2014/03/06

一枚絵の配分

  ゲーム全体の中での、一枚絵(イベントCG)の配分についての、おおまかな話。


  (2014/03/06)

  全体で30時間掛かるAVGで、仮に90枚の一枚絵と15枚のSD絵があれば、一時間平均で3.5枚の新規CGを見られる――言い換えれば約17分に一枚の新規CGを見られる――筈なのだが、実際にはなかなかそうはなっていない。特に白箱系の中盤進行では、立ち絵シーンばかりが延々続くというのもちっとも珍しいことではない。

  それではどこにCGが使われているかというと、序盤のキャラクター初登場時と、それから(黒箱系と同様に)アダルトシーンで集中的に使われている。いわゆるHCG率は、近年の学園恋愛系タイトルでも40%~50%になっていたりするし、一つのシーンで2枚も3枚も贅沢に投入される。アダルトシーンが連続するところでは、一枚絵は一時間に5枚も6枚も急激に消費されていく。その分、他のシーンの一枚絵頻度が低くなるのはやむを得ないことだ。

  このような偏りは、いびつだとして批判されるべきだろうか? 私見では、そうではない。立ち絵シーンといっても、いつも常に同じというわけではない。立ち絵画像は、TPOによって様々に服装を変えているし、表情やポーズがその場の状況に応じてくるくると差分変化していくのも楽しい。さらに重要なのは背景画像のクオリティとヴァリエーションだ。美しく見応えのある背景CGは、それ自体が独自の価値を体現している。物語に導かれて登場人物たちが新たなロケーションに立った時、新たな背景画像がプレイヤーの眼前にうち広げられる。それらはしばしば、風景写真の魅力にも匹敵する。実際にも、白箱系AVGの中盤展開は、ストーリー上も新たな場所(最も典型的には開放的な海水浴場)を訪れることが多く、そしてその場所の新たな背景画像が、物語に新たな彩りを提供することになる。

  先日から度々述べている、AVGにとっての「場」の重要性は、ただ単に観念的なものではなく、背景画像という具体的な現れによって担われている。一枚絵の枚数や出現頻度のみでは、AVGの視覚表現全体の密度を測ることはできない(――このことは以前にも述べた:演出技術論の註23を参照)。

  もちろん、一枚絵も重要な見所を提供する。一枚絵(イベントCG)がAVGの華であるという支配的な認識は、ここ十数年来変化していないだろう。そして制作者がその貴重なリソースをただ漫然と配置している筈は無い。企画段階でも、そして脚本構成の段階でも、一枚絵をどこでどのように使用するか(どこでどのように見せるか)については優先的に考慮しているに違いない。以前に、特定の作品についてゲーム進行の中での一枚絵の配置状況を調べた(書き出してみた)ことがあったが、やはり一枚絵の配分――汎用性のある一枚絵の複数回利用も含めて――についてはなるほど良く考えられているものだと感心させられた。

  これは、ゲーム進行に沿って丁寧にチェックしていくのでなくとも、クリア済みのタイトルについてCG回想モードを見ながら記憶を手繰りさえすれば、その作品の中で一枚絵がどのように配置されていたかを把握することは容易だろう。そしてそれは、ゲームの構成について理解を深めていくうえでも役立つだろう。



  (2014/04/08)

  白箱系での一枚絵配分は大変だろう。例えば、ありがちなCG配分を想定してみて、

  - 共通パート(序盤イベント):2枚(※ヒロイン集合絵など)
  - 共通パート(中盤イベント):4枚

が、まず消費される。さらにヒロイン4人についてそれぞれ17枚程度、内訳は:

  - 初登場時:1枚
  - 汎用一枚絵:2枚(※日常シーンなど。背景を変えたりしながら、くりかえし使われる)
  - 個別ルートのイベント:5枚(※重要イベントや告白シーンなど)
  - アダルトシーン:4シーンで計9枚(※近年の白箱系では、平均してこのくらいか)
  - エンディング(エピローグ):1枚

  最低限、このくらいは使いどころが決まってしまう。言い換えれば、このあたりに一枚絵をきちんと投入しておかないと、プレイヤーの目にみすぼらしく見えてしまう危険が出てくる。これだけですでに、(2+4)+(17*4)=79枚になっている。

  後は、主人公やサブヒロイン、敵キャラ、過去回想、グランドフィナーレルートなどに10枚も配分していれば、もう制作規模から調達可能な枚数の上限に達しており、ほとんど余裕は無くなっている。これではきついだろう。もっとも、頑張って枚数を増やす以外にも、SD絵を多用したり、ヒロインを一人減らしたり、サブヒロインの一枚絵/立ち絵をコストダウンしたり、あるいはアペンドディスクを別売りして枚数増量分を賄ったりと、いろいろな対処法はあるのだが。



  (2014/12/20)

  近年の作品から、いくつか事例紹介を試みてみよう。サンプリングは、ただ単に私の手許にあって確認できる最近のタイトルというだけの偶然的なものだが。

タイトル総枚数ヒロイン
(通常)
ヒロイン
(HCG)
共通、
汎用等
備考
ハピメア
(Purple software、
2013年2月)
847
10
7
9
9
(計42)
8
8
8
7
4
(計35)
7「共通・汎用」は2枚のHCGを含む。また、このほか、SD画像が8枚ある。
カルマルカ*サークル
(SAGA PLANETS、
2013年9月)
9013
11
12
10
3
(計49)
8
7
7
7
3
(計32)
9このほか、SD画像が15枚ある。
恋する姉妹の六重奏
(feng、2014年2月)
903
3
3
3
3
3
(計18)
9
9
8
9
9
8
(計52)
20「共通・汎用」のうち17枚はハーレムシーンのHCG。
恋する夏のラストリゾート
(PULLTOP LATTE、
2014年3月)
786
6
7
7
4
(計30)
12
7
7
7
8
(計41)
7「共通・汎用」のうち4枚はハーレムシーンのHCG。追加パッチ等の分は除外している。