部はポリキャップを使っているが、頑丈なPOMパーツを使用している箇所もあり、現在の目で見ても先進的である。掌パーツも複数のポーズのものが用意されて、任意に取り替えて様々な表情を作ることができる(もちろん、武器持ち手もある)。これらの、現代のガールプラモで採用されている基本的な仕様の多くが、このキットですでに実現されているのは、たいへん興味深い。
ただし、現代ガールプラモの主流とは異なる要素もある。例えば、関節部の強度はかなり緩いし、パーツ構成もかなりデリケートである。また、メイド服のようなストライプ柄を再現するために、全身に大量のデカールを貼付することが要求される(※ただし、これは元のデザインからしてやむを得ないのだが)。さらに、生物的な素肌の部分が一切存在しない、純然たるメカガールキャラクターである。しかし、プラモデルとしてのサイズ感や可動構造の次元で見るかぎり、ガールプラモの歴史を語る際に、けっして無視してはならない重要なキットであることは確かだろう。
この「フェイ・イェン」は、何種類かのヴァリエーションキットが発売され(~2014/08)、また、同シリーズの「ガラヤカ」も発売された(2011/11~2016/07)。「ガラヤカ」もメカ少女キャラクターだが、幼児的な小柄の体躯で、本体は約11cm、長帽子を含めても約14cmという特徴的なプロポーションである。
このようにして現代型ガールプラモの先鞭を付けたHASEGAWAであるが、この2種類のキット以降は、可動ガールプラモは一切手掛けていない。その代わり、「学校の机と椅子」のような1/12スケール小物(2011-)や、「たまごガールズ」という固定ポーズのレジンキットシリーズ(1/12や1/20スケール、2018-)に注力していく。
【 補論1: メカガールについて 】
人肌(生体)部分の存在しない女性型メカや、女性的なデザインのロボットも、「ガールプラモ」に含めてよいか。これは、ひとによって意見が異なるだろう。
ロボット側に振り切った実例としては、BANDAIの「ノーベルガンダム」(1/144)や「LBXクノイチ」、KOTOBUKIYAの「レイキャシール」「ラピエール」、エムアイモルデ「機動動姫MoMo」などがある。これらは、生物的な素肌要素が皆無であり、設定上も明確にロボットやアンドロイドであるが、同時に女性的と見做されるいくつかのモティーフを伴っている(リボンパーツ、ミニスカート、膨らんだバストなど)。「フェイ・イェン」「ガラヤカ」も、このカテゴリーに含まれる。
中間的な形態としては、「モビルドールサラ」「MODEROID:エリアル」「フレームアーティスト 初音ミク」などは、人間型フェイスが同梱されている。上記「レイキャシール」も、人型フェイスを同梱したヴァリエーションキットが存在する。
さらに人間側に寄っていくと、FAG「スティレット」「アーキテクト」のように、おおまかには人間のように見えるが、脚部などはまるで義肢のように機械化されているというキャラクターがある。海外キットのNuke Matrix「リリーベル」、Eastern Model「フランケンシュタイン(エリザベス)」のように、人間らしい顔や頭髪を伴っている一方で、腹部の機械的な内部構造が露出するというキットもある。
KOTOBUKIYAの「KOS-MOS」や、「メガミデバイス」シリーズ(※公式的にはバトルゲーム用の1/1ロボットという設定である)、BANDAI「人造人間18号」、WAVE「未夢」のように、外見上はほとんど人間のようにも見えるが、設定上はまぎれもなくアンドロイド(ロボット)であるというキャラクターのプラモデルもある。
このように、ロボットガールは広汎かつ複雑なグラデーションの下にある。「ここまではガールプラモだが、ここからはガールプラモではない」という線引きをすることは、困難を極める。また、組み立てプラモデルというものの性質上、フェイスパーツ交換や塗装やミキシングによって形状を変化させることができ、それゆえ、そのキャラクターの属性を一意に確定することができないという事情もある。こうした考慮から、本稿では、女性的と見做される要素を伴っているものは、できるかぎり広く「ガールプラモ」に包摂していくことにする。
ガールプラモ文化の発展の経緯からも、このアプローチが支持されるだろう。20年代のガールプラモをリードしているメーカーの中で、KOTOBUKIYAとVOLKSも、それぞれ「フェイ・イェン」をプラモデルキットとして発売している(※KOTOBUKIYA版は2009年発売、VOLKS版は2014年、そしてHASEGAWA版は上記のとおり2007年)。この事実に鑑みても、「フェイ・イェン」およびメカ少女文化が模型界隈やオタク界隈で有していたプレゼンスの大きさが推し量られるだろう。
プラモデル化されていないものも視野に入れると、女性型ロボットに特有の魅力を見出そうとする文化は古くから存在した。日本国内の創作物でも、アーマロイド・レディ(漫画『コブラ』)とM66-F6(『ブラックマジック』)の頃から、シボ(『BLAME!』)、徒理弐とろん(『8665^2(ハルルコノジジョウ)』)、ドロッセル(『ファイアボール』)、スカーレット・レイン(『アクセル・ワールド』)、ディア(『ワールドフリッパー』)、ヒメカ(『ヒメカに、僕は。』)など、メカ顔の女性キャラクターや純ロボットの女性型キャラクターは多数創造されてきた。
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