2023/05/19

現代ガールプラモの歴史的展望(2):10年代前半のKOTOBUKIYA

 【 第4章:KOTOBUKIYAの継続的な試み(00年代末から10年代半ば) 】
 ※はじめに/第1~3章は別ページ。


 2007年にHASEGAWA「フェイ・イェン」が発売されたが、国内プラモデルメーカーの間でそれに呼応する動きは、当初はほとんど現れなかった。むしろ翌年以降の「figma」「S.H.Figuarts」が可動完成品フィギュアの市場を大きく拡大していた。カプセルトイなどの比較的安価な(組み立て)フィギュアは、いくつかの実験的な新作を出すに留まっていたようだ。

 その中で、ほとんど唯一、明確な反応を示したのがKOTOBUKIYAだった。2009年2月には美少女ロボット「1/144 ヴァルシオーネ」を発売し、同年5月には女性的なデザインのロボット「1/144 フェアリオン TYPE-S」、同年9月からはSDスタイルの殺虫ロボット「1/1 ホイホイさん」、12月には「1/100 フェイ・イェン・ザ・ナイト」、そして2011年5月には「1/12 レイキャシール エルノア」を発売した。特に「ホイホイさん」は、当時の大ヒット商品になったとのことで、シリーズ化していくつもの関連キットが発売された。
 「レイキャシール」プラモデルの公式ページでも述べられているように、この「レイキャシール」は、原型師の浅井真紀氏が2003年に販売したレジンキットが元になっている。浅井氏は、後に「メガミデバイス」(2016-)や「chitocerium」(2019-)、「Dark Advent」(2019-)などのシリーズを手掛けて、現在でもガールプラモの可動構造の開発に取り組んでいる重要なクリエイターである。この浅井氏と共同での「レイキャシール」プラモデル化の作業を通じて、KOTOBUKIYAはガール可動ボディを構築する技術を摂取し、そしてガールプラモの技術的-市場的な可能性を見出したのではないかと思われる。
 同社は元々はフィギュア中心のメーカーであり、可動フィギュア「アクティブスタイリングフィギュア」シリーズ(時期不明)なども発売していたが、2010年前後からプラモデル分野にも積極的に進出するようになっていた(例えばSTGの機体「斑鳩」シリーズ[2011/06-]など)。未開拓のガールプラモ分野は、KOTOBUKIYAにとってニッチ市場のチャンスであったと見ることもできる。

左から「KOS-MOS ver.4 (Extra coating edition)」、「レイキャシール イエローブーズ」、FAG「ドゥルガーI」。レイキャシールは、メガミデバイスに連なる存在で、サイズも一回り小さめ。KOS-MOSは、高さはFAGと同等だが、かなりの小顔であり、20年代現在のスタンダードからすると特異なプロポーションに映るだろう。

 そしてその後、KOTOBUKIYAは、「レイキャシール」「ホイホイさん」をカラバリ/シリーズ化して展開しつつ、女性型ロボット「ラピエール」(2011/11)、美少女アンドロイド「KOS-MOS ver.4」(2012/12)、女性型ロボット「Z.O.E. ドロレス」(2014/08)、女性型戦闘アンドロイド「朱鬼姫 シキ」(2015/08)を継続的にリリースしていく。興味深いことに、これらは全てメカガール(アンドロイドやロボット)である。
 また、SDプロポーションのキャラクターも、「ロールちゃん」(2011/05)、「セイバーさん」(2012/02)、「イカ娘」(2012/03)、「小岩井よつば」(2013/03)、「ワルキューレ」(2014/09)、「世界樹の迷宮:スナイパーの女の子」(2014/08)、「インペリアルの女の子」(2014/12)を発売している。
 要するに、当初のKOTOBUKIYAにとっては、ガールプラモの可能性は、あくまで「メカガール/ロボットガールの延長」と「SDキャラクターの一種」であったように見受けられる。

左からFAG「アヤツキ」、「ホイホイさん(重戦闘ver. [New Edition])」、FAG「スティレット」。ホイホイさんはSD体型ながら、各部の関節可動箇所はFAGと同水準で設けられている(首、肩、肘、股関節、膝、足首)。スティレットは、兵器擬人化(女体化)キャラクターの文脈にあるのが見て取れる。

 そして、2015年に開始された「フレームアームズ・ガール」シリーズも、出発点はメカガール路線であったと言うことができるだろう。すなわち、シリーズ最初期の「轟雷」(2015/05)と「スティレット」(2015/10)は、どちらも同社のオリジナルロボットシリーズ「フレームアームズ」から擬人化(女体化)したキャラクターであり、戦車のような履帯や航空機のような翼を組み込んだデザインになっているし、とりわけ「スティレット」の脚部は、明確にロボ脚として造形されている(※踵部分が着陸脚のような車輪になっているのは、通常の人体としてはあり得ない)。

 しかし、FAGシリーズは、メカガールプラモという特定の趣向を超えて、美少女プラモとして大きな人気を博したようだ。そしてここから、ガールプラモ(美少女プラモ)文化は新たな局面に入る。「フェイ・イェン」と「レイキャシール」が現代ガールプラモのボディ構造のパラダイムを作り出したとするなら、「轟雷」「スティレット」は美少女プラモとしての独自の魅力をようやく形にしたと言えるだろう。
 「轟雷」「スティレット」が、ガールプラモ史の中で一つの大きなブームの契機になった理由、そしてこれがガールプラモ史上の重要なマイルストーンになった事情は、それ以前からの女性型プラモデルの流れの中で捉え、それらと比較することによって、適切に把握することができるだろう。考えられる要素を、いくつか挙げておく。
 1) 原作不在。つまり、特定の原作ストーリーに依存しないキャクラターであったこと。「フェイ・イェン」や「KOS-MOS」はあくまで原作ありきのキャラクターだったが、FAGのキャラクターたちはそういったストーリー的固有性から解き放たれて中空に存在する、自由な存在だと言える(※一応は既存ロボットの擬人化という側面がありはするが、メーカー自身はあくまで「設定は自由」を謳っている)。それゆえ、ユーザー側としては、独自塗装やミキシングも試みやすいし、「自分が作ったこのプラモキャラは、あくまで私一人の固有の存在なのだ」と愛着を持つことができる。あえて原作を持たないことによってプラモデルシリーズの広がりを確保するというアプローチは、先んじてVOLKSの「VLOCKer's」シリーズ(2010-)が着手してきたアプローチであり、また後にはBANDAIの「30 MINUTES MISSIONS (30MM)」(2019-)と「30 MINUTES SISTES (30MS)」(2021-)も(おそらく意識的に)行なったが、FAGシリーズもその手法を実践していると言える。
 2) 拡張性。キットには多目的の接続穴が多数仕込まれている。これによって、ユーザーは様々なパーツを自由に組み替えたり、他のキットとミキシング(mixing:組み合わせること)することができる。同社は多種多様な汎用プラ小物群「M.S.G.(モデリング・サポート・グッズ)」を展開しており、武器や装甲やアクセサリーパーツを組み合わせて楽しむことを推奨しているが、そういったミキシングの核になる存在としても、このFAGキャラクターたちは好都合だった。ちなみに、自社キット間の自由な組み替えを楽しませる拡張性路線は、VOLKSの「VLOCKer's」と、BANDAIの「30MM」も採用している。
 3) キャラクター表現(萌え)としての強み。小顔な「レイキャシール」「KOS-MOS」と比べて、FAGはかなり頭部が大きく、それゆえ、表情が見て取りやすい。しかも、様々な表情のフェイスパーツが複数同梱されているので、ユーザーは好みの表情を装着させて鑑賞することができる(※それどころか、フェイスパーツはシリーズ内で同一規格なので、キット間で自由に交換することすら可能である)。この要素は、まちがいなく、このキャラクターたちの魅力を増しているだろう。
 4) オタク文化における流行。2015年当時は、まだ擬人化(女体化)ブームが盛んな時期だった。それゆえ、ロボットの擬人化(女体化)であるFAGシリーズは、20年代の現在よりもはるかに強力な訴求力を発揮したのかもしれない。いみじくもFAG「轟雷」「スティレット」のデザイナーは、フィギュア「メカ娘」やアニメ『ストライクウィッチーズ』などを通じて擬人化/女体化ブームを主導した中心人物の一人であり、当時のオタクたちに対して強力なアピールになっただろう。

FAG「グライフェン」に、多数の「モデリング・サポート・グッズ(M.S.G.)」を盛り付けた制作例。これらは接続用のピンと穴のサイズが同一規格で統一されているため、装着させたり組み替えたりすることができる。
写真はFAG「バーゼラルド」と、小型フィギュア「メカ娘 フィギュアコレクション3」の「チハ」、そして『ストライクウィッチーズ』とコラボしたHASEGAWAキット(航空機とキャラクターレジンキットが同梱されている)。

 FAGのビッグセールス以降のKOTOBUKIYAは、無表情に取り澄ましたロボットガールのプラモデルはほとんど作らなくなっていく。つまり、ヒューマンな個性と表情のあるガールプラモ――美少女プラモであり萌えプラモ――が基軸になっていく。そして翌2016年12月には、新たなガールプラモシリーズ「メガミデバイス」(MD)も始動し、そこから数年間はFAGとMDの両シリーズのみに注力していく。FAG/MDの純正枠組から外れるガールプラモは2019年以降、すなわち『武装神姫』とのコラボキット「エーデルワイス」(2019/01)、『装甲娘』とのコラボシリーズ(2019/04-)、「ガオガイガー」(2019/06)、「PSO ジェネ ステライノセントVer.」(2019/12)、「ルーデンス」(2020/02)まで、大きく間が空くことになる。さらに、KOTOBUKIYAが完全新規のガールプラモシリーズを開始するのは、2021年1月の「創彩少女庭園」と同年12月の「アルカナディア」を待たねばならない。

 「メガミデバイス」も、原作の無いオリジナルコンテンツである。サイズはFAGよりもわずかに小さめの15cmで、構造面では可動範囲の大きさに際立った特徴がある。例えば、肩関節に回転軸が仕込まれていて、腕を前後に大きく動かすことができるのは、浅井氏独自の設計である。腰部も、外装パーツ全体がオムツのように浮いており、下半身の可動を妨げず柔軟に動く。また、フェイスの表情も多彩で、「高笑い顔」、「いくらうましっ!顔」(※おいしそうに舌なめずりする顔)、「しいたけ顔」(※両目が十字形に輝いている)といった個性的な表情が取り入れられているのは、FAGと好対照である。
 設定上は、近未来の世界で小型ロボットによる対戦ゲームが行われているとされており、メガミデバイスのガールたちはそのバトルを行なうAI自律ロボット(1/1の原寸)ということになっている。漫画『ANGELIC LAYER』(1999-2001)や『超可動ガール1/6』(2012-)、アニメ『ガンダムビルドファイターズ』(2013-2014)に触発されたようなシチュエーション設定だが、ガールたちの武装に説得力を与えることに一定程度寄与しているだろう。また、ガールプラモ文化がオタク系隣接諸領域とどのように繋がっているかを示唆する一事例でもある。

左から「メガミデバイス:ランチャー」、「ルーデンス」、「ガオガイガー」。右2者は、サイズやフェイスパーツなどがFAGシリーズと共通規格になっている。
メガミデバイス「ランチャー(HELL BLAZE)」、「ランチャー(無印)」、「ランサー(無印)」、「ランサー(HELL BLAZE)」。メガミデバイスは、基本的に2つのキットをコンビにして連続発売している。カラーリングを変更したヴァリエーションキットも多い。フェイスパーツが非常に表情豊かなのも特徴的。
「フレームアームズ・ガール(FAG)」シリーズの各系統と発売年。水色は、系統内の完全新規キット。太いラインは、大きなモデルチェンジ。公式限定販売品などは省略している。カラバリやマイナーチェンジを大量に繰り返しつつ、おおむね毎年1つは新規キットをリリースしている。
「メガミデバイス」シリーズの各系統と発売年。水色は、系統内の完全新規キット。こちらは系統ごとに粗密のばらつきが激しく、また、コラボキットが非常に多い。


 10年代後半のKOTOBUKIYAガールプラモは、事実上全てがFAGシリーズとMDシリーズに属する。「ガオガイガー」「ルーデンス」などの新規キットも、1/10~1/11程度のサイズであり、フェイスパーツなどの各部規格もFAGに合わせている。ただし、小スケールのメカシリーズ「HEXAGEAR」には、人物キットも含まれ、その中には「ローズ」(2017/09)や「ミラー」(2018/05)といった女性キャラクターもある。小さいながら、フェイスパーツも両目印刷済みである。ただし、1/24スケールというかなり小さな縮尺なので、他のガールプラモと組み合わせることは難しい。

中央のメカはHEXAGEAR「アビスクローラー」。中央手前が女性兵士「ミラー」。
HEXAGEARは1/24スケール設定であり、人物キットをメカに搭乗させたり、ジオラマ風にレイアウトしたりすることができる。


 【 補論2: 10年代前半の模型メーカー各社の動向 】

 この時期にガールプラモを発売したメーカーは、他にもいくつか存在する。PLUMは「プラフィア」シリーズ(2010/05-)でSDキャラクターのキットをいくつかリリースしたし、BANDAIは「ノーベルガンダム」(2011/01)や「ダンボール戦機:クノイチ」(2011/02)など、FUJIMIはSDキャラの「Ptimo:初音ミク」(2014/04)、AOSHIMAは昆虫の擬人化キャラ「ごきチャ!!」「ちゃば」(2011/07)、VOLKSは「フェイ・イェン」(2014/12)を発売している。FineMoldsの「1/12 ワールドファイターコレクション」にも女性キャラクター(2011/06-)がいるが、スケールモデル寄りのデフォルメ女性プラモデル(固定ポーズ)という珍しいアプローチである。
 ※BANDAIについては次章で詳述する。

 興味深い実例として、WAVEが2013年3月に発売した「HRP-4C 未夢」は、実在の同名ロボットをプラモデルにしたものである。サイズは約13cmとかなり小さめだが、これはおそらく、モデル元に対する厳密な1/12縮尺かと思われる。
 モデル元が実在するガールプラモは、きわめて稀である。2023年現在でも、この「未夢」の他には、MODEROID「パワーローダー」で搭乗者(=俳優シガニー・ウィーヴァー)が同梱されていたり、モデラー声優の中村桜が1/35スケールのAFV情景用レジンキットになっていたりするくらいだろうか。
 造形-構造の面でも、細やかに髪筋がモールドされていたり、掌は爪先まで細かく塗り分けた塗装済みパーツだったり、ほぼ全面的にアンダーゲート化していたりと、技術的にも見るべきところがある。ただし、WAVE製のガールプラモは現在のところ、これ一つのみである。

左からFAG「マガツキ:橘花」、WAVE「HRP-4C 未夢」、MODEROID「パワーローダー(に搭乗するエレン・リプリー)」。実在のモデル元を持つガールプラモは非常に珍しい。男性キャラクターでは、BANDAIの『Star Wars』登場人物のプラモデルが、事実上その役者のプラモデル化にもなっている。

 いずれにせよ10年代前半のうちは、模型メーカー各社のガールプラモへの取り組みは散発的な試みに留まっていたようだ。ただし、HASEGAWAは「学校の机と椅子」(2011/11)などの1/12スケール情景用キットをいくつか発売しており、TOMYTECも駅ベンチや改札機などの1/12スケール「鉄道小物」シリーズ(2013/03)や、1/12銃器シリーズ「リトルアーモリー」シリーズ(2014/03-)を発売している。これらはおそらく、発売当時はfigmaなどの可動フィギュアやドールを念頭に置いた商品であったかと推測されるが、6インチ級ガールプラモにも利用できるアイテムになっていく。ドール分野の中でも、2010年11月には1/12級ドールのイベント「AK-GARDEN」第1回が開催され、2013年9月にはAzone Internationalの1/12ドールシリーズ「アサルトリリィ」も開始している。1/12級(15~16cm級)のキャラクタープラモの周辺は、次第に充実しつつあったと言えるだろう。
 2010年代前半の完成品アクションフィギュアでは、KOTOBUKIYAのSDフィギュア「キューポッシュ」シリーズ(2013/04-)、Phatの「パルフォム」シリーズ(約14cmのデフォルメフィギュア、2015/02-)、ダイバディの「ロボット新人類 ポリニアン」(2015/04-)がある。メディコス・エンタテインメントの15cm級「超像可動」シリーズにも「スパイス・ガール」(2013/04)や「トリッシュ・ウナ」(2013/06)などの女性キャラクターがいる(※なお、この時期のBANDAIの可動フィギュアについては、次章で紹介する)。

15-16cm級のガールプラモは、1/12スケールのドール布服を着せられるものもある。ただし、首の短さや胸部の圧迫などによって着用できない場合も多いが、うまく調整できればガールプラモにファッショナブルな魅力を増すことができる。

3ページ目へ続く)