2018/06/26

キャラクタープラモの頭髪塗装の実験(FAG「白虎」)

  キャラクタープラモの頭髪表現をリアルにする塗装の実験。
  素材としてKOTOBUKIYA:フレームアームズ・ガール「白虎(BAIHU)」ほかを使用。
  ※追記:FAG「フレズヴェルク」「グライフェン」の塗装例も掲載。


  【 はじめに:問題意識 】

  プラモやフィギュアでは、頭髪塗装は「ツヤ消しの単色」または「グラデーション」にしているのが通例だが、現実の人間の頭髪はけっしてフラット(ツヤ消し)な均一面ではない。フィギュアがツヤ消しにしているのは、光沢によってスケール感がずれる(リアリティから逸脱する)のを避けるためという一定の合理性があると思われるが、それは消極的な対処にすぎず、それと引き換えにして、つややかな頭髪の魅力を失わせている。現実の人間の頭髪は、極細ストリングの束であって、以下のような見え方をする。
- 髪の流れている向きに沿って、無数のスジ状の凹凸と陰影がある。
- ある程度近づいて見ると、光沢が認識できる。いわゆる「天使の輪」まで見える場合も。
- 房のように適度な変化があり、それが光の反射角度の違いにもなっている。
- 髪を染めている場合は殊更、濃淡の違いが出やすい。
- メッシュを入れる場合もある。

  このような髪の毛らしさを、キャラクタープラモやフィギュアで再現するには、どのような方法があるだろうか。現在の市販製品では、単色塗装か、せいぜいグラデーション塗装が一般的であって、凝った頭髪塗装が施されているものはほとんど無い。近年盛り上がりつつある美少女プラモの分野でも、頭髪の造形がかなり細かくなってきているものの、ユーザーサイドでは1)ツヤ消し処理、2)グラデーション塗装、3)スミ入れ、4)立体に合わせた陰影塗装、といったあたりが通例だろう。だが、それらのいずれも、頭髪の質感やボリューム感、柔らかさ、複雑な色合いを表現するには至っていない。頭髪表現をリアルにする方法は、他に何か無いものだろうか。


  【 アプローチ:頭髪のラインを表現する多色塗装 】

  こうしたことを考慮して、頭髪の質感表現について、以下のようなアプローチを考えている。
1) 同系色で、濃淡の異なる複数の塗料を用意する。
2) ベースカラーとして、全体を濃いめに塗装する。
3) 筆塗りで、明るめの色で縦のラインを描いていく。髪の毛の流れるラインや、表面の凹凸、あるいは場合によってはメッシュなどを表現するように、不規則に線を描いていく。

  このように塗装したら、「髪の毛の『線』としてのリアリティがあり」、「髪の流れる動きがはっきり見て取ることができ」、「頭髪が重なっている厚みを表現し」、「表面の微細な凹凸やうねりを立体的に見せ」、「彩りも豊かになる」ような頭髪表現にならないだろうか。言ってみれば、立体物としての頭部に、2Dイラスト着彩のような表現を施すということだ。

  スケールモデルの乗員フィギュアのような短髪だと、パーツそれ自体が複雑な凹凸と頭髪の流れを表現しているので、単色塗装とスミ入れくらいでも髪の毛の質感がうまく表現できる。しかし、美少女フィギュアの多くは、スジ彫りすら存在しない、単なる球面の頭髪であることが多い。高額なフィギュアや、長髪(ツインテールなど)では、ラインやうねりが表現されている場合もある。

  ただし、わりと簡単に思いつきそうな手法なのに、このアプローチで塗装された作品を見たことは無い。完成品フィギュアには、見かけることがあるが(※例えば「SH Figuarts」の海外映画ものの製品は、頭髪のディテールを細やかな筋彫りで立体的に造形し、さらにそれらを濃淡でしっかり塗り分けている)。もしかしたら、実際にやってみたらうまくいかない(望んだ効果が得られない)のかもしれない。そもそもこの手法が有効なのかどうかを確かめるためにも、実際に塗装を試してみたい。もしかしたら、フィギュア界隈では何十年も前から行われていた(そして廃れた?)オールドファッションな手法なのかもしれないが、あらためて現代美少女プラモに対する適用可能性を試してみてもよいだろう。

  なお、考えられるもう一つの方法として、ドールウィッグを被せるというアプローチもありうる。その場合は、極細ストリングの束としての頭髪の再現度は高まると思われるが、髪型をセットするのが難しいとか、なまじ同じ形状であるがゆえにかえってスケール感のギャップが露呈する(ミニチュアプラモならではの「見立て」が成立しない)とか、塗装が難しい(特定の頭髪色にするのが難しい)といったような問題があるかもしれない。
  工作それ自体は単純だろう。プラモやフィギュアの頭髪を削って坊主状態にして、市販ドールウィッグを流用すればよい。ただし、ヘアスタイルを整えるのは難しい。


  【 実験:市販キャラクタープラモの頭髪塗装 】

  素材として、KOTOBUKIYAのプラモデルキット「フレームアームズ・ガール 白虎(BAIHU)」を使用した。最新のクオリティの美少女プラモ製品であり、おおぶりなツインテールは今回の実験にもふさわしいだろう。

  色彩コントロール。モノクロの茶髪ではなくメッシュ表現を目指す場合は、使用する色はブラウンではない。ブラウン(赤系統)ではなく、むしろブラックとイエローが基本になるだろう。濃い部分はブラックに近いくすんだ色、おそらくマホガニーあたりが適当だろう。色の明るい部分も、ブラウン(ライトブラウンなど)ではなく、イエローを基調にして調色すべきだろう。

1) ベース色はMr.Colorシリーズのマホガニー。頭髪全体をフラットに塗装する。
2) クリアイエローを適量、タンを少量混ぜて、やや明るめの色を作る。頭髪の流れる向きを際立たせるように、縦のラインを適当に描き込んでいく。
3) さらにタンを混ぜて、最も明るい色を作る。かなり粗めに、メッシュ感を意識しつつ、適当にラインを描き込んでいく。
4) 色調を整えるため、エナメル塗料のウッドブラウンで全体をウォッシングする。
5) 最後にツヤ消しを吹く。

  頭髪塗装に関して言えば、奥まったところに暗い色を入れるのが「スミ入れ」だ。私が今回試みるのは、スミ入れと逆のアプローチだと言ってもいいだろう。頭髪の盛り上がっているハイライト部分や、頭髪先端のボリュームが薄くなっている部分、ウェーブが軽く広がっている部分、メッシュを入れている重なりの部分などに、明るい色を乗せるアプローチなのだから。もちろん、スミ入れと併用してもよいが。

  私はラッカー塗料をエアブラシ吹きつけで塗っているが、それ以外のアプローチもあるだろう。例えばシタデルカラーやファレホ、美術用水性アクリルなどで適当な色を選んで筆塗りしてもよいと思う。いずれも、伝統的なスケールモデルとは異なったラインアップだし、色のヴァリエーションも豊かだし、重ね塗りによるグラデーション表現も可能だし、乾燥が遅いので筆塗りにも向いている。ピンポイントで気に入った色の瓶を1~2個買って筆塗りするというのも一案だろう。


  【 実例紹介:塗装写真 】

キット成形色では、頭髪色はピンク色。合わせ目処理のため、パテで一部修正しているが、全体のディテールはキットのままにしている。
頭髪全体をマホガニーで塗装。ツインテールの凹凸がうまく造形されているので、このままでも髪の毛の流れは把握できるが、いささか重たく感じる。
最後まで工程を終えた状態。多少軽みが出たが、この写真では全体の印象はあまり変わらないかも。
接写で。頭髪部分はこのように塗装している。筆での塗り分けが雑に見えて、いささか興を削いでいるかもしれない。極細面相筆でもっと細く繊細なラインを描けば、頭髪らしくきれいに見えるだろうか。
背景を変えて、ついでに眼鏡(ステンレス製エッチング)を掛けた状態で。撮影の仕方によっては、このくらいに頭髪の描き込みがはっきり写る。

ヘルメットを脱いだ状態で。マホガニーのベース塗装をした段階。これでも悪くないが、特に前髪がのっぺりとし過ぎている。
ライン塗装を施した状態。前髪部分の単調さ が解消された。髪の毛の流れている感じも、多少は強調されただろうか。メッシュ表現はかなり控えめにとどめたが、明るい色のラインをもっとはっきり描き込めば派手なメッシュ感も出せるかも。
頭部全体を接写で。ベース塗装を含め、3色で塗り分けている。近づいて見るとかなり作為的な塗装に見える。ただし、上のように多少距離を取って眺める分には、マシに見えると思う。
適当に距離を取って。頭髪の立体感が強調されて、彩りの豊かさも増したと言ってよいだろう。筆塗りで適当にラインを描き込んでいくだけなので、たいした手間は掛からない。
やや近めの距離で撮影。こちらも、撮影時のセッティング次第で、頭髪塗装のディテールがはっきり見える。このアプローチは、どこからどう見ても常に完璧というわけではなく、距離や照明によって見え方(リアリティ)が大きく変化する。見せ方(写し方)が難しいと言えるかもしれない。
背面写真。ツインテールの流れに沿った縁取りが出来ているし、後頭部も頭髪の向きが見て取れるようになっている。このスケールだとツヤが質感を壊してしまいかねないので、完全なツヤ消しにしてもよいかも。
全身写真。イエローを弱めて、クリアブルーを軽く吹き付けるくらいにすると、設定画の雰囲気に近づけられるかもしれない。


  【 感想 】

  少ない手間で、それなりに効果を挙げられる手法かなと思う。

  メリットは:
- 筆塗りでラインを描き込むだけなので、手間は掛からないし、技術的にも容易。
- 同系統の塗料を多少変化させるだけなので、調色も容易だし、修正も比較的簡単。
- 頭髪のリアリティを増すことができる(明るさ、流れやうねり、梳けた感じなど)。
- 頭髪部分に彩りが増すので、単調さを消して、見どころが出来る。
- 微細なグラデーションとして使ってもよいし、メッシュ表現にすることもできる。
- もっと細いラインで、縦の筆跡をつけるだけでも、一定の効果はあるだろう。

  ただし、デメリットもあると思う。
- キットの造形がフラットだったり直毛だったりすると、かえって悪目立ちしかねない。
- キットの頭髪表現がきれいでない場合にも、自然な流れを描くのが難しい。
- 接写で見ると、作為的に見えてしまうかもしれない。制作目的次第だが。
- 黒髪(真っ黒)や金髪など、ものによっては色彩のコントロールが難しい場合もありそうだ。
- 筆塗りで、しかも面ではなく線で塗るので、塗料の濃度調節が難しい。

  頭髪パーツがのっぺりしているものは、このアプローチでうまく塗装するのは難しいだろう。平たい面を無理に塗り分けしようとしても、おかしな模様のように見えてしまうかもしれない。髪の毛の流れる向きに合わせて軽く筆跡をつけるくらいがせいぜいだろう。
  それに対して、適度にディテールがあり、髪の毛の房まで表現されているフィギュアやプラモであれば、筆塗りでハイライトをつけていくと造形上の個性が引き出せそうだ。KOTOBUKIYAのキャラクタープラモだと、例えば「ロードランナー」あたりが、この頭髪塗装に適していると思われる。広がった癖毛パーツを重たく見せてしまわないためにも、多色塗装は役立ってくれるかもしれない。あるいは、BANDAIの『DRAGONBALL』プラモシリーズで、逆立った髪の毛を多色塗装すれば、かなり迫力のある作品になりそうだ。

  ツヤの有無は、どうしたらよいだろうか。私見では、ツヤ消しの方がよい。塗装によって描き込んだラインと光沢の広がりとがズレていると、ライン塗装の自然な説得力が損なわれるからだ。このアプローチでは、ツヤ消しコーティングをしてライン塗装をはっきり見せる方が、効果的だろう。

  市販フィギュアやモデラーたちの塗装制作に際して、このようなアプローチが採られていない理由も、なんとなく想像がつく。このまだらな多色頭髪塗装は、近づいて凝視した時に、あまりきれいには見えない可能性があるからだ。それよりもむしろ、デリケートに調整された魅力的な色合いや、心地よく変化するなだらかなグラデーションの方が、鑑賞に堪える充実したクオリティを持っているのだ。塗装の手間やコスト、あるいは頭髪表現の追求といった要素よりも、美意識に基づく選択なのだと考えるべきだろう。「リアリティ(ただ単に現実を模倣しようとすること)」よりも「美しさ(模型独自の創造的な美)」を重んじているという意味では、現在のフィギュア界や模型界は、好ましい状況にあると思う。


  【 追記1: FAG「フレズヴェルク」での実験 】

同シリーズのフレズヴェルク駒都えーじによるキャラデザを反映して、頭髪表現はFAGキットの中でも飛び抜けて念入りに造形されている。毛先もほっそりと鋭く、とりわけ前髪は立体的に出来ている。左記写真は、下地としてミディアムブルーを塗装した状態。
エアスペリオリティーブルーで適当に筆塗りした。単調になるのを避けるため、ASブルーにクリアグリーンを少量混ぜて使ったり、ホワイトを混ぜて塗ったりしている。
バイザーのようなものを装着した状態。なんだか背景から浮いて、イラストのようにも見える。
側面から。ヘッドセットを装着しているキャラクターでは、人工物部分の質感と頭髪部分の表現とがぶつかりあってしまう可能性がある。
左向きの側面。この写真では、頭髪表現はわりときれいに見える。
背面から。後頭部はのっぺりした広い面になっていることが多く、下手に線を入れると、かえって作為的に見えてしまう可能性がある。今回も、後頭部はあまりうまく出来なかった。ヘッドセットのおかげで多少誤魔化しが利いたが。
頭頂部から放射状に描線を広げるように描いている。つむじの表現はわりと良い感じになった。海外の(洋画ものの)フィギュアのような印象もある。
頭部だけを接写すると粗が見えてしまうが、このくらいの距離で鑑賞(or撮影)すると、描線の密度と濃淡の混ざり具合が、ほどよくリアルに見える……と思いたい。
参考までに。無塗装状態(キットパーツのまま)では、このような色合いになっている。動かしたり組み替えたりして遊ぶことが重視されているので、無塗装のままで楽しんでいるユーザーも多いだろう。

  筆塗りによる頭髪表現にも慣れてきたし、長所と短所も見えてきた。
- ベース色の上に、筆で塗り重ねていくだけなので、作業自体は簡単。
- 描線は上からでも下からでもよい。
- かすれが出ると頭髪らしさが無くなるので、多めに溶剤を混ぜて、さっと描いていく。
- できるだけ細く。極細の面相筆を使って細く描いていく。
- 線の端が丸まってしまうのは良くない。両端がスッと消えるように。
- つい等間隔にしてしまいがちだが、これもNG。できるだけばらつきを出すように。
- 影になる部分(凹部分)は、下地の濃い色を残しておくと、立体感が出る。
- 輪郭を取りたい部分は、明るい色で線を描くと良い。
- 毛先(下端)は迷う。暗い下地色が良いが、あえて明るい色にして軽みを出すのもアリか。
- 後頭部のような広い面では、粗が出やすい。ショートカットキャラの方が楽。
- 下地色は、同系色であれば、かなり濃い(暗い)色でもよい。
- 上に塗る色は、1色で十分。
- 上塗りは、複数の色でもよいが、やり過ぎるとクドくなる。1つの色で8割方塗って統一感を。
- ハイライト(天使の輪)を表現するようにするとよい。
- つむじがきれいに描けると、ぐっとリアリティが増す。

  要するに、美術(2D絵画)の手法を立体物に持ち込んでいる。だから、普段から目にするネットのイラストの描き方などを参考にすればよい。今回のように、設定画が存在する場合には、それを見ながら塗装するのもよい。
  ただし、上の写真を見ても分かるように、写真に撮ると、本当に絵のように見えてしまう(立体物のように見えない)。写真映えのためではなく、実物を鑑賞するためのアプローチだと割り切るべきだろうか。

  キットの頭髪それ自体がのっぺりしているという場合は、ケガキ針などのスジ彫り工具でラインを作ったり、薄いプラ板や適当なシールを短冊状(細長い紡錘形)に切って貼り付けたりすれば、多少は立体感が増すかもしれない。実際、プラ板で髪型を改修するモデラーはいる。


  【 追記: FAG「グライフェン」で 】

同じくFAGシリーズのグライフェン。下地にパープルを塗って、その上に「ホワイト+パープル少量」を筆塗りした。このアプローチは、2色で塗り分ければ十分だろう。場合によっては、ハイライトなどに3色目を使ってもよいかもしれない。
上側から。おおまかにでも、つむじが出来るように線を引いていくのが良さそうだ。要するに、下地の暗い色を、まばらな線として残すようにすれば、それらしくなる。
前髪はいつも通りのアプローチでよいのだが、ロングヘアや細いフサは難しい。面積の大きい部分では、髪の流れをきれいに表現するのが難しいし、細いフサではほとんど効果が出ない。もっとも、グラデーション塗装でも、ロングヘアの流れや軽みを表現するのは困難だが。
「グライフェン」で別のアプローチを。エッチングソーで筋彫りを入れた。あまり深く彫り込まず、表面に軽く筋を入れるだけでよい。ツヤツヤのグロス塗装に光が反射して、サラサラの髪筋が浮き上がる。黒髪の場合はこれで良いと思う。
後頭部。後ろ髪も同じく、縦のラインを薄く彫り込んだ。写真で見ると作為的な傷のように見えてしまうが、実物を適度な距離で見る分には、流れるようなきれいな髪筋に感じられる。ただし、癖毛キャラや複雑な造形の頭髪パーツには使いづらい手法だろう。


  【 参考:メガミデバイス「朱羅」 】

参考写真。KOTOBUKIYAのメガミデバイス「朱羅 忍者」のキット。頭髪には、髪の毛の流れを表現する溝彫りが多数造形されている。これはこれで、頭髪部分のディテールを増すうえで効果的なアプローチだろう。ユーザーサイドでも、キャラクタープラモにこのようなラインを彫り込むことは可能だ。