「恋愛」と「純愛」について。
昔は「恋愛」とのみ言っていたが、近年の白箱系(学園恋愛系)タイトルのキャッチコピーなどでは「純愛」がアピールされることが多いように思う。いつ頃からだろう? もしかしてHOOKのせいだろうか? 有名な「――純愛は、HOOKが完成させる」は、2007年の『Honey Coming』の宣伝文句で、たしかこの時期にはまだ「"純"愛」という言葉はあまり使われていなかった。というか、当時は白箱系全体がようやくマジョリティになりつつあった時期だった。つまり、黒箱系やSLG系との差別化ではなく白箱系内部での商品差別化が意識されるようになってきた時期だった。
00年代前半までは、アダルトゲームは現在のような編成にはなっておらず、学園恋愛系も2005年にはAUGUSTが『夜明け前』を、Purple softwareが出世作『秋色恋華』を発売し、CUFFS(『さくらむすび』)、LoS(『Nursery Rhyme』)、Chuable(『Pure×Cure』)がデビューしており、そして翌2006年にはWhirlpool(『いな☆こい』)、ゆずソフト(『ぶらばん!』)、AXL(『ひだまり』)がデビューしたばかりだった。fengが白箱系にシフトした『青空の見える丘』も2006年。その一方で、すたじおみりすの最終作『青空がっこ』、ねこねこの一時活動休止(?)の『Scarlett』も2006年。言い換えれば、その時期にはClochette(2008-)もensemble(2009-)もデビューしておらず、SAGA PLANETSも白箱系に舵を切っておらず、FAVORITEの『星空のメモリア』(2009)もみなとの『真剣恋』(2009-)もspriteの『恋チョコ』(2010)もALcotのネタブランド化(2011-)も戯画の『キス』シリーズ(2012-)もまだまだ。
個別タイトルを恣意的に列挙するだけでは論証にならないが、個人的には、2006年前後に大きな業界再編――黒白の分離と白箱系の優勢――があったと考えている。そして、学園恋愛系における「純愛」のアピールも、そうした状況の下で強調されてきたものなのかもしれない。すなわち、白箱系のジャンル的確立と内部競争の明確化を前提として、自社作品の価値を高めようとする白箱系ブランドが単なるニュートラルな「恋愛」ではなく、価値的含意を伴う「純粋」という言葉を好んで使うようになったというのは、あり得る話だろう。
ただし実際には、白箱系の内部でも恋愛描写のウェイトが高まったわけではなく、むしろ減少すらしているかもしれない。というのは:キャラクター間関係の描写密度向上と相伴って、前半のコメディパートが大規模化している。その一方で、プレイヤー満足のために(?)、アダルトシーンの拡充が進行しており、それはアダルトシーン出現の前倒しを、言い換えれば恋人関係成立の前倒しを要求している。そうした中で、「共通パート→ヒロイン個別の関係形成→恋人描写→エンディング」という区分の中で、2番目と3番目の部分、つまり個々のヒロインとの間で互いを意識したり距離を近づけていったりウブな付き合いをしたりするという典型的な「純愛」のプロセスは、かえって圧縮されている節がある。昔は昔で、最後の最後に結ばれるだけで終わりというシナリオもわりとあったので、恋愛描写が「減った」というのは適切ではないかもしれないが、現今の学園恋愛系でも、「純愛」それ自体が正面から焦点化されているということはあまり無い。