【 第7章:20年代の動向 】(※総目次と冒頭ページはこちらから)
a) 海外のガールプラモ
20年代に生じた大きな変化の一つは、海外メーカー(主に中国)からガールプラモが大量に発売されるようになったことだ。詳しくは別掲記事「海外のガールプラモ概観」で説明したので繰り返さないが、最低限の要旨だけを述べておこう。
2020年頃から、海外メーカーが15-16cm級ガールプラモを作るようになった。最も早かったのはおそらく橘猫工業の「C.A.T.-00」(フェリス)とMOMOLINGの「豊臣秀羽」だが、ここからEastern Model(御模道)、Mecha Pig(将魂姫: MS General)、Nuke Matrix(核能矩阵)、SUYATA(スヤタ)などがハイペースで新作キットをリリースしていく。
造形面では、原作のないオリジナルデザインの重武装ガールが主流である。キャラクターデザインは、「クールな表情の大人びたスレンダーガール」路線が人気のようで、日本メーカーのキットが「愛嬌のある表情+肉感的なボディ」を強調しているのと対照的である。日本のガールプラモと比べて、表情などが洗練されないと感じがちだが、技術水準の問題ではなく、美意識の方向性の違いだと考えるのが妥当だろう。
構造面では、クリアパーツや塗装済みパーツ、あるいはプラ以外の異素材――布素材や金属線などのマルチマテリアル――を多用する傾向がある。無塗装を前提としているのか、色再現のために非常に細かなパーツ分割をしていることが多い。総じて、キット単体での完成度を追求する傾向があり、ミキシングのためのハードポイントなどはほとんど設けられていない。ボディ構造は、肩回転軸を設けているものもある。
上記のほか、CREATIVE FIELDの「1/24 アーマードパペット」シリーズにもガール型ロボットが含まれるが、サイズはかなり小さい。また、Trumpeterが「トランスフォーマー」シリーズの女性型ロボット「アーシー」を販売している(日本には童友社が輸入しているようだ。2022年9月?)。
海外(中国)のガールプラモも、やはりオタク向けの萌えキャラ路線であることに変わりはないが、それでもキャラクター造形に関する美意識の違いはかなり大きい。異文化におけるガールプラモの興隆は、この分野全体をよりいっそう豊かで幅広いものにしてくれるだろう。
なお、中国では1/12可動ガールフィギュアも盛り上がりつつある。特にSNAIL SHELL(蝸之殻スタジオ)が人気を博しているようだ。ただし、公称1/12ながら、実際には17~18cmにもなる。つまり、一般的なガールプラモよりもさらに大きめである。
b) 国内主要メーカーによる新シリーズ
20年代はまさに現在進行中の状況であり、安易な診断をすることは困難であるが、さしあたり2023年春までの、日本国内での大きな出来事をいくつか書き留めておこう。
KOTOBUKIYAは、「FAG」(2015-)と「メガミデバイス」(2016-)の両シリーズの枠内でガールプラモを量産していたが、2020年代に入ってようやく新たなガールプラモシリーズをいくつか始動した。すなわち、制服ガールの「創彩少女庭園」(2021/01-)と、ファンタジー系ガール「アルカナディア」(2021/12-)である。また、1/24スケール「HEXAGEAR」と同サイズの「FAG:ハンドスケール」(2019/09-)や、SD体型の「Qpmini」(全高6.5cmとのこと、2023/01-)も開始した。さらに、ガールプラモを含む新たなシリーズも予告されている。既存シリーズに関しても、とりわけ「メガミデバイス」ではボディ設計を一新した素体「スサノヲ」系統を開発している。
自社ロボット擬人化の「FAG」や、「武装神姫」由来の「メガミデバイス」だけでなく、まったくのオリジナルシリーズを複数展開できるようになったのは、同社のガール企画開発能力の向上でもあり、また、市場の側がそれらを受け止められるほど大きく安定したものになっていることの現れでもあるだろう。
中央の二人が「創彩少女庭園」。ドール布服では不可避的に着膨れしてしまうが、プラ成形で着衣まで表現することによって、引き締まったシルエットを表現できる。ただし、布服表現については、BANDAIも「人造人間18号」から「ミオリネ・レンブラン」までいくつもの成果を挙げている。中央は「アルカナディア:ヴェルルッタ」。例によって例のとおりのサイズ。塗装済みパーツを大量に同梱することによって、無塗装でも華やかなガールプラモを完成させられる(※左記写真はゴールドと宝石パーツのみ塗装した)。
BANDAIも、ガール特化の新規シリーズを開始した。「30 MINUTES SISTERS」(2021/08-)である。これは、組み替えロボットシリーズ「30 MINUTES MISSIONS」の派生のような形で登場したが、ガール版の30MSも一年半で9種のキットと、多数の組み替えオプションパーツを精力的にリリースしている。
このシリーズの特徴は、ガールの造形そのものを自由にアレンジできる点にある。すなわち、頭髪パーツやフェイス、ボディなど、ガール本体を構成するためのオプションパーツを多数提供している。他社の類似実践を見ると、汎用武装パーツの別売りはKOTOBUKIYAやVOLKSが行なっているし、オプションフェイスや改良肩部などの局所的なオプションパーツについても、VOLKSやchitoceriumやKOTOBUKIYAが販売している。それに対して30MSの特徴は、大量の汎用パーツによってボディ各部を自由に組み替えられる――ボディのプロポーションすら変更できる――という点にある。この意味で、「30MS」シリーズはガールプラモの新たな時代を開いたと言える。「点」(単発のキット)でもなく、「線(特定のシリーズ)だけでもなく、「面」の広がりをもってガールプラモ市場が存続しうるようになったことの証明だからだ。
ただし、キャラデザに関しては相変わらずのボディコンバトルスーツ路線のままで、非常に保守的に見える。また、安価なだけにフェイスパーツがぼんやりしていたり、肌パーツの質感が人工的だったりと、不満を覚えるところも多い。
なお、シリーズ全体の構成としては、基本キットの「リシェッタ」「ティアーシャ」「ルルチェ」3種に、それぞれの武装拡張版「アルカ=カルティー」「ファル=ファリーナ」「シアナ=アマルシア」が対応し、さらに新規ボディとして小柄な「リリネル」「ララネル」と長身の「ネヴァリア」が作られている、という系統樹になっているようだ。
c) その他の新規シリーズや、個別のキット
PLAMAXは「Guilty Princess」シリーズ(2021/08-)を展開している。約16cmと、ガールプラモとしてはやや大きめのサイズである。内容面では、シリーズの最初からメイド素体を使い回し、さらにシンプルな下着素体を連発しており、保守的で安易な商品展開のように見える。ただし、PLAMAXは同じく6インチ級可動キット「重兵装型女子高生: HH-01 壱」(2023/02)も発売しており、固定ポーズの20cm級キットも、「血の魔人 パワー」(2023/05)に続いていくつかのキットが予定されている。
Good Smile Companyも、新シリーズ「ゴッズオーダー」(2022/09)を開始した。ただし、2023年春時点での既発売キットは一つだけである。
エクスプラスは、1/8スケールの固定ポーズ「ヴァンピレラ」(2021/12)と、「メトロポリス:マリア」(2022/09)を発売している。どちらも女性キャラクター、あるいは女性型のロボットである。ただし、ラインアップとしてはガール以外も発売している。
エムアイモルデは、女性的なデザインのロボット「機動動姫MoMo」(2022/03)を発売した。1/144スケール(全高18.5cm)で、通常のガールプラモよりも一回り大きいが、そのぶん、構造面にオリジナリティがあり、興味深い。「MoMo」は、カラバリキットもいくつかリリースしている。なお、この「MoMo」は、「KADENN+NA」と同じスタッフが開発している。
また、エムアイモルデは、「チョイプラ」シリーズとして女性型の小型メカプラモデル「eos月白」「eos漆黒」も発売した(約6.5cm、2021/05)。SQUARE-ENIXも、女性的なデザインのロボット「ヴィエルジェ」(2021/03)を発売している。
FLAME TOYSは、高価格帯のロボットトイやロボットプラモデル(風雷模型シリーズ)を主力商品にしているが、その中には女性型ロボットのプラモデル「ウィンドブレード(Windblade)」(2021/11?)や「アーシー(Arcee)」(2023/06?)も含まれる。サイズは15cm程度のようだ。ただし、同社は海外展開を中心にしており、日本での正規販売はしていないようだ。
新規メーカーのアニュラスは、「宝多六花」(2023/06)と「新条アカネ」(2023/09)を発売告知している。どちらもアニメ原作キャラクターの立体化であり、着衣デザインのキット化である。
その他。ベルファイン「邪神ちゃん」(2022/12)も、ごく簡素な固定ポーズながら、ガールプラモと呼べる。スケールモデル寄りでは、MODELKASTENのレジンキット「1/12 女性兵士 サラ」(2021/05)や、海洋堂の「ARTPLA」シリーズも存在する。『ARTPLA』は1/24や1/35スケールだが、漫画『ゆるキャン△』の女性キャラクター(2022/07)などもラインアップに含まれている。
価格面では、高額化が進展してきた。管見の限りでは、2019年までは、一般販売商品で1万円超えのキットは存在しなかった(※2019年6月の「ガオガイガー」が、ぎりぎり税込9900円)。しかし、2020年代に入ると、VFG「クラン・クラン」(2020/12、税込10780円)を皮切りに、「兼志谷シタラ:ガネーシャ」(2021/04、16280円)、AOSHIMA「合体アトランジャー」(2021/05、9680円)、「朱羅:玉藻ノ前」(2021/07、10890円)、「金潟すぐみ」(2021/08、10450円)、「皇巫 スサノヲ」(2022/01、12100円)、VFG「ランカ・リー」(2022/06、10450円)、MODEROID「パワーローダー」(2022/07、9500円)などが続き、1万超えキットも普通のものになってきた。また、上記の海外キットも、童友社などの正式な輸入販売品では、9000円台が標準になっている。
このように見てくると、20年代のガールプラモ産業は、既存メーカーには守旧化の傾向が見られる一方で、新興メーカーや海外メーカーやインディー系デザイナーによって様々な方向性が自由に試みられる豊かなフィールドにもなっている。こうした二面性が、はたして一時的-偶然的な傾向なのか、それとも今後同じような傾向が続いていくのかは分からないが、多様性の「縮小」と「増大」の両面の要素が見出されるのは興味深い。
現代ガールプラモは2007年の「フェイ・イェン」から数えて16年、「FAG」から数えてもすでに8年に及ぶ。20年代も半ばに近付いた現在では、ガールプラモ市場は十分に確立され、ひとまず成熟した一分野になりつつあるように見受けられる。模型専門誌でもガールプラモが何度も特集されるようになっているし、模型店でも大きな扱いを受けて棚の一角を堂々と占めている。完成品可動フィギュアやドール、カプセルトイ小物とも連携しつつ、ラインアップもいよいよ充実しており、さらに海外メーカーからの新たな感性も輸入されるようになっている。市場規模としてはそろそろ頭打ちになりつつあるかもしれないが、今後とも模型文化の一領域としてガールプラモは賑わっていくことだろう。
(7ページ目に続く)