海外のガールプラモについて、現時点での展望をメモしておく。
まだまだ若いジャンルであり、年単位で状況が大きく変化するので、あくまで個人的&暫定的な見通しくらいのつもりで。部分的には、別掲「ガールプラモ年表の補足的メモ」と重なるが、当記事では画像を含めた紹介的な記事にするつもり。
――簡易目次――
はじめに:日本における現代型ガールプラモ分野の形成
1. 海外(中国)ガールプラモの全体的な特徴
2. 個別メーカーについて
むすびにかえて:2023年時点での展望
【 はじめに:日本における現代型ガールプラモの形成 】
女性キャラクターの組み立てプラモデルは、日本では1980年代以来の歴史があり、また、レジンキット文化や、スケールモデル分野の情景表現用女性プラモデル(1/35スケール)も存在する。それらに対して、現代的な意味での「ガールプラモ(美少女プラモ)」は、特有の枠組を持った新たなジャンルとして形成されてきた。その標準的な形態を、さしあたり以下のように定式化しておこう。
- おおむね15cm(6インチ)級の、
- 固定ポーズではなく関節可動のある、
- 可愛らしさやセクシャルな魅力を強調した、
- 女性をモデルにした、あるいは女性型ロボットの、
- 組み立てプラモデル。
このパラダイムは、市販キットのレベルではHASEGAWAの「フェイ・イェン」(2007年)に始まり、KOTOBUKIYAの「フレームアームズ・ガール」シリーズ(2015年-)で大きく飛躍したと言ってよいだろう。そして10年代後半には、BANDAI(とりわけ2017年の「人造人間18号」以降)、VOLKの「FIORE」シリーズ(2017年-)、AOSHIMAの「VFG(ヴァリアブルファイターガールズ)」(2018-)、Good Smile Companyの「chitocerium」(2019-)など、模型メーカー各社の参入が相次いだ。内容面でも、女性型ロボットプラモや、SD体型のプラモ、固定ポーズのガールプラモ、15cmよりも大きいor小さいプラモ、そして布服ドールや完成品可動フィギュアやレジンキットやカプセルトイなどの隣接領域とも呼応しつつ、模型界でも大きなジャンルに育ってきた(※この歴史的推移については、別掲「現代ガールプラモの歴史的展望」を参照)。
そして海外(主に中国)でも、2020年頃からこれに呼応する動きが現れた。海外メーカーについては、模型雑誌等では扱われないことが多く、ラインアップや発売年を正確に跡付けることも難しいが、現代ガールプラモシーンの重要な一要素であることは確かだろう。本稿では、ひとまず筆者が把握できた範囲で、海外ガールプラモのおおまかな紹介と展望を試みたい。
【 1. 海外(中国)ガールプラモの全体的な特徴 】
中国メーカーのガールプラモには、日本メーカーの製品とは大きく異なった顕著な傾向がいくつか見出される。以下、1)素材、2)ランナー構成、3)キャラデザ、4)構造、5)品質について、それぞれ概観していく。
最初に概要を述べておくと、1)プラ素材はABS製が主流であり、軟質樹脂頭髪や金属パーツや電池(発光)などの異素材もしばしば使われる。2)ランナー枚数は非常に多くてボリュームがあり、アンダーゲートが標準化されている。3)キャラデザは、擬人化(女体化)をベースにした近未来的武装ガールがほとんど。スレンダー体型やクリアパーツ多用などの特徴もある。4)構造面では、ロボット的なギミックを意欲的に試みている。5)品質は玉石混淆で、関節がきつめだが、均してみれば日本国内メーカーに匹敵する精度。
1) 素材
プラ素材はほとんどがABS製で、PSパーツは非常に少ない。ABSパーツはラッカー溶剤で脆くなってしまうので、塗装時は(とりわけ関節部について)注意を要する。また、異素材の使用に積極的なのも、日本メーカーとの顕著な違いだと言える。例えば、頭髪パーツのPVC、関節部のPOM、武器類の金属パーツ、布製小物の同梱、電池による発光ギミックなどが、多くのキットで取り入られている。金色ランナーなどがあらかじめメタルカラーで塗装済みになっていることも多い。その一方で、デカールやシールはほとんど使わず、できるかぎりパーツ分割による色再現を追求している。
日本のメーカーは、PS素材が主流である。中にはABS素材(例:chitoceriumシリーズ)、POM関節(例:「フェイ・イェン」)や、PVC頭髪(例:「未夢」)を用いているものも存在するが、使用頻度の高さにおいて大きなギャップがある。また、日本のメーカーでは、色再現や装飾のために、デカールやシールを多用しているキットが多い(とりわけBANDAIやAOSHIMA)。
2) ランナー構成
アンダーゲートが非常に多い。ほぼデフォルトというほど徹底されている。アンダーゲートは、表面の細かなモールドを避ける際には効果的だし、ランナー状態で吹き付け塗装をするうえでもありがたいが、パーツ切り取りに一手間増えるし、太腿などの合わせ目では、隙間が出ないように擦り合わせをする必要があり、一長一短の仕様ではある。中国メーカーがアンダーゲートを偏愛する理由は分からないが、ゲート跡が目立たないように、無塗装での美観を重視しているのかもしれない。
また、同じランナーで、成形色の異なるものを2~3枚同梱していることがある(SUYATAやEastern Model)。これも、無塗装を前提にしつつユーザーサイドでのカラー選択/カラー変化の可能性を提供するためかと推測される。
武装キャラクターと素体キャラクターの2体を丸々作り上げることができるパッケージもある。私の知る範囲では、MOMOLINGの「織田奈々」(2020?)と、Eastern Modelの「玄武」(2020?)が、2体同梱仕様の最も早い実例だった。近年のEastern Modelは、基本的にどれもダブル素体構成になっているようだ。SUYATA(スヤタ)やMecha Pig(将魂姫)にも、2体同梱パッケージがある。
3) キャラクターデザイン
特定の原作を持たず、四聖獣などのファンタジーモンスターに基づいた独自のキャラデザを追求しているキットが主流である。日本では、ゲームやアニメなどの既存作品のキャラクターをプラモデル化する例もかなり多いが、海外ではそういったキャラクターコンテンツの厚みが乏しいのだろうか。しかし、新規のオリジナルキャラクターで勝負するのは健全な創造性の発露と言えるし、また、今後は(日本を含む各国の)既存コンテンツに対して中国模型メーカーがプラモデル化を引き受けていく事例が増えていく可能性がある(※実際、2023年時点ですでにその傾向は表れている)。
キャラクターのイメージソースとしては、Eastern Model(御模道)は四聖獣やモンスター、Mecha Pig(MS General/将魂姫)は十二支や中国英雄の女体化、Nuke Matrixはハーピーや人魚といった洋風ファンタジーキャラをベースにして、武装ガールキャラに仕上げている。また、近年では(2022年頃から?)、サイバー路線のSFメカガール趣味も流行しつつあるようで、Nuke Matrixの「F.O.X」(2021?)と「Lirly Bell」(2021?)、Eastern Modelの「フランケンシュタイン(エリザベス)」(2023?)は腹部のメカ構造を剥き出しにしたり、脚部に可動シリンダー構造を仕込んだりしている。
素体のデザインに関しては、「上品な小顔+引き締まったスレンダー+長めの美脚」路線が支配的。16cm以上の長身キャラクターも多く、フェイスパーツの表情も大人びたクールなものが好まれているようだ。頭髪のファッションも、落ち着いたボブカットが多い。それに対して日本では、「愛嬌のあるkawaii表情+ツインテールなどのオタク向けヘアスタイル+ヘアピンなどの装飾を多用+肉感的で素肌露出が多い+脚部は長すぎず」の傾向が強く、好対照となっている。
武装モードは、アニメの主役ロボットのようなゴツゴツした近未来的メカデザインが主流のようだ。クリアパーツの多用も、大きな特徴の一つだろう。いずれにせよ、オリジナルデザインの凝った武装で、非常にボリュームのあるキットが多いが、それでいて、近年(2022-2023年頃)では通販でも4000円~7000円台と非常に安価で購入することができる。
ヴァリエーションキットが非常に少ないのも特徴的だろう。日本ではKOTOBUKIYAやPLAMAXがカラバリキットやマイナーチェンジキットを連発しているが、海外メーカーではそういった製品はかなり少ないようだ(※ただし、素体四肢などのランナーは使い回しされていることがある)。これはこれで健全な創造的姿勢だと思うが、金型コストなどを一体どのように解決しているのか、気になるところでもある。
なお、キャラクターデザイナーはクレジットされていないものが大半。日本のメーカーはほとんどがキャラデザ担当者やパッケージアート担当のイラストレーターを明記しており、これも文化的な違いが興味深い。
4) 構造
四肢関節や腹部屈曲など、各部の可動構造は、複雑に凝ったものもあればシンプルなものもあり、メーカーごとに様々なので一概には言えない。メガミデバイスやDark Adventのような肩回転機構+オムツ構造を採用しているものもあり、爪先可動まで仕込んでいるキットもある。シリンダー可動のような本格的な機械的構造を積極的に取り込んでいるガールプラモもある。
ただし、全体としては美観重視、キャラデザ重視で、可動性はあまり考慮されていないように見える。例えば、パーツが激しく干渉して、せっかくのジョイントがほとんど動かないというところもあるし、シャフトが細すぎて破損しかねないというところもある。やはり中国の模型文化では、無塗装で完成させて鑑賞することが第一義のようだ。
3mm接続穴のような外部拡張機構はほとんど設けていない。あくまでキット単体での造形的完成度を追求しているのが見て取れる。この点も、日本のメーカー(特にKOTOBUKIYAとVOLKS)とは大きく異なると言えるだろう。
5) 品質
パーツ精度はどれもひとまず水準に達している。高精度のメーカーもあるが、全体としては嵌め込みのきついものが多い。私見では、橘猫工業とMecha Pig (MS General)は非常にパーツ精度が高く、SUYATAとNuke Matrixは日本メーカーと同水準。Eastern Modelはかなり落ちて、合わせ目の隙間が出やすい。アンダーゲート多用も隙間発生リスクに拍車を掛ける。
いずれも、嵌め込みピンはカットする必要があるし、関節部はそのままでは非常にきついので、棒ヤスリなどで適宜調整する必要がある。嵌め合わせの精度やモールドのシャープさは優れているのだが、関節部には注意が必要なので、総じて中級者向けのキットになっている。
【 2. 個別メーカーについて 】
最初に、おおまかなイメージを述べておく。
1) 橘猫工業は、パーツ精度は高いが、ガールプラモとしては個性派で寡作。
3) Eastern Modelは、パーツ精度は低いが、ヒロイックなガールキャラを量産中。
4) Nuke Matrixは、kawaii+サイバーメカ少女路線を主導している。ギミックも面白い。
5) Mecha Pig(将魂姫)は、近年量産中。キャラデザはやや洗練されないが、構成は意欲的。
6) SUYATAも、SFメカ路線。ボリュームが凄いし、キャラデザも独自の魅力がある。
その他、2) Momolingと、7) dodowoもガールプラモを発売している。これら以外にも、ガールプラモをリリースしているメーカーがいくつかあるようだが、私は未入手なので分からない。不知火舞のキットなどもあるようだ。以下、メーカーごとにおおまかな特徴を述べていく。
1) 橘猫工業(ORANGE CAT INDUSTRY)
日本以外のガールプラモとして最も早かったのは、おそらく橘猫工業の「C.A.T.-00」(フェリス)だろう。日本ではWAVEが販売元になって2020年1月に発売された。パーツ精度は非常に高く、胴体部分の合わせ目もまったく隙間が出ない高精度。ただし、ジョイントは緩めで、ボディ構造も機械的だし(両肩には回転軸がある)、顔立ちもいささか垢抜けない出来だった。拡張性も皆無のシンプルな素体プラモなので、ガールプラモ製造の技術実験か、あるいは同社のマスコットキャラのつもりであったかと思われる。国内でも実売2000円台で販売していたので、定期供給されていればリーズナブルなガールプラモ素体として便利だったかもしれない。脚部がすらりとしたプロポーションは、その後の中国ガールプラモにもしばしば見られる特徴だが、布服を着せるとモデル体型の美しさが引き立つ(※ついでに肩関節のぎこちなさも隠せる)。
しばらく空いて、2022年夏頃(?)に「フェーディ(feidy)」を発売した。これもパーツ精度は高いが、幼児的な低頭身ボディ+蜘蛛型メカ+原作付きと、非常に個性的なキットになっている。ボディサイズの小ささ(11cm)もあって、可動構造はきわめてシンプル。パーツそれ自体は非常にシャープな出来だが、ジョイントや嵌め込みはキツめ。ちなみに、『アーテリーギア 機動戦姫』というゲーム原作のキャラクターとのこと。
橘猫工業は上海所在のようで、ガールプラモの他にも銃器プラモやロボットプラモを製造しており、日本の模型店にも製品が置かれていることが多い。技術面ではかなり高水準と思われるので、今後とも期待したい。
2) MOMOLING
その次に現れたのはMomoling。「神道物語」と称するシリーズで、2020年に2つのキットを発売した。第1作「豊臣秀羽」は、金銀の塗装済みパーツや、弓矢の金属パーツなどを投入した贅沢なキット。パーツ精度は抜群に高く、衣装の青/白パーツもピタリと合わさる高水準だった。
構造面では、胸部(肩)は真横に多少引き出せるし、後ろ髪は軟質素材(PVC)と、かなり手が込んでいる。ロングスカートのクラシカルな甲冑姿のガールプラモとしても貴重だし、技術面でもメーカーの大きなポテンシャルを感じさせるキットだったが、第2作「織田奈々」をリリースしてから、その後の動向は不明。
3) EASTERN MODEL(御模道)
これも中国のメーカー(広東省深圳市)。2020年頃から、オリジナルデザインの重武装ガールプラモを多数発売している。日本では童友社が販売代行しており、国内の模型店でも購入できる。第1作「アラクネ」(2020?)から、「白虎」「朱雀」(2020-2021?)などの四聖獣ネタのキャラクターを継続展開し、2021年までは多数の新規キットを発売していたが、2022~2023年に掛けては新作発売ペースが落ち着き気味のようだ。
キャラデザ。ほぼ全てが、重武装のバトル系キャラクター。刀や槍を持ったり、サポートメカが同梱されていたりするし、色再現のためのパーツ分割も非常に細かく、キットのボリューム(パーツ数)はガールプラモの中でもトップクラスだろう。アラクネや青龍のような馴染みの架空モンスターをモティーフにしつつ、それぞれ完全にオリジナルのデザインで重武装ガールプラモを作り上げているのは大きな魅力だし、デザインそのものもガールと武装がしっかり合わさった統一感のある造形になっている。3mm穴などの拡張要素を持たせず、キット単体の組み替えで完結させる潔さも好ましい。武装それ自体もかなりのボリュームだし、多くのキットで「ガール素体」と「武装状態」の2体を丸々作れるというサービスもある。実売8000円前後であれば、2023年現在の国内ガールプラモの相場に照らしても十分リーズナブルだろう。 新作量産で、選べる選択候補が多いというのも、大きなアドヴァンテージになる。
ラインアップは、大きな背負いもののある悪役路線の「アラクネ(蜘蛛型)」と「セルケト(蠍型)」、四聖獣モティーフの華やかな「白虎」「玄武」「青龍」「朱雀」、そしてメカ路線の力作「錦衣衛(2種)」、それからカブトムシ型「ヘラクロス」なども存在する。最新作「フランケンシュタイン(エリザベス)」も、左右非対称の意欲的なデザインと、密度の高いサポートメカがセットになっている。
構造面。パーツはほとんどがABS製。ただし、「青龍」(2020?)の頭髪などに軟質PVCが使われている。ボディ構造は、日本の標準的なガールプラモとおおむね同等で、腰部はオムツ式。構造は一作ごとに多少変化しているが、あまり変わっていない。素体の四肢ランナーも、ずっと同じものを使っているようだ。素肌の成形色は、のっぺりしてマネキン的。公称1/12スケールで、ガール素体は約15cm級だが、「錦衣衛」シリーズ(2021年末?)や「フランケンシュタイン(エリザベス)」(2023年初頭?)はハイヒール込みで16cmになる。フェイスパーツは、「青龍」「錦衣衛」「フランケンシュタイン」では互換性がある(※初期の「アラクネ」は規格が合わない)。同梱デカールは基本的に両目のみ。「錦衣衛」では、金色パーツが塗装済みになっていて、無塗装のままでもきれいなメタリックカラーを楽しめる。先述のとおり、大半のキットは素体状態と武装形態で丸々2体分のガールを作れるというお得な仕様。
ただし、パーツ精度は低めで、隙間が出やすく、合わせ目の調整や補修の技術はほぼ必須になる。過剰なまでにアンダーゲート化しているのも、合わせ目の難しさに拍車を掛けている。さらに、色再現のために極端に小さなパーツも多い。関節部の固さも、渋すぎたり緩すぎたりで安定しない。カジュアルに組むにはパーツが多すぎて大変だし、本格的な塗装制作をするにはパーツ精度の低さに難渋するので、なかなか扱いづらい。取っつきやすいように見えて、実際には中級者向けと言うべきだろう。
総評。「ラインアップが豊富で」+「日本国内でも比較的入手容易で」+「ボリュームのある」+「個性と独創性のあるオリジナルデザインの」+「ヒロイックな武装ガールプラモ」として、大きな存在感がある。
※リンク:twitterに書いた「錦衣衛(弓兵)」紹介(写真多数、2022/02/28)。
※リンク:twitterに載せた「アラクネ」「青龍」写真(2021/12/28)。
※当ブログの「フランケンシュタイン(エリザベス)」紹介(写真多数、2023/04/29)。
4) Nuke Matrix(核能矩阵、核能矩陣)
中国のメーカー(広東省汕頭市)。2020年(?)から、年1~2作のペースで定期的にリリースしている。これも童友社が販売代行している。海外通販で入手することもできるが、リスクがあるので個人的には勧めない。
キャラデザは、「kawaii+本格派サイバーメカ」のハイブリッド路線が刺激的。なかでもウサギ型のピンク髪ツインテール「Lirly Bell」は、まるで日本メーカーのような愛嬌のある萌えキャラで、全身のシルエットも大半の中国メーカーのスレンダー美人志向とは大きく異なる。それでいて、腹部はクリアパーツで内部のメカ機構が剥き出しになるというユニークな造形になっているし、脚部(スネ)は、膝の屈伸に合わせてシリンダーが連動可動したり装甲が追従スライドしたりするという、ロボットプラモそのもののギミックを取り入れている。その意味で、本格派のメカ系ガールプラモとしても、貴重なメーカーと言える。日本にも「バーチャロン」「レイキャシール」「モビルドールサラ」などのロボガールプラモがあるが、いずれも機械的な表現は乏しく、せいぜいMODEROID「エリアル」のメカ関節が目立つ程度にすぎない。
ガール素体とともに、大きめの武器や、サポートメカが同梱されている。それほど複雑な構成ではないが、なかなかのボリュームで迫力があるし、ガールとともにレイアウトすればSF的な情景の雰囲気も表現できる。
構造面。公式には1/12スケールとされているが、ヒール込みで15cmと、メガミデバイスやBANDAIキットに近いサイズ。プラは柔らかめで組みやすいが、パーツ精度は程々で、隙間が出ないように注意する必要がある。また、オールABS製で、アンダーゲートも多少使っている。関節部は、固すぎず柔らかすぎずで程良い感じ(※ただし、サポートメカのジョイントや嵌め込みはかなり固い)。メガミデバイス式の肩甲骨回転+オムツ腰部を取り入れているが、設計それ自体は完全に新規独自のもの。素肌の成形色は月並。
ラインアップ。いずれも近未来的な武装ガールの系譜と言える。第1作「雛蜂:B.E.E. 瑠璃」(2020?)は原作付きキャラクターのようだが、狐モティーフの「F.O.X:ヴィヴィアン:ハイハ」(2021?)と、兎型の「ラビット:リリーベル」(2021?)はオリジナルのデザインで、完成度も高い。四肢を差し替えて武装状態にすることができるが、あくまで差し替えに過ぎず、丸々2体作ることはできない(※余所からパーツ流用すれば、なんとか2体作れる)。その後は、4枚のメカ羽を大きく広げる「ハーピー:アメリア・ハートマン」(2022?)と、サメ型サポートロボと合体して人魚型になる大物キット「セイレン:タニア・カリュプディス」(2022?)を発売しており、さらにケンタウロス型とバイク型を組み替えられる新作「シャドー:ユフナ・マルキナ」(2023年)も予告されている。
総評。日本オタクにも受けの良さそうなキャラデザで、しかも近年では武装ギミックもかなり凝った大物キットを連発している。2023年時点で最も注目すべき、創作意欲と構造案出技術とオタク的感受性を併せ持ったメーカーだろう。
5) Mecha Pig:MS GENERAL(将魂姫)
Mecha Pig社は、広東省東莞市のメーカーのようだ。2021年(?)から、「将魂姫(MS General)」シリーズを精力的にリリースしている。2023年現在の海外ガールプラモでは、最も元気良く生産的なメーカーかもしれない。
キャラデザは、「趙雲」「夏侯惇」「楊戩」などの女体化キャラに、ZOIDSのような大物サポートメカを組み合わせたキットが多い。「オリジナルデザインの(原作無しの)」+「ボリュームのある」+「武装ガールプラモ」路線だと言ってよいだろう。Eastern Modelに近いアプローチだが、Eastern Modelが「モンスター(擬人化)キャラ+パーツ精度は低い」のに対して、将魂姫は「女体化キャラ+パーツ精度は高い」という傾向がある。
ガール部分のキャラデザは、日本人オタクの目にはオールドファッションに映るだろう。それなりに可愛らしくはあるが、(日本)オタク的な洗練には遠い。メカ部分も、ZOIDS的な格好良さはあるものの、全体としてはいささかオモチャっぽい。連動可動ギミックを仕込むあたり、どことなくロボットプラモのような気風も感じる。ともあれ、武装パーツは非常にボリュームがあり、プレイバリューも高い。
ラインアップは、「馬超」「関羽」「夏侯惇」「曹操」「楊戩」などの女体化(?)ガールを大型メカと組み合わせたシリーズが代表的だろう。いずれもかなりの大ボリューム。また、2022年(?)からは十二支のガールキャラシリーズ(ダブル素体?)も開始しており、そのほか三蔵法師などのSDキットもあるようだ。フェイスパーツの互換性は未確認(※互換性は無さそう?)。
構造面。スケールは公称1/10で、素体サイズは約16cmとやや大きめ。ボディの可動構造はシンプル。しかもパーツ干渉が厳しく、あまり動かせない。パーツ精度は高く、カチリ、ピタリと嵌まる。ただし、一部の接続は非常に硬いし、極細の回転軸など、危なっかしいジョイントもある。スライド金型を多用して、腕や脚を徹底的に一パーツ化しているのは好印象。
中国メーカーとしては珍しく、PS素材が多いし、キットによってはアンダーゲート不使用だったりする。関節部には頑丈なPOM素材も使っているし、「楊戩」では頭髪などに軟質素材を使っている。パーツ分割は細やかで、無塗装でもほぼ設定画を再現できる。ゴールドパーツはランナー塗装済みにしてあったりする。
総評。キャラデザもキット構造も古めかしいが、2023年時点で最も精力的に新作をリリースしているメーカーの一つであり、中には魅力のあるキットも現れている。
6) SUYATA(スヤタ)
香港のメーカー。20年代初頭にスケールモデルキットとともに「1/24 戦国の三四郎」シリーズや、磁器人形の「1/9 ツィドール」などをリリースしていたが、2021年(?)の「Arya(アーリア)」以降、6インチ(15cm)級ガールプラモを続けてリリースしている。
キャラデザ。ガール素体は、「大人びた雰囲気+小顔で頭身が高い+脚部が長くスレンダー」で、中国メーカーらしい美人キャラになっている。素体モードと武装状態に組み替えられるが、丸々2体分作るということは残念ながら出来ない。また、素体モードはかなり簡素なデザインなので、本領はあくまで武装モードにあると言うべきだろう。フェイスの表情は、「Arya」ではちょっと捉えどころのない感じだったが、「Angela(アンジェラ)」と「Artemis(アルテミス)」ではかなり可愛くなって、日本のオタクにも受けそうな感じになっている。塗装済みフェイスとともに無塗装フェイスパーツも+3個同梱されているので、他メーカーの両目デカールなどに張り替えることもできる。また、特に「Arya」の頭髪は非常に細やかに造形されており、ガールプラモとして大きな魅力になっている。
メカ部分は、「Arya」では大型バイクとメカ犬、「Artemis」(2022?)では大掛かりな背負いもの武装スタイル。メカ部分はかなりの大物だが、パーツ構成がきれいに整理されているので、実際には非常に作りやすい(例えば「Arya」のバイクも、シャシーは左右2パーツの貼り合わせだけで済む)。ディテールも要所を押さえて緻密感があり、かなり上手い。メカデザインとしても、「Artemis」はまるでα-アジールのようにファンネルを派手に撒き散らすレイアウトを表現できるし、全体の完成度も非常に高い。
ラインアップは、「狩人詩篇」シリーズが「アーリア」(2021?)、「アンジェラ(※ダブル素体らしい)」(2022?)、「アルテミス(+ファフニール)」(2022?)、「飛燕」(2023?)と続いており、さらに新作も予定されているとのこと。フェイスパーツは、シリーズ内で互換性があるようだ。
構造面。肩関節はシンプル、腰部はオムツ型。関節構造や外装の付け方に独自性がある(※例えば、肘が二重関節だったりする)。素体のジョイント部分にはポリキャップを適宜使用しており、関節部の固さ/緩さは安定しない。素材は明記されていないが、通販サイト等の記載によればABS製のようだ。中国メーカーの例に漏れず、無塗装での色分けはほぼ完璧で、しかも多重スライド金型を多用して細やかに造形している。アンダーゲート多数。
なお、一部は色違いの同一ランナーが2枚同梱されており、随意に選んで組み立てることができる(コンパチ)。価格面でも6000円前後で購入することができ、ボリュームとサービス度合いに比して、たいへんリーズナブル。
総評。SF路線の重武装ガールプラモメーカーで、完成時の大ボリュームは迫力があり、それでいてパーツ数は少ないので作りやすい。色違いランナーなどのサービス精神もありがたい。少し手を掛ければ大きく化けるキットなので、(塗装派の)モデラーには取り組み甲斐があるだろう。パーツ構成としても、日本のモデラーにとっては、ロボットプラモ分野の制作テクニックを応用しやすいキットになっていると思う。
※リンク:twitterに書いた「Arya(アーリア)」紹介(写真多数、2022/03/22)。
※リンク:twitterに書いた「Artemis(アルテミス)」紹介(写真多数、2022/10/09)。
7) dodowo
広東省所在のメーカーで、キャラクター小物などの立体物を手掛けているようだ。「灯塔上民:荷光者・梵蒂(Fandi / ファンディ)」(2023?)は、中国のアニメ『灵笼(霊篭)』のキャラクターを立体化したものらしい。
キャラデザ。素体は17cm弱と、ガールプラモとしては一回り大きい。そのぶんディテールもしっかりしていて、かなりの迫力がある。シンプルな素体キットで、付属品は銃器と通信機くらいだが、頭部のメカニカルな雰囲気と、衣装のレザー感、そして腰部のボディコンシャスなボリュームは、それぞれに見応えがある。このクオリティで実売7000円なら、十分買える。ヘルメットのサイバーな雰囲気と、深みのあるグリーン基調のデザインの取り合わせも面白い。プラによる布服着衣表現も素晴らしく、最近のBANDAIと並んで出色のクオリティだろう。
上記のとおり、原作のあるキャラクターだが、塗装済みパーツを多数同梱しており、無塗装で組み立てるだけでも設定どおりのキャラクターを再現できる。ベルトの金属部分まで一々塗装してあるという凝りようが凄い。また、同じランナーの色違いが何枚も入っており、予備パーツにしたり、パーツ交換してカラバリにしたりすることが出来る。
ユニークなギミックとして、頭部にLEDを仕込んで発光させることが出来る(※電池も同梱されている)。figma「ボンドルド」などと同じ手法だが、手の込んだギミックとしてガールプラモの中でも異彩を放っている。
構造面。関節構造はシンプル。中国メーカーの通例で、「プラ素材はABS」「アンダーゲートが多い」「塗装済みパーツが多い」「異素材を多用(LED発光機能、スカートの布素材、頭髪の軟質樹脂)」といった特徴が指摘できる。パーツ精度はやや低いと感じた。アンダーゲートの件も含め、合わせ目の隙間には要注意。とはいえ、小さすぎるパーツも無く、非常に作りやすい。塗装箇所は、胸部装甲にスミ入れするくらいか。
総評……を語るには、キットが1つしかないが、異素材から塗装済みパーツからLED発光まで、たいへん手の込んだキットだと言える。中国メーカーの例によって、可動範囲は小さめで、主眼はあくまで造形美を鑑賞することにあるが、原作ありきのキャラクターであれば十分に価値があるだろう。
※リンク:twitterに書いた「梵蒂(ファンディ)」紹介その1 / その2(写真多数、2023/02/15)。
【 むすびにかえて:2023年春の時点での展望 】
現代型ガールプラモの歴史はすでに15年を閲しており、とりわけ10年代後半以降は爆発的な拡大期を経験した。本稿で紹介してきたような、海外メーカーの大挙参入も、その一環である。ガールプラモという、日本発の新たなオタク趣味が、海外でも受容されて新たな創造の大波を作り出しているのは、喜ぶべきことだろう。
ただし、20年代に入ってからの直近数年間は、日本国内には大きな動きはあまり現れていないように思える。もちろんKOTOBUKIYAは新規シリーズをいくつも展開しているし、BANDAIも大規模なシリーズ展開に着手したが、それらが市場の拡大に結びついているかどうかはよく分からない。また、技術的-審美的な観点でも、新機軸が久しく現れていない。20年代の新規シリーズである「Guilty Princess」も、最初からヴァリエーションキット乱発と素体キット連発という後ろ向き路線に引き籠もってしまった。構造面でも、キャラクター趣向の面でも、マンネリの気配を感じないではない。
そうした状況下では、隣国の活発な生産性や挑戦的なキャラクター趣向の動向を見て、そこから学べることもあるかもしれない。例えばヴィランキャラや、メカ露出表現、ダブル素体、スレンダーの美意識、異素材使用、おもちゃ的な楽しみ、擬人化や女体化のイマジネーションの再興といったものを参考にして、そこから日本のメーカーや我々日本のオタクが様々なアイデアを汲み取ることができるのではなかろうか。オタクの国際的な協働と相互刺激に期待したい。
【 追記:2024年3月時点での展望 】
Mecha Pig(将魂姫)、Eastern Model(御模道)、Muke Matrixの三者は、その後も定期的に新作をリリースしている。2023年頃から(?)は、キットの大型化が進んだ。なかでも将魂姫の「七つの大罪」シリーズやNuke Matrixの人魚キャラが、巨大な武装パーツを同梱している。
その一方で、新規参入メーカーがいくつも現れている。本文では言及していなかったが、異次元重工が、日本の格ゲーキャラのプラモデルをいくつか発売している。PR-PRODUCTIONの「漣」は、日本でも童友社が取り次いで発売された。「Project 狩」としてシリーズ化するらしい。大火鳥製造(Big Firebird Build)の「Kelly Janet」は、約10cmのトランジスタグラマー体型で、大きな武装(お供メカ)と併せて非常な廉価でリリースされて話題になった。
キャラデザについては、相変わらず近未来的ボディコン武装ガールが主流だが、Eastern Modelは布服のチャイナドレスセットに続いて、中華衣装キャラ「白黒無常仙」を発売したし、Nuke Matrixも水着キャラを発売した。
中国におけるガールの可動立体物は、プラモデルとともに、完成品可動フィギュアがいくつかリリースされている。日本のfigmaシリーズと比べると、サイズは15-16cmと一回り大きく、価格も日本円で1万円以上の製品が多数存在し、クオリティ面でも価格相応に洗練された出来になっている。ただし、肘関節が作為的だったり、過度にスレンダー(脚部が長い)だったりと、好き嫌いが出る可能性はあるが、体験する価値のあるハイエンド製品だと言える。