2023/05/20

現代ガールプラモの歴史的展望(4):10年代末の各社参入

 【 第6章:国内各社によるガールプラモ企画(10年代末) 】
 ※1~3章4章5章は別ページ。


 今世紀のガールプラモ産業は、HASEGAWA「フェイ・イェン」シリーズ(2007-)が基礎的な枠組を提示し、KOTOBUKIYAの継続的努力が美少女プラモ(萌えプラモ)としての「フレームアームズ・ガール」シリーズ(2015-)および「メガミデバイス」シリーズ(2016-)に結実させ、さらに2017年以降のBANDAIがそれを既存キャラクターのプラモデル化という形で普及させていった。そして2017年頃から、日本国内の模型メーカー各社が次々に、ガール(美少女)特化のプラモデルシリーズを開始していく。現在まで継続している主要なシリーズとして、
 a) VOLKSの「FIORE」 (2017/07-)
 b) AOSHIMAの「VFG」 (2018/04-)
 c) Good Smile Companyの「chitocerium」 (2019/05-)
 d) Alphamaxの「Dark Advent」 (2019/08-)
が挙げられる。本章では、これら四者について、その成立経緯と技術的特徴を概観していく。


 a) VOLKSの表情豊かなガールプラモ:「FIORE」

 VOLKSはレジンキット(ガレージキット)やドール製造に携わってきたメーカーであり、そのため、女性キャラクターの立体化についても多くの蓄積を有している。また、プラモデル生産に関しては、「VLOCKer's(ブロッカーズ)」(2010/02-)というシリーズを展開しており、そこにはロボットや武器類、そしてZOIDsのようなメカ生物キットや汎用ジョイントパーツセットなどを大量にラインアップしている。これらは共通規格の下にあり、ユーザーが自由な組み替えをして楽しめるようになっている(※メーカーは「メカアクションブロックトイ」と称している)。ドール製造経験とプラモデル製造経験、これらの経緯からして、VOLKSが早くからガールプラモのブームに反応できたのは、ごく自然なことだろう。同社は2014年には「フェイ・イェン」を発売していたが、2017年からは「FIORE」というシリーズ名で本格的なガールプラモのラインアップ展開に着手した。

 第1作「プリムラ」は、2017年7月発売。15-16cm級のサイズである。その後、カラバリや改良版などを続けていく。具体的には、褐色肌カラバリ「プリムラ:シネンシス」(2017/11)、金髪カラバリ「プリムラ:ビクトリア」(2018/01)、チャイナ風「プリムラ:ベラリーナ」(2019/04)と続く。2019年からは改良版の「ヴィオラ」(2019/01)と「ローレル」(2019/02)を発売し、さらにそのカラバリをいくつか発売している。なお、"fiore"はイタリア語で「花」を意味し、ガールキットもそれぞれ花の名前をつけられているのが面白い。

左はVOLKSのFIORE「ローレル:フォリア」。褐色肌も複数リリースしている、意欲的なシリーズである。中央は最初期の「プリムラ:ビクトリア」。蛍光色のように明るい頭髪と、愛嬌のある享楽的な表情が大きな魅力になっている。


 FIOREシリーズは、長所も短所もはっきりしている。長所はデザインの華やかさと、表情の豊かさ、シルエットの美しさ。
 i) 華やかさ。「プリムラ」は、ガール素体に装飾的な装甲パーツ(盛り付けのジョイントとしても機能する)を同梱しているだけであり、「ヴィオラ」もソード数本と大きなモンスター腕を同梱するにとどまっている。その一方で、カラーリングについては、ヴィヴィッドレッド、パープル、イエロー、クリアグリーン、クリアブルーといった派手な色彩を取り込んでいる。装甲パーツも、きれいにツヤ出しされていたり、ラメ入りだったりと、フェミニンで明るい印象を与える。
 ii) 感情表現。フェイスパーツも表情豊かで、泣き顔や怒り顔、ウインク顔、キラキラ目などを大胆に使用している。別売りのオプションフェイスパーツによって、そのヴァリエーションはさらに拡大されている。こうした感情表現の豊かさも、FIOREシリーズの大きな美点の一つだろう。上記のとおり、VLOCKer's体系の一部に含まれることもあって、ガール単体で完結するような個性よりも、ミキシングの芯になりうるようなアイキャッチが追求されているように見受けられる。頭髪パーツも、レジン製オプションセットを含め、非常にファッショナブルに造形されている。
 iii) プロポーションの美しさも特筆に値する。程良く引き締まった健康的なボディもきれいだし、脚部のラインも抜群に美しい。ハンドパーツも、他社のものと比べて桁違いに出来が良く、表情豊かなものが揃っている。とりわけ、初期のFAGシリーズが「薄い表情+棒状の脚部+無難なハンドパーツ+重々しい武装類」であったのと好対照に、軽快で躍動的な雰囲気を湛えている。素肌パーツの成形色も、生き生きした血色感とみずみずしい透明感がある。さすがはドール系企業と言うべきだろう。ガール素体とともに装甲パーツも、優美な曲線美が強調されている。全体として、アイドルを連想させるようなスポーティな活発さが印象づけられる。
 iv) 欠点。その一方で、欠点もある。具体的には、「プラの品質」「パーツ精度」「十字穴」が挙げられる。素材の品質が低いのか、プラが非常に硬くて削りにくいことが多い(※ちなみに、ABS製なのでラッカー塗装には不向き)。また、パーツ精度は非常に低く、合わせ目の隙間が出やすいし、各所のスナップフィットのピンも調整必須なレベルで合いが悪い。ジョイントにポリキャップを多用しているのも、関節部のグラつきを助長している。嵌め合わせの精度が低くて関節も弱いということは、ミキシングにも支障を来すことを意味する。デザイン面では、特に武装パーツが他社キットよりも大味に見える。装甲パーツのエッジも、総じてだるい。また、接続用の十文字穴が腕や脛に大きく開いているのも、キャラクターの美観を損ねている。
 要するに、長所と短所が極端であり、ガールプラモとしては上級者向けと言わざるを得ない。割り切って無邪気にミキシングを楽しむのもよいが、モデラーが丁寧に手を掛けて制作すれば大きく化けるポテンシャルもある。

KOTOBUKIYA(左)が武装ガールを強く志向し、BANDAI(右)が既存キャラクターの立体再現に注力しているのに対して、VOLKSは自由で華のあるオリジナルキャラクターを追求し続けている。

 その後、FIOREはいくつもの新規キットを精力的にリリースしていく。肉感的なデザインの「アイリス」(2019/10)、大人びたスレンダーガールの「ローズ」系統(2020/07-)、ユーモラスな宇宙服の「コスモス」(2021/05)、エイリアン風の悪役路線「ドラセナ」(2022/02)、幼くも凜々しいケンタウロス騎士「アキレア」系統(2022/08)と、キャラデザの意欲的な個性と多様性はガールプラモ分野でも際立っている。パーツ精度も、多少は改良されてきたように見受けられる。

 VOLKSキットは基本的に自社ショップ(と通販)でのみ扱っており、販路が限定されているが、ガールプラモ文化の中でけっして見過ごすことのできない、ユニークな魅力を持っている。

右端はVOLKS版の「フェイ・イェン」。やや古いキットだが、この時点でもプロポーションの審美的追求の姿勢が見て取れる。その右は「FIORE:コスモス」。別売りのレジン製ハイディテール頭髪パーツを取り付けてある。「ドラセナ」は、ガールプラモとしては珍しいヒール(悪役)路線。いずれも、一般的なガールプラモ同等の15-16cm級のサイズである。
「ドラセナ」や「ローズ」「リリィ」は、ボリュームのある武装パーツ群も同梱されている。ジョイントはVLOCKer'sの共通規格なので、ガールに装着する以外にも、様々に組み替えてクリエイティヴに楽しむことができる。


 b) AOSHIMAの遊び心とギミック:「VFG」と「新・合体」

 AOSHIMAはカーモデルや艦船模型を多数発売しているスケールモデル系企業だが、派手なデコトラ模型や、アニメの架空スーパーカー、痛車プラモなどもリリースしており、艦船模型分野でも漫画『蒼き鋼のアルペジオ』とコラボした架空艦シリーズを主導するなど、柔軟な姿勢を見せている模型メーカーである。また、ロボットプラモやガールフィギュアも手掛けている。
 2011年には「ごきチャ!!」「ちゃば」という、昆虫の擬人化キットを発売していたようであり、また、2012年頃からは「学校の階段」「ブランコ」「和式便所」などの1/12ジオラマ用キットも販売している。そこからしばらく空いて、2018年4月に「ヴァリアブルファイターガールズ(VFG)」というガールプラモシリーズを開始する。

VFG「ジークフリード」。航空機(ロボット)を変形させて、ガールが跨がって騎乗するポーズをとることができるのが、このシリーズの特徴である。なお、左記写真では両目デカールを変更してある。

 VFGは、アニメ『マクロス』シリーズをモティーフにしつつも独自にデザインされたガールプラモである。ガールと航空機がセットになっており、航空機を多少変形させて、その上にガールが馬乗りになったり、あるいは航空機パーツを背面に着込んで強化スーツのような状態にすることができる。つまり、「航空機+ガールの2つ」、「騎乗する」、「着込む」という3形態に変化させることができるというのが、このシリーズの基本フォーマットである。
 航空機部分の変形は、原作『マクロス』を踏襲しつつ、ガールと組み合わせられるように巧みにアレンジされている。航空機の造形それ自体も、架空戦闘機のプラモデルとして非常にクオリティが高いし、3態の変形機構もきれいに動かせる。パーツ精度も十分高い。
 ガール部分は、水着のようなSFボディスーツのデザインだが、「カイロス」(2018/12)は片目隠れ+オッドアイ+猫耳尻尾で、「メサイア」(2019/12)は金髪ぱっつん+ポニーテール+赤ツリ目と、ガールプラモ分野の中でもかなり濃いキャラづけをしている。ボディ構造も、騎乗ポーズが美しく映えるように、他のガールプラモとは一味違う設計になっている。具体的には、
 ・上腕パーツ(肩部分)を胸部にめり込むほど大きく取ることにより、腕を前に出しやすい。
 ・胸部-腹部の間に筒状パーツを一つ挟むことにより、胴体を反らしても隙間が出ない。
 ・足(太腿)を上げられるように、腰部の形状を調整してクリアランス確保している。
 ・騎乗時に、背面からのヒップラインが美しくなるように造形している。 
これらの技術的課題をきちんとクリアしたうえで、美少女プラモとしてもかなり攻めたデザインを提示しているのが、VFGの大きな美質だろう。

左から「VFGメサイア」、「VFGジークフリード」、「合体アトランジャーΩ」(手前、後述)、そして「VFGカイロス」。
騎乗ポーズを真横から。背中をきれいに反らせることができるように、可動構造が巧みに設計されている。胴体から上体を90度近くまで曲げるのは、他のガールプラモではほぼ不可能である。
騎乗ポーズを背面から。ヒップラインも、騎乗ポーズで美しく映えるように造形されている。

 VFGシリーズの評価要素。
 i) 騎乗のアイデア。ガールプラモとしてのVFGは、「メカ+ガール」路線に分類できるが、ガールとメカの組み合わせを、ありがちな「擬人化」アプローチではなく、「騎乗」というユニークな手法に落とし込んでみせたのは、非常にスマートだと思う。ガールがサポートメカを装着するスタイルは、2023年現在では海外(中国)メーカーが得意としている方向性だが、それら最新のキットと比べても、この騎乗スタイルは秀逸なアイデアだ。
 ii) 変形ギミックの技巧。航空機部分について、3形態の複雑な変形ギミックをきちんと設計しきっている。パーツ精度も高いし、変形時のロック機構なども丁寧に仕込まれている。ガールプラモ分野だけでなく、プラモデルキット全体の中で見ても、きわめて高い水準にある。
 iii) シルエットの完成度。さらに、騎乗させた時のシルエットの美しさにまできちんと神経が行き届いているのも素晴らしい。ガールが航空機としっかり組み合わさることによって、ガールとメカの一体感がきちんと感じ取れる造形になっている。こうした入念な設計の積み重ねによって、美少女プラモとしてのVFGは強烈な存在感を放っている。

航空機(ロボット)をさらに変形させて、ガールに背負わせることもできる。ロボ腕部などは多少の差し替えが必要だが、きちんとした一体感のあるシルエットになる。
「ジークフリード」の航空機部分。原作と比べて変形は簡略化されているが、そのぶん、ジョイントの強度や変形機構の堅固さに優れている。航空機プラモそれ自体として見ても、非常に出来が良い。塗装は大変だが、同梱シールで再現することもできる。

VFG「カイロス」の航空機とガールを並べて。原作を踏襲しつつ、ガールと合わせて上手くまとめられたデザインである。ラインモールドもシャープなので、スミ入れもきれいに流せる。
「カイロス」の騎乗モード。基本的な構造は、「ジークフリード」同様である。次の「メサイア」系統になると、脚部の展開構造などがさらに凝ったものになる。
「カイロス」の装甲状態(※公式には「バトロイド」形態と呼称されている)。
「VFG メサイア」(無塗装+シール)。航空機部分は、BANDAIの1/72キットよりも一回り小さく、おそらく1/90程度のスケールに相当する。

 難点を挙げるなら、「寡作」と「塗装難度」があるだろう。VFGのラインアップは、現在のところ「ジークフリード/カイロス」系統(2018/04-)と、「メサイア」系統(2019/12)の2つのみで、ガール部分の差し替えやカラバリでシリーズを維持しているような状況である。しかし、変形ギミックの設計難度に鑑みれば、寡作ぶりも許容されるだろう。また、航空機部分の塗り分けの難しさは、元ネタに由来するものであって、どうしようもない(※大量のシールが同梱されているので、それを使用することもできる)。

 VFG(2018/04-)に続いて、「新・合体」シリーズ(2021/05-)も展開している。これは、AOSHIMAの昔の合体ロボットキットをリファインしつつ、新規ガールプラモと組み合わせるというもので、かなり複雑なバックグラウンドから成立している企画だが、「変形トイとして遊べるプラモデル」というアプローチはVFGと通底している。2023年現在までで、「合体アトランジャー」(2021/05)とそのカラバリキット(2021/12)、そして「合体ムサシ」(2022/08)が発売されている。
 企画趣旨からして、「新・合体」シリーズの重心は、ガールよりもロボット部分にあると見るべきだろう。非常にボリュームのあるキットだが、ロボットはMGガンプラ並のサイズで、様々に分離組み替えできるような設計である。ガールに背負わせたりすることも一応可能だが、かなり作為的で、一体感のあるデザインとは言いがたい。ガール部分は約14cmと、一般的なガールプラモよりも一回り小さい。なお、「アトランジャー」ガールと「ムサシ」ガールの間で、一部のパーツを共用している。
 「新・合体」ガールの構造上の特徴としては、「小さめの14cm」とともに、「VFGと同じく、大きめの両肩」、「胸部-腹部に、隙間隠しのパーツを挟んでいる(これもVFGと同じ)」、「メガミデバイスのようなオムツ型の腰部」、「ロボット部分と組み合わせるための接続穴が、多数設けられている」といったものが指摘できるだろう。素肌パーツの成形色は、血色の良い健康的な色合いになっている。

AOSHIMA「合体アトランジャーΩ」。ロボット部分は約17cmと、かなり大きい。やや大味なデザインだが、パーツ精度は高く、動かしたり組み替えたりして遊ぶのに十分な強度がある。
「新・合体」シリーズのガールは、一般的なガールプラモよりも一回り小さい。ボディ構造はVFGに倣っており、両肩の膨らみ具合や胸部-腹部の接続方式に趣向が凝らされている。

5ページ目に続く)