2015/07/19

アダルト要素を通じてのキャラクター造形

  ヒロインたちの性格設定が性的嗜好設定にも及ぶようになってきたという話。


  最近では白箱系(あるいは準ピンク系)のタイトルでも、ヒロイン各自の性的嗜好を描き分けるのが増えているのかな。ヒロイン毎のアダルトシーンの個数もテキスト量も増加している中で、性表現パートが占めるウェイトが増し、また性的側面からもヒロインの個性を造形する必要性が高まってきた、という理解でよいのだろうか。SQUEEZの先駆的挑戦から、脳内彼女の一連の業績を経て、近年では白桃混合路線で制作しているま~まれぇど、PULLTOP LATTE、ensemble SWEET、astronauts、Peassoftなどが性表現の中での(性表現を通じての)性格描写というアプローチを積極的に採用している。流行に目敏い戯画も、新作『恋愛フェイズ』では「ラブフェイズ/エッチフェイズ」の二面でヒロインたちを紹介している。最も典型的なのはensemble SWEETだろう。第一作『彼女はエッチで~』(※未プレイ)では、ヒロインたちに関して「匂いフェチ」「露出」などの属性をあらかじめ明示しているし、今回の新作『ヤキモチお嬢様!!』も明らかに同じスタイルを採っている。



  一昔前であれば、以下の二つの流儀が支配的だったかと記憶する。すなわち、

  1)一作品毎に各種性的嗜好をヒロインたちの間で適当に分配する。だから、それなりにメジャーな性的嗜癖であれば、一作品の中のどこかで、それが満たされることがそれなりに期待できた。ただし、その反面、各ヒロインの性的傾向性の統一性はあまり重んじられていなかったように思われる。つまり、キャラクターの性格造形とアダルトシーンの趣向は相互に結びつかず、またアダルトシーン相互間の連動もあまり見られず、それぞれ分離したままで扱われがちだった。多種多様なHシーンを幕内弁当式に収載する手段としては理に適っているが、けっしてそれ以上のものではなく、額面通りにとると「シーン毎に唐突に特殊なプレイを始めるカップル」のようなものでしかなかった。性表現要素のウェイトがそれほど大きくない白箱系ジャンルで00年代半ば頃からよく見られ、基本的には現在でも通用している流儀である。

  2)タイトル毎に属性特化する。典型的にはXERO系列、『メイドさんしぃしー』や『ツイ☆てる』があるが、SM系作品やドロレス系作品もこちらのカテゴリーに属するものと考えられる。こちらは、広報段階で特定の単一の嗜好を明示し、それを作品コンセプトそのものとしてユーザーを楽しませるものだ。あるいは、比較的マイルドな方向性としては、「ヒロイン全員に○○シチュエーションが(少なくとも一個以上)存在する」というタイプもあったかと思う。いずれにせよ、ピンク系や黒箱系に多く見られたスタイルであり、その一方、白箱系にはほぼ存在しない。白箱系には、「ヒロイン全員メガネ」「ヒロイン全員メイド」「ヒロイン全員ツンデレ」のような属性統一はあったが、性表現の次元で全ヒロイン統一の嗜好を謳ったものはきわめて少なかったと思う。

  これらに対して、近年のフルプライス白桃折衷タイトルは、明示的に個別ヒロイン毎の性的嗜好を設定し、かつ、それを事前広報の時点で大きくアピールしている。これは、キャラクター単位で見れば、「キャラクター設定の精緻化だ」と言うことができるだろうし、シナリオの次元でいえば「性表現要素が単なる飛び石の褒賞的ステージではなく個性と連続性のあるものになってきた」と言うことができ、そして作品全体の観点では「性表現要素のウェイト増大に対応して現れた新たな視点だ」と言うことができる。

  黒箱系(ダーク系)タイトルにも、同じようなものは、以前から存在していた。特に調教SLG/AVGでは、ヒロイン毎の性的(性嗜好的)特徴をシステマティックに表現していたものがいろいろあった筈だ(――例えばルネ作品。CLOCKUPやEscu:deもそうだったか)。ただし私はそちらはまったく詳しくないので、実例に即した正確な議論ができない。



  ただし、これは、白箱系そのものの変容を前提としなければ成立しなかっただろう。個々のキャラクターについて、白箱系の基本的要請としての「萌え」と、ピンク系の基本的要請としての「性表現要素(の個性)」とは、常に一致したりあるいは常に相乗効果を発揮したりするとは限らないからだ。ユーザーが、個々のヒロインの特定の外見や特定の性格属性や特定のCVをきっかけとして興味を持ったとしても、そのヒロインに設定された特定の性的嗜好をも好ましく思うとは限らないからだ。白箱系ジャンルが従来の硬直的な縦割型の「属性萌え」アピールから離れて、もっと細やかで複雑なキャラクター造形を行うようになった(※一例として「三属性によるキャラクターデザイン」)からこそ、その中のワンオブゼムとして、ヒロインたちの性的嗜好の描き分けをしうる余地が広がってきたのではないかと推測している。