2026年1月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。
●新規作品。
pome村『裏庭のドア、異世界に繋がる』第1巻(一二三LAVARE、原作あり、1-6話)。タイトルどおりの状況だが、穏やかで善良な女性主人公が自宅=異世界カフェから出ることはなく、気さくで優しい男性キャラたちにサポートされつつ、喫茶店をオープンする。ただし、今後のストーリーがどのような方向性になるかは、まだ分からない。作者はこれが商業初連載とのことだが、輪郭の柔らかい作画が本作の雰囲気に良く合っている。
藤田トモヒサ『真の実力を隠していると思われている精霊師、実はいつもめっちゃ本気で戦ってます』第1巻(OVERLAP、原作あり、1-5話)。召喚師育成学園で、実は精霊契約が出来ていないが、本人の身体能力と魔力だけで戦っているという主人公の物語。キャラクターたちの生きの良い表情表現に、洒落っ気のある演出が気持ちよく、コミカライズとしては成功の部類だろう。藤田氏は2023年商業デビューで、これが初連載とのこと……えっ? こんなに練達の演出が出来ているのに? すごい。
●カジュアル買いなど。
唯鬼『リップサービス』第2巻(白泉社、4-8話)。男性探偵の部下になった2人の女性の物語のようだ。基本的に一話完結のビターコメディ路線だが、『楽園』誌連載らしく外連味のある絵作りが面白い。第1巻は、どうしようかな。
絹田みや『友達だった人』(光文社、単巻)。昨年11月刊行のものが増刷されたようで、新刊コーナーで購入。日常ベースの4本を収録した短編集。ちょっとした人間関係の中から、日常のぬるま湯をどこかで脱したいという気持ちを、デリケートに暗示する手つきが面白い。コミティア系の漫画家さんで、これが商業初単行本のようだが、一ページあたりのコマ数を少なめに刈り込んだ明晰なコマ組み進行のおかげでスムーズに読める。
アニメ版『透明男と人間女』が面白かったので、岩飛猫氏の原作漫画もまとめ買いして(双葉社、既刊8巻、第75話まで収録)、さらに『片白の医端者』(第1巻のみ。第2巻は買えず)と『狐面夫婦』(1-2巻を購入、第3巻は店頭に無かった)も買ってきた。とにかく多層的なクリエイターさんで、基本的には異種族ものを得意としておられるが、キャラクターのアイデンティティからドラマを引き出したり、具体的なエピソードと絡めて掘り下げたり、生態的個性をリアルに解釈&描写しつつその魅力を表現したり、組み合わせによってさらなる面白味を生み出したりといった作劇のアイデアがやたら豊富で、たいへん密度が濃い。
その上で、例えば『医端者』では、怪異存在たちのオリジナリティある幻想的状況を強烈なイマジネーションで展開したり、有名キャラクターの造形や体質を切れ味鋭いアイデアで活用したりする(※たしかに月のかぐや姫と、満月で変身する人狼男が出会ったら大変ややこしいことになるよね!)。
それに対して『狐面』では、狐の妖怪と逃亡中の犯罪者の同居物語を、テクニカルな駆け引きという理知的な作劇で展開しつつ、全体としてはユーモラスでしたたかな化かし合いのドラマとして絶妙にエンタメに着地させている。
『透明男』にも、同じ性質のアプローチが見て取れる。透明人間一族の体質がもたらす社会的困難を丁寧に精緻化しつつ、それをキャラクター個人の内面/外面双方のドラマの動因として具体化していく。全盲女性の方も、おそらくこれまでの漫画史上でちょっと類を見ないほどに、視覚障害者の生活のディテールをリアルに反映させつつ、しかし、単なる設定説明や感動ポルノに走らせることなく、まさに「この」キャラクターが持つ個性として扱い、そのうえでそれを「見えない男性と見えない女性のロマンス」という特異な状況において彼らが惹かれ合い、尊重し合っていくプロセスとして説得力ある形で展開している。サブキャラについても、例えば「」。
要するに、「異種族を初めとした様々な個性へのフェティシズム」と、「キャラクター個性をリアリスティックに突き詰めていく徹底性」が見事に結びつきつつ、しかも最終的には居心地の良いエンタメの枠内にきれいに収めている。異才と言うべきだろう。
上川きち『飼育員お姉さんに恋したペンギン』第3巻(芳文社、16-23話、完結)。タイトルどおりの動物園日常もので、ペンギン同士も台詞で会話している。雰囲気は悪くない。作者はBL系メインで活動しておられるようだ。
●続刊等。
1) 現代ものやシリアス系。
川田大智『半人前の恋人』第7巻(51-58話、完結)。二人がそれぞれに、自身の将来や家族の重病など、人生の大きな問題に直面しつつ、誠実な決断を選び取っていく。そうした姿勢こそが、お互いを尊敬できる存在にしてきた。漫画表現それ自体としては、顔アップが多くなってきたが、キャラクターの心情にフォーカスを当てるストーリー運びの中では妥当な演出だと言うべきだろう。なお、巻末のコメントによれば、作者自身が和太鼓製造の現場におられたとのこと。
藤丸『レジスタ!』第2巻(8-14話)。ほぼ丸ごと、京都編≒千代編になっている。テキスト面では、高校生の将来や人間関係をめぐる悩みのデリケートな掘り下げ。視覚的には、シンプルに整った顔立ちに、肉感的な体躯描写、そして時折現れる柔らかなデフォルメコマ。若者の輝かしさに向けたノスタルジー交じりの視線は、ありがちではあるが、漫画としてはなかなかユニーク。第1巻の時点では、ストーリーのレベルでのヒロインの高潔な凛々しさの描写と、視覚表現のレベル(コマ絵やレイアウト)の下品な性的クローズアップの同居がたいへん不気味だったが、この巻ではずいぶん落ち着いてきた。
塩井こぬ『犬窪ノアとなかよしするまで』第3巻(8-11話)。魔術による操作と、ひとの恋愛感情の真率さを巡って展開される、コメディ寄りの物語。次巻で完結とのこと。「好き」の感情がスティグマ化してしまう描写がなかなか上手い。
焼肉定食『アンドロイドは経験人数に入りますか?』第7巻(31-35話、完結)。百合エロコメ路線だが、キャラクター同士の気持ちをきちんと繋げて物語をきれいに締め括った。
こにとがめ『ヒト科のゆいか』第3巻(9-13話)。多種族が共存する学校の話。今巻は鬼面をつけたミステリアスな同級生をフィーチャーしつつ、様々な亜人たちのアイデンティティ問題を掘り下げる。アナログ感の強い作画と、情趣ある背景カット、そして開放的な力強さのある紙面演出が魅力的。
三都慎司『ミナミザスーパーエボリューション』第2巻(5-8話)。この作者は、これまでの作品ではビル街崩壊などのスペクタクルでその精緻な描き込みの効果を表現してきたが、今回はロマンティックな浮遊水滴という形でその資質を存分に発揮している。思春期の輝かしさへのわずかなノスタルジーも漂わせつつ、内面の感情と外面の社会関係のドラマが絡まり合っていく有様が美しい。しかし今後の展開については、超能力に関する組織的策謀の気配も示唆されている。
しなぎれ『女装男子はスカートを脱ぎたい!』第4巻(22-27話)。今巻ではオープンな女装キャラが新登場。手書きトーンによる質感表現は迫力があるし、主人公の決意を描くクライマックスも素晴らしく、さらに女装男子の半脱ぎカットのフェティッシュな色気もすさまじい。
2) ファンタジー世界やエンタメ寄り。
カヅホ『キルミーベイベー』第16巻(2024年10月号~2025年12月号分を収録)。グロ(クリーチャー)、オカルト、ナンセンス、スラップスティック、バイオレンスと、とにかくネタの密度が高くて何度も笑える。200回到達したとのこと(※その号は雑誌版も買った)。卵に耳を当てたら呪詛の声が聞こえるというのは、並大抵の発想では出てこない(59頁)。
ヨシアキ『雷雷雷』第6巻(35-41話)。空間戦闘の派手な広がりや、奥行きの勢いを強調した超人バトル描写が、なんだか『ドラゴンボール』みたいになってきた。美術的スタイルそれ自体としては、アメコミ風の雰囲気もわずかに交えつつ、日本漫画/アニメの演出手法を活用して、とてもユニークな手触りがある。
元三大介『魔法医レクスの変態カルテ』第4巻(18-21話)。今巻は、難題「ドラゴンと自動車」に対して作者なりの解決を提示するところから始まり、魔石をめぐるテクニカルな議論に、丸呑み(ボア)のディープな趣向、そして最後にキノコの視覚的淫猥感に彩られつつ植物モンスターとのダイナミックなバトルと、盛りだくさん。
井山くらげ『後宮茶妃伝』第8巻(42-46話)。ストーリー面では強引なところも多々あるのだが、温和な雰囲気と安定した物語進行テンポ、そして黒ベタを堂々と投入したクラシカルな絵柄が、気持ちよく読ませてくれる。今巻では四人の妃が揃ったが、ここからどのように展開するのかは不明。原作小説の目次を見たかぎりでは、現時点で物語の7割ほどを消化しているようで、このまま順調に行けば10巻くらいできれいに完結できそう。
里好『かくして! マキナさん』第6巻(30-37話、完結)。3Dモデルを用いた作画は、結局のところキャラクターの身体の動きを狭めつつ、表情のあくの強さをしつこくするばかりで、技術的な実験としては興味深いが問題も多かった。ストーリー面でも、浅い下ネタに終始していたのは残念極まりない。『踏切時間』では抜群の切れ味を見せていただけに、この優れたクリエイターが本作で時間を蕩尽したのが惜しまれる。次はもっとシャープな切り口の連載で、高い創造性を発揮してもらえることを期待したい。
furu『ひなたとお兄ちゃん』第2巻(6-11話)。今巻では、宗教団体施設での長大なエピソードを扱ったが、「常闇世界の怪物徘徊」というユニークな状況設定から目を反らしてしまい、やや通俗的な人間ドラマになった。次巻を待ちたい。
天原『33歳独身女騎士隊長』第4巻(181-240話)。したたかな策謀の描写と、トリッキーなアイデアの創意、そしてそれらを2ページコメディの枠内で処理しきる手腕は健在。
木々津克久『フランケン・ふらん Frantic』第12巻(74-80話)。きつめの風刺とグロテスクな想像力を超医療の俎上で処理しつつ、キャッチーな時事ネタやパロディをちょっと振りかけたスタイルは健在。今巻は、直接的な性的シーンが妙に増えていたのが意外。擬似赤子ペット施設(79話)の多腕クリーチャー赤ちゃんは、まさに木々津氏の本領発揮と言うべき奇抜な造形。
乙須ミツヤ『俺の死亡フラグが留まることを知らない』第8巻(50-56話)。仲間たちを失いそうになる土壇場で、強敵との戦いの中で自らの内にいる本来のキャラクターの存在を感じとり、戦後はヒロインとの印象的なシーンを挟みつつ、処罰の憂き目に遭い、そして5年が経過するという劇的な展開だらけの巻。緊張感に満ちたレイアウト演出に、躍動感のある全身運動の表現、魔法エフェクトの精緻な描き込み、そして強烈な感情を放射する主人公の両目の表現と、充実した読み応えがある。心情のドラマとしても、真に迫った想いがストレートに(それでいてレトリカルに)描かれているので、物語としても面白い。オンライン連載は現時点で86話まで進んでいるので、単行本も追いついていってほしい(※何故か紙媒体での発売が長期間止まっていて、やきもきしていた)。
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