2014/01/19

三題噺タイトル

  三題噺(三単語)タイトルと、その類例についてのとりとめもない雑感。


  【三題噺タイトル】
  『○○、△△、××』という三単語列挙型のPCゲームってあったっけ……。
  EGScapeで調べてみたけど、どうやらこのスタイルのタイトルはほとんど存在しない。唯一該当しそうなのは、『姉×2、オレ、妹』(MBS Truth、2004)、これ一本のみ。読点でつなぐ三題噺ではないがそれに準ずるものとして、『先パイ・乙パイ・過去に戻りパイ』『プレイ!プレイ!プレイ!』『彼女×彼女×彼女』『H×H×H』といったものがあるが、どれも明確な三題噺タイトルとは言いにくい。うーむ、意外だ。副題部分でよいなら、発売予定の『110』の副題「産婦人科 死刑囚 病院ジャック」は三題噺の典型になっている。『萌恋維新! アタシら、じぇいけー、新閃組!』も、三題噺的に読むこともできる。
  三題噺タイトルは、想像力を刺激するのに適しているし、リズムが良ければ格好良いが、その反面、どうしても観念的に捉えられがちなので、アダルトメディアとしてはあまり好まれないのかもしれない。せいぜい副題くらいだったら、もっと多用しても良さそうなものだけど。

  【○○と○○と○○】
  読点ではなく「と」でつなぐと、三題噺というよりはひとまとまりのフレーズのように感じられ、一見すると似ているようだが言葉の趣はずいぶん異なる。こちらは非常に多い。『月と魔法と太陽と』『黒と黒と黒の祭壇』『キスと魔王と紅茶』『恋と選挙とチョコレート』『屍姫と羊と嗤う月』『妻とママとボイン』『彼女と俺と恋人と。』『処女と魔王とタクティクス』『青空と雲と彼女の恋』『ヒメと魔神と恋するたましぃ』『僕と彼女とココロの欠片』がある。ORBIT系列はこの手のタイトルが好みのようで、『ヤミと帽子と本の旅人』『キミとボクとエデンの林檎』がこの形になっている。
  副題に含まれるタイプだと、『RGH ~恋とヒーローと学園と~』『11eyes ~罪と罰と償いの少女~』『いんぴゅり ~ヒトとアナタとアヤカシと~』『エターナル・キングダム ~滅びの魔女と伝説の剣~』『轟け性紀の大発明 ~愛と怒りと悲しみの秘密結社第二科学部~』『Trans’2 ~僕とあたしと恋人と~』『魔物娘たちとの楽園 ~蜘蛛と鳥と◎と~』『もう好きにしてください ~陵辱と鎖と秘密の穴~』『Lunaris Filia ~キスと契約と真紅の瞳~』『シャマナシャマナ ~月とこころと太陽の魔法~』など。しかし『乱れて交わる俺と姫 ~姫と執事と歌姫とその他大勢と~』はさすがに多すぎると思う。『あののの。君と過ごしたあの日あの時あの未来』というのもあった。

  【対句風タイトル】
  むしろ多いのは、『終わりなき夏 永遠なる音律』『銀の蛇 黒の月』のような対句風タイトルだろう。これはこれで均衡感があって良い。『僕らのカタチ、世界のカタチ』『君の想い、その願い』『彼女の願うこと。僕の思うこと。』『モノごころ、モノむすめ。』『そらのいろ、みずのいろ』『夏の幼馴染と、冬のカノジョ』『右手がとまらない僕と、幼なじみの姉妹』『めぐる季節の約束と、つないだその手のぬくもりと』『サクラの空と、君のコト』『アトリの空と真鍮の月』など。有名なLN『イリヤの空、UFOの夏』の連載開始が2000年なので、これの影響も多少はあったのではないかと思われる。

  【句読点タイトル】
  このほかに、『めぐり、ひとひら。』『はるかぜどりに、とまりぎを。』『はるまで、くるる。』といったタイプもある。美少女ゲームでは、『かぜおと、ちりん』(C's ware、1999)あたりが嚆矢だろうか。『果てしなく青い、この空の下で…。』『むすんで、ひらいて』『てのひらを、たいように。』『この大空に、翼をひろげて』『いつか、届く、あの空に。』『遥かに仰ぎ、麗しの』『僕と、僕らの夏』『何処へ行くの、あの日』『祝福の鐘の音は、桜色の風と共に』『書淫、或いは失われた夢の物語。』など。わりと有名なタイトルも多い。

  【 「○○は××だ」式タイトルの得失 】
  LNで「○○は××だ」式のタイトルが普及している原因について、提起されている仮説の(おそらくそれなりに有力な)一つは、「文章メディアである書籍は、手にとってみるだけでは中身がすぐには分からないことがセールス上の不利であり、それを補うためのアピールとして可能なかぎり内容を伝達するための処方として採用された」というものだが、もしもこれが主要な理由であるならば、美少女ゲームではこの種のタイトルを採用するメリットは小さい。というのは:
  1)フルプライス美少女ゲームはLNよりもかなり高額であるため、店頭でのカジュアルな購入層を当てにする必要が薄い。むしろ固定客にしっかりアピールすることの方がはるかに重要であると思われ、しかも彼等はLNのメインターゲットに比べて年齢層が高い。
  2)また、高額商品であるということから、ユーザーは慎重に情報収集したうえで購入如何を判断する。実際、イベントCG、立ち絵、サンプルヴォイスといった主要な素材は公式サイトや通販サイトで十分に確認できる(特にイベントCGは、製品版の20~40%もの枚数が事前後悔される)し、さらに内容の大きな体験版も提供されている(ものによっては5時間、10時間もかかる大規模な「体験版」すら存在する)。こうした環境下では、タイトルによる訴求だけでは大きな効果は望めない。
  3)それどころか、過度に長いタイトルは、不利ですらある。PCゲームは、基本的に単体で完結する商品であり、しかも、発売から一週間のうちに売上げのほとんどが確定するとすら言われている市場である。つまり、そのたった一つのタイトルをユーザーにきちんと記憶してもらい、きちんと買ってもらわねばならない。それゆえ、冗長なタイトルよりも、もっと簡潔明瞭ではっきり印象に残るタイトル――典型的には平仮名四文字系のタイトル――の方が望ましいであろう。競合する出版社たちと鎬を削りながら、何冊も続刊がリリースされて、店頭でのプレゼンスが重要になるLNとは、状況は大きく異なる。
  このように検討してくると、美少女ゲームで平仮名四文字系タイトルや、タイトル略称、「(漢字)の(片仮名)」、感嘆符付きタイトル、駄洒落タイトル、対句的タイトルなどが多い(と言っていいだろう)事情も、あらためて納得がいく。そして、「○○は××である」式の命題系タイトルが僅少である背景も、このように推察できる(――ただし[表紙]イラストについては、奇妙なことにPCゲームとLNとで一種の逆転現象が起きているが、これはイラスト/CGに掛けることのできる労力の違いや、イラスト/CGのクオリティに関して確立されたベースラインの相違など、経済的事情や歴史的経緯が複雑に絡み合っていると思われる)。
  命題系タイトルについては、2012年6月15日付雑記でも、少しだけ触れたことがある。

  実例については、204 No Content内の記事ありがちなタイトルは本当にありがちなのか(※掲載データが多く、ページがやや重いので注意)が参考になる。