2015/12/13

ソフトハウスキャラ作品におけるゲーム進行の振れ幅

  ソフトハウスキャラ作品が、ゲームパートの変化の大きさと、イベント進行の自由度の双方を、いかに確保しているかという話。


  週末には『勇者砲』が届くので、すぐにプレイできるように仕事の進行を調整しておきたい。

  『巣作り』はオート防衛戦と長期的な配下育成があり、街攻撃はあえてしなくてもよい補助的な機能だった。「街」を攻撃するとフェイが動き出し、また「城」をぎりぎりまで削ってルクルを捕獲するというイベントも埋め込まれていたが。『門』では、全体のターン制限(プレイ期間)がタイトなうえ、敵の侵攻も比較的激しく、それに対して侵攻ペースを調整する寝技として、ターンコマンドが位置づけられていた。また、こちら側から相手側の拠点を直接攻撃する手段は用意されていなかった。そして『勇者砲』は、体験版を見た感じでは、敵拠点を能動的積極的に攻撃していくゲームということになりそうだ。おそらく、個々の拠点を攻撃し撃破していくことが、個別イベントのフラグになっており、また、ゲーム全体の物語的進行も個々の拠点撃破フラグに沿って直線的に展開されていくものと推測される。イベント管理としては、『BB』シリーズのダンジョン選択に近い形になりそうだ。拠点毎に侵攻ユニットの大枠が決まっているようなので、ゲームの難易度もコントロールしやすいだろう。ターン制限があるかどうかは分からないが、『雪鬼屋』『門』『アウトベジタブルズ』のようにシビアな難易度になるか、あるいは、プレイスタイルによる変化の幅を大きく取らないデザインになりそうだ(――ちなみに、『巣作り』では恐怖度でほぼ一元的に管理されていたため、プレイスタイルによって劇的に変化する。他方で『門』は、ほぼ決まったペースで敵戦力が増強されていったと思う)。


  状況変化の振れ幅の大きさという観点では、「ゲームパート(SLGパート)が、プレイスタイルによってどれだけ振れ幅大きく変化しうるか」、「物語展開(AVGパートの本筋)が、固定的であるか、それとも自由度が大きいか」の二軸で整理することができる。物語展開については、さらに「本筋イベントとサブイベントの比重はどうか」「必須イベントがどれだけあるか」「ラストイベントが固定的か否か」などの点で細かく分類することもできるが、とりあえずは大雑把に捉える。

x物語展開は自由
(本筋が強くない、あるいは
分岐自由度が大きい)
物語展開は固定的
(本筋が決まっている)
ゲームパートは自由
(裁量変化の余地が大きい)
『海賊王冠』『真昼』『アルフレッド学園』『ブラウン通り』『巣作り』『南国』『グリンスヴァール』『Wizard's』『DAISOUNAN』『忍流』『悪魔娘』『DC』『雪鬼屋』『BB』『BB2』『BB3』
ゲームパートはシンプル
(大きな変化は生じない)
『門』『葵屋』『うえはぁす』『LJ』『王賊』『アウトベジタブルズ』

ストーリーレベルでほぼ一本道なのは『王賊』『アウトベジタブルズ』であり、逆に『真昼』『巣作り』『南国』などはイベントの枝分かれや複数イベント(複数のヒロインイベント)の同時併行進行の度合いが大きい……というかそもそも「本筋」と言うべきものがほとんど設定されていない。『海賊王冠』『ブラウン通り』『LJ』は、本筋進行がそれなりに明確でありながらゲームパートの進め方にはかなりの自由度があるという中間路線。『DC』『Wizard's』『雪鬼屋』は、個々のプレイは比較的自由にできるが、周回モード変化というメタレベルで大筋の進行制御を行っている。
  こうして振り返ってみると、周回モード変化を活用したのは主に2005-2011年頃であり、また、ステージ区分(『アウトベジタブルズ』)や短めのターン制限(『門』『悪魔娘』)によってゲームバランスの維持を図るのは近年のアプローチである。ターン制進行システムの大枠を定めてその中で自由な展開を可能にするやり方は、初期から度々用いられてきたが、AVGパートの密度を維持するのが難しいという問題が近年の『門』『悪魔娘』で露呈した。

  何度も書いていることだが、SLG+AVGであるにもかかわらず、固定的直線的な進行を持たず、ターン進行ルーチンの上に複数(大量)のイベントフラグチェーンを乗せていくという形で実現されているこの自由度は、ソフトハウスキャラらしい(他ではなかなかお目にかかれない)ユニークな特徴だろう。元々はサイトのリメイク論」(SHC作品通史)で、『ブラウン通り』『LEVEL JUSTICE』について述べたことだが、この指摘は現在に至るまでSHCのゲーム作り全般の特徴として妥当すると考えている。



  作品毎に、物語展開とゲームパート展開を、もう少し詳しく補足しておこう。

  1. 『葵屋まっしぐら』(2000)
  1週=1ターンの進行。季節毎のイベントが多いので、とりわけ前半では本筋進行が比較的分厚い。といっても、あくまでSHCの中での比較だが。AVGパートでは個別ヒロインへの択一的分岐が生じる(――フラグ上の排他性というよりは、進行上の事実上の択一化だが)。
  SLGパートは、毎ターン、6種類のコマンドの中から一つを選んで実行するもの。パラメータ変化も少ないし、ターンコマンド以外にはプレイヤーの意志で決定できることは非常に少ない。後継の『雪鬼屋』は、ターンコマンドを無くして、代わりに施設建設と周回モード変化を導入したようなものと考えればよい。

  2. 『うえはぁす』(2000)
  ステージ制で、プレイ内容によって後半は章単位の分岐を生じる。これによって物語進行が明確に道筋づけられている。エンディングのヴァリエーションは多い。なお、章構成を採っているのは本作と『アウトベジタブルズ』のみ。ただし、『DC』『雪鬼屋』のように周回モード変化でゲーム進行を切り替えたり、『DAISOUNAN』『忍流』のように一プレイの中での段階的変化を生じたりするタイプもあるが。
  SLGパートは、ダイスの代わりに手持ちのカードを切って移動する特殊ルールの逃走すごろくで、ゲームパートの全体マップは同一だが、章毎に移動できる範囲が異なっているため、飽きが来ない。成長要素なども無いので、ゲームパートでは、プレイヤー毎の振れ幅が大きいとは言いがたい。もちろん、すごろくの中での手筋変化は無数にあるのだが。

  3. 『海賊王冠』(2001)
  終盤展開は一つに決まっており、最終決戦も同一。それゆえ、大きく見れば、(エピローグイベントのヴァリアントはあるものの)一本道進行だと言うこともできる。しかし、中盤まではきわめて自由であり、多数のサブイベントを任意のタイミングでこなしていけばよい。ただし、桃花イベントは、救出成功にターン制限があったと思う。節目の固定イベントとしては島掌握があるくらいか。いずれにせよ、本編進行は自由(または共通)にしておいて、エピローグ部分でヒロイン別の分岐を表現するという手法を、本作以降、SHCは度々用いている。
  SLGパートは、商船襲撃ゲーム。ターン制限が無いこともあり、戦力強化や資産蓄積などを好きなだけ行うことができる。

  4. 『真昼に踊る犯罪者』(2001)
  999ターンまでプレイできるが、通常のプレイではほぼ無制限と言ってよい。前作『海賊』と同様に、中盤から終盤のイベント(鬼封印~ルネリア戦~霧姫戦)はほぼ固定されており、その意味では一本道進行のようである。ただし、999ターン経過によるエンディングもあるので、絶対必須というわけではないが。また、本筋イベントはそれほど大きなものではなく、むしろ依頼実行によるサブイベントや、リーダー配置回数によるヒロインイベント進行(同時進行可能)を楽しむことにウェイトが置かれているので、物語展開の振れ幅はかなり広い。
  SLGパートは、ランダム依頼を実行しつつ、支援者たちを収集し育成していくもの。資金も、やり方次第でかなり稼ぐことができる。後継の『DC』も同じようなスタイル。

  5. 『アルフレッド学園魔物大隊』(2002)
  これも、いくつかの節目となる必須イベントがあり、終盤展開も固定されているので、ストーリーは一本道進行である。ただし、大量のサブイベントにこそ眼目があるという点で、この時期のSHC作品の典型となっている。
  ターン制限は、設定されていないようだ(――たしか700ターンくらいプレイした憶えがある)。365ターン以上プレイできるが、進級や留年のイベントがあるわけではない。SLGパートでの変動要因は、配下ユニットのレベル、所持アイテム(様々なフラグにもなっている)、蓄積魔力がある。

  6. 『ブラウン通り三番目』(2003)
  3年間(4週×12月×3年=144ターン)の経営SLG。秋季の売上競争のような季節限定イベントがあるが、AVGパートは中盤まではかなり薄味。しかしゲーム後半では、リズィイベント(ルート)とマーチェリッカイベント(ルート)がはっきりと択一分岐する。ゲームの中核部分はあくまでSLGパートだが。3年の期間経過によって、いずれかのエンディングになる。
  SLGパートは、プレイスタイル次第で、そしてランダム要素の影響で、かなり大きく変動する。所持金などが、AVGパートの分岐にも影響するが、施設建設や在庫管理などは最初から最後まで無制限に行える。

  7. 『LEVEL JUSTICE』(2003)
  敵側ヒロインたちが順次登場し、SAFE設立に至り、そして博士との最終決戦に至るまで、本筋進行は一本道。サブイベントは、このブランドにしてはそれほど多くないので、ストーリー展開はかなり固定的だと感じられる。ただし、個々のヒロインのイベント進行度合いによってエピローグイベントが決まり、しかもそのED数はかなり多い(10種)。エンディングは、ヒロイン個別エンディングもいくつかあるが、そうではない内容のものも多いのが特徴的。
  SLGパートは、配下ユニット育成、資金(コイン)蓄積、地域支配度などがあるが、全体としてはそれほど複雑なものではない。

  8. 『巣作りドラゴン』(2004)
  SHCの知名度を飛躍的に高めた傑作だが、作品規模はそれほど大きくはない。物語状況の意味づけを大きく変化させるようなイベントは少なく、リュミスたちやルクルたちの会話イベントもごく軽く挿入されているのみである。しかし、エンディング分岐はかなり大きい。エンディングでは、個々のヒロイン毎のエピソードを順次提示しているのが興味深い。それぞれ一定のフラグを満たした場合に、ヒロインたちのエピローグイベントを、非-排他的に累積表示していくというこの方式は、本編進行で個別ヒロインのイベントを非択一的に並列進行できることと平仄を合わせるものであり、のちに『王賊』『忍流』でも採用された。
  SLGパートは、施設建設や配下育成が自由に行える。個別ヒロインのイベントは、基本的には会話コマンド実行回数に依存しており、SLGパートの状況はあまり影響を与えない。とはいえ、フェイやドゥエルナをダンジョン撃破したり、施設建設等に消費した金額がクーEDの条件だったり、ルクル捕獲をSLGパート上の街攻撃で行ったりするといった要素はある。

  9. 『南国ドミニオン』(2005)
  自由をきわめた無人島生活SLG。本筋のごときものは、序盤を除けばほぼ存在しない。遺跡発見や、全員揃ってのレクリエーションなどの、比較的大きな個別イベントはあるが、ストーリーを構成するようなものではない。ヒロイン(及び男性キャラたち)との会話回数等によって、イベントは個別に進行していく。排他イベントや択一進行のようなものはほぼ存在しない。

  10. 『Dancing Crazies』(2005)
  システムの大枠は『真昼』に類似する。二犬イベントから、出題者、そして最終決戦まで、物語の本筋は一本道に決まっている。本編のプレイ内容によってエピローグが分岐するのも同じ。同社作品の中では、(一本道の)本筋展開のプレゼンスが最も大きいタイトルの一つである。特徴的なのは、周回モード変化を導入した点だろう。『巣作り』でも、プレイ期間の延長という形で事実上のモード変化を実装していたが、本作ではゲーム開始時点でいずれかのモードを選択するという明確かつ縦割りのモード変化を採用した。ただし、本筋進行の大枠が変化するわけではなく、味方加入イベントが早回しになっていたり、出題者関連などの追加イベントがあったりする程度。
  SLGパートは、ランダム性の強い賞金首捕獲依頼を実行していく。できることは限られており、全体としてはわりと単調だが、配下収集や装備選択などの変化はそれなりにある。

  11. 『グリンスヴァールの森の中』(2006)
  モード変化がヒロイン別攻略と結びついた。すなわち、個々のモードで、イベント進行してエンディングを迎えられるヒロインと出来ないヒロインとがある。ただし、本編中のイベント進行は、ヒロインとの会話回数や、対応する施設建設等をフラグとして進んでいくという伝統的な形。また、ヒロインイベントの進行状況と、全体状況との間の関連も、ほとんど無い(――そのような連関があるのは、最初期の『うえはぁす』くらいのものだ)。
  SLGパートは、かなり自由に施設建設することができる。ただし、収支がそれなりにシビアなので、あまり無茶はできない。

  12. 『王賊』(2007)
  ゲーム進行は明白な一本道。実行しなくてもよい脇筋ミッションがいくつかあるという程度。ストーリー進行が決まっている分、イベント(テキスト)の密度はなかなかのもの。エンディング(エピローグ)イベントは、個々のヒロインイベントが、それぞれの進行度合いに応じて並列的に累積表示されていくというユニークな形。
  SLGパートは、配下ユニットの雇用及び育成がある。

  13. 『Wizard's Climber』(2008)
  ゲームの目標(大会優勝)はあるが、本編中では、本筋と呼べるようなものは希薄である。モードの種類は多いが、キャラクターの出現が早められたり、脇筋イベントが増えたりする程度であり、けっして大掛かりなものではない。
  メインヒロインを育成するゲームなので、SLGパートはかなり大きく変化しうる。

  14. 『DAISOUNAN』(2009)
  一周回プレイの中での大きな段階的変化がある。すなわち、清倉原凪子と主人公のみの初期状態から、他の遭難者たちが合流する6人状態になり、そして執事たちが加入する9人状態になる。しかし、この大枠の中で、個別イベントはかなり自由に展開される。
  SLGパートは、『南国』と同様に、かなり自由。ただし、ひたすら無人惑星を開拓するだけなので、大掛かりな変化や状況の振れ幅は、ほとんど無いと言うこともできる。

  15. 『忍流』(2009)
  こちらも、多木衆との対決、風花党との対決で、それぞれロックが掛けられており、イベント進行もSLGパート展開も制限がある。その後はかなり自由になり、大きなイベントとしてシステン侵攻イベントと、夜月衆との対決があるが、それほど大きなウェイトを占めているわけではない。ゲームの終わらせ方には複数の経路がある(――忍衆レベルでの全国統一と、主人公を支援する大名による全国統一)。個々のヒロインのEDエピソードは併存可能であり、じっくり進めれば何人ものヒロインたちのエピソードがEDに現れる。
  SLGパートでは、忍衆としてさまざまな活動をする。ランダム要素が大きいので、ゲーム展開の振れ幅は大きいとも言えるが、しかし出来ることは限られているし活動内容は変わり映えしないので、振れ幅は小さいとも言える。ターン制限は無い。

  16/18/20. 『BUNNYBLACK』シリーズ(2010/2012/2013)
  3作品はいずれも、本筋展開はそれなりにしっかりしている。『BB1』の内紛状況や、『BB3』のルーアルテ/ミアルテとの対決もあるが、とりわけ『BB2』は三領主との対決という明確な目標があるので、ストーリーも直線的に進んでいく。
  ゲームパートはRPG。ターン制限も(『BB3』の終盤など、一部の状況を除いて)存在せず、行動の自由度は大きい。

  17. 『雪鬼屋温泉記』(2011)
  モード選択という形で、個別ヒロイン攻略があらかじめ指定されている。この点で『グリンスヴァール』『Wizard's』に似ているが、前二者よりもヒロインイベントの比重が大きいので、実際の感触はかなり異なる。
  SLGパートは、『グリンスヴァール』と同じように、自由に施設建設できる。

  19. 『門を守るお仕事』(2012)
  これもモード選択があるが、攻略規制があるのはメイベルと敵勢力側だけで、ストーリー進行にはそれほど大きな影響は無い。配下ヒロインズは、会話コマンド(「休暇」コマンドでの選択)でイベント進行するが、ターン制限がきついせいもあり、同時並行は困難。エンディングも、イベント累積ではなく、いずれか一人のヒロインに決まる。
  ゲームパートは、ユニット育成と、多少の防衛施設設置。『巣作り』に似ているが、実働部隊数が少ないという事情もあり、またマップ上の進行ルートが決まっていることもあって、自由度はかなり小さいと感じられる。

  21. 『アウトベジタブルズ』(2014)
  章構成だが、章単位での大きな分岐はほぼ存在しない(最終章に行けるかどうか、という程度)。本筋は、ラグドール関連イベントと最終イベントくらい。ヒロインイベントの自由度は、それなりに大きいが、特筆すべきものは無い。
  ゲームパートは、ヒロイン二人のカードレベルアップという形でシンプルにまとめられている。

  22. 『悪魔娘の看板料理』(2015)
  個別ヒロインイベントは、毎ターンの会話コマンドで進行していく。同時並行も可能だが、エンディングはいずれか一人のヒロインの択一。
  SLGパートは、料理メニューの開発、店内及び周辺の増改築、交易ルートの確保などがあり、『ブラウン通り』よりも増強されている。