2014/12/07

デフォルメ立ち絵の可能性

  立ち絵の一形態としての二等身画像やデフォルメ画像。


  Terralunarの『しすたぁエンジェル』『らくえん』のSD立ち絵には得も言われぬ味わいがあったが、類似の表現はその後ほとんど見かけない。通常の等身の立ち絵と寸詰まりの立ち絵とが、堂々と横に並んだり出入りしたり、あるいは同一のキャラクターの立ち絵が状況や感情表現に応じて通常/デフォルメの間で切り替わって伸び縮みしたりする。

『しすたぁエンジェル』 (c)2002 Terralunar
頭部の輪郭と表情を大胆にデフォルメした立ち絵。主要ヒロイン全員について、同じ表情と同じポーズの立ち絵が用意されている。これらも、通常の立ち絵と同じ扱いで背景画像上に表示される。ただし、本作の時点では、通常の(デフォルメされていない)立ち絵と同時に並べて表示される場面は稀であったが。

『らくえん』 (c)2004 Terralunar
(図1:)本作では、三等身程度のデフォルメ立ち絵が、ほとんど立ち絵のワンオブゼムとして常態的に使用されている。デフォルメ立ち絵のパターンは基本的に各キャラ一種類のみだが、表情変化がきわめて自由かつ多彩である。着彩は簡素なものだが、通常立ち絵との落差は少ない。

(図2:)時として、このように画面内にデフォルメ立ち絵のみが並ぶという状況にもなる。女性キャラクターだけでなく、男性キャラクターも、とぼけた表情や困惑の表現としてデフォルメ立ち絵に変化することがある。


  SD活用の演出意識が浸透する前に、SDの分業化――人的にも、工程上も――が進展しすぎたのかもしれない。あるいは、そのニッチは「ぱんにゃ」のような怪生物たちによってすでに占拠されていたのかもしれない。あるいは、立ち絵全体の作り直しよりも、表情差分変化(としてのデフォルメされた表情変化)という方がローコストな処方として選択されたということなのかもしれない。あるいは、高度に洗練された立ち絵クオリティが、そのような逸脱を手控えさせるよう促しているのかもしれない。いずれにせよ、デフォルメ立ち絵の可能性が閉ざされたわけではない。ひきつづき期待していこう。

  『九十九の奏』では、演出としてのデフォルメではなく実際に起きた怪現象としてだが、あるヒロイン(に由来する存在)が、二等身キャラとして画面内を動き回っていた。あれはたいへん良いものだった。通常立ち絵シーンにデフォルメ立ち絵が混ざってくることの効果をよく理解させてくれる。

『九十九の奏』 (c)2012 SkyFish
超自然的力による、使い魔のようなちびキャラたちが登場するシーン。彼女等は、スクリプトによる簡易アニメーションも披露する。デフォルメキャラとはいえ、頭髪や衣服のディテールも細かく、着彩もしっかりしている。

  『えむぴぃ』は、立ち絵に限らずありとあらゆるスクリプト芸を披露した怪作だが、デフォルメ立ち絵の使用もまったく躊躇していない。同様に、「バストアップ立ち絵+アイレベル背景」という枠組から自由に離陸した方向性としてLittlewitchの一連の作品があるが、それらの中でも、通常我々が考えるような生真面目な立ち絵とともに、楽しげに破調した洒脱なキャラクター画像群がしばしば画面ないに現れる。『白詰草話』や『Quartett!』ではそもそも立ち絵という概念すら希薄であるが、因習的なAVG画面に接近した『少女魔法学』(Littlewitch、2005)などでも、通常立ち絵とデフォルメ立ち絵――特に猫耳メイド「ティエ」の――の混在が見られる。

『えむぴぃ』 (c)2007 ぱれっと
(図1:)全編が徹底的に不真面目な、スラップスティックコメディ作品である。立ち絵のスクリプト加工だけでなく、奇抜な立ち絵のキャラクターも登場し、ヒロインもふざけたシーンなどではこのように二等身画像になることがある。

(図2:)楽屋オチを実行することも辞さない。左記引用画像は、正式な立ち絵(ヴィジュアル素材)が用意されていないサブキャラ「不渡真紀」の不遇な扱いを、他のキャラクターたちが揶揄するシーンである。

『少女魔法楽リトルウィッチロマネスク』
(c)2005 Littlewitch
一般的なAVG作品の「立ち絵+背景」スタイルに接近した作品であるが、 このように大きくデザインを崩したキャラクター画像が使用される場面もある。

『家庭教師のおねえさん』
(c)2005 アトリエかぐや
画面左のキャラクター(小野寺理央)が捜し物をしているシーン。何種類ものSD画像が賑やかに動き回る(簡素な擬似アニメ)。画面上では、右の通常キャラ(非SD)と併存している。


『あるぺじお』 (c)2007 SIESTA
立ち絵シーンの一幕。驚いたキャラクターが、ミッフィーのようなSD全身画像になる。通常は、大ぶりな立ち絵を一人だけ表示するスタイルの作品である。

  『淫妖蟲』のおまけシナリオも、SD立ち絵のみによって進行するという珍しい実例だ。実際には、立ち絵CGの組み合わせなのか、それとも全画面CGなのかも判然としないが、画面レイアウトは明確に立ち絵システムの配置になっている。

『淫妖蟲』 (c)2005 Tinkerbell
本編コンプリート後に現れる、おまけシナリオ。ここでは通常の立ち絵は一切用いられず、キャラクター画像はすべてSDスタイルで表示される。そして物語の側も、それに対応してコメディタッチで描かれている(――ただし、興味深いことに、それでいてこのシナリオの結末は本作全体に最終的な決着をつけるハッピーエンドのようにも読める)。