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これまで見てきたように、00年代後半以降のガールプラモは、メーカー側の意欲的な挑戦とユーザー側の市場的隆盛の下で、6インチ級可動ガールプラモを中心とする独自の分野を確立させてきた。最後にあらためて、ガールプラモのキャラクターデザインの広がりをおおまかに概観しておく。
1) キャラデザの広がり
1a) 武装ガール
1b) メカ少女
1c) 擬人化(女体化)
1d) 既存キャラクターの立体化
1e) 被服表現
2) 素体の形状
3) サイズ
4) 可動の有無
5) 隣接領域
1a) 武装ガール
現代ガールプラモの主流路線は、昔も今も武装キャラクターだと言ってよいだろう。中でもKOTOBUKIYAがこの路線に注力している。FAGシリーズはロボットの擬人化(女体化)がコンセプトで、ガール版でも銃器や刀剣や装甲類が同梱されているし、MDシリーズも1/1サイズの小型ロボットバトルゲームという設定で、忍者刀や巨大なランス(槍)やヘルメットなど、様々な装備品を身につけている。他社のキットを見ても、明確なバトル設定を伴わないまま、短刀や近未来的な銃器など、なんらかのちょっとした武器類を持っていることが非常に多い。デザインは、動力不明のSF的架空兵器や、独自デザインの刀槍などが支配的である。
こうした武装路線が多い――換言すれば人気を博している――のは、いくつかの理由が考えられる。第一は「メカ少女文化やミリタリー趣味や擬人化文化からの影響」であり、第二に「男性ユーザーが多く、日常的な道具類よりも武器類のほうが好まれている」という事情であり、第三は「可動プラモデルとして格好良く構えさせるのに好都合である」という観点であり、第四は「食器などの小道具はカプセルトイなどで大量に提供されているので、キットに同梱する需要が小さい」というものである。
それに対して、ジョウロや楽器やフライパンやフォークや儀仗といった小物を同梱しているキットもあるが、かなりの少数派と言わざるを得ない。日常路線の代表格としては「創彩少女庭園」シリーズがあり、オプションキットとしてテーブルセットやカバンセットなどを販売している。
1b) メカ少女
これについては、第1章の補論で述べた。生体素肌を持たない純然たるロボットガールや、設定上アンドロイドであるキャラクターも多いし、歴史的にもメカ少女趣味のコンテクストとの間に深い関わりがあることは意識しておくべきだろう。
ガールプラモの大半は、関節可動キットでもある。なまじスカート姿の造形よりも、ジョイント剥き出しのメカキャラクターに開き直ってしまう方が、かえって人間らしい可動性と滑らかなシルエット維持を追求できるという、逆説的な状況が生まれる場合もある。
1c) 擬人化(女体化)
そもそも、キャラクター設定のあり方としては、
1-a) ゲームなどの既存キャラクター
1-b) 既存キャラクターのアレンジ
2-a) 完全新規のオリジナルキャラクターで、ストーリーや設定の無いもの
2-b) 独自コンテンツ(自社コンテンツ)だが、背景設定やメディアミックス展開を伴う
の4種類に分類できる。1-a)は、BANDAIの『ガンダム』キャラクターや『ガールガンレディ』シリーズなど。1-b)の例としては、『マクロス』をアレンジしたVFGシリーズ。2-a)に当たるのは、VOLKSの「FIORE」シリーズがある。「30MS」ではごく簡単なキャラクター設定があり、「メガミデバイス」や「アルカナディア」にも一応の世界設定がある。2-a)と2-b)の境界線は明確ではないが、FAGはアニメ化されて各キャラクターに特有の個性が付与されたし、「創彩少女庭園」「新・合体」シリーズもショートコミックや四コマ漫画連載などのメディアミックス展開で、世界設定やキャラクター造形が掘り下げられている。
ロボット擬人化や、歴史上の人物の女体化は、1-b)に分類してよいだろう。とりわけ海外メーカーのガールプラモは、「青龍」「朱雀」などをモティーフにしたガールプラモや、「趙雲」「夏侯惇」のような実在人物を女体化したキットを多数発売している。しかし、日本メーカーの中では、明確に擬人化(女体化)と言えるシリーズは少ない。大きなシリーズとしては、「フレームアームズ・ガール」(※同一規格の「ガオガイガー」「ルーデンス」なども含む)と、BANDAIの「BB戦士」の2つのみである。ただし、個別的には、昆虫の擬人化「ごきチャ!!」「ちゃば」があったり、「すーぱーふみな」「きゃらっがい」「「ハローキティ/ザクII」」のような実例もある。プラモデルを離れると、イラストやフィギュア分野には、ロボットの擬人化/女体化は前世紀からの長い伝統がある(とりわけ「MS少女」)。
KOTOBUKIYA「ルーデンス」。漫画やアニメに登場するキャラクターですらなく、ゲーム企業のマスコットキャラを女体化(美少女化)したキットである。このような製品までもが販売されるようになっているのは、ガールプラモの懐の広さと、市場的成熟を示すものだろう。
1d) 既存キャラクターの立体化
これについては、BANDAIの存在感がきわめて大きく、新作ゲームやアニメのキャラクターを精力的にガールプラモ化している。また、HASEGAWAは『バーチャロン』シリーズをプラモデル化していく過程で「フェイ・イェン」「ガラヤカ」をプラモデル化したし、KOTOBUKIYAは2010年前後から『ファンタシースターオンライン』や『ホイホイさん』などを発売している。PLUMの「プラフィア」シリーズも、様々な既存キャラクターをSD体型プラモデルにしていた。近年では、MODEROIDが「ストレリチア」や「エリアル」を発売し、PLAMAXも固定ポーズモデルで参入している。
1e) 被服表現
メカ少女やバトルスーツだけでなく、日常的な布服を着た状態のキャラクターをプラモデル化することもできる。ただし、着衣表現は「服装の再現(例えば皺表現)が難しい」、「スカートなどが可動の妨げになったり、あるいは可動させると造形破綻したりする危険がある」という問題がある。ドール用の布服――すなわち文字通り「布」製の衣服――を着せることによって柔軟な可動域を確保することもできるが、同時に布服の厚みによって不可避的に着膨れしてしまうという問題も生じる。可動性を諦めて、固定ポーズのスタチューモデルにするという対処もある。着衣ガールプラモデルは、こういった難しさを抱えるジャンルである。
着衣表現に関しては、BANDAIが抜きん出ている。「人造人間18号」(カジュアルな私服姿)、「ダイバーアヤメ」(忍者装束)、FRS「スレッタ」「ミオリネ」(SF寄りの制服)、さらには固定ポーズの胸像モデルシリーズ「Figure-rise Bust」、全身モデルのハイエンドキット「Figure-rise LABO」シリーズなどを継続的に展開してきた。KOTOBUKIYAは、SD体型の「ホイホイさん」「ジェネ」などの局所的な試みがあったが、本格的に被服表現に着手したのは2021年の「創彩少女庭園」(学生服シリーズ)になってからである。また、「Guilty Princess」シリーズにも、メイド服系統が存在し、発売予定のAnnulus「宝田六花」「新条アカネ」も学生服でデザインされている。 海外のガールプラモにも、布製素材を用いたチャイナ服キットがある(「錦衣衛」「梵蒂」)。20年代に入ってから、布服デザインのキットが増えてきたと言えるかもしれない。
2) 素体の形状
いわゆる「美少女」プラモ、つまり愛嬌のある若年女性(十代後半程度)のキャラクターがほとんどである。ただし、メガミデバイスや30MSには、思春期前のような幼いプロポーションのキャラクターもいる。KOTOBUKIYAの「シルフィー」「ジ・バニャン コザクラツグミ」や、GSCの「chitocerium:albere & efer」、橘猫工業の「フェーディ」なども、低頭身の小柄なボディである。
高年齢のキャラクターはほぼ皆無だが、「MODEROID:パワーローダー」に同梱された搭乗者キャラクターは原作映画当時30代後半である。BANDAIの「ミセス・ローエングリン子」も、元のキャラクター「イオリ・リン子」は30代以上であろう。さらに、海外(中国)のメーカーには大人びた雰囲気のキャラクターが多く、それらは20代と見ることもできる。架空キャラクターの年齢を問うのは生産的ではないし、ましてやエルフやアンドロイドの場合には無意味だが、キャラクター造形上の方向性として「美少女」路線に強く規定されていることは確かだろう。なお、男性キャラクターのプラモデルでは、BANDAIの「鏑木虎徹」は設定上、30代~40代と考えられる。
素肌の色合いは、東アジア人的なものが多い。それに対して、白人をイメージしたとおぼしき白肌のキットや、濃い褐色肌のキットも存在する。現代ガールプラモで褐色肌を初めて使用したのは、おそらく2016年2月の「フレームアームズ・ガール マテリア White Ver. [Brown skin append](※ただし公式ショップ限定品)。一般販売製品では、MD「スナイプ/グラップル」(2016/12)、MD「ロードランナー」(2017/07)、FAG「イノセンティア(Blue Ver.)」(2017/10)、FIORE「プリムラ:シネンシス」(2017/11)などが最も早い時期の実例に属する。ただし、褐色といっても、日焼け肌程度の色合いのものも多い。最も肌色の濃いのは、「MD兼志谷シタラ」「ワンダーウーマン」あたりだろうか。それ以外だと、FAG「フレズヴェルク:インバート」にゾンビ肌がある。「chitocerium:albere & efer」も、ゾンビ肌のカラバリを出した。「素材ちゃん」には、濃い褐色肌や、真っ黒、真っ白の製品もある。両生類のようなデザインの「サーナイト」を女性的だと認識するならば、緑色肌のガールプラモもすでに存在すると言える。
キャラデザは、ほとんど全てが(男性)オタク向けの「萌えキャラ」「美少女」風である。ごく少数の例外として、リアリスティックな造形のWAVE「未夢」、実在の役者を立体化した「パワーローダー」(のエレン・リプリー)が存在する。「ガールガンレディ」シリーズも、カートゥーン寄りのデフォルメが入っている。また、FIORE「ローズ」「リリィ」と、chitoceriumシリーズは、クールで幻想的な佇まいによってガールプラモ分野の中で独自の魅力を湛えている。
3) サイズ
いわゆるSD体型のガールキットも多数存在し、一つのジャンルを形成している。すなわち、「ホイホイさん」「BB戦士」「プラフィア」「ぷちゅあらいず」「きゃらっがい」「ぷちりっつ」「Qpmini」といったSDガールプラモシリーズが存在してきた。この流れは、完成品フィギュア分野の「ねんどろいど」「キューポッシュ」「DESKTOP ARMY」「AQUA SHOOTERS!」などとも相互影響を持ちつつ現在に至っている。これらも、ガールプラモの広がりを見るうえで、見過ごせない重要な一ジャンルである。中にはほとんど関節可動しない簡素なキットもあるが、しっかりした内部構造を持つキットもある。
15-16cmよりも大きなガールプラモは、「比較的初期(10年代前半)のキット」と、「固定ポーズキット」に大きく分かれる。初期のBANDAIガールプラモや、幻影「マリー」「フィーナ」(2018)は、18cm級の関節可動プラモデルである。固定ポーズのスタチューキットは、BANDAIの「Figure-rise LABO」のハイクオリティなキットや、エクスプラスの「ヴァンピレラ」「メトロポリス:マリア」などがあり、いずれも20cm前後(おおむね1/8スケール相当)である。
スケールだけでなく、キット全体のボリュームについて見ると、MD「兼志谷 シタラ Ver.ガネーシャ」(無印版2021/04、天機版2022/10、ともに税抜14800円)が現在のところ最高額である。10年代のうちはKOTOBUKIYA「ガオガイガー」(税抜9000円)、VFG「メサイア」(7800円)、FAG「ゼルフィカール」(同7600円)などが最高額だったが、20年代には1万円超のキットも複数現れている。平均的なガールプラモの価格も、10年代半ばまでは5000円前後で推移していた(例えばFAG「スティレット」は4800円、MD「朱羅 忍者」は5800円)が、10年代後半のうちに6000円以上のキットもごく普通になり、20年代現在では8000円以上のキットも多数存在する。これはキャラデザの傾向やプラモデル市場だけの問題ではなく、近年の原油高、物流費、資材供給困難、さらに円安、電力問題なども複合的に影響していると考えられる。
4) 可動の有無
15-16cm級の全身キットは、各部関節可動するものがほとんどである。それに対して非可動のスタチュー型ガールプラモは、1/20や1/24などの小型プラモデルと、20cm以上のハイエンドキットに二極化している。後者のカテゴリーには、レジンキットも含めてよいだろう。なお、特殊な事例として、BANDAIの胸像モデル「Figure-rise Bust」シリーズも存在した。
5) 隣接領域
これまで見てきたように、ガールプラモと同等サイズの完成品可動フィギュアも、00年代以来大きく発展してきた。1/12サイズの可動ドールも、とりわけ00年代後半以降、ユーザーを増やしていったようだ。例えば、ミニドールや可動キットを扱う展示即売会イベント「AK-GARDEN」は、2010年11月の第1回以来、現在まで継続的に開催されている。さらに10年代後半以降は、カプセルトイや100円ショップの小物類にも、ちょうど良い大きさのグッズが多数販売されている。ドールハウス用製品や、1/12スケールモデル用の各種製品にも便利なものがある。例えばTOMYTECは、1/12銃器シリーズ「リトルアーモリー」(2014/03-)とともに、同スケールの自転車や駅ベンチ、自動改札機、通勤電車や寝台車の内装模型などを発売しているし、HASEGAWAやAOSHIMAにも「公園のベンチ」「学校の机と椅子」「和式/西式便所」などの1/12製品がある。SkyTubeにも、1/12スケールの性具や拘束台をラインアップした「Love Toys」シリーズがある。こうした状況下で、ガールプラモを様々にミキシング――複数のキットパーツを自由に組み合わせること――したり、布服を着せたり、あるいは逆に可動フィギュアの機能拡張のためにガールプラモを素材として使ったり、組み合わせてジオラマ的-ドールハウス的に楽しんだりするという趣味活動の可能性が大きく広がっている。
その一方で、伝統的なロボットプラモとの間でも相互交流が生まれている。すなわち、ロボットプラモの武器や装甲を拝借してガールに装着させたり、あるいはロボットに騎乗させたりする楽しみ方である。とりわけ海外のガールプラモ(近年のMecha PigやNuke Matrix)は、大型のメカとガールを合わせてパッケージングしたキットを多数販売している。例えば、サメ型ロボットを接続して人魚型ガールにしたり、ZOIDSのような虎型メカに騎乗させたりといった具合である。
このようにガールプラモと隣接する様々な趣味分野との間で人的-技術的な交流を拡大していくことにより、新たなアイデアも生まれていくだろうし、ユーザーも流入してくるだろうし、場合によっては有益なコラボ商品が発売されることも期待できる。今後とも共存共栄の道がつながっていくことを望みたい。
【 おわりに 】
本稿は、2023年春時点で筆者が把握しえた範囲で、ガールプラモの歴史的な推移と内容的な多様性を、できるだけ広く捉えようとしたものである。現代のガールプラモ(美少女プラモ)は、15-16cm級キットをスタンダードとして比較的明確な枠組を強く持っているように見えるが、それがどのように形成されてきたか、その枠組にはどのような意義があるか、その枠組ははたしてどこまで強固なものなのか、そして、その枠組を超えた多様なキットをどこまで広い射程で捉えることができるか、等々の関心を持って、ひとまず私なりの理解と展望を述べてみた。
ひとによっては、本稿とは異なるパースペクティヴを持つこともあるだろう。例えば、海外の動向を含めてより詳細に分析したり、あるいはスケールモデル分野との連動に目を向けたり、可動フィギュアやドールの側から捉え返したり、オタク文化(キャラ萌え文化)全体の中にガールプラモを位置づけたり、メディアミックス産業の一部としての側面に注目したりといったアプローチもあり得るだろう。そういった様々な視点からの検討は、プラモデル文化の価値(観)をさらに掘り下げ、その豊かさをよりいっそう確かなものにしてくれるだろう。
今後、2020年代半ば以降のガールプラモ文化がどうなっていくかは分からない。これまで順調に発展してきたガールプラモ市場だが、そろそろ頭打ちになりつつあるのではないかという懸念もある。また、ひととおりの可能性が試みられたうえで、新機軸を打ち出す余地が見えにくくなっているようにも思える。6インチ級の枠組はミキシングにとってたいへん好都合なものだが、それが同時に、今後の自由な発展に対する足枷になるのではないかという危惧もある。日本経済の沈降や少子化の加速による購買力の低下、あるいは原油高や電力コストの問題に由来するキット価格上昇などによって、市場の縮小に見舞われることも覚悟しなければならないだろう。さらに中長期的には、新作開発できる企業やクリエイター(キャラクターデザイナーやCAD/CAM技術者)を発掘し育成していくことも考えなければならない。そういった様々な問題にもかかわらず、ガールプラモ分野はいまだ若い分野であり、そして広大なフロンティアであり続けている。ディープなオタクのためのプラモデルの一分野として突き詰められていくのか、それとも、もっと一般受けする道――例えばキッズ向けの路線開拓――を見出していくことができるのか。また、KOTOBUKIYA/VOLKS/BANDAIが展開している大規模で自由なミキシングコンテンツの路線と、海外キットや固定ポーズキットに見られるようなキット単体での完成度追求のアプローチの両極が、どのような関係に立っていくのかも興味深い。見守りつつ楽しんでいきたい。
【 追記:2023年を回顧して 】
本稿は2023年5月時点での展望を述べてきたが、年末(12月29日)時点での年間回顧を付記しておく。この一年間の出来事や傾向として、以下のことが指摘できるだろう。
1) KOTOBUKIYAキットのボリューム増大。巨大なパッケージによる大型=高価格キットを連発するようになった。とりわけ「メガミデバイス」シリーズはゴテゴテの重武装路線であり、既存パーツからの流用も相俟って、デザインが洗練されているとは言いがたい。その傾向は、新系統「Buster Doll」(2024年発売予定)にも見られ、フェイスプリントの可愛らしさは突出しているものの、穴だらけの武装パーツはいかにも作為的で見苦しい。同様に海外(中国)メーカーのキットも、巨大化傾向がいよいよ昂進しており、童友社販売で2万円を超えるキットも現れている。
巨大化と高額化の一方で、他社にはコンパクト志向の商品も現れている。例えば、印刷済フェイスの数を減らして、両目デカールで代用するものが増えている(例:BANDAI「ノワール」、MODEROID「レーシングミク」など)。
2) BANDAIの躍進。「30MS」は、当初は安価=低品質のシリーズとして開始したが、四肢パーツについてはスライド金型による一体成形を徹底していき、クオリティ面でも『アイドルマスター』シリーズとのコラボを通じて長足の進歩を遂げた。とりわけ頭髪造形は、多数のパーツに分割して繊細に表現されているし、膝頭もこれまでにないほどリアリスティックに造形されている。
3) 新興メーカー。Annulus(アニュラス)の「宝多六花」「新条アカネ」は、頭髪造形もきわめて精密で、パーツ精度も十分に高く、さらに腕パーツの嵌め合わせを斜めカットにすることによって合わせ目を目立たなくするという新機軸を導入した(※同種のアイデアは「創彩」水着キットも採用している)。今後とも大いに期待できるメーカーだろう。
MODEROIDも、オーソドックスなガールプラモ「レーシングミク」を発売した(※ただし、それ以前にも、リアル寄りの女性キャラクターを立体化した「パワーローダー」があった)。複雑で立体的なツインテール表現を初めとして、見どころの多いキットである。
海外にも新規メーカーが登場しているようだ。PR-PRODUCTION(新作「Project狩:漣」)は、童友社が取次して日本国内でも販売されている。
4) 構造の整理。人体を模した可動ボディ構造をどのように構築するかは、ガールプラモ分野の大きな技術的関心である。例えば初期のKOTOBUKIYA(とりわけメガミデバイス)では、複雑なジョイント構造を体内に組み込むアプローチであり、あるいはBANDAIキットは肘の二重関節やボールジョイント関節を試みていた。
近年の動向としては、パーツ構成を簡素化しつつ、より自然な可動を再現することが目指されているように見受けられる。例えば膝関節は、一軸ジョイントが増えつつある(BANDAI「スレッタ」「ノワール」やKOTOBUKIYA「創彩」など)。腹部や股関節のジョイント構造も、シンプル路線が優勢である(※パーツ構成を整理することは、ユーザーの作業負担軽減だけでなく、パーツ強度確保やコストダウンにも資する)。
ただし、可動域それ自体は、あまり顧慮されなくなっている。例えば、頭髪パーツが干渉して首をほとんど曲げられないキットもあるが、それはもはや、欠陥とは見做されない。今後求められていくのは、「可動確保は程々でよいので、可愛らしくてリーズナブルに購入できるガールプラモ」という路線になるのかもしれない。
技術面では、四肢パーツをスライド金型で一体成形するものが現れている。先行していたのはおそらくKOTOBUKIYA「創彩」水着キットで、また海外メーカーにも、太腿などを一体成形するものはすでに存在する。しかしBANDAIはそれを徹底して、四肢の大半を一体成形にしている。すなわち、スライド金型によって造形された筒状パーツと、その内部に差し込むジョイントパーツという構成である(「スレッタ」「ノワール」、そして30MSシリーズがこれを採用している)。今後とも、このアプローチは増えていくのではなかろうか。
5) メカガールと着衣ガール。KOTOBUKIYAの「ファンシーエール」と「アーンヴァル/ストラーフ」系統、30MM「アチェルビー」など、人肌部分を持たない純然たるメカ少女のプラモが登場している。翌2024年についても、KOTOBUKIYA「メガロマリア」シリーズが予告されている。メカガールの潮流は依然として活発である。
その一方で、布服姿の着衣ガールも増えてきた。「創彩」シリーズを初めとして、BANDAI「ノワール」、30MS「櫻木真乃」、アルカナディア「ユクモ」、上記「宝多六花」、PLAMAX「重兵装型女子高生」など、着衣の複雑な形状をプラモデルで表現したキットが多数リリースされている。
6) 市場の停滞? 新シリーズも現れ、再生産キットも増えてきて、模型店にはガールプラモが常時山積みされるようになった。20年代初頭の極端な品薄は不幸だったが、大量入荷する新キットが売れ残って大幅に割引販売されるのも、それはそれで好ましい状況とは言いがたい。ガールプラモ市場における需要と供給のバランスは見通しがたいが、程良い均衡状態に落ち着くことを望みたい。内容面でも、15cm級の規格がほぼデフォルトとなり、多様性が乏しくなったように見受けられる。隣接分野として、15cm前後の完成品可動フィギュアは、日本メーカーでは「S.H.Figuarts」「figma」などが続いているが、海外メーカーに高品質な可動ガールフィギュアが多数登場している。
【 追記:2024年の回顧 】
個人的な印象論レベルで述べると、2024年には以下のような傾向が見出された。
1) 高額志向とコンパクト志向の二極化? AOSHIMAのVFGは、『マクロスΔ』シリーズや「ケーニッヒ・モンスター」で、1万円超の高額路線を鮮明にしている。その一方でKOTOBUKIYAは、メガミデバイス「Buster Doll」シリーズや「忍者/弓兵」アップデート版などで、価格を抑えた商品形態を模索しているようだ。
2) キャラクタービジネスの本格進出。BANDAIの30MSは、『アイドルマスター』コンテンツとコラボして大規模なシリーズ商品展開に着手した。また、新規ブランドの「PLAMATEA」シリーズとKADOKAWAプラモデルは、どちらも既存キャラクターのプラモデル化だけを手掛けていくようだ。
ゲーム等の既存キャラクターをプラモデル化するメディアミックス戦略は、短期的に見れば市場のパイを拡大する効果的な手法だろう。ただし、それは同時に、プラモデル制作の自由な創造性を損なう虞があるし、また、キャラクターごとのワンオフ金型になるため、冒険のしづらい保守的なラインアップになりかねない。キャラクター人気に依存するため、商品寿命も短くなりやすい。可動機構を重視せず、シチュエーション再現(装備差分パーツ)に注力するのも、善し悪しだろう。キャラクター重視の流れは不可避的だと思われるが、袋小路につながるのではないかという懸念も大きい。
3) 海外キットの大サイズ化。中国メーカーによるガールプラモも、ここ数年は、年間十数体が発売されている。そうした中で、17cm以上の大型サイズのガールが、近時とみに増えている。日本国内のキットが14~15cm(※ハイヒール部分を除く)なのに対して、中国メーカーのガールプラモには17~18cmのものも現れている。
日本メーカーでは、BANDAI初期のHGBF「すーぱーふみな」やGFP「マリー」「フィーナ」が存在したが、現在ではそのサイズ帯はほぼ消滅している(※PLAMAXの「壱」「ソフィア・F・シャーリング」は大きめのサイズのようだが、筆者はどちらも未購入)。
4) 小柄キャラクター、男性キャラクター。KOTOBUKIYAは「ロール EXE」、「小石川エマ」、「ゴルディーマーグ」、「マオ/トゥ」と、明らかに小柄なキャラクターや、寸詰まりな幼児的キャラクターをいくつも発売した。海外でも、「黒白無常仙」と「ケリー・ジャネット(Kelly Janet)」は、SDプロポーションである。それ自体は、単なる偶然の偏りかと思われるが、ガールプラモの多様性が拡大していること、あるいは、各社がさまざまな新機軸や新市場を開拓しようとしていることの現れかもしれない。
同様に、BANDAIの「30 MINUTE FANTASY」と、KOTOBUKIYAの「メガロマリア」は、ガールプラモの規格を利用しつつ、男性キャラクターのプラモデルを発売している。PLUM「ずんだもん」のような性別未決定キャラクターのプラモデルも登場した。これらがガールプラモ分野にとって、「共通の市場」となるのか、それとも「隣接分野」となるのかは分からないが、ジェンダーの区分を超えて技術的-文化的な相互影響が生まれるだろう。