2015/04/16

LNの表紙とゲームのパッケージアート

  表紙イラストについてのちょっとした思考。


  LNの挿絵は、総じて好みではない。漫画のように状況の流れを感じさせるものでもないし、ゲームCGのように彩り豊かということもない。たいていの場合、背景は描かれず人物だけの絵だし、単色イラストなのはいいとしても、色気のない簡素な線画に、平板なスクリーントーンを貼っただけというものが多い。単色ページでイラストを分かりやすく見せるための最適化なのだと言うことは可能だが、それだけでは「つまらなさ」の感情を十分説得するには至らない。描かれている状況も、テキスト上の特定の場面/行動をただ説明的に再現しているだけ――しかも人物しか描かれていないので非常に不明瞭な再現にしかなっていない――で、絵それ自体としての面白味に欠ける。しかも、再現であるわりにフキダシ台詞は無いので、どことなく息苦しさも感じさせる。

  表紙及び口絵のカラーイラストにも、同様に不満がある。表紙イラストの支配的な白背景は、キャラクターをはっきり見せるためという建前の下で一定の合理性はあるが、退屈であることに変わりは無い。口絵も、型通りのキャラクター紹介はともかくとしても、ピックアップするほどの名場面とも思えない本編からの抜き出しイラスト群は、導入として効果的とは思えないし、本編の該当ページで見られないのでは本末転倒だろう(――口絵側に「本文xxページ」と付記しているものもあるが、逆に本文側から口絵への参照指示がほぼ皆無というのでは、結局無意味である)。名だたるイラストレーターや原画家たちでも、この通弊を乗り越えてイラストの魅力を訴えかけることにほとんど失敗しているのは、残念であり、そして不思議ですらある。

  「LNはあくまでノヴェルなのであって、イラストのクオリティは重要ではない」「工程上、テキストがイラストに先立つしかなく、また、イラストの挿入を念頭に置いたテキスト執筆は容易ではない」といったような、想定されるエクスキューズも、ただ単に自己破壊的なものにとどまっており、LNの価値を(あるいはLNにおけるイラストの価値を)救済することにはならない。



  ちなみに、美少女ゲームのパッケージアートは、白背景はほぼ皆無。完全にゼロというわけではなく、とりわけ低価格帯には単色背景やグラデーションのみの背景もあるし、フルプライスでも青空背景程度のおざなりなものもあるが、真っ白というのはちょっと思い当たるものが無い。事情はいくつか考えられる。

  1)パッケージアートの露出が相対的に少ない。LNであれば、広告に画像として現れるのは表紙絵が99%であり、そのわずかなアイキャッチで作品をアピールしなければならない。しかしゲームでは、ヒロイン立ち絵や一枚絵サンプル、あるいは雑誌描き下ろしイラストなど、多種多様な画像を使うことができ、そうした中でパッケージアートの存在感はそれほど決定的なものではない。だから、パッケージアートに求められるのは、アイキャッチ効果よりも、ユーザーに対して物語の広がりへの想像の手掛かりを与えたり、商品実物を手にした時の満足感を与えたりする役割だろう。

  2)LNよりも高額である。一冊1000円以下の文庫本と比べて、フルプライス作品では一本7000円程度(実売価格)、低価格でも2000~3000円の価格になる。また、つまり、「カジュアルに手に取らせること」よりも、「価格に見合った内容であることを説得すること」の重要性が大きい。したがって、無地(白背景)よりも、できるだけ凝った画面にする方が望ましい。ちなみに、販売本数/冊数それ自体は、大きく異なるわけではない。美少女ゲームならば数千本~数万本(1万本売れればまずまずだろう)、LNもさしあたり数千部捌けることが目標になるようだ。ただし、人気タイトルは数万~数十万部売れることもある。 

  3a)パッケージの物理的条件としては「サイズ」「キャラクター数」の要因が考えられる。トールケースパッケージでも、一般的な文庫本サイズに対して、面積比で1.5倍以上になる。フルプライスの大型パッケージでは、例えばB5サイズならば3倍にもなる。大きな面積を持つパッケージ表面の背景が真っ白になってしまうと、LNのばあいと比べて、空疎感も数倍することになるだろう。白背景が忌避されていることには、やはり理由があるのだ。

  3b)しかし、イラストに描かれるキャラクター数という観点では、どう考えるべきか、よく分からない。LN表紙では一人、あるいはせいぜい二人が大多数であろうが、それに対してフルプライス美少女ゲームのパッケージでは、ほとんどのばあい、4-6人のヒロインたちが勢揃いしている。「キャラクター数が多い方が、画面の密度が保障されるため、白背景でも間が保つのではないか」とも想像されるが、実際はどうなのだろうか。あるいは逆に、「LNのようにキャラ一人だけが描かれている場合には、具体的な場所や状況を示唆しない抽象的な背景でもよいが、キャラクターが多数描かれているイラストでは、それらを受け止められる基盤として、背景部分の密度や具体性が求められるようになる」ということなのかもしれない。

  4)カラー画像作成のためのノウハウ、制作環境、工程(時間的な要因と、進行手順上の要因の双方)などの外的事情もあるのかもしれない。どのような世界像でのどのような物語なのかについて、イラスト担当者とテキスト担当者(物語作成者)が意志疎通しておかなければ、適切な背景画像を描くことはできない。ここで、事後的外注になるLNでは、そのための機会が相対的に乏しいが、それに対して美少女ゲームは、長期間制作であり、かつ、しばしば内製で(内勤原画家により)CG制作が管理されている。また、原画家以外にも、CG制作やデザイン制作に長けたスタッフがいるので、パッケージアートの背景を充填するのは比較的容易だろう。

  近年(最近5-6年程度)のタイトルでいうと、『ましろ色シンフォニー』『僕が天使になった理由』などが完全な白背景。ただし前者はもちろん「ましろ色」に掛けたデザインだし、後者も天使の羽根に注目させるための意識的な選択と思われる。『超時空爆恋物語』『PriministAr』『ラウテスアルタクス』『悪魔娘』なども、完全な真っ白でこそないものの、ごく簡素な縁取り装飾や簡単なパターン模様が施されている程度で、特定の場所――特定の物理的空間の描写と見做されるもの――を描いた背景は存在しない。『なないろ航路』はメインヒロイン一人のみが描かれている白背景だが、これは透明プラ外装でいわゆる水玉コラ演出が施されている。『いろとりどりのセカイ』のように、セット再販ものも簡素な背景になりがちのようだ。特徴的なのはLOSで、『花色』『MC』『学王』はいずれも場所的背景を描いておらず、ピンク色基調の模様があしらわれているのみ。