2017/06/19

オタク文化遺産(の妄想)

  オタク界の「文化遺産」制度を妄想してみる。


  「世界遺産」のように、歴史的に重要な(アニメやゲームの)作品の名を記録してその意義が忘れられないようにするシステムを作ったら商売にならないかな、とちらりと思ったけど、まあ、星雲賞みたいなしよーもないものになってしまいそうだ。そして会長が自分自身を自薦するとかいう醜い行為に走ったりするんだよ、きっと。

  世界遺産の登録基準の文言は、曖昧ではあるが考え方の方針として参考にはなるだろう。それを多少アレンジして、オタク文化における作品(乃至人物)の問題にパラフレーズするならば、

1)人類の創造的才能そのものと言えるほど素晴らしい作品、
2)多くの作品と相互影響関係を持つ、重大なマイルストーン的作品、
3)過去の時代の、わずかに残された貴重な史料となる作品、
4)現代または過去の一時代のそのジャンルの文化乃至精神を体現するような作品、
5)特定の時代や文化における、特徴的な技術利用の貴重な実例となる作品、
6)顕著かつ広汎な影響力を持った作品(※他の基準と組み合わせて用いるのが適当だろう)、
7)ひときわ優れた表現や、特別な表現上の重要性を含んでいる作品、
8)ジャンル文化史上の重要な一段階を示す顕著な見本と言えるような作品、
9)技術的、文化的、精神的な変化を示唆する顕著な見本であるような作品、
10)オタク的創造性にとって重要かつ意義深いメディア乃至機会であるようなもの、

こういったものは、オタク界にあっても、きちんと記録し、保存し、そして我々が常に参照できるようなかたちにしていくのが望ましいと思う。もちろん、それに漏れたものの中にも無数の素晴らしい作品はあるが。

  上の基準は、世界遺産の中でも自然遺産等を含む基準全体に倣ったものだが、特に「文化遺産」のみに限定してもよいかもしれない。あるいは、日本国内であれば文化財保護法の規定があり、そこでもいくつものカテゴリーおよび基準が定められている。

  アダルトゲームで例を挙げるならば、1)は例えば『鬼畜王ランス』のような歴史的名作。2)は例えば男の娘趣味を切り拓いた『はぴねす!』で。3)は難しいが、alicesoftのsystem3.xエンジンなどはその資格があるだろう。4)は調教SLGの伝統を代表する『女郎蜘蛛』。5)は『白詰草話』のFFD表現。6)は例えば『ToHeart』とか。7)は『Forest』の特異な表現空間を。8)は、00年代前半の古典的AVGスタイルから00年代後半の爆発的な演出的豊饒さへの橋渡しとなった『ウィズ アニバーサリィー』。9)は、同じく00年代から10年代への白箱系の大きなムードの変化を刻むことになった『ましろ色シンフォニー』。10)はErogamesape。丁寧に一つずつ考えていけば、各項目10タイトルくらいはすぐに挙がるだろう。

  このように、当てはまりそうな実例をいろいろ考えてみると、思考実験としてなかなか面白い。アニメや漫画、LN、フィギュア、あるいは家庭用ゲームなどでそれぞれ考えてみても面白いだろう。噛み砕いて言えば、「すごい傑作」、「頻繁に言及されたりパロディ的に言及されたりする話題作」、「特定の時代のスタイルをはっきりと体現しているような個性的な作品」、「特定の時代のオタク文化の雰囲気を色濃くまとっている作品」、「技術史上の興味深い表現を試みている作品」、こうしたものは、うん、やはり重要だと思う。ただ単に「傑作」や「話題作」を挙げるならば比較的簡単だが、技術史上、文化史上の重要性をきちんと説明(プレゼン)し合いながら、知識と知性と公平性を持ったオタクたちが慎重に協議するならば、わりと面白いリストが作れそうだ。