すでに過ぎ去った00年代のことだが。
00年代後半の、とりわけ白箱系ジャンルについては、「一枚絵重視の時代から、立ち絵の重要度が高まった時代へと転換した」と述べることが出来るのかもしれない。立ち絵振り付け演出の増加だけでなく、立ち絵のクオリティ向上(ここではさしあたり着彩密度などの即物的なレベルで捉えている)や、立ち絵シーンの相対的増加(一枚絵シーンが保持する時間の減少)といった諸々の状況は、すべてこの傾向と軌を一にしている。画面解像度の向上も、おそらくは立ち絵のさらなる品質向上を要求し、そして向上した品質をよりいっそう好ましいかたちでディスプレイしてみせた。こう考えるのは、過去の作品を顧みて、00年代半ば頃までの立ち絵画像がしばしば平板で小さく記号的で簡素なものだったという認識があるからだ。もちろん、一枚絵や背景画像のクオリティも同様にそれほど高くはなかったが、解像度向上と画像密度向上の恩恵を大きく享受したのはおそらく立ち絵の側だった。00年代後半の美少女ゲームシーンは、「立ち絵の時代」という側面を重視すると、かなりすっきりと全体像を捉えやすくなるように思われる。
環境面の変化は一足早く、多くの美少女ゲームのウィンドウ解像度が、2003年後半から2005年にかけて急速に、640*480(VGA)から800*600(SVGA)に移行した。早いところでは、
2001/08:『BITTER SWEET FOOLS』(minori)、『君が望む永遠』(age)
2001/10:『わーきんぐDAYS』(studio e.go!)
2002/02:『バイナリィ・ポット』(AUGUST)
2002/06:『結い橋』(ういんどみる)
2002/07:『白詰草話』(Littlewitch)、『痕 リニューアル版』(Leaf)
2002/08:『Pigeon Blood』(abogado powers)
2002/12:『ヤミ帽』(ROOT)
2003/02:『パティシエなにゃんこ』(pajamas soft)
2003/04:『白い蛇の夜』(鱚)
2003/09:『天使のいない12月』(Leaf)
2003/11:『同人誌即売会をやろう!』(Cyc)
あたりがSVGAタイトルだった。『顔のない月』(2000/12)や『パンドラの夢』(2001/11)もSVGAだったっけ? 『果て青』の初版(2000/06)がどうだったかも、後で確認しておきたい。alicesoftはたしか『大番長』(2003/12)から。F&Cは『魔女アラ』(2003/08)以降だろうか。
2004年中はVGAタイトルもかなり多く、双方の規格が混在していたが、『六ツ星きらり』(2004/11)や『裏入学』(2004/12)あたりはすでにVGA時代の最後尾で、2005年にはほぼすべてのタイトルがSVGAでリリースされていた筈。例えば大作『AYAKASHI』(2005/10)が、例外的にVGAだった。強化版や再版ものを含むと、『DUEL SAVIOR』(2004/10)に対する『DUEL SAVIOR JUSTICE』(2005/07)が、640*480のままだった。
なお、『朱』(2003/06)、『めぐり、ひとひら。』(2003/09)、『MERI+DIA』(2005/03)、『蠅声の王』(2006/04)といった擬似ビスタサイズ(上下に黒帯を掛けているもの)も、この過渡期らしいスタイルの一つだった。ただし『蠅声』は、背景画像それ自体は全画面で制作されている(テキスト消去により全画面閲覧できる)のだが。『シンシア』(2004/04)も、黒帯ではなく木目調の縁取りを、立ち絵シーンの上下に置いていた。
販売メディアはこれより早く、『エスカレイヤー』(2002)の頃から、CR-ROMよりも大容量のDVDに移行しつつあった(――CR-ROM版とDVD版の平行発売は、『よつのは』[2006年1月に2枚組CD-ROM版を発売/同年9月にDVD版発売]や『マブラヴ オルタ』[DVD版は2006年2月発売/CD-ROM6枚組版は2007年3月発売]の頃まで続いたが)。このことも、立ち絵や一枚絵の精密度向上や差分増加に寄与したと思われる。ただし、ユーザー側の記憶メディア容量が十分に大きくなってくるには00年代後半を待たねばならず、「最大インストール/最小インストール」などのインストール方法オプションがしばしば提供されていた。
16色(≒PC-98以前)から256色になったのは、1996年(例:『鬼畜王』『脅迫』)から1997年(例:『Piaキャロ2』『To Heart』)にかけて。そして256色時代はわりと短くて、『こみっくパーティー』(1999/05)が最後のグループだったと思う。HighColor(16ビット)からTrueColor(32ビット)を前提とするようになったのも、それからすぐだった筈。2003-04年頃の戯画(例:『BALDR FORCE』『DUEL SAVIOR』)は、「TrueColor環境だと強制的にフルスクリーン表示、HighColor環境だとウィンドウ表示も選択可能になる」という過渡期的仕様だった。