2015/05/05

立ち絵の左右ずらし表示

  立ち絵を、画面中央に表示するのではなく、左右に少しずらした位置に表示すること。


  立ち絵は、通常は中央表示される。これは、特別な意味を持たないデフォルトの立ち絵表示として妥当だし、全体の均衡感もあるし、立ち絵と背景の双方がよく見えるレイアウトだ。しかし、立ち絵を左右どちらかに寄せて表示するというのも、とても良いものだ。このようなレイアウトにするメリットも、いくつか考えられる。例えば: 1)画面が単調にならない。2)背景(の正面部分)の奥行きがよく見えるようになる。3)立ち絵を拡大表示しても圧迫感がない。4)位置表示や心理的距離感表現などの意味作用を持ちうる。

  とりわけ恋愛AVGでは、このずらし表示がひそかな修辞的意味を発揮する場合がある。立ち絵を中央表示する場合、ヒロインは真正面から主人公と向き合っているような位置づけになるが、それに対して、立ち絵を右(or左)に寄せて大きく表示すると、これは主人公に親しく寄り添っているかのような構図として認識されうる。幼馴染キャラクターや、付き合い始めてからのシーンなどでは、こうしたレイアウトがたいへん効果的に作用する。

  かなり初期から、こうした実践はごく常態的な手法として存在する。例えば、現代的な男性向けコンピュータAVGの基礎の一つとなった『雫』でも、キャラクター立ち絵はしばしば画面右側や左側に表示されている。同様に、古典的実例の一つとしての『アトラク=ナクア』も、立ち絵は右に寄せて表示するのがデフォルトになっていた(※紹介記事として場面転換制御論を参照)。そしてそれ以降も、立ち絵の左右ずらし表示は、クリエイターたちの気の利いたスクリプトワークの中で幾度となく用いられてきた。

  多くの場合、画面右側に寄せて表示される。とりわけ全画面テキスト形式(いわゆるヴィジュアルノヴェル)の場合、画面右側に立ち絵を表示する方が、テキストで遮蔽されにくいという判断もあるだろう。しかし、立ち絵の向きによっては、左側に寄せて置かれることもある。特殊な例として『果てしなく青い、この空の下で…。』『アトリの空と真鍮の月』がある。この2作品では、立ち絵はしばしば左寄せで表示されるが、これはテキストが画面右側に縦書き表示されるためである。同様に『水平線まで何マイル?』も、テキストは画面右側に横12行表示され、それに対応して立ち絵は画面左側に一人分のみ表示される。また、『よつのは』は、背景画像は全画面なのだが、画面左端にセーブ/ロード表示をオーバーラップさせるため、立ち絵は全体に右寄りに表示されがちである。

  また、ずらし表示といっても、さすがに画面端に追い詰めるということは無い。腰上表示から全身表示までの場合は、画面端までにスペースを設けておくのが通例だ。これは、狭苦しく感じさせないためでもあり、また、立ち絵アクションのための余地を設けておくという意味でもある。もっとも、活発な立ち絵振り付けを行う作品では、立ち絵の表示位置がその登場人物の空間的位置表示の文法として認識されてしまう可能性があるため、そうした作品は、中央表示をデフォルトにした方が無難かもしれない。例えばage(『マブラヴ』シリーズ)は、立ち絵の空間表現を行っていない時は、基本的に画面中央に立ち絵表示している。ただし他方で、すたじお緑茶(『片恋いの月』『恋色空模様』)は、中央表示と左右ずらし表示を融通無碍に使い分けている。

  もちろん、中央表示にも、特有の効果がある。大きな瞳のヒロインと真正面から見つめ合うのは、やはり中央表示ならではの効果だろう。『Kanon』『ちょこっとばんぱいあ!』の大ぶりな立ち絵表示は、まさにそのためのデザインであったと思われる。また、大きな武器を構えたり羽根を広げたりしたポーズをとった立ち絵は、左右の広がりを最大限活かすために中央表示されるだろう(例:『プリズム・アーク』『神採りアルケミーマイスター』)。