2015/04/06

乗り物いろいろ

  主に自動車(自家用車、バス)についての雑感。


  『彼女×彼女×彼女』では自動車を運転しながら営んでいたものが、『美少女万華鏡』(第一作)では途中で一旦停車して行為を続行したというのは、えーと、進歩と言っていいのだろうか。バカゲーとしては退歩だが。ともあれ、自家用車の中であれこれするのはなかなか見かけない。『九十九の奏』(停車中)にはあったか。つるみく作品にも、どれかにあったかもしれない。

  そもそも自動車というのは、「18歳以上で運転免許と購入資金が必要」、「学園生活ではほぼ不要」、「交通手段であって出来事の『場』ではない」、「構図が取りにくい」、といったデメリットがあるので、美少女ゲームでなかなか使われないというのは自然なことだろう。


  それでは、どのような場面でどのような目的で利用されるか。

  1)生活必需品。上記『九十九の奏』や『果て青』のように、田舎生活の描写では自家用車が登場することがある。

  2)キャラクター個性の表現。『白詰草話』、『空色の風琴』、『美少女万華鏡 呪われし伝説の少女』(ジャガーXJ!)のように社会的地位や高額趣味の描写として、あるいは孤独な空間の表現として使用されることもある。『Crescendo.』で主人公の姉(教師)が乗っていた自動車も同様の趣旨か。自家用送迎車という形で家庭的背景を示唆するものもある(例:『ヨスガノソラ』)。

  3)移動手段として。『斬死刃留』は、関東から関西(滋賀/那智勝浦)までの長距離移動シーンで、一枚絵付きで車内シーンがあった。『キラ☆キラ』はライトバンでの演奏旅行。『RGHL』は、荒廃した世界でAI搭載カー(実際に合成音声で喋る)を使って様々な場所に移動していたし、『蒼海の皇女たち』は、郊外へピクニックに行く際に自動車を使っていた(一枚絵あり)。『七彩かなた』にも、ライトバンに乗り合わせた一枚絵あり。『うえはぁす』は、欧州の架空小国の中を、姫とともに自動車一つで逃げ回るSLG。『沙耶の唄』も自動車でいろいろ移動していたが、CGがあったかどうかは憶えていない。『神樹の館』では、フィールドワーク先を訪れようとする冒頭の一枚絵として車中CGがあった。

  4)アダルトシーンを含め、コミュニケーションの場になるばあいは、オープンカーが使われることも多い。絵としてキャラクターをよく見せられるためだろうか。『漆黒のシャルノス』や上記『RGHL』『蒼海の皇女たち』『美少女万華鏡』はオープンカー。

  5)乗用ではないパターンとしては、『君が望む永遠』『あるぺじお』のように事故の原因として使われることもある。自動車それ自体が画像として描かれるわけではないが。

  6)その他。珍しい例では、『真昼に踊る犯罪者』ではSLGパート上の仕掛け(攻撃用の設置施設)として使われた。『あかときっ!』では、空中バスという幻想的なシチュエーションが、演出的に取り込まれていた。


  バスについては、『春色桜瀬』『ひとなつの』『夏めろ』『紅神楽』などがある。『バス畜』(未プレイ)のようにバスを舞台としてフィーチャーしたタイトルもいくつか存在するようだ。バイクだと、上記『斬死刃留』や『るいは~』『こんそめ!』など。立ち絵としては汎用性に乏しく使いにくいし、一枚絵にしても面白味に欠けるのが問題だろう。『ゆのはな』は、冒頭で主人公が雪道を高速走行して事故死しかけるところから物語が始まる。『ク・リトル・リトルGH』では、ヒロインがバイクや航空機に変身する。超常バトルもの+特撮パロディの組み合わせならではのシチュエーション。

  他方、電車(路面電車を含む)の車内画像はわりと多い。
  珍しい例では、『カルタグラ』『クロウカシス』には馬車が登場した。



  一枚絵の構図も、用途(表現意図)に応じて様々なものが選ばれる。

  1)運転中のキャラクターを横から撮った構図。運転者は、孤独な主人公である場合(例:『白詰草話』『空色の風琴』)もあれば、ヒロインが運転しているのを主人公が隣から眺める場合(例:『キラ☆キラ』『Crescendo.』)もある。

  2)前部座席のあたりを広く画面内に収める構図。主要キャラクターたちを描いた汎用的なCGとして使われる(『RGHL』)ほか、対話シーン(『漆黒のシャルノス』 )やアダルトシーン(『彼女×彼女×彼女』)で用いられることが多いようだ。

  3)後部座席から、あるいは前側から、車内全体を見通す構図。主にバンやバスで用いられ、多人数の会話シーンでも利用される。例:『果て青』『あかときっ!』『七彩かなた』『斬死刃留』『ひとなつの』。

  4)車外から全体を俯瞰する構図。周囲の風景も含めた、のどかな一枚絵になりがち。『蒼海の皇女たち』『うえはぁす』。あるいは、人物を描かず車体のみを描いているCGもあり、この場合はどちらかといえばカットインに近い使い方がされる(『美少女万華鏡』)。逆に車内から窓外を臨むCGが使われる場合もあり(『キラ☆キラ』)、これも人物を映していないという意味でカットイン相当の効果をもたらす。

  5)バスでは、車内が比較的広いこともあり、また描かれる登場人物のポーズ等にも自由度があるため、一部の座席のみを画面内に収めたり、立っている状態のキャラクターを大写しにしたりすることもある。『夏めろ』『紅神楽』など。

  6)『あかときっ!』『夏めろ』では、立ち絵+背景画像形式でも表現されている。


『空色の風琴』 (c)2004 THE LOTUS
ゲーム冒頭のシーンで使用される、主人公の横顔ショット。主人公が画面に登場するのは、美少女ゲーム(のAVG)では比較的珍しいが、ここでは孤独に夢想する主人公の姿に焦点を当てている。
『キラ☆キラ』 (c)2007 OVERDRIVE
上記『空色の風琴』とは逆に、助手席に座った主人公の視点から、運転席のヒロインを見つめる構図になっている。本作では、この他にも窓外の風景画像、フロントガラス越しの正面風景、あるいは向かい側(車外位置)から車内全体を捉えた構図など、様々な一枚絵が使われている。
『リヴォルバーガール☆ハンマーレディ』
(c)2012 KAI
主人公二人を捉えた構図。オープンカーがこの一枚絵に開放感をもたらしている。テキストは三人称形式。/ちなみに、話者欄(と話者顔窓)が左右に二つ用意されているのは本作の特徴。
『漆黒のシャルノス』 (c)2008 Liar-soft
上記『RGHL』とほぼ同様の構図だが、左右逆向きになっている。車両がどちら向きで描かれるかは、ハンドルの左右や、注目されるべきキャラクターの座席、主人公視点か否かなどに影響されるであろう。右側(助手席)の女性が主人公であるが、物語の描写は彼女の視点に限定されない。
『七彩かなた』 (c)2006 千世
ライトバンで旅行に出向くキャラクターたちの様子。中央の緑髪の男性キャラクターが主人公であるが、公式サイトでも「主人公兼周囲へのツッコミ役」とあるとおり、その地位は相対化されており、ここでも客観視点で画面内に登場している。
『斬死刃留』 (c)2009 Amolphas
画面右の女性キャラクターが主人公「八重」である。テキストは三人称形式。いささか違和感のある構図になっているのは、画面右側(つまり後部座席)にキャラクターが差分追加されることがあるため。/なお、本作は(架空の戦後史を辿った)現代日本を舞台にしているが、これは左ハンドルの車である。
『蒼海の皇女たち』 (c)2008 anastasia
1930年代ドイツを連想させる架空世界の潜水艦戦争ストーリー。休暇期間にピクニックに行くシーンであるが、時代を感じさせる軍用車に仲良く乗り合わせている様子がカットイン形式で描き出されている。コミカルな絵柄と、オープンカー、そしてカットインという組み合わせによって、激しい戦いの合間の和やかな休息の様子が演出されている。運転者の男性が主人公。

『美少女万華鏡 呪われし伝説の少女』
(c)2011 ωstar
非常に珍しい、自動車のみを映した一枚絵。しかも仰角のダイナミックな構図である。座席部分は見えないので、乗員キャラクターたちは顔窓で表現される。
『紅神楽』 (c)2012 でぼの巣製作所
自家用車に比べて、バスの車内風景ではカメラワークの自由度が高まり、様々な構図で画像作成される。三人称形式であるが、この「漬け物石」(人間型に変身できる、塗壁の妖怪)がおおむね主人公の地位にある。
『夏めろ』 (c)2007 AcasiaSoft
こちらは男性主人公の主観視点による一枚絵。主人公(に擬せられるカメラ)とヒロインの視線とがしっかり向き合っているのが気持ち良いし、また、窓外のまぶしさとヒロインの控えめな様子との間のコントラストが印象的である。
『あかときっ!』 (c)2010 Escu:de
車内風景が「立ち絵+背景画像」スタイルで構成されている一例。1)特殊な運行車両なので他の乗客がいない、2)SLG+AVG作品なので画面構成に自由度がある、3)空路バスという幻想的な状況を視覚化するために窓外も見せる必要がある、といった事情がこのアプローチを成立させ、そして成功させている。
『春色桜瀬』 (c)2008 Purple software
あまりにもナイーヴな正面構図の背景だが、これは流れゆく窓外風景をアニメーション処理しており、その視覚表現を円滑化するための構図選定である。それを考慮してもなお、あまり洗練されないレイアウトであることは否めないが。なお、本作では、バスが停留所を発着するシーンにも動的演出を施している。