2015/06/25

「ロードムービー」的美少女ゲーム

  「ロードムービー」美少女ゲームの困難と可能性。


  映画をモデルにしてロードムービー的美少女ゲームを夢見るクリエイター/ユーザーはそこそこいるようだが、実現させるためのハードルは多い。最大の問題は、1)コスト面(とりわけ背景画像)のようだが、それ以外にも問題は多い。たとえば、2)人物の増加(≒立ち絵の増加)という問題。3)各土地での人間関係をどうするのか(その都度切り捨てていくのか、それともどんどん累積していくのか)。4)BGM制作のコスト(各土地の雰囲気を出すために、別個のBGMを用意することが期待されるだろう)。等々。いずれの点に関しても、AVG作品(とりわけ白箱系)には難しい問題になる。

  人間関係の問題についていうと、ダーク系の作品ならば、その都度置き捨てていくという形でも構わないだろう。あるいは、SLG作品であれば、累積させていくことができる。つまり、使用可能ユニットとして置いておけば、AVGパートで一々登場させずとも、そのキャラクターの存在をプレイヤーに意識させておくことができるからだ。しかし、純愛系AVGでは、一般的に、その扱いは非常に難しくなると思われる。

  人物の増加についても、おおむね同じような傾向がある。黒箱系では、一般的に、立ち絵差分変化がそれほど重要視されないので、キャラクター増加(=立ち絵増加)とスクリプトワークのコスト増大はそれほど過大なものにならない。SLG作品でも、立ち絵スクリプトはそれほど重視されないことが多い。それは、AVGパートそれ自体が独自の形式をとっているという場合もあれば、AVGパートの質的重要性が低いので簡略化されたままでもよいという場合もあり、あるいはAVGパートの量的ウェイトが小さい(つまり短い)のでコスト増加がそれほど大きくならないという場合もある。極端な場合には、「比較的短いAVGパートの大半が、立ち絵ではなく一枚絵で進行する」というタイトルもある。しかし、一般的な白箱系AVGのあり方を基準に考えると、キャラクターの増加(によるコスト増大)の問題も、それらの出入りを管理するフラグ上/描写上の問題も、かなり大きくなる。

  AVGの枠組でロードムービーを実行することの意義は、確かにある。例えば、テキストを潤沢に投入できるので、各土地について、その導入(紹介)から個別事件までを丹念に描ける余裕があるというのは、潜在的なアドヴァンテージだろう。アニメやLNでは、そうした余裕はなかなか取れないが、美少女ゲームならばやれる可能性がある。……ただし、実際に成功した作品はほとんど無いけれど。

  フルプライス級AVG作品でいうと、ロードムービーものの典型例たる『SEVEN-BRIDGE』は、後半で駆け足展開になってしまった。『BE-YOND』(1996/2000)、『ヤミ帽』(2002)、『黒の図書館』(2003)のような異世界周遊ものは、成功例と呼ぶに十分値するが、制作コストがそれほどかからない時代の作品だった。『キラ☆キラ』(2007)は、各土地の描写があまりにも平板で、ロードムービーをやる意味がほとんど無いようなものだった。

  ロードムービー的アプローチの実現可能性が最も高いのは、そしてそのアプローチを最も数多く成功させてきたのは、やはりSLG系作品だろう。Escu:deの『英雄×魔王』、ソフトハウスキャラの『うえはぁす』、Eushullyの『空帝戦騎』、等々。ゲーム内容に大きな(視覚的/機能的)変化をもたらすことは、SLG作品が単調さに陥らないために、システムによってほとんど強制的に求められていることでもあり、そのことがしばしば、主人公(プレイヤーキャラ)たちを長路の旅程に駆り出すことになり、そして地理的ヴァリエーション創出へのコスト支払いを正当化する。ただし、そうした地理学的多様性は、主としてSLGパートで表現されるものであり、AVGパートがそれを担うことはあまり期待されない。また、ACTやSTGジャンルも、その性質上、比較的大きな空間的(地理的)移動を含むものが多い。『トマランナーズ』『あおぞらマジカ!!』『ぶるにゃんマン』も、長い旅を楽しめる美少女ゲームだ。

  純AVGの形式で、なおかつコスト面の問題を考慮しつつ、旅を描こうとする時、一つの可能性がある。短編というアプローチだ。狭い町内を二人+二匹でゆっくりと散策する『ワンコとリリー』が、その稀少な成功例となっている。