2015/01/07

インターフェイスデザインの面白さ

  インターフェイス全体のヴィジュアルデザインへの注目。

  ・導入的な語り(このページ)。
  ・実例検討。
    - 1. 古典的なAVGの画面デザイン
    - 2. 作中世界に即した様々な意匠(以上、2ページ目
    - 3. 独自のグラフィックデザイン
    - 4. 様々な個性(以上、3ページ目
    - 5. SLG系ブランドによるインターフェイスデザイン(以上、4ページ目


  枠装飾って良いよね。現代美少女ゲームのメッセージウィンドウも、もっと重々しくもっと豪奢にもっと緻密に「額縁」として飾り立てたっていいのに。以前に「画面構成」の記事でも言及したように、これはかなり古くからあるセンスであり、そしていまだ開拓の余地のある画面デザインの方向性であると思える。『R.U.R.U.R』の楕円基軸デザインも秀逸だったし、『LEVEL JUSTICE』の金属的なインターフェイスデザインや『coμ』のアヴァンギャルド色彩のように、インターフェイスそれ自体がもっと自己主張してみせることがプレイヤー(ユーザー)の楽しみにつながるということは、もちろんあり得ることだし、実際に十二分に有るのだし、そしてそれらは確かに言及すべき価値のあるものなのだ。

  この点では、AVG専業ブランドだけでなく、あるいはそれらよりもむしろ、SLG系ブランドにこそ野心的な挑戦が見出される。例えばEscu:deは、『ヴェルディア幻奏曲』では五線譜デザインをインターフェイス全体に反映させた(cf. 演出技術論Ⅳ-4-5-α)し、『ヒメゴト・マスカレイド』ではメッセージウィンドウの周囲に繊細な彩りの薔薇を敷き詰めてみせた。
  ソフトハウスキャラも、上記『LEVEL JUSTICE』のみならず、『ブラウン通り三番目』では色合い柔らかな木目調デザインを試みたし、『巣作りドラゴン』から『BUNNYBLACK3』までの西洋中世風ファンタジー作品でもしっかりした黄金色の縁取りを好んで採用している。無人島漂着生活SLGである『南国ドミニオン』では、インターフェイス全体を板きれ風のデザインで統一してみせた。そのような環境デザインによる方向づけは、特定の架空状況をシミュレートするSLG作品にあってはとりわけ、作品全体のムードを規定し形成するうえできわめて重要であり、そしてこれらの作品においてはきわめて効果的であった。
  Littlewitch/tencoも、行き届いたIFデザインの趣向を凝らしており、例えば『英雄*戦姫』では、メッセージウィンドウも手書きの繊細な縁取りで形作っているし、話者欄部分の背景には複雑な紋様をあしらっている(――話者表示テキストの文字ははっきり縁取りされているので、見づらくはならない)。『ピリオド』も、円を横に並べるポップなデザインを基調としており、その趣向は話者表示をもキャラクター毎にわざわざ専用画像で作り込むところまで突き詰められている。

  個人的には、2004年発売の『です☆めた』が、インターフェイスデザインの妙趣を初めて意識させてくれた。吸血鬼ものの作品なのだが、コウモリのイメージを取り込んだデザインがたいへん好ましかったのを、今でも憶えている。


  「(クイック)セーブ」「(クイック)ロード」「コンフィグ」「音声リピート」「スキップ」「オート進行」といったコマンドボタンの配置については、エロゲについてのあれこれの記事メッセージウィンドウと操作ボタンというデザインが、多数の実例を紹介している。私は「コマンドボタン」と呼んでいるが、「操作ボタン」「機能ボタン」と同じものを指している。



  【 Escu:deのばあい:プログラマーとデザイナーとコンポーザーの協働 】
  Escu:deについて見ると、00年代半ば頃までは垢抜けない古典的な美術設計だったが、それでも『英雄×魔王』(2005)のリボルバー型戦闘システムのように、レスポンスの(消極的な)快適さを超えた、インタラクティヴなシステムとしての積極的な効果を追求する意識はすでに発揮されていた。このブランドのプログラマーは水鼠氏とKIT氏。
  それに続いて、2008年の『ワンダリング・リペア!』『ヴェルディア幻奏曲』の二作は、このブランドとしては珍しくAVG作品である――とは言っても複雑なフラグ体系を伴っていた――が、この時期にインターフェイスのヴィジュアルデザインは長足の進歩を遂げた。この時期は、奇しくも音楽制作としてTOY氏を起用した時期に当たる(『ヴェルディア』から)。
  そして『乙女恋心プリスター』(2010)では話者表示顔窓を試みたり、『あかときっ!』(2010)では色彩コントロールをも洗練させたりした。『ヒメゴト・マスカレイド』(2012)のテキストボックス装飾と繊細な天秤エフェクトはその頂点だろう。
  『彼女は高天に祈らない』(2011)と『せんすいぶ!』(2013)の頃からは、主流派AVGの流儀に即した枠無し+(半)透過テキストボックスに傾斜しているが、それでも『高天』では不規則な多角形輪郭のテキストボックスにしているし、『せんすいぶ!』や『花嫁と魔王』もシンプルながら傾斜角のついたテキストボックスにするなど、野心的な挑戦は続いている。もちろんコンフィグ画面やダイアログ表示についても、その華やかな試行錯誤は行われている。これらのデザインの功績が帰せられるスタッフは、はなたかれとも氏と蒼瀬氏。



  【 ソフトハウスキャラのばあい:キャラクター、シミュレーション、インターフェイス 】
  ソフトハウスキャラのゲームシステム(及びそのインターフェイス)は、『アルフレッド学園』『LJ』『南国』の頃には、過剰なまでの現場手作業志向があった。これはこれで、架空状況の手触りをできるかぎり具体的に体験させるシミュレーションという観点で確かに意味はあったのだが。しかし、近年では、パラメータやその表示を整理して簡素化する方向にも傾斜しつつある。例えば『南国ドミニオン』に対する『DAISOUNAN』のシステムを見れば明らかだろう。
  インターフェイス設計に際して特徴的なのは、音響的リアクションの開拓である。週単位のターン制ルーチンで進行するゲームにおいて、毎週のコマンドメニュー群が表示されているところで、個々のコマンドボタンの上にカーソルを置くと、それぞれについて、作中の執事キャラからの応答的メッセージ音声が返ってくる。ここでは、キャラクターがゲームシステムを通じて、あるいはその具体的手段であるインターフェイスを通じて、表現されている。また、『グリンスヴァールの森の中』では、同様の音響的リアクションの発想を用いつつ、作中世界に存在する無数のキャラクターたちの「声」が表現される。ここでは、シミュレートされた作中世界で展開されている筈の豊かな事象が、システムを通じて、あるいはその具体化であるインターフェイスを通じて、表現されている。このようにして、SLG+AVG作品においては、個々のキャラクターたちも、あるいは全体としての作中世界そのものも、ゲームシステムを通じて表現されるのであるが、それはとりもなおさず、インターフェイスを通じて表現されるということでもある。緩やかなSLG+AVG作品においては、プレイヤーが相対するインターフェイスは、シミュレートされた作中世界への介入の手段でもあり、かつ同時に、作中世界がみずからをプレイヤーの前に示す手段でもある。このような双方向性のインタラクティヴィティの機縁としての特徴を、ソフトハウスキャラ作品群のシステムは濃厚に湛えている。