2015/04/28

BGMの中断再開演出(の不在)

  BGMの中断再開演出の不在についての疑問。


  BGMの中断再開は、美少女ゲームではいまだにほとんど見かけない。要するに、一つのBGMが、なんらかの形で(例えば無音や別のBGMへの移行によって)中断して、それが再び元のBGMに戻った時に、曲の最初から流すのではなく、その中断していた箇所から再び曲を続けるという手法。典型的には、RPGのフィールド画面のBGMから戦闘BGMに移行して、戦闘が終了すると再びフィールドBGMに戻るというプロセスで生じうるものだ。あるいは、アニメ作品で驚きの瞬間などにBGMが一瞬停止(無音中断)して、再び再開するといったような状況がこれに当たる。この種のサウンドレジューム表現は、コンシューマ方面ではかなり以前から行われていたものだが、PC美少女ゲーム分野では、CD-DA時代が終わった後でも依然としてその種のBGM操作は現れなかった。


  このようなレジューム表現を行うことには、いくつかの意義乃至効果がある。

  1)中断が中断として意識され、それら複数の状況変転に対して特定の階層化された意味づけが与えられる。例えば、上記フィールドBGMの例でいえば、フィールドBGMが巻き直し演奏されるのではなく、その都度途中から続けて流されることによって、その世界の連続性がより強く意識されるようになる。
  これに対する反駁として、美少女ゲーム(とりわけ読み物AVG)においては、そのような構造化されたBGM表現が、そもそもほとんど求められていないと述べることができるかもしれない。読み物AVGにおいては、物語はテキスト進行を基盤として、ほとんどすべての局面で、そのような立体的な進行を伴わず、ただひたすらリニアに進んでいくものだから。

  2)もう一つの考えうるメリットは、曲全体を聴く可能性が増えるというものだ。つまり、BGM転換の度に、その都度曲を最初から流してばかりでは、曲の冒頭部分ばかりが反復されるのに対して、曲の後半部分はなかなか聴かれないままに終わるという可能性がある。さらに言えば、2')曲の冒頭ばかりが執拗に反復されすぎるというマイナス面も生じうる。実際、頻繁にBGM転換が生じるSLG作品では、この問題が顕在化しやすい。
  しかし、美少女ゲームの大多数を占めるAVG作品にとっては、そうした問題は生じにくい。というのは、長大化したテキストの下で、BGM転換はさほどせわしくは行われず、個々のシーンのBGMはかなり長い時間にわたって演奏され続けるからだ。また、BGMの中断再開を行うことによって、意図せざる効果が生じてしまう危険も考えられる。つまり、中断再開を行うことによって、意図しないかたちで不合理乃至不必要な解釈へとユーザーを誤誘導してしまう虞がある。そのくらい、BGMの中断再開は、複雑で、多義的で、効果的な演出技法なのだ。


  BGMの中断再開は、おそらく技術的には容易な筈だ(――吉里吉里などのエンジンでそうした機能がどこまで実装されているかも、確認しておきたいところだが)。しかし、それが今なおめったに行われていないのは、制作者(とりわけスクリプト担当者)の発想の乏しさなどではなく、おそらくはなんらかの障害要因があるのだろうし、その要因としては、以上のようなものが想定できそうだ。ただししかし同時に、もっと多様かつ意欲的な音響表現が試みられてほしいと願う私にとっては、もどかしさを覚える一つの側面でもある。