2023/05/24

現代ガールプラモの歴史的展望(7):現代的パラダイムとその意義

 【 第8章:ガールプラモのパラダイムとその意義 】
 (※総目次と冒頭ページは、→こちらから)
 ※7章までは時系列に沿ってガールプラモの広がりを展望した。本章では、内容面での多様性を紹介していく。


 ここまで実例に沿って概観してきたように、現代型の「ガールプラモ(美少女プラモ)」は00年代後半に生まれ、アクションフィギュア(可動フィギュア)文化とも連動しつつ発展してきた。そして、この現代型ガールプラモのパラダイムとして、
 i) おおむね15~16cm(6インチ)級の、
 ii) 関節可動のある(つまり、固定ポーズのディスプレイモデルではなく)、
 iii) 女性をモデルにした、あるいは女性型ロボットの、
 iv) 可愛らしさやセクシャルな魅力を強調した(つまり、美少女路線の)、
 v) 組み立てプラモデル
という一連の特徴が挙げられる。もちろん、その枠組を逸れるキットも多数存在するが、この枠組に収まるキットが多数を占めて、現在のガールプラモの主流となっている。
 サイズがおおむね共通であることから、ユーザーサイドとしては、キット間でのミキシングやパーツ流用、さらには様々なキャラクターを配置(社外共演)して特定のシチュエーションを演出するといった遊びの可能性が広がっている。
 また、メーカーサイドとしては、同一地平上での競争相手が存在することになるが、他社の既存キットはボディ開発の指針になるし、「6インチ級ガールプラモ市場」が確立されていることで新規参入もしやすいというメリットがあるだろう。

 その一方で、主流派フォーマットを外れる意欲的なキットも多数存在する。まずは、上記5要件それぞれに照らして、ガールプラモの広がりをジャンル論的に概観してみたい。


 i) サイズについて

 一口に15~16cm(6インチ)級と言っても、実際には細かな違いがある。シリーズごとのおおまかな傾向として、以下のように分類することができるだろう。

 a) 6インチ(15.5~16cm程度)、すなわち1/10相当。FAG、創彩少女庭園、VFG、FIORE、GPがここにカテゴライズできるだろう。存在感のある大きさで、10年代後半のスタンダードの一つになっている。ただし、実際には1/10相当のサイズなので、1/12布服などには合わないことも多い。また、小顔キャラクターや、肉感的なプロポーション、ハイヒールやメカ脚などが混在しているので、実際の頭身や頭頂高はそれぞれ異なる。1/10と明示したキットもある(「創彩少女庭園」シリーズ、「将魂姫」シリーズ)。
 b) 6インチよりも小さめのもの(14~15cm程度)。1/11程度のスケール感。発売されているキットの数で見ると、むしろこちらの方が主流と言ってもよいだろう。一連のBANDAIキット(FRS 、HG Build Divers、ガールガンレディなど)を筆頭に、バーチャロン(HASEGAWA/VOLKS)、メガミデバイス、chitocerium、Dark Adventが該当する。初期のKOTOBUKIYA(レイキャシール、KOS-MOS)も14cm程度で、しかもかなりの小顔。「素材ちゃん」やムーバブルボディ、1/12ドールもこれらと同じくらいのサイズである。さらに「アトランジャー」や「未夢」や30MSシリーズはさらに小さく、13cm前後である(1/12相当で、figmaなどに近い)。ただし、上記6インチ級とミキシングしてもそれほど違和感は無い。例えば頭部のつけ替えもできる。
 c) 6インチよりも大きいもの(16cm~)。海外(中国)のガールプラモは、スレンダーなキャラクターが多く、16-17cmのサイズになる。他のガールプラモと並べると、頭一つぶん高くなることもある。縮尺としては、1/10~1/9程度のスケール感になる。日本国内メーカーでは、アルカナディアの「ルミティア」が公称170mmと大きめのサイズで設計されているようだが、同シリーズの「ヴェルルッタ」は標準的なサイズである。

 これら a)~c)までは、サイズの上では、ある程度の互換性があり、1/12スケールの銃器プラモ、カプセルトイ小物、ドール布服などもおおむね対応する。ただし、例えば、現代日本の女性の平均身長(157cm程度)を想定した場合、16cmだとスケールは約1/10になるし、14cmでも1/11程度になる。裏を返せば、仮に1/12スケールとして扱うと、16cmのキットは192cmというかなりの長身になってしまうし、15cmでも180cm相当の大柄に見えてしまう。厳密な1/12スケールに近いのは、figmaなどのフィギュアである。いささか不思議なことに、ガールプラモの公称スケールは、総じて当てにならない。

左からGuilty Princess、FIORE、1/12ドール、VFG、FAG。これらは16cm弱(≒1/10スケール)という比較的大きめのサイズを採用している。スケール感の違いはあまり気にならないが、1/12銃器を持たせると縮尺の違いがかなり目立つ。
左からDark Advent、30MS、ドール、FRS、MD。こちらは15cm程度で、おおむね1/11スケールに相当する。16cm級との違いは小さい。とりわけKOTOBUKIYAキットは、差し替え用の頸部パーツを提供して、頭部を自由に交換することを促しているほどである。ハイヒール等でサイズ感が変化することもあり、あまり厳密には捉えられていないようだ。
おおまかに言えば、左側3体は16cm級、右の2体は15cm級と分類することができるだろう。
左から「楊戩(ようぜん)」、「錦衣衛」、1/12ドール、FAG「白虎」、DODOWO「梵蒂(ファンディ)」。海外(中国)メーカーのキットは16cmを超えることが多い。1/12ドールと並べると、頭一つぶん以上高い。
中国のガールプラモは、脚部がスラリと長いのも、特徴的な美意識を表出している。ただし、Nuke Matrix(※中央の「リリーベル」)は、小さめの15cm級であり、キャラデザの点でも日本オタク寄りの愛嬌に満ちた表情を見せている。
15-16cmのガールは、1/12スケールに換算すると180-192cmに相当する。ただし、そのおかげで、1/12縮尺の大型バイクにも余裕を持って跨がれるというメリットもある。

 d) 16cmよりも明らかにワンサイズ大きいものもある。BANDAI初期のHG Build Fightersは18cm級で、規格もかなり古い。幻影「マリー」「フィーナ」も18cm級とのこと。Figure-rise LABOはさらに大きい(※固定ポーズで23cm前後)。サイズが大きいぶん、内部構造に余裕があるし、強度確保やディテール表現のポテンシャルも大きくなるのがメリットである。FR-LABO「アスカ」やエクスプラス「マリア」はおおむね1/8相当のサイズであり、プライズフィギュアに匹敵するボリュームになる。
 e) 12cm以下の小サイズキットもある。とりわけ「ホイホイさん」シリーズやBB戦士、プラフィア、ぷちゅあらいず、ぷちりっつなどのSDキット(あるいは元々SDプロポーションのキャラクター)は、当然ながら小さめの寸法になっている。ただし、ガールプラモは写実的というよりはオタク的にデフォルメされた造形なので、頭部差し替えしてもうまく納まる場合もある。実際、KOTOBUKIYAの「FAG シルフィー」や「Qpmini」シリーズは、6インチ級との互換性を前提にした設計のようである。
 f) ミニサイズのキットも存在する。具体的には、KOTOBUKIYAの「HEXAGEAR」「ハンドスケール」「ゾンビノイド」(いずれも1/24)や、海洋堂「ARTPLA」(1/24、1/35)などが挙げられる。「換装少女」などのカプセルトイキャラクターにも、6~10cm程度のものは多い。個別のキットでは、「Ho229 Type-B & 2B」のガール部分は7.5cmとのこと(1/20相当?)。スケールモデルの情景模型用1/35キャラクターキットも、ここに含めてよいだろう。一部のロボットプラモデル(ガンプラ)には、1/20スケールの搭乗者も同梱されている場合がある。

左端からMD「ロードランナー」、minimum factory「春ニパ子」(1/20)、DESKTOP ARMY「長靴小隊・マナ」、そして「換装少女」の2体。小型プラモデル、半完成品キャラクター、カプセルトイなどにも独自の歴史的蓄積がある。


 ii) 可動構造を備えていること

 各部関節を動かせるのは――今では当然視されているが――現代ガールプラモの顕著な特徴である。前世紀の女性プラモデルは固定ポーズが多く、組み立ててただ展示するだけのキットだったようだが、それに対して現代のガールプラモは、ドールのように自由に四肢を動かして自由なポーズを取らせることができる。これにより、完成させたキットの見せ方、楽しみ方が大きく広がった。可動構造のメリットとして、さしあたり以下の4点が挙げられるだろう。
 a) ポージング。様々なポージングによって、キャラクターの魅力を引き出すことができる。ガールプラモはオタク向けの「美少女プラモ」としての側面を有するが、ユーザー各自が自分好みの可愛らしさを追求していくうえで、関節可動によるポージングの自由度は決定的に重大な意味を持つ。
 b) 情景表現。20年代の萌え文化は、キャラクター単体の視覚的-表層的な「萌え」だけではなく、キャラクター間関係や生育背景といった社会性へのイマジネーションによって高度に文脈化されている。このことはガールプラモ分野にも当てはまる。例えば、複数のガールプラモを組み合わせて、様々な情景を作り出し、それを撮影してキャプションを付けてSNSにアップロードするといった活動が、ごく一般的な楽しみ方としてガールプラモ趣味者の中に見出される。そうしたシチュエーション表現のためにも、全身可動機構は必須的に求められる。キャラクターの「生きた」姿を作り出すうえで、可動要素はきわめて重要な要素だと言うべきだろう。
 c) パーツ汎用性。関節可動を前提としているため、四肢などのパーツは特定のポージングに縛られることなく、汎用的なパーツになる。つまり、メーカー側としても、3Dモデルデータや金型を使い回しすることができて、コストダウンを図ることができるし、技術的フィードバック(応用や改良)をすることもできる。また、ユーザー側としても、破損してしまったパーツを他のキットから流用したり、後述のようにミキシングしたりすることができる。それに対して、固定ポーズのキットの場合は、特定のポーズ、特定の形状のみの表現物になり、流用が利かなくなる。
 d) 加工改修。さらに、ガール「プラモデル」であるということから、モデラー各自がキットをアレンジすることも、ガールプラモ文化の重要な一部である。例えばミキシング加工をするうえでも、柔軟な関節可動は大きな助けになる――固定ポーズのキットでは改修に限界がある――し、1/12布服を着せるにも可動や分解の余地がなければならない。さらに、ガールプラモの多くは武装したバトルキャラでもあり、その観点でも、武装のコア部分としてのガールが可動性能を持つことは重要である。すなわち、様々な武器を格好良く構えさせたり、各種装甲を(パーツ干渉しないように)身につけたりするうえで、四肢の柔軟な可動は必要になる。
 このように、可動性確保は、現代のガールプラモ分野の文化的価値(趣味の楽しみ方)との間に、きわめて強固な結びつきがある。もしも「フェイ・イェン」や「スティレット」が固定ポーズであったとしたら、ガールプラモ市場は現在のような賑わいを持つことは無かったかもしれない(※ちなみに、FAGの初期キットには、シチュエーション再現用の「武装を脱いだ左脚パーツ」が同梱されていた。しかし、膝や足首の可動のない固定ポーズのパーツはユーザーから不評だったのか、改修版キット「轟雷ver.2」「スティレットXF-3」では削除された)。

 可動ガールプラモは、少なくとも両肩と股関節、肘と膝、そして首を動かせるのが一般的である。足首については、柔軟に動かせるものもあるが、ごく簡素なボールジョイント差し込みだけで済ませているものもある。さらに、爪先やロングヘアを分割して可動機構を入れたキットもある。
 胸部と腹部の間に可動を仕込むと、シルエットの美しさが損なわれるが、胴体を捻ることによってポージングの幅が大きく広がる。フィギュア(figmaなど)では胴体可動を設けていないものも多いが、6インチ級ガールプラモでは胸部-腹部を分割して可動させるものが多い(※ただし、「フェイ・イェン」や「創彩少女庭園」のような胴体非可動キットもある)。
 さらに、腹部と腰部の間にも可動を設けているキットが、一部に存在する。例えばBANDAIの「ダイバーアヤメ」は、まるでロボットプラモのように腹部パーツと腰部パーツが独立可動するし、30MSシリーズもパンツ部分が独立の可動モジュールになっている(※メガミデバイスシリーズは、オムツを外装として浮かせてあるだけであって、股関節の構造そのものを担っているわけではない)。
 スカートは、下半身の動作範囲を大きく制約する。ガールプラモの多くがバトルスーツ路線だったり、ミニスカート(例:「FIOREプリムラ」)だったりするのは、この点を考慮したためもあるだろう。珍しい例として、BANDAI「人造人間18号」では、ロボットプラモのようにスカートを分割しつつ、スカートそれ自体も軟質樹脂素材にして可動範囲を確保している。また、海外キットの「錦衣衛」や「荷光者・梵蒂(ファンディ)」は、布素材のスカートパーツを同梱している。さらに創彩少女庭園は、着座ポーズ用のスカート&下半身パーツを別途同梱することにより、美観と可動を両立させている。

 キャラクター単体の美観と、武装等の拡張性キャパシティとの関係について。キャラクターのシルエットの美しさを追求すると、拡張性が乏しくなりやすい。しかし、装甲などを盛り付けるための接続ポイントを組み込むと、作為的なパーツが増えてキャラクターの美観が崩れやすい。こういったジレンマがしばしば生じるが、双方を両立させるには、様々なアプローチがある。
 1) 武装手足との差し替え。あるいは、丸々2体を作れるダブル素体キット。
 2) 背負いものなど、できるだけ目立たないところで接続する。
 3) 接続ピンなどをデザイン的に取り込む。
例えばKOTOBUKIYAは、MD「朱羅」などでは1)のアプローチも採用しており、さらにMD「兼志谷シタラ」などでは2)背面に接続用アームを組み付けられるようにしているが、基本的には3)の手法を多用している(例えばFAG「アーキテクト」「グライフェン」)。ただし、近年のキットでは接続穴の数が過剰になっており、いささか懸念を覚える。VOLKSの場合は、メカ路線のVLOCKer'sが先行しており、そのためガールプラモ「FIORE」シリーズでも作為的な「×」型の接続穴を採用してしまっている。ガールプラモとしては最も美しいプロポーションなのに、上腕や脛に「×」穴が開きまくっているのは、あまりにもったいない。BANDAIの「30MS」は、上腕や太腿で拡張用リングに差し替えて、そこからパーツを盛り付けていけるようにしている。また、脚部(脛など)にも接続ポイントがあるが、蓋パーツで塞いでおくことができる。美観と拡張性を両立させるうえで、非常にスマートな対処法だと言える。

BANDAIは、様々な可動構造を意欲的に試みている。左「ミオリネ」は、着衣の肩構造に新規性がある。中央「人造人間18号」は、上着の肩部分が独立可動するし、スカートは前後分割の軟質素材で脚部の可動を確保している。右はMD「兼志谷シタラ」。肩が基部から回転し、腕を前へ大きく引き出せる。
BANDAI「ダイバーアヤメ」の頃は、肘を二重関節にしていた。曲げられる範囲は広いが、シルエットの破綻が大きい。GGL「レディコマンダーアリス」は、肘がボールジョイントを含む二重関節である。可動は柔軟だが、保持力がきわめて低い。30MSでは一軸ジョイントになったが、えぐれを大きく取って可動範囲を広げている。
左は「創彩少女庭園:小鳥遊暦」。椅子に座らせることができるように、着座ポーズ用のスカート&下半身パーツも同梱されている。中央「VFG:カイロス」は、胸部と腹部の間にワンパーツ挟んであり、上体を反らせても隙間が露出しない。HASEGAWA「フェイ・イェン」は、バストサイズの異なる差分パーツを複数同梱している。
中央はMOMOLING「豊臣秀羽」。ロングスカート(型の装甲)は、きわめて珍しい。このキットはスカートを大きく開いて可動範囲をキープしているが、「ヴェルルッタ」はスカートの裾を分割して可動式にしている。あるいは布服であれば、脚部を自由に動かせる。

 可動キットが優勢ではあるが、固定ポーズ(スタチューモデル)のガールプラモも一定数存在するし、固定ポーズキット独自の魅力もある。
 例えば、BANDAIの「Figure-rise Bust」シリーズは、固定ポーズの胸像モデルだが、固定ポーズ路線を選択したがゆえに、関節部はジョイントが剥き出しになることも無く、きれいな素肌の曲線美を実現しているし、頭髪の造形も固定ポーズならではの大胆な表情づけがなされている。
 さらに、大サイズの「Figure-rise LABO」は、フィギュアメーカーALTER社と協力して造形およびポージングを磨き上げ、フィギュアに比肩するほどの洗練された固定ポーズプラモデルとして結実させた。
 折衷的な対処として、水着姿の「フレズヴェルク=アーテル サマーバケーション Ver.」では、腕を振り上げた状態の肩パーツ(※通常の可動関節と差し替えできる)を同梱することにより、可動と美観の両立を図っている。
 とりわけ近年では、半-完成品フィギュアの「アッセンブル・ヒロインズ」(東京フィギュア)、エクスプラス「メトロポリス:マリア」や、PLAMAX「血の魔人 パワー」のように、固定ポーズのガールキットも多数発売されている。約1/8スケールのプラキットは、完成品フィギュアと遜色ないボリュームでありながら、比較的安価に入手でき、モデラーの塗装工作技術によってメイクアップしたり改修したりできる余地があるという意味で、独自のアドヴァンテージがある。


 iii) 女性(型)であること

 「ガール」プラモ、あるいは「美少女」プラモという呼称のとおり、女性キャラクターや、あるいは女性的な何かをイメージさせるようなデザインを持つことが、この分野の重要な識別要素の一つであると言わねばなるまい。すなわち、ただのロボットでもなく、「ハン・ソロ」「バーナビー・ブルックス Jr.」のような男性キャラクターでもなく、既存の女性キャラクターや女性的なアンドロイドである。具体的には、ゲームやアニメの女性キャラクターをプラモデル化していたり(例:初音ミク、ダイバーアヤメ)、あるいはロボットの擬人化/女体化/美少女化を明確に謳っていたり(フレームアームズ・ガール)、ロングヘアやツインテールとスカート姿だったりする(ノーベルガンダム、フェイ・イェン)。生物的な肌パーツが存在しないロボットプラモデルや、設定上アンドロイドであるキャラクターでも、バストの盛り上がりやリボンなどの女性的な記号に基づいて「女性」的なデザインだと見做せる場合がある。
 ただし、モデラー各自が組み立てていくプラモデルキットであるから、ユーザー各自の判断で、あるいは工作の仕方によって、ジェンダー識別はいかようにも変更できるだろう。例えば、Dark Advent「ラーニア」(DX版=18禁版)には、男性局部パーツが同梱されており、それをボディに装着することができる。また、可動フィギュア分野の「ポリニアン」は、様々なカスタマイズパーツが同梱されているが、そこには「少年型の腰部パーツ」と「少女型の腰部パーツ」の両方が含まれ、ユーザーはそれを自由に選択し、あるいはその都度交換することができる。今後、「男の娘」キャラクターが立体化されていく可能性もあり、男女の区別は必ずしも絶対的なものではない。

中央はGSC「MODEROID:緑谷出久」。男性キャラクターのプラモデルは、ほとんどBANDAIの独擅場であるが、このように他社からもいくつか発売されている。

 ジェンダー決定困難の問題と一部関連して、もう一つ問題になり得るのが、「純然たるロボットやアンドロイド」、つまり、人間(生物)ではないキャラクターをガールプラモに含めてよいかという問だ。これについては、第1章の補論で言及したとおり、ガールロボットも積極的に視野に入れて捉える方が良いと考えている。
 そもそも、現代型ガールプラモは、「メカ少女」文化との間に密接なつながりを持ってきた。最初期の「フェイ・イェン」は純然たるロボットだし、「ホイホイさん」キットも殺虫ロボットの原寸のままという設定である。また、FAGシリーズを開始する以前のKOTOBUKIYAの助走時代も、上記「ホイホイさん」から、「レイキャシール」「KOS-MOS」「Z.O.E. ドロレス」など、ロボット設定のキャラクターをひたすらリリースしていた(※生物としてのガールキャラクターは、「イカ娘」「小岩井よつば」「ワルキューレ」など、SDプラモデルで試みていたにすぎない)。そしてFAGシリーズもロボットの擬人化(女体化)であるし、メガミデバイスもバトルゲーム用の1/1ロボットという設定である。
 近年では、オタク界隈全般に擬人化/女体化のブームは沈静化しているが、「モビルドール メイ」(2020)や「メトロポリス:マリア」(2022)、「フレームアーティスト 初音ミク」(2022)、そして海外ガールプラモのサイバーボディ路線など、メカ少女路線それ自体は継続的に展開されている。
 結局のところ、メカ少女ジャンルは、ガールプラモ発展史の重要な柱の一つであり続けていると見るべきであり、「女性的なデザインのロボット/アンドロイド」キットも、ガールプラモの一部として考慮していく方が、より公平な視点と言えるだろう。

ガールプラモ史の初期から「メカ少女」「ロボット擬人化」「アンドロイドキャラクター」が分野的趣向の中心部分にあり続けてきたことは、看過されてはならない。


 iv) 可愛らしさについて

 ガールプラモの「可愛らしさ」それ自体は測定困難であるが、先述のように、ユーザー文化の次元で見て、「ガール立体物を、親しみの持てる架空キャラクターとして鑑賞したり、武器や衣服や小物で着飾らせたりして楽しむ」という傾向が強いことは確かだろう。雑駁に言えば、オタク文化(キャラ萌え文化)の一翼を担っているということだ。本稿ではニュートラルに「ガール」プラモと呼称しているが、彼等が共有する文化的価値と趣味実践の実態に照らして言えば、「美少女」プラモと呼ぶことにも一定の妥当性があるだろう。
 ただし、オタク文化は、セクシュアルな要素も多分に含んでいる。すなわち、可憐なキャラクターを愛でる「萌え」とともに、官能的な表象を享受するエロティシズムの側面も持っている。ガールプラモにもそれは見出され、例えばバストはかなり大きめに造形されるし、ボディスーツでも胸元や太腿は素肌露出する。なかでもFAG「マガツキ」系列が、下着を褌のように細く引き締めてヒップをほぼ丸出しにしているのは、その典型だろう。さらには、バストパーツの変化差分を同梱するキットすら存在する(HASEGAWA「フェイ・イェン」、FAG「白虎」、FAG「フレズヴェルク・サマーバケーション」など)。とりわけDark Adventは、「ノーマル版」と「DX版(18禁版)」の両方を発売し、後者には「乳首まで塗装造形された胸部パーツ」や「膨れ上がった男性局部パーツ」などが同梱されている。ユーザーサイドでも、ガールプラモに性的なポーズを取らせたり、裸体化改修(魔改造)をしたりといった行動が一部に見られる。
 もちろん、キットごとに濃淡はあり、例えばchitoceriumシリーズはリビドー的側面を表に出さず、幻想的な雰囲気を大事にしている。その一方で、近時のFAGシリーズは腹部の肉付きの良さをこれでもかとばかりに強調している。

 ガールプラモのキャラクターデザインは、ボディコンシャスな薄手のバトルスーツであることが多い。これにはいくつかの理由があると考えられる。すなわち、「1:可動確保」、「2:拡張性確保」、「3:金型成形上の都合」、「4:汎用性」、そして「5:官能性の表現」である。
 1) 可動確保。例えばロングスカートは、脚部の可動範囲を著しく制限する。それゆえ、ボディスーツや水着やミニスカートにすることは、ポージングの自由度を確保することになる。ロングヘアなども同様の問題が生じるため、ツインテールやポニーテールにしてその基部に可動軸を設ける方が動かしやすい。
 2) 拡張性確保。着衣デザインにしたり、着脱できない装飾的パーツを取り入れてしまうと、ユーザーによる自由な組み替え遊びを阻害する。この観点からも、素体そのものは凹凸の少ないシンプルなデザインである方が好都合であろう。KOTOBUKIYAやVOLKSは、様々な武装パーツとのミキシングを積極的に推奨している。ただし、BANDAIのように既存キャラクターの立体化のみを目指す場合や、海外キットのように単体での美術的完成度を重視する場合は、この限りではない。
 3) 金型成形上の都合もあるかもしれない。すなわち、複雑な造形ではなく、シンプルなボディスーツ風デザインの方が、金型成形の手間や射出成形の歩留まりにとって好ましいと考えられる。
 4) パーツの汎用性。多くのキットが、四肢パーツを使い回したり、あるいはヴァリエーションキットを出したりしている。その際に、あまりに特徴の強い造形だと、使い回しがしづらくなる。例えばKOTOBUKIYAのFAGシリーズやMDシリーズは、四肢や関節構造などの基本ランナーをいくつものキットで再利用している。そのためにも、素体パーツそのものは、装飾の少ない簡素な造形であることが望ましいだろう。
 5) 官能性。ボディスーツや水着姿の素体は、ボディラインをくっきりと際立たせる。バストの形状も強調されるし、臍のへこみまで造形されているキットも多い。

KOTOBUKIYA「ジェネ」。風船のように膨らんだバストと、がっしりとした腰部、さらにぎりぎりまでのミニスカートが、このキャラクターをきわめて性的なものに見せている。
FAG「マテリア」と、MD「ラプター」。ボディスーツや全身タイツや水着のような服装が多いのは、可動確保や装甲盛り付けをしやすくするという合理性もあるが、一部のキットは過剰なまでに性的示唆が強い。
「合体:アトランジャーΩ」と「DA:アイシス」。ガールプラモには、ごく面積の小さな水着風の装束も多い。左記写真のキットも、表面積の9割方は素肌であり、四肢からバストから鼠径部から臀部までほとんどが露出してしまっている。
「Dark Advent:アイシス」は、左右のバストがそれぞれ独立して自由に動かせる可動機構を仕込んでいる。スタンダード版と18禁ヴァージョンを同時販売している事実に鑑みても、その意味するところは明白である。
FAGシリーズはとりわけ卑猥感の強いキットが多い。左右の「イノセンティア Blue ver.」は股間がほぼ剥き出しになっているし、右の「ドゥルガーI」は肉感的な腹部を強調するようなパーツ造形になっている。
FAG「白虎」。近未来的なスーツは非常に格好良いが、太腿やバストが不必要に露出しているし、後ろから見ると背中が丸々剥き出しにされている。ここまでする意味があったのかは、よく分からない。


 v) 組み立てプラモデルであること

 組み立てプラモデルという性質が、ガールプラモ文化にとってどのような意味を持っているかは、よく分からない。一般に、組み立てキットであることのメリットは、「プラパーツの集まりなので、モデラーの腕で加工改修しやすい」、「大量生産できるため、完成品フィギュアよりも安価である」。逆にデメリットは「組み立てに数時間~十数時間を要する」、「ユーザーの技術によっては破損や制作失敗する可能性がある」。

 a) 市場的な観点で言えば、プラモデルであることにそれほど大きな意味は無いと思われる。現在のガールプラモは5000~9000円になっており、高額なスケールフィギュア(2万円台後半~3万円台)よりは安価だが、プライズフィギュア(2000円前後)などと比べると明らかに高くつく。10年代半ばの一時期は、「figma」「超像可動」のような1/12級可動フィギュアよりも安かったが、価格差は再び縮まりつつある。その意味で、少なくとも2023年現在の目では、価格それ自体のアドヴァンテージは乏しいように思える。
 しかし、完成品フィギュアの分野では、12cm程度のかなり小さな可動フィギュア(アクションフィギュア)が主流である。それに対して、15-16cmサイズのの大きめのガールプラモが、フィギュアよりも低い価格で成立しているのは、一定の意義があるだろう。また、完成品フィギュアが量産困難なのに対して、射出成形プラモデルは大量生産が利き、それゆえ需要に応じて市場拡大しやすかったという事情もあるかもしれない(※実際、過去のキットも定期的に再生産されている)。また、細かくパーツ分割されているということは、ヴァリエーションキットも出しやすいということであり、実際、ガールプラモ分野でもカラバリキットやマイナーチェンジキットは非常に多い。そうしたカラバリ連発傾向には批判もあるが、「無塗装ユーザーでも様々なカラーリングのガールを入手できる」、つまり、「塗装技術や塗装環境の無いユーザーでも好みのガールに出会える可能性が高まる」というメリットはある。

 b) 制作の手間という観点も、考えられる。私見では、10年代までのガールプラモは、基本的には既存モデラーの間でのみ広まっていたように見受けられる。すなわち、「少なくともガンプラ程度までは馴染みがあり、プラモデルの知識も、制作経験も、ツールと工作技術もいくらかは持ち合わせている」という層である。そういった層にとっては、キットを一々組み立てることは、たいした負担にならないだろう。実際、オリジナルデザインで凝った塗装をした力作ガールプラモの写真は、SNSでも日々大量に投稿されている。
 また、ガールプラモは、本体だけならばそれほど手間は掛からない。武装パーツまで全て組み上げてデカールも貼付していくとなると大変だが、ひとまずガール素体を完成させるだけならば、3時間ほどで仕上げられるだろう。実のところ、制作のハードルはそれほど高くない。
 さらに、現代のガールプラモでは、両目が印刷済みになっているのが通例である。美少女キャラクターにとって両目の表情はきわめて重要だが、その部分があらかじめ塗装済みパーツとして提供されているのだ。しかも、フェイスパーツは3種類程度の異なる表情が同梱されており、ユーザーはフェイスパーツを嵌め替えるだけでキャラクターの表情を変えられる。現代のガールプラモは、huke駒都えーじといった一流イラストレーターをキャラデザに起用していることが多く、美術的-オタク的な意味でもフェイス印刷のクオリティは非常に高い。もしも両目印刷が行われておらず、「破れやすいデカールを貼り付けなければならない」、あるいは「レジンキットのように手書きで両目を描かなければならない」となっていたら、ガールプラモ分野はこれほど隆盛することは無かっただろう。両目の印刷は、もちろんフィギュア界では以前から利用されてきた技術だが、ガールプラモ分野で導入されたのは、管見の限りではKOTOBUKIYA「ヴァルシオーネ」(2009/02)が初である。

各社キットのフェイスパーツ。両目塗装済みであるおかげで、ガールキャラクターの繊細な表情を簡単に再現できる。両目を筆で描いたり、デカールを慎重に貼ったりする必要が無いことで、ガールプラモの間口を大きく広げている。パーツ形状はメーカーごとに異なるが、多少の加工で流用できる場合もある。

 c) パーツの合わせ目。組み立てプラモデルの大きな問題の一つは、パーツどうしの合わせ目が目立つことである。ロボットプラモであれば、「装甲の合わせ目そのものなのだ」として納得することもできるが、ガールプラモの素肌(人肌部分)に合わせ目が出てしまうことは、看過できない問題になる。さらに、合わせ目の処理に失敗すると、素肌パーツの合わせ目に隙間が出来てしまうという見苦しい状態になる場合がある。しかも現代ガールプラモでは、肘や膝にジョイントを仕込む都合上、どうしても腕や太腿や脛部分をパーツ分割する必要が出てくる。
 合わせ目への対処法は、基本的には「i) 接着剤で密着させる」か、「ii) 合わせ目の上に別のパーツを被せる」、「iii) 合わせ目を一種のディテール表現として扱う」、「iv) パーツを一体化して合わせ目が発生しないようにする」の4種類である。
 i) 現代の模型用接着剤は、非常に高性能なものが販売されており、合わせ目に流し込むと即座に周囲のプラを少量溶かして完全に溶着させることができる。プラどうしが完全に接着したところで、紙ヤスリなどで表面の僅かな段差や荒れを処理すれば、合わせ目はほとんど目立たなくなる。とはいえ、合わせ目が完全に消えるわけではないので、さらに上から素肌の色で塗装することで合わせ目の跡を隠蔽することもある。いずれにせよ、一定の技術と工具(+資金+塗装環境+作業時間)が要求され、その分だけハードルが上がる。
 ii) 合わせ目に当たる箇所に、上から装甲パーツなどを被せれば、合わせ目そのものが見えなくなる。巧緻なキャラデザと繊細な設計によって、合わせ目をほぼ見えなくするようなキットもある。装甲パーツを纏わせるのは、「武装ガール」「メカ少女」としても受け入れやすい。ただし、美少女プラモとしては、せっかくの素肌パーツを隠してしまうのはもったいないと考えられる向きもあるだろう。
 iii) ロボット模型のように、そもそも合わせ目が存在するのを自明視するというアプローチもある。「メカ少女」や「兵器擬人化ガール」の場合は、外装が複数のパーツの組み合わせで出来ているのは、むしろ当然のことと言えるだろう。ただし、このアプローチが通用しないキャラクターもいる(例えば制服ガール)ので、完全な解決にはなり得ない。
 iv) パーツ分割を回避して、合わせ目が発生しないようにするという設計もある。そもそもプラモデルの金型は、基本的には上下2枚を挟んだ金属板の間に、溶かしたプラを注入する(射出成形)というものであり、それゆえ、パーツ形状は上下2面で造形するしかない。しかし、金型を上下だけでなく横にも分離することで、側面にも凹凸表現を仕込むことができる。これを「スライド金型」というが、この技術をガールプラモのランナーに使用することで、「複数のパーツを組み合わせて空洞を作っていたところを、スライド金型であれば、あらかじめ穴の空いた単一パーツで作ることができる」ということになる。こうすれば、合わせ目の無いきれいな素肌パーツをユーザーが手にすることができる。元々は艦船模型の船体パーツや、カーモデルのボディパーツ(表面を覆うパーツ)で使われてきた技法だが、現代のガールプラモでも様々なところで活用されている。もっとも、その分だけコストが掛かるというデメリットもあるが(※設計の手間、生産スピード、歩留まりに負の影響があるだろう)。なお、ものによっては、柔軟に型抜きできる軟質素材を使うものもある(例えば、複雑な形状の頭髪パーツを、軟質素材でワンパーツ成形する)。

Mecha Pig「楊戩(ようぜん/ようせん)」。金型を上下だけでなく、側面からも差し込むことによって、太腿のワンパーツを中空に成形している。こうすれば、太腿部分にパーツ合わせ目が出ない。
同じく「楊戩」から。スキンヘッドの頭部に、軟質素材の頭髪パーツをウィッグのように被せるという、非常に珍しい構造である。頭髪パーツに合わせ目が出ないうえ、頭髪の交換やフェイス差し替えが容易になっているが、軟質素材ゆえ、加工がしにくいという問題も抱える。
FAG「イノセンティア Blue」の胴体パーツ。前後の接続ピン、左右両脇のディテール、上下のジョイント穴のために、都合6面の金型でパーツを抜いている。ランナー外周が凹んでいるのは、側面から金型を出し入れするため。
PIT-ROAD「1/700 ウォースパイト 1942年」より。スケールモデルでも、複数の面のディテールを掘り込むために、スライド金型が多用されている。各面を別個の平面パーツで成形して箱組みさせることもできるが、合わせ目の処理が難しくなる。
模型用ツールも長足の進歩を遂げている。高品質な液状塗料は、パーツ同士を合わせたところに流し込むと、毛細管現象で浸透しつつ、両側のプラを微量溶かして瞬時に強力接着する。溶かしたプラ同士によって接着しているので、完全に密着するし、色の変化も生じないし、はみ出して汚れることも無い。

 いずれにせよ、「それぞれ新規デザインの美少女キャラクターコンテンツであり」+「比較的安価に購入できて(※2010年代半ばまでは4000~5000円程度だったが、現在は6000~9000円になっている)」+「フィギュアよりも頑丈なプラ製で、動かしたりミキシングしたりして遊べる」というのが、ガールプラモの大きな武器であったことは間違いない。同時代の(可動)フィギュア分野といくらかオーバーラップしつつも、独自性のある新規市場として発展してきたのが、「組み立てプラモデルとしてのガール(美少女)キャラクター」である。

8ページ目に続く)