2014/04/22

タイトル画面の動的演出

  動的演出を取り入れたタイトル画面について。


  近年、タイトル画面に多段階の演出を入れるのが増えていると感じる。例えば、背景をズーム表示しつつ、キャラクターたちを順番にスライドさせて来て、最後にタイトルロゴの各パーツが左右上下から合わさってくる、みたいなの。このような「動きのあるタイトル画面」は、もちろん、昔からあったものだが、ここ数年で(特に白箱系を中心に)それが普及し、そしてその見せ方もずいぶん洗練されてきたように思う。時には大きく広がる舞台背景のさわやかさをプレイヤーにあらかじめ印象づけるものであったり、時には「まずはご一献」と言わんばかりにヒロインたちのにこやかな表情に出会わせてくれたり、あるいはバトルものであればキャラクターたちの使用武器を乱舞させてプレイヤーをワクワクさせてくれたり、あるいは厳粛な雰囲気の背景ティルトとともに可憐な花吹雪を舞わせつつメインヒロインたちが両脇からそっと現れてくるものであったり。


  この点に関して(も)意欲的だったのは、Littlewitchだろう。デビュー作『白詰草話』(2002)においてすでに、歯車の静かな回転という形でタイトル画面アニメーションを局所的に導入していた。さらに『少女魔法学 リトルウィッチロマネスク』(2005)では、ゲームを起動するとアニメ作品のアヴァンタイトルに相当するような長大な(3分以上の)シーンが始まり、そこからタイトル画面へつながっていくのだが、その一連の変化は複雑なカットインの組み合わせと変化(拡縮やスライド)によってダイナミックに構築される。FFD(Floating Frame Director)と称する、Littlewitch独自のシステムである(――「FFD」は、この可動フレーム演出の名称であると同時に、同社のゲームエンジンの名称でもある。cf. 演出技術論Ⅰ-1)。

『少女魔法学 リトルウィッチロマネスク』 (c)2005 Littelwitch
(図1:)アヴァンタイトル部分の2つ目のカットから。最初は、画面中央に門扉を大写しにしたフレームがゆっくりとスクロールしていき、その上に左のキャラクター(「アリア」)のフレームとその台詞フレームが入ってくる。さらに右側のキャラクター(「カヤ」)の画像と台詞が重なってくる。

(図2:)さらに、それに応えるように画面下から男性魔法使い(「ドミノ」)が登場してくる。これらは瞬間表示ではなく、細やかなスライド表示で画面内に入ってくる。このようにして、フレーム化された画像群の組み立てとその推移によって物語を視覚的にも表現していくのがFFD演出である。

(図3:)上記のアヴァンタイトルシーンは、全体として11カット分の変化を伴いつつ、最後はこの「黒の塔」を映したカットからタイトル画面へと移行する(――タイトル画面下部の「塔」につながっている)。このタイトル画面でも、光の線(いわゆる「天使の階段」)もゆるやかに動いている。/一連のスクリーンショットは無印版の体験版から採取したものだが、2008年の「editio perfecta」版も基本的に同一である。

  一時期はムービー素材を嵌め込むかたちで画面のカメラワーク的運動を表現したものもあった(例えばSkyFish。cf. 演出技術論Ⅳ-4-5-β)が、00年代後半から微速ズーミングや微速スクロールが実用レベルになってきたこともあり、こうしたタイトル画面アニメーション導入が技術的にも後押しされたと思われる。例えば『ウィズ アニバーサリィー』(CROSSNET/FAVORITE、2006)のタイトル画面は、背景部分の微速ズーミングを行っており、最初は奇怪なデザインの塔を大写しにしながら重々しくズームアウトしていき、周囲の市街地の遠景がすべて画面内に収められるまでにちょうど60秒を要する)。

『ウィズ アニバーサリィー』
(c)2006 CROSSNET / FAVORITE
(図1:)タイトル画面が表示され始める瞬間の状態。タイトルロゴは、アルファベット部分が上から、片仮名部分が下からスクロールしてきて一体化し、その右にメインヒロインのシルエットが加わる。
(図2:)タイトルロゴが完成した後も、背景部分はゆっくりと、ちょうど1分もの時間をかけてズームアウトしていく。最初は塔の一部が見えるだけであったのが、次第にその周囲の水路や町並みも、そしてその奇妙な外周部分までもがプレイヤーの視界に入ってくる。もちろん、それを待たずにゲームを開始しても良いのだが。


  特に乱舞エフェクトは好んで多用される。『桜吹雪』(Silver Bullet、2009)では文字通り桜の花びらが洒脱なBGMとともに細やかに舞い散りゆき、『ヒメゴト・マスカレイド』(Escu:de、2012)ではゴージャスにも薔薇の花びらがゆったりと流れていき、そして『カルマルカ*サークル』(SAGA PLANETS、2013)では菊とおぼしき鮮やかな黄色の花びらが爽快にも舞い上がって(!)いく。

『カルマルカ*サークル』
(c)2013 SAGA PLANETS
(図1:)ゲームを起動すると、ヒロインのバストアップ画像が一人ずつ流れていくシークエンスがあり、それに続いて、この青空背景の上に四人のヒロインが順次登場して、タイトル画面が完成する。
(図2:)タイトル画面の最終状態。ヒロインたちが微妙にスライドしていることも判る。黄色の花びらが、右下から左上へと吹き抜けていく。/画面右端のヒロイン(「夏目暦」)は、本編中では胸ポケットに掛けているだけで、一度たりとも眼鏡を顔に装着することは無い(※眼鏡姿は公式サイトの壁紙で見られる[※18禁サイト注意])。

  刺激的なのは、『リヴォルバーガール☆ハンマーレディ』(KAI、2012)のそれ。背景部分と一体化した赤白黒トリコロールのタイトルロゴがいかにも安っぽいズーミングで表示され、薄着に銃を構えた背面少女と巨大な金鎚――鉄筋コンクリート廃材を加工したかのような――を抱きかかえた美女の二人の立ち絵がすっと正面に入ってきたかと思うと、その脇には、パイプにこれまた廃材木片を貼り付けた手作り標識のようなかたちのコマンド群が下からにゅっと突き出てくる。背景部分に描かれた、実写取り込みのような手触りの人工物群――製鉄所設備や、レトロなパラボラアンテナのようである――といい、その臆面もないアヴァンギャルド趣味に仮託された武骨さとレトロなキッチュ感は、荒廃しきったSF的-ウェスタン的世界設定の物語である「B級アクション風美少女活劇AVG」というジャンル名乗りと呼応している。
  この作品について、もう一つ驚くべき点を挙げておこう。一般的な美少女ゲーム作品では、セーブ/ロード画面やコンフィグ画面は、通常のゲーム画面から一定程度距離を置いた仕方で表示されるのが通例である。例えば、通常画面から(ほぼ)完全に切り替えて表示されたり、あるいは少なくとも通常画面部分の明度を落としてコンフィグモードであることをはっきりさせたりする。画面の右端や下部からポップアップする場合でも、キャラクター立ち絵や背景画像が表示されている中央部分の邪魔にならないように控えめに表示される。しかしながら本作では、通常画面部分には一切変化を生じさせないまま、コンフィグウィンドウやデータ管理ウィンドウが画面上部からぬっと突き出されて、立ち絵の上に覆い被さってくる。同様に、バックログウィンドウも、一般的なAVG作品のそれとは異なり、ほぼ透明のログリストが通常画面に被さってくる。この一見無頓着なインターフェイスデザインがどれほど衝撃的なものであるか。つまり、いかに露悪的な設計意図無しには為され得ないものであるか。美少女ゲームの一般的なUIデザインに親しんでいる者ほど、この異様さをはっきりと意識するだろうし、そして、これが上記のような作品コンセプトと連動した一つの美意識の所産であるということもはっきりと理解できるだろう。

『リヴォルバーガール☆ハンマーレディ』 (c)2012 KAI
(図1:)非常に意欲的なタイトル画面の美的構成である。その荒みきった作中世界の様子を象徴的に示しつつ、可愛らしい低等身ヒロインたちとの間のコントラストも形成している。
(図2:)インターフェイスデザインも、レトロフューチャー的イメージで統一されている。作中世界のありようは、『続・殺戮のジャンゴ』(nitro+、2007)などとも通底する古典SF的なカタストロフ後の無法地帯であるが。/話者表示欄及び顔窓表示欄が左右両方にある(立ち絵位置等に応じて適宜割り振られる)のは非常に珍しい。

  ちなみに、00年代後半以降のタイトルで、私の知るかぎり最も簡素なのは、『蠅声の王』(Lost Script、2006)。ブランドロゴと18禁警告に続いて現れるのは、黒一色画面の中央に白字のタイトル表示、そして画面右上にはこれまた白字一色の簡素なコマンドウィンドウが表示される、ただそれだけ。大槻涼樹企画作品なので、その直前の「このゲームはフィクションではない」という奇妙な断り書きやタイトル画面BGMの趣向と併せて、ここに設計意図の存在を感じ取らずにはいられない。

『蠅声の王』 (c)2006 Lost Script
この過度にシンプルなタイトル画面インターフェイスは、逆説的に、これからプレイヤーが、非常に機能的な仕組みを通じて物語に踏み入っていくのだということを予告しているかのようであり、その意味で作品本編への窓(窓口)、あるいは入り口としても効果的である。