2014/10/28

選択肢場面での演出

  選択肢と音響演出をめぐって。


  ほとんど記憶に残らないけど、AVGの選択肢場面でも、選択(マウスカーソルオン)や決定(クリック)の際にはSEが鳴っているんだよね。選択決定時にSEが鳴らないタイトルはおそらくほぼ皆無だろうけど、しかしそれではどんな音が鳴っているかというと、ほとんど思い出せなかったりする。おそらくこれは私だけのことではないだろう。記憶に残りにくいのは、単純に機会が少ないというのもあるが、多くの場合、セーブ/ロード時のSEと共通だったりして演出としての独自性をそこに与えるものが少ないというせいもある。他方でSLGのインターフェイスSEが印象に残りやすいのは、クリック決定をおこなう頻度の高さのためもあるが、ゲームそのものに参加的性格が強いために、そしてシステムそのものが世界表現に直結しているものであるがゆえに、インターフェイスSEでも状況表現の一翼を担うことが意識されやすいのではないかと想像される。

  例えば、ソフトハウスキャラ『LEVEL JUSTICE』(2003)は、ターン毎の戦略行動決定画面で、コマンドメニュー群の上をマウスカーソルを走らせていくと、コマンド項目を移るのに合わせて「ド→レ→ミ→ファ」と音階状にSEが変化していく。板金モティーフを基調とした硬質なインターフェイスデザインの上で、軽やかな楽しさをプレイヤーに感じさせた。このブランドの次の作品『巣作りドラゴン』(2004)では、同じようにターン毎の行動決定メニューの上にカーソルを置くと、それぞれのコマンドに対応した内容を、作中の執事キャラが説明してくれる。例えば「休憩」コマンドにカーソルを置く(1秒弱ほど待つ)と「休憩しまーす」という台詞のSEが流れるし、「街攻撃」コマンドの上では「竜が空を飛ぶだけで、人間は恐怖に怯えるでしょう」という音声アナウンスが流れる(――このテクニックは、その後の作品でもユニットの反応やフィールドマップ上の施設状況チェックなどに活用されていく)。それ以外でも、作品のムードに合わせたSEチューニングや、メニューウィンドウの開閉やページ送りを直感的に理解させるようなSEの使い方が、SLG系ブランドでは常に工夫されている。

  ただし、AVG作品でも、特定の選択行動でユニークな音響的反応を返す場面がある。それは、本編中の選択行動ではなく、その外部、すなわち「ゲーム開始」「ロード」「鑑賞モード」「ゲーム終了」といった枠組的決定に際してしばしば生じる。「ゲーム開始」を選択すると、無機的な効果音の代わりにキャラクターが導入の台詞を唱えたり、あるいは「ゲーム終了」を実行するとキャラクターの声がひとときのお別れの挨拶を述べてきたりする。特にすたじお緑茶が、わりと古くからこの演出を実行していた(2005年の『プリンセス小夜曲』にもあった)が、近年ではいくつものブランドがこうした終了時処理を施している(――すぐに思い出せる範囲でも、例えばSAGA PLANETSやPULLTOP、KAI、等々たくさんある)。また、SE(音声)ではないものの、pajamas softやFAVORITEはゲーム終了時に「See you again…」のような文字メッセージを表示させている。

  選択肢場面で好感度変化を明示するタイトルの場合は、選択決定と同時に好感度の上下を表すSEが鳴らされることがある。たしか『えむぴぃ』(2007)や『星空のメモリア』(2009)がそうなっていた筈だ。また、『SWAN SONG』(2005)では、道徳的に深刻なジレンマを含むある選択肢場面で、物語を進行させるための正しい(?)選択肢を選ぶと「ピンポーン」という皮肉に露悪的なSEが鳴る。この演出それ自体はずいぶん安っぽいと思ったものだが、せっかくのそう多くもないプレイヤーの介入機会なのだ、こうした演出がもっと増えてもよいと思う。物語要素を決定的に重要な一部分として引き受けている美少女ゲーム分野のコンピュータAVGにおいては、システムは主として演出(修辞)のためのものであり、演出(修辞)はシステムを通じて(あるいはシステムの形で)実現されるものだ。


  その他の実例については、『白詰草話』のStray Sheep演出を含め、演出技術論Ⅳ-4-4-αでもいくつか紹介している。