2016/12/15

CGの時刻差分変化

  時刻による色調変化を導入している作品について。


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  『めぐり、ひとひら。』のエモーショナルノベルシステムもそうだけど、同じ2003年発売の『パティシエなにゃんこ』も立ち絵まで時刻差分で色調変化させていた(――スクリーンショットを見ると、朝/日中/夕方/夜の4タイプが使われているようだ)。夕方のシーンでは、立ち絵もちゃんと赤みが差してオレンジ色っぽくなっていたり、夜差分では全体が青みがかっていたり。ゲームエンジン側の制御だけでなんとかなるものではないので、あらかじめ素材レベルで作り分け(塗り分け)して、スクリプトでシーン毎に使い分けて指定していたものと思われる。こうやって立ち絵も処理しておかなければ一枚絵との間で落差が生じてしまうので、そこまで凝ることに一応意味はある。ただし、それに対して「立ち絵はあくまで記号なのだ」という立場をとるならば、そのギャップは無視して構わないということになる。

  この二作品は立ち絵の時刻差分表現の最も早い時期の実例であったと思われるが、その後もすたじお緑茶Purple softwareなど、視聴覚演出に意識的なブランドはしばしばこの手法を用いており、上記二作品のみが例外というわけではない。すたじお緑茶は、『巫女さん細腕繁盛記』(2004)の時点では立ち絵の時刻色調変化は存在しなかったが、『プリンセス小夜曲』(2005)には夜間の立ち絵色調変化が確認できる。ただし、かなり局所的な現象なのでエンジン側での色調補正であった可能性もある。Purple softwareは、『秋色恋華』(2005)の時点では立ち絵の時刻変化は行われていないように見えるが、『プリミティブ リンク』(2007)と『明日の君と逢うために』(2007)では明確に立ち絵の時刻色調変化を施している。『明日君』では、少なくとも標準/曇天/夕方/夜間の4種類の違いが確認できるが、背面立ち絵も含めて立ち絵のポーズ変化がかなり多い作品であり、立ち絵素材のレベルから個別制作するのは相当の労力が掛かるであろうから、こちらはまず間違いなくゲームエンジンが色調補正を施しているものと推測される。 

  上記証言のとおり、『めぐひら』では立ち絵素材のレベルであらかじめ複数の色調のファイルを作り分けていたとされるが、近年の支配的流儀では、夜間の色調変化のみをエンジン制御で行うというスタイルになっているようだ。例えば『鬼ごっこ!』(ALcot、2011)は、通常の立ち絵と夜間シーンの暗めのヴァージョンの二種類が識別できるが、おそらく素材ベースでは一種類(前者)のみが用意されており、夜間のシーンではエンジンサイドで画面全体に薄くシェードを被せて機械的に色調変化させているものと推測される。その一方、ぱれっと(『ましろ色シンフォニー』[2009])では、色調変化は非常に繊細なものであり、もしかしたら素材レベルで個別に塗り分けているのかもしれないと思えるほどだ。

  ちなみに、ageは『君望』『オルタ』のいずれも時刻差分表現は行っていないが、時刻による色調変化の精緻化というアイデアは持っており、例えば『君望』第1章で主人公と水月と対峙するプールのシーンでは、人物画像を逆光のシルエット状態に固定しつつ、背景の夕暮れが多段階にどんどん暗くなっていくという意欲的な演出を導入している(――手許のスクリーンショットを見ると、少なくとも12段階に変化している)。


『君が望む永遠』 (c)2001 age
水月の問いかけに対して、答えることができず黙り込んでしまう孝之。その対峙の時間の長さを表現するために、背景はきれいな夕焼けのオレンジ色から、立ち絵が識別できないほど暗いミッドナイトブルーまでじわじわと変化していく。立ち絵が黒一色なのは、差分変化を省略するためだけでなく、プレイヤーに対して表情を覆い隠す演出意図でもあるだろう。
『パティシエなにゃんこ』
(c)2003 pajamas soft
左上の朝差分は全体に色が薄く、左下が日中および屋内(標準)、右上の夕方差分は全身オレンジ色に傾斜している。右下の夜差分は、日中差分とほとんど識別できないが、色をスポイトで採ってみると確かに色調が違っている。もちろん一枚絵でも、その場面毎の時刻に応じて異なったカラーリングで彩色されている。

  『パティにゃん』の画像を見れば分かるように、立ち絵の時刻変化表現には独特の難しさがある。すなわち、一方では、あまりに微妙な違いだと労力に比して効果がほとんど得られない可能性があり、また他方で、あまりに特徴的な色調変化を施してしまうとプレイヤーが持つキャラクターイメージ全体が揺るがされてしまう虞がある。

  『めぐひら』では、咒吠君鏡架さんの緑の黒髪の色調変化がとても美しかった。