【 第6章:国内各社によるガールプラモ企画(10年代末) 】(つづき)
c) chitoceriumの幻想的なガールプラモ
Good Smile Company (GSC)は、「ねんどろいど」(2006/04-)を初めとする完成品フィギュアを手掛けているメーカーであり、2018年(5月)からはロボットプラモシリーズ「MODEROID」も開始している。完成品可動フィギュアとしては「actsta」シリーズ(約19cm、2009/11-)などの製品があり、また、他社の「リボルテック」シリーズ(2006/05-)や「figma」(2008/02-)の販売にも長らく携わっている。
ガールプラモ分野については、2019年5月に「chitocerium(チトセリウム)」シリーズを開始した。ネーミングはおそらく、「千歳(ちとせ)の元素」の意。GSCのようにプラモデルを主力商品としていなかったメーカーまでもが参入してくるようになったという意味で、2019年時点でガールプラモは市場的-産業的に十分確立されていたと言えるだろう。
ちなみに、あくまで個人的な体感による私見だが、2018年夏にKOTOBUKIYA「忍者/弓兵」の「影衣」版と「蒼衣」版が発売されたあたりで、ガールプラモはひとまず大きなピークを迎えていたと思う。そこまでが成長期であり、それ以降は市場的な伸張も鈍り、技術的な新機軸も乏しくなっていく。「chitocerium」の始動は、そうした安定期を画するマイルストーンだったように思える。さらに話を先取りして言えば、2020年から2022年に掛けては、世界的感染症の影響によるプラモデル需要増や、tenbaiの跳梁による市場的ダメージが発生するという混乱期にあった。2023年春時点では、少なくとも市場的には、安定を取り戻しつつあるように見受けられるが。
このシリーズの企画では、浅井真紀氏が原型制作を務めている。それゆえ、ガールプラモとしてのボディ構造も、彼が携わってきた「メガミデバイス」などのものを踏襲している。すなわち、両肩の回転軸や腰部のオムツ構造などが本シリーズにも導入されており、非常に柔軟な可動が確保されている。
このシリーズのコンセプチュアルな特徴としては、以下の3つの側面が挙げられるだろう。
1) 箱詰めギミック。各キットには一辺5cmの六角柱(高さも5cm)の黒箱が同梱されており、その内部に15cm級ガールの身体を屈めてきれいに収納することができる。腹部まで大きく折り曲げられるほどの可動ポテンシャルを強く印象づける、秀逸なギミックである。しかも、ガール素体とともに、「大きなスカート状の装甲」や、「大きくたなびく金属的な旗」、「ゴシックな椅子」といった副装品が同梱されており、それらも折り畳んで箱の中に収納しきることができる。一作ごとにパズルな設計技巧の妙趣が味わえる、最もメカニカルなガールプラモシリーズである(※ちなみに、完成品フィギュア/トイ分野では、「BEASTBOX」というシリーズがある。こちらは、ロボット生物を一辺5cmのキューブに変形させるというもので、職人的な細工技術と現代的な3Dモデリングが融合した刺激的な可動玩具である)。
2) 審美的な趣向。各キットは、シックな黒白モノクロのカラーリングを基調としており、また、切り絵のような優美な工芸品的装飾を伴っている。素肌の露出面積の少なさや、ドールのような球体関節も、その秘めやかな人工美の印象を強めている。さらに、上記の箱詰めギミックも、この可憐でロマンティックな雰囲気を強調する。塗装指示が一切無い(塗料の指示も無い)というのも、キットそのもののアルカイックな造形美を重視した姿勢の表れと考えられる。
3) 小柄ボディ。「albere &
efer」と「urania」は、非常に幼い体躯をしている。こういったタイプのガールプラモは非常に珍しく、これも本シリーズの大きな特徴になっている。他社キットでは、「ガラヤカ」「シルフィー」「フェーディ」も寸詰まりのボディである。
ラインアップに関しても意欲的で、第1作「platinum」(2019/05)は2cmもの超ハイヒールのスレンダーキャラで、第2~3作の「carbonia adamas」系統(2020/05、2020/12)はストイックな表情の武装キャラでありながらラッパやマーチングドラムも同梱しているという軍楽隊路線、 さらに「albere & efer」は2体セットで、幼児的プロポーションの小柄なボディ(約11cm、しかも2人同時に箱詰めできる)、そして「urania」はダウナーキャラといった具合である。各キットの名称は元素記号に由来しており、これも彼女等のミステリアスで高級感のあるイメージに一役買っている(※漫画『宝石の国』を連想するユーザーも多いだろう)。
また、同社は「act mode」シリーズ(2020/08-)も手掛けている。これは女性キャラクターの完成品可動フィギュアと武装部分の組み立てプラモデルをセットにしたハイブリッド商品であり、厳密な意味では「ガールプラモ」とは言いがたいが、ごく近い隣接分野として言及される価値はある。ガール部分は約14cmで、figmaよりはやや大きいが、一般的なガールプラモよりは小さい。
MODEROIDシリーズにも、ガールプラモがある。左は「エリアル」。一般的なガールプラモよりもやや大きめ。中央は「パワーローダー&リプリー」。「パワーローダー」の搭乗者は女性キャラクター。キットは1/12設定とのことだが、実際には一般的なガールプラモと同等のサイズなので、各社のガールをパワーローダーに乗せることもできる。
ACT MODE「ミオ」。ガール部分は、塗装済み完成品で、関節可動も十分。サイズはfigmaなどの1/12フィギュアよりも、やや大きめになっている。プラパーツ(組み立てキット)の重武装を背負わせるので、強度確保のためにサイズ調整したのだろうか。
左は「Dark Advent」の第3作「アイシス」。中央は同シリーズの第2作「ラーニア」。いずれも15cm程度のサイズで、一般的なガールプラモ(の小さめの規格)と同等である。Dark Advent「ラーニア」には、イカをモティーフにした重武装パーツが同梱されている。
ACT MODE「ミオ」。ガール部分は、塗装済み完成品で、関節可動も十分。サイズはfigmaなどの1/12フィギュアよりも、やや大きめになっている。プラパーツ(組み立てキット)の重武装を背負わせるので、強度確保のためにサイズ調整したのだろうか。
d) Dark Adventのセンシュアルな表現
「chitocerium」がガールプラモ分野の中にフェミニンで幻想的な一領域を作り出したのに対して、Alphamaxの「Dark Advent(ダーク・アドヴェント=闇の降臨)」はそれと対照的に、肉感的な造形でお色気路線を展開した。いや、お色気どころか、乳首や男性器までモロに造形するという明確な18禁商品――文字通り18禁の扱いで販売された――なのだが。
このメーカーも、元々は美少女フィギュアや可動ロボットフィギュアを中心としており、組み立てプラモデルはおそらくこの「Dark Advent」シリーズが初めてである。前記GSCと同様、このメーカーも、「もっぱら美少女フィギュア製造の技術的蓄積をベースにして、ガールプラモ分野に参入した」と見てよさそうだ。
ボディ構造については、これまた浅井氏が関与しており、特別な新機軸はあまり見当たらない。可動ガールプラモの拡散と浸透を示す一事例と言えるだろう。ボディは約15cmで、ガールプラモの中ではやや小さめのグループに属する。パーツ精度は、VOLKSよりはマシだが、それでも嵌め込みがきつすぎたり、あるいはジョイントがグラついたりする。
キャラデザは、ドラゴンやクラーケンといったファンタジー系モンスターをモティーフにしている。総じて素肌露出面積が大きく、さらにデラックス版(=18禁版)では追加フェイスパーツやセクシャルなスペシャルパーツも同梱されている。「ソフィア」(2019/08)に始まり、イカ型「ラーニア」(2020/12)、エジプシャンな「アイシス」(2022/09)が発売されており、そのほかアップデート版やマイナーチェンジ版もいくつか存在する。
e) その他のメーカー
上記のメーカーは、2023年現在までガールプラモを継続的にリリースしている。その他にも、10年代末以降、散発的にガールプラモが発売されてきた。
幻影によるG.F.P.「マリー」「フィーナ」(2018/12)。サイズは約18cmとのことで、現代の一般的なガールプラモよりも一回り大きいようだ(未購入)。ただし、サイズが大きいおかげで、可動構造は柔軟かつ堅固なものらしい。キャラデザは、例によって近未来的ボディコンスーツ路線。
池上金型工業「KADENN+NA」(1/12スケールで約14cm、2019/09)。人肌要素ゼロの純然たるメカガール。性別要素はほぼ皆無だが、イラストの曲線美などからフェミニンな記号を見て取ることは十分可能だろう。2023年現在まで、いくつものカラバリキットが定期的にリリースされている。
東京フィギュア社の「アッセンブル・ヒロインズ」シリーズ(2019/02-)。プラモデルというよりは、半-完成品の簡易組み立てフィギュアと言うべきだが、フィギュア/レジンキット/プラモデルの間を縫うような興味深い位置づけのキットと言える。すなわち、組み立てや塗装の一部工程をスキップしているおかげでスケールフィギュアやレジンキットよりもはるかに安価だし(約5000円)、それでいてフェイスパーツや頭髪などはしっかり塗装されているのでスケールフィギュアに肉薄するクオリティがある。また、ガールプラモと比べると、固定ポーズで簡略化された構造だが、はるかにビッグスケールで強烈な存在感がある。組み立てキットなので、加工もしやすい。
固定ポーズのプラモデルやレジンキットを、模型専門店や家電量販店に陳列するものも増えてきた。HASEGAWAの「たまごガールズ」シリーズは、「ガールのレジンキットを航空機やカーモデルとセットにして販売したり、あるいはガールのレジンキット/プラモデルを単体で販売したりしている(レジンキット同梱は2018年3月から。ガールの縮尺は1/20や1/12)。PLAMAXの「minimum factory」(1/20スケール、2015/09-)や、VOLKSの「塗るプラ:ねこ娘」なども、固定ポーズの女性型プラモデルである。さらにチョトプラモ「ニパ子」(2019/02-)のような、ごく簡素な組み立てプラモデルも現れている。
その他、カプセルトイやSDフィギュアにも、一部に組み立てプラモデルの要素のある製品が存在する。「DESKTOP ARMY」シリーズ(2016/07-)や、カプセルトイ「AQUA SHOOTERS!」シリーズ(2018/10-)が代表的だろう。
中央は池上金型工業「KADENN+NA」(ミントグリーン版)。公称1/12で、他のガールプラモと同等サイズである。人肌要素の無い家電ロボットであるが、公式イラストからも窺われるとおり、フェミニンな愛嬌が表出されている。関節構造もかなり意欲的であり、現代プラモシーンでも際立った個性がある。中央は「アッセンブル・ヒロインズ」シリーズの「黒澤ダイヤ」(約20cm)、右は同シリーズの「津島善子」(約19cm)。見てのとおり、スケールは統一されているわけではないようだ。一般的なプライズフィギュアと同等のサイズで、頭部などは塗装済みだが胴体部分などは未組み立てという、半-完成品キット。左端はPIT-ROADの艦船模型「1/700 しらぬい」に同梱されているフィギュア(約10cmで、1/16相当のスケール)。その右はHASEGAWA「1/24 ランチア ストラトス」同梱のレジンキットを塗装制作したもの。中央はminimum factoryの小型プラモデル「1/20 春ニパ子」(両目はデカールが同梱されている)。
1/12カプセルトイグッズやドールアイテムなど、関連商品は数多く存在するが、ガールプラモの素体として使える簡素な女性プラモデルとしてWAVE「ムーバブルボディ」シリーズ(PSボディとABS関節、2019/03-)と、HOBBY BASEの汎用ボディ「素材ちゃん」シリーズ(PVC製、2018/09-)が発売されている。
【 補論3: 周辺的な広がり。雑誌、模型展、マテリアル、フィギュア 】
10年代後半には、模型店でもガールプラモのコーナーが確立されていたし、模型雑誌やムックでもしばしばガールプラモの特集が組まれるようになっている。例えば、雑誌『月刊モデルグラフィックス』は2016年8月号にて、巻頭特集「プラスチックな女の子」を組んでガールプラモをフィーチャーし、表紙にもFAGマテリアの作例を掲載した。同誌は2017年10月号、2018年9月号でも美少女プラモデルを巻頭特集し、また2019年2月号、同12月号などでも美少女プラモ作例が表紙を飾っている。雑誌『月刊ホビージャパン』も、2016年11月号で巻頭特集「フレームアームズ・ガール feat. HJ」を設けた(表紙はFAGバーゼラルド。ただし、これ以前にも『セーラームーン』ガレージキットなどが表紙を飾ったことはある)。そして、同誌2019年7月号の巻頭特集ではプラモデルコンペ「第1回ガールズキャラクターミーティング」が開催され、表紙には最優秀賞作品(FAGバーゼラルドをベースにしたもの)が掲載された。ムック本シリーズ『ホビージャパンエクストラ』も、第3号(「2016
Winter」号)でFAGを特集しており、その後も第7号(2017年 Summer)、13号(2019年 Spring)、15号(2019年
Autumn)でもガールプラモを特集している。その他、個別のムック本などでガールプラモを特集したものはいくつも刊行されている(※最も早いのは、2017年2月の『フレームアームズ・ガール モデリングコレクション』だろうか)。
ユーザー(モデラー)サイドでも、ガールプラモに関係したイベント等が開催されている。管見の限りでは、ガールプラモを掲げた模型イベントはKOTOBUKIYA主催の「第1回 FA・FAガール ユーザーエキシビジョンin日本橋」(2016年6月)ではないかと思われる。モデラー有志による展示会としては、2017年1月の「関西フレームアームズ・ガールオフ」が最初のようだ。10年代後半以降は、一般的な模型展示会でも、ガールプラモ作品での参加が多数見出されるようになっている。
模型関係のマテリアルとしては、ガールの両目の表情をアレンジ(カスタマイズ)できる汎用アイデカールも、様々なものが販売されている(※ハイキューパーツの「カスタムアイデカール 1/12 1-A」は2015年1月発売)。おそらく当初は1/12ドールやフィギュアを念頭に置いた製品であったかと思われるが、同スケールのガールプラモにも使用できる。また、ガイアノーツは「フレームアームズ・ガール カラー」(2017/02-)を発売した。FAG対応の専用塗料であり、肌色や装甲色などが発売されている。その後、「創彩少女庭園」用の塗料なども発売された。
ガールプラモは、原作の無いオリジナルキャラクターが多いが、ガールプラモ発のメディアミックス展開も様々に試みられている。とりわけFAGは、2017年4月からTVアニメ版『フレームアームズ・ガール』として放映された(全12話、後に劇場版も[2019/06])。漫画版が制作されることもある(公式サイトで無料公開される四コマなど)。既存のプラモデルシリーズとガールを組み合わせるコラボ企画もあり、KOTOBUKIYAは「フレームアームズ」(のガール化[2015/05-])や、「HEXAGEAR」(同スケールのFAGキット「ハンドスケール」シリーズ[2019/09-])との連動企画を展開している。とりわけKOTOBUKIYAは、ガールプラモ発のキャラクターを高品質な固定ポーズフィギュアとしてもリリースしている(2018年2月の「轟雷 SESSION GO!!」、2020年7月の「フレズヴェルク デート DE SESSION!!」、2023年1月の「2/1 朱羅 忍者」など)。フィギュア部門を持つメーカーならではの強みだろう。
完成品可動フィギュアの分野でも、「S.H.figuarts」「figma」などの既存のアクションフィギュアシリーズが依然健在であり、また、BANDAI「ROBOT魂」(約13cm)、スクウェア・エニックス「BRING ARTS」(約13cm)、海洋堂「アッセンブルボーグ」(約15cm)、千値練「4インチネル」(約10cm)、東京フィギュア「MINICRAFT」(SDで約12cm)、タカラトミー「トランスフォーマー」などのシリーズにも、女性フィギュアや女性型ロボットが現れている。プルクラ「時崎狂三」「夜刀神十香」のような1/12可動フィギュアもあり、2nd axe「HENTAI ACTION」(約18cm)のような18禁可動フィギュアも存在する。海外メーカーでは、Storm Collectiblesの可動フィギュアやメディコム・トイ「マフェックス(MAFEX)」シリーズ(16cm程度?)、APEX「ARCTECH」シリーズ(1/8スケール)にも、女性キャラクターがラインアップされている。
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