【 第5章:BANDAIの広汎な実験(10年代後半にかけて) 】
1) 10年代までの完成品可動フィギュアシリーズ
BANDAIもまた、早くから可動ガールフィギュアやガールプラモ分野に取り組んできたメーカーである。前世紀にも「アーマードレディ」(1985年?)シリーズや『うる星やつら』の「ラム」(1983?)など、固定ポーズのガールプラモをいくつか発売していたし、00年代の完成品可動フィギュア分野では、「S.H.Figuarts」シリーズ(2008-)の他にも、簡素なアクションフィギュア「Q-JOY」シリーズ(約13cm、2008/01-)、「学炎合体モエバイン忍術部」シリーズ(15cm、2009/04-)、「COMPOSITE Ver.Ka:ハルヒロボ」(2011/02)、「超合金(ホイホイさんやレイキャシール)」(2011/05)、「アーマーガールズプロジェクト(AGP)」シリーズ(2012/04-)などをリリースしている。「S.H.Figuarts」は現在もシリーズ継続しているし、「AGP」も2018年まで長く続いていた。また、完成品可動ロボット「Robot魂」シリーズにも、「ストレリチア」(2018/10)のような女性型ロボットがある。20年代に入ると、約10cmの男女兵士の可動フィギュア「メガハウス:ガンダムミリタリージェネレーションズ」(2020/11-)も開始した。
2) 10年代前半のBANDAIロボットプラモ
組み立てプラモデルとしては、SD体型のロボット(?)プラモ「BB戦士:孫尚香ガーベラ」(2009/05)、「ノーベルガンダム」(1/144スケールで約11cm、2011/01)、女性型ロボット「LBX:クノイチ」(2011/02)、女性的な雰囲気のロボット「HG ファルシア」(2012/04)を発売している。つまり、10年代前半までのBANDAIは、あくまでロボットプラモの範囲内で、女性的なデザインのプラモデルを散発的にリリースするに留まっていた。
3-a) 10年代半ば:ロボット準拠の女性型プラモデル
BANDAIが正面から現代型ガールプラモに接近したのは、2015年11月の「HGBF:すーぱーふみな」が初めてだと述べてよいだろう。とはいえ、これはいわゆる「MS少女(モビルスーツ少女)」の系譜であり、つまり本質的にはロボットプラモの延長線にあって、設定上も1/144スケールとされている。サイズも18cm程度の大きめのサイズで、顔面造形もあまり洗練されていなかった(※両目はシール)。この系統は、「はいぱーギャン子」(2017/08)や「ミセス. ローエングリン子」(2018/03)まで続く。
なお、ロボット型ガールプラモの流れは、「Figure-rise Mechanics:ドラミ」(2017/11)、同「アラレちゃん」(2018/04)、「30MM:スピナティア」(2021/07)、あるいはカプセルトイ「換装少女/換装重機」(2017年頃)、「アニマギア」(「サクラギア」[2020/12]などの女性型ロボットがいる)などにもつながっていく。
3-b) 10年代半ば:固定ポーズの胸像プラモガール
BANDAIは固定ポーズのキャラクター胸像プラモデル「Figure-rise Bust」シリーズ(2016/06-)を開始しており、そのラインアップの中で「フレイア・ヴィオン」(2016/08)などの女性キャラクターも扱うようになった。ロボットプラモ文法に依存しないガールプラモとしては、こちらの方が重要かもしれない。このシリーズは女性キャラクターが大半を占めていたが、最新作は2017年8月の「初音ミク」でほぼ止まっているようだ。
固定ポーズのプラモデルというアプローチは、以前から『ナウシカ』プラモデルシリーズ(2004)や「メカコレクション ドラゴンボール」シリーズ(2014)でも手掛けていた。また、その後は「鬼滅模型」シリーズ(女性キャラを含む、2020/12-)や、後述の「Figure-rise LABO」(2018/06-)につながっていく。
3-c) 10年代半ば:SDガールプラモ
さらに翌年には、「ぷちゅあらいず」シリーズをいくつか発売した(2017/01-)。これはガールキャラクターの2頭身プラモデルで、関節可動もほぼ皆無なのだが(※手足の動きはパーツ差し替え)、「全身造形された美少女キャラクターのプラモデル」という意味で、明確に美少女プラモを目指している。SD体型のガールプラモデルとしては、「HGPG きゃらっがい」シリーズ(2017/06-)、「BB戦士三国伝:貂蝉キュベレイ」(2018/02)、「ぷちりっつ」シリーズ(2019/09-)、「ハローキティ/ハロ」(2020/02)、「ハローキティ/ザクII」(2020/12)、カプセルトイ「AQUA SHOOTERS!」(2018/10-)などにつながっていく。
4) オーソドックスな15-16cm級ガールプラモへの進出
「15-16cm級+関節可動+女性型のプラモデル」の条件を満たすBANDAIガールプラモは、「Figure-rise Standard 人造人間18号」(2017/04)が最初だと述べてよいだろう。このシリーズは、漫画『DRAGON BALL』や『仮面ライダー』などの男性キャラクターを数多くリリースしているが、女性キャラクターもいくつかラインアップされている。具体的には、
2017/04「人造人間18号」
2018/09「BUILD DIVERS ダイバーナミ」
2019/03「BUILD DIVERS ダイバーアヤメ」
2019/12「アスナ」
2020/10「BUILD FIGHTERS TRY ホシノ・フミナ」
2021/04「レーナ」
2021/08「SEED ラクス・クライン」
2021/12「紫々部シオン」
2022/09「ウマ娘 プリティーダービー トウカイテイオー」
2022/10「スレッタ・マーキュリー」
2022/11「ミオリネ・レンブラン」
が発売されている。ラインアップの中では女性キャラクターは1割ほどだが、ガールプラモ分野としては十分に生産的なシリーズだと言える。ただし、価格は2000円台から3000円台とかなり低く、そのぶん、パーツ数も少なく、頭髪造形もしばしばダルで、拡張性も乏しく、色分けはシール頼みで、品質は低いと言わざるを得ない。とはいえ、両目の瞳までプラの多色成形で完全再現していたり、可動構造もシンプルながら洗練された形状であったり、プラによる布服表現も巧みであったりと、注目すべき特質も多数備えている。また、シリーズ名は異なるものの、
2019/07「HGBD モビルドール サラ」
2020/01「HGBD:R モビルドール メイ」
も、ここに含めてよいだろう。
さらに20年代に入ると、TVドラマとのタイアップ企画「ガールガンレディ」シリーズ(2021/04-)に続いて、ガールプラモ「30 MINUTES SISTERS (30MS)」シリーズを開始した(2021/08-)。これは、派生元の「30MM」と同様に、
i) 原作の無いオリジナルコンテンツであり、
ii) 比較的安価なキットを、共通規格で多数発売し、
iii) それらの間で自由な組み合わせを楽しませる、
というアプローチを採っている。これは、VOLKSの「VLOCKer's」シリーズや、KOTOBUKIYAの「M.S.G.(モデリング・サポート・グッズ)」シリーズに酷似した発想と言える。複数の模型メーカーがコンテンツ展開戦略として同種のアプローチを採用しているのは、たいへん興味深い。
5) 固定ポーズの大型ガールプラモ
もう一つ、BANDAI独自のユニークな路線として、「Figure-rise LABO」シリーズ(2018/06-)がある。「LABO(研究所)」という呼称のとおり、実験的なプラスチック成形表現を試みるためのブランドとのことだが、ラインアップは今のところ、すべて女性キャラクターである。
第1作「ホシノ・フミナ」は、約24cmというラージサイズで、赤色パーツの上に素肌パーツを二重成形することによって、血色のよい素肌造形を実現している。人気のため、カラバリキットも発売された(2019/08)。
「初音ミク」(2019/12)は多重成形による頭髪グラデーション表現、「南ことり」(約23cm、2020/02)はラメ入りパーツなどを用いた服飾表現、「式波・アスカ・ラングレー」(約25cm、2021/03)も多重成形によるボディスーツの透け表現と、従来のプラスチック射出成形を超える成形演出技術に挑戦している。キャラクター表現についても、「南ことり」「アスカ」ではフィギュアメーカーALTERの協力を仰ぐことによって、優れた造形的魅力を実現している。その大サイズと高品質によってガールプラモ分野のハイエンドキットになっていると言ってよいだろう。
左は「ホシノ・フミナ(second)」。無印版はイエローの水着だったが、再生産に際して紺色にカラー変更された。「ホシノ・フミナ」の胴体部分を拡大撮影。素肌プラの下地に赤色のプラ層を仕込むことによって、肌の血色感を表現している。この技術は、後に「Figure-rise Standard:アスナ」でも部分的に採用されたとのこと。
6) 小括
BANDAIは元々ロボットプラモのメーカーであるが、そこで培われた技術は他の分野でも活用されている。例えば、多重装甲の技術は、恐竜プラモの筋肉-骨格の多重構成にも応用されているし、高度な金型設計技術は、「1/700 ちきゅう」のような艦船模型でも巧みに用いられている。ガールプラモ分野に対しても、BANDAIの技術的な実験精神がしばしば発揮されている。ただし、肘の二重関節のぎこちなさや、ボールジョイントによる保持力不足などの問題もあり、また、低価格路線から素肌の色ツヤやフェイスパーツの品質があまり高くない――それは「美少女」プラモとしては大きなデメリットになる――といった問題も起こしているが。しかし、これらのような実験性の中から生まれてくる新しい世界もあるだろう。
BANDAIはロボットプラモのノウハウから出発して、固定ポーズの胸像ガールやSD体型のガールプラモを経由しつつ、次第にガールプラモに接近してきた。文字通りスタンダードとなる「Figure-rise Standard」と、フロンティアを作り出そうとする「Figure-rise LABO」の両輪が、今後よりいっそう魅力的で刺激的なガールプラモへと結実していくことを期待したい。
ただし、キャラクターに関してはかなり消極的、あるいは、メディアミックス志向が極端に強いという特徴がある。ほとんどが原作付きの既存キャラクターであり、完成品フィギュアとの競合や、原作放映タイミングに合わせた強引な売り方といった問題も懸念されている。その観点で見ると、原作やマルチメディア展開を伴わない「30MM」「30MS」のアプローチは、BANDAIにとっても新たな実験であるのかもしれないが、キャラデザは旧態依然としたバトルスーツ路線のままである。
なお、BANDAIはガールプラモだけでなく、男性型プラモデルも多数発売している。他のメーカーでは、男性(型)キャラクターのプラモデルはほぼ皆無に近く、その意味でもBANDAIの継続的な取り組みは高く評価されるべきだろう。内容面では『DRAGON BALL』、『STAR WARS』、『仮面ライダー』、『鬼滅の刃』など、有名タイトルに絡んだものが多いが、そうした大舞台で成果を挙げてプラモデル人口を増やしていくことにも、大きな意義があるだろう。
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