2023/04/22

『ガールズフランティッククラン』の感想

 『ガールズフランティッククラン(ガルフラ)』の感想。


 【 システム面 】
 『ガルフラ』のゲームデザインは、J-RPGの枠組をSLGふうに整理したものと見ることができる。ゲームの大枠は、(いわゆる)ソシャゲーのような個別ミッション挑戦スタイルに、RPG風の育成ゲームの装いを与えたような感じ。というか、たぶんそういうコンセプト。その意味では今風……の筈なのだが、「RPG風」が逆効果で、足を引っ張ったかも。戦闘のみの高速リピートができず、毎回AVGイベントを挟んでしまうのが、ちょっともたつく。進行がダルく見えがちなのは、おそらくそのせい。SLGのミッション反復システムとAVGのイベント回想システムを組み合わせた発想それ自体は秀逸なのだが……。
 いわゆるJRPGの楽しみ方は、現代デジタルゲームでは、広大なマップを歩いて会敵するオープンワールド3Dアクションへ向かった。その一方で、いわゆるソシャゲー型のミッション反復ゲームにも現代のユーザーは慣れている。だから、双方の路線をうまく縒り合わせたものとして、『GFC』の歴史認識と現代感覚は理解できる。、だが、「反復バトルを楽しむにはAVGパートが邪魔だし、RPG風の楽しみとしては世界の広がりが乏しい」ということにもなる。オンラインゲームのようにダラダラプレイを楽しもうにも、物語が強力に引っ張りすぎる。その割に、ゲームパートはなかなかスムーズに進まない。無料のオンラインゲームならば簡素なゲームパートでも許容されるが、フルプライスの買い切りゲームではゲームパートの密度に対する要求が高くなりがち。……こういったユーザー感覚を上手く誘導するのに、いくつものジレンマが現れているように見える。ゲームシステムの全体設計も、作品コンセプトとして見据えていた地点も、非常に良いところを突いているのだが、ユーザーの期待するポイントと齟齬を来しがちなところも出ているという感じだろうか。
 というわけで、『GFC』は全体として満足しているし、よく考えられたユニークなゲームデザインを構想していると思うが、ユーザーに対して遊び方(作品の面白さ)をあらかじめ提示してあげる方が親切だったのかもしれない。

 『GFC』のシステムの意義について、別様の解釈を提示できるだろうか。例えば、ソフトハウスキャラ作品史の中で見るなら、『真昼に踊る犯罪者』『忍流』『アウトベジタブルズ』のミッション挑戦ゲームの枠組に、『BUNNYBLACK』風のコマンドバトルを投入したものと見ることはできるかもしれない。ただし、この解釈は、これだけではあまり面白くない。単なるマンネリ的なガジェット組み替えとして捉えているだけだからだ。だが、『アウトベジタブルズ』の進行枠組のレヴェルをずらして、もっとアクティヴなバトル描写に焦点を当てたものと考えれば、比較論としていくらか面白くなるかもしれない。
 最も果実の乏しい見方は、「フローチャート進行するAVGの中に、簡素な戦闘パートを仕込んだだけ」というものだ。異世界バトルものを、漫画であれば自由に描写できるが、AVGはその都度のバトルを視聴覚的に一々表現するのが大変なので、SLG風の意匠でそこを乗り越えようとする、というものだ。AVG基軸のアダルトゲームユーザーはこういう見方に立って退屈してしまうかもしれないが、戯画ユーザーはACTGにも慣れているから、こういう見方にはなりにくいだろう。だが、彼等は彼等で、読み物AVGとは異なる特別な「ゲーム性」への期待が高かっただろうから、それに応えるのは難しくなる。
 「RPGの再構成」、「SHC作品史」、「AVG基軸」。それ以外にどのような視点から『GFC』システムの解釈が提示できるだろうか。ルート進行の可視化したSLGという点ではEscu:deの『英雄×魔王』、また、イベントをいつでも戻れる(反復できる)デジタル物語という点では『だらよ』シリーズとも比較できる。「マップ進行=イベント進行」というのは、SHC自身、『その大樹は魔界を喰らう!』でもやっていた。『その大樹』のRPGアレンジという捉え方でもよいと思う。Escu:deも、『英雄×魔王』(2005)の後に『Re;Lord』シリーズ(2014-2017)では、マップ進行それ自体をゲーム化するという離れ業を成功させていた。同じくSLG系ブランドだと、alicesoftの『どらぺこ!』(2013)も、マップ進行型のAVG(※わずかにSLGフレーバーあり)という形式を試みている。こういった分野内のさまざまなシステム開拓、システム実験の流れに『GFC』を位置づけて評価することもできるだろう。
 もしかしたら『GFC』に最も近いのは『英雄*戦姫』シリーズ(2012/2014)かもしれない。後者の方が進行の自由度も高く(※個々のイベントに実行条件が存在する)、バトルパートも深みがあるが(※キャラ人数、三すくみ属性、配置位置の機能性、ヘイトシステム、必殺技システム、アクション演出など)。双方を比較すると、『英雄*戦姫』が快適にどんどん進行していける国盗りSLGだったのに対して、『GFC』は異世界シチュエーションに焦点を当てつつ、クラシカルなRPG風のレベル上げにウェイトを置いたというアプローチの違いが見えてくる。ただし、私見では、異世界ものへの取り組みとしては秀逸だが、レベル上げの側面はやはり冗長さをもたらしてしまった。また、それに伴って、ユニット数がごく限られているのも、いささかもったいない。。


 【 AVGパート 】
 ストーリー面(AVGパート)は、RPGに進行分岐を設けたものとして、なかなか意欲的。シナリオは小規模ながら丁寧で、ユーモアもあり、「JRPGっぽい異世界もの」についても独自の解釈を提示している。終わりの無いオンラインゲームとは異なって、スタンドアロン買い切りのアダルトPCゲームとしては、ヒロインキャラを絞り込みつつAVGパートとの連動に力を入れるのも分かる。
 藤山ちかい氏は、『GFC』が初めての脚本仕事のようだが、とてもよく書けていて安心した。エーコが主人公を何度も絶命させる(=元世界に送り返してあげる)のも、下手をすればマンネリ芸になりかねないところ、その都度飽きさせないような描写になっていたし。
 キャスト面では主演の歩サラ氏が、やはり出色の出来。ステータス画面での「はいは~い♪」が、とても気持ち良くリズミカルなので、何度も聴きかえしてしまう。ありかわ氏の二重芝居もたいへんな力演。システムインターフェイスキャラを担当していて、「表情のあるキャラの発言+クールな地の文」を、一つの台詞として瞬時に切り替えて演じている(しかも毎回)。トンデモ無茶ぶりな台本なのだが、それにしっかり応えているのが凄い。
 原画の八重樫氏は、それほど器用な方ではないように思うが、立ち絵からして異様な色気を放出しているし、『イブニクル』などでSLG制作にも慣れておられる筈で、今作でもゲーム画面を華やかに彩っている。



 プレイ中の感想。
 
 『GFC(ガルフラ)』は、SLG(RPG)作品でシナリオルートをツリー式に可視化している。同時代のAVGジャンルと呼応する試みで興味深いし、それが同時に「マップ移動の簡略化」「育成のための会敵バトル反復」「イベントの任意回想(任意省略)」「ルート分岐(フラグ)」の機能を持っているのも分かる。
 だが、AVG作品が単線的に進行するのとは異なって、SLG(RPG)でツリー進行システムにすると、シナリオの連続性がどうしても緩く感じてしまう。Escu:deの『英雄×魔王』のように、進行を自動化or強制するか、ターン進行に意味を持たせるか、何かしらの仕掛けを入れた方がスムーズだったかも。
 また、個々のバトルが単調なのも、もったいない。オートバトル(+部分介入)でサクサク進められるくらいで良かったのではなかろうか。全体として、「ツリー進行(マス目進行)形式によってRPGふうのシステムを擬似的に表現した」というのは理解できるのだが……。
 チーム++の『その大樹は魔界を喰らう』が防衛戦SLGジャンルとしてやっていたマップ進撃システムのアイデアを転用して、RPGジャンルをエミュレートしたツリー進行システムに再編成したという意味では興味深いのだが、「本作のゲームシステムならでは」という積極的な面白味を感じにくい。
 
 「雑魚バトルの反復+レベルアップ育成+素材入手+装備品の購入と手動変更」というレトロなJ-RPGモデルの手作業プロセスの煩雑さが、2020年代のゲームとしてはやはり辛い。そこにもう一捻り欲しかった。雑魚バトル反復について、例えばalicesoftの『イブニクル』シリーズは快適な高速オートバトルを実装しているし、Escu:deもマウスジェスチャーやマウスホイール回転による操作性の快感を提供している(『Re;Lord』シリーズ、『闇染め』シリーズ)。ベタなコマンドクリック戦闘のままでは、うーん。ソフトハウスキャラ自身も、『巣作りドラゴン』以来、オート進行の多対多戦闘シーンという強力な武器を伸ばしてきたし、それ以外でも独創性のあるカードバトルのアイデアも出してきたのだが(『アウトベジタブルズ』『悪魔聖女』)。ベタなJ-RPG準拠だった『BUNNYBLACK』シリーズも、「6人+リザーブの多人数戦闘の充実」「多種多様なスキルを使いまくれる華やかさ」「マップ探索の緊張感との併用」といった形で、バトルの見せどころをきちんと提供してきた。それらと比べて、本作は簡素すぎたように思う。
 
 結局のところ、ゲームシステムの案出としては、やりたかったことは分かるし、それ自体としてきちんとまとまっているのだが……。そして、難易度の調整もプレイヤーへの自由度提供も、よく考えられているとは思うのだが……。作品評価としては今のところ、いささか歯切れの良くないものになってしまう。ツリー式に整理した簡易JRPG風のバトルシステムとしても、AVGイベント進行管理のシステムとしても、きれいにまとまってはいるのだが。褒賞感やカタルシスが足りないのかなあ。前半の叙述が丁寧なのが裏目に出ているかも。褒賞的イベントCGをバンバン出していくくらいで良かったのでは……。

 AVGパートの会話劇は、クラシカルなアダルト美少女ゲームらしくエキセントリックなキャラクターたちが闊歩し、なおかつ、10年代以降のヒロイン間の水平的な関係描写も意識していて、これはこれで理解できる。主人公との関係形成も、前半はそれなりに丁寧に描かれている。だが、うーん、もう一味欲しい感じかなあ……。主演(歩サラ氏)の生き生きとリズミカルな芝居は物語を楽しくリードしてくれているし、モブキャラたちのイベントも作品世界を豊かに彩っているし、その意味では、作品が目指したであろうところはきちんと実現されているのだが……。
 AVGパートは、現世サイドと異世界(というかヴァーチャル世界)サイドを往復するという状況にして、双方をきちんと連動させているのは好感が持てる。ただし、それが主人公の行動を制約している(大人しくさせてしまっている)という点は、好き嫌いが分かれるかも。



 【 プレイ前の私見 】(2022年8月頃)
 『ガールズフランティッククラン』は、旧ソフトハウスキャラのスタッフが中心になっているようなので、ゲームシステム面はひとまず安心、そして期待したい。脚本の藤山ちかい氏は、ソフトハウスキャラではCG制作(アイテムチップやマップデザインも含む)、企画補佐、広報/営業を手広く担当されていた方で、筆力についてはよく分からないが、ゲームの全体構造を見据えた情報管理、情報提示は慣れておられる筈だから、ひとまず期待したい。忌憚なく言えば、戯画という点にいろいろ不安はあるが、ゲームエンジンは独自(JORI氏制作のsystemAoi系)になるようだから、その点は大丈夫そう。公式サイトのキャラクター紹介文を読むかぎりでは、ソフトハウスキャラっぽい味わいは感じられるので、一定のクオリティは保たれると思う。
 キャスティングは、現時点では公開されていない。あの会社が出張ってくるようだから、あまり期待はできないが、SHCらしくあの方とかあの方を起用してくれたらと願うばかり。原画の八重樫氏は、とりたてて好みというわけではないが、『イブニクル』シリーズなどでSLG制作に携わった経験もあるので、AVGとは異なる独自の制作形態にもスムーズに対応されていると考えたい。ちなみに、主人公は眼鏡キャラのようだ。
 現段階で公開されている情報では、「旧ソフトハウスキャラ(チーム++)」、「SLGである」、「ファンタジー要素がある」、「戯画から年末(12/23)に発売」ということくらいしか分からないが、ひとまずは付いていくつもり。

 NEXTONと組んでいくかと思ったけどね……。NEXTONはSLGに弱かったし、それでいて初期『恋姫†無双』のSLGっぽい要素やSTG『apocalypse』のように非-AVGにも手を出したそうな気配はあったから……。戯画は戯画で、『BALDR』『Duel Savior』シリーズのようなACTはあったけど、SLGは作れていなかった。旧ソフトハウスキャラのスタッフは、読み物AVGではなくSLGを作れるという強みがあって、しかも「まっとうなゲームデザインを」「商業クオリティで」「各種チップ素材も作れて」「20年で30作もの経験がある」というチームはたいへん貴重だろう。戯画は良いスタッフを抱え込んだと思う。
 現代のPCユーザーは(スマホ使用の側面も含めて)一昔前よりもSLGをプレイするのに慣れていると言うことができる。また、20年代現在の商業PCアダルトゲーム市場としては、品質を上げてしっかりセールスを上げる路線が堅実だろう。その意味では、SLG作品を手掛けることは、現在のPCアダルトゲーム市場の中では有望な活路となる可能性がある。SLGは、十分受け入れられるし、そして、売りになる要素だ。
 ただし、この20年間のAVG優勢の間に、この分野には独自のSLGシステムとSLG用エンジンを組める人材がほとんどいなくなっていたようだが……。00年代前半までは、各メーカーがプログラマーを抱えて、ファンディスクでミニゲームを作ったりしていたが、00年代後半以降はそういうものが激減していった。PCアダルトゲーム系のプログラマー(ゲームエンジン制作)もAVG演出に特化していき、それはそれで良いのだが、非AVGを視野に入れた広がりはあまり見られなくなっていった。この20年間の推移を、私はそう捉えている。そうした中で、SLG系で残っていたのはEscu:de(水鼠氏とKIT氏)、ソフトハウスキャラ(JORI氏)、それからalicesoft、でぼの巣製作所、Digital Cuteくらいになっていた。TriangleもSLGをやめてしまったし、Littlewitchも迷走していた。Liar-softのぎこちない試みはともかくとして。
 というわけで、スタンドアロンPC用アダルトゲームとしては、いささか皮肉なことに、SLGは再び「有望な未開拓分野」になりつつあるというのが近年の私の考えで、そして、今回の新作GFCがそういう幸福な成果に結びついてくれたらと思う。ソフトハウスキャラ流の、大量の可愛いSDチップキャラが広いマップ上で自由に暴れ回る擬似リアルタイムSLG表現は、わりと今風のセンスで受け入れられやすいように思うのだが(※あのあたりの人気タイトルを念頭に置きながら)、実のところどうなんだろうか。
 ちょっと余計な話だけど、オンライン実況配信をOKとするなら、「アダルトシーンカットモード」(あるいは事前警告とかスキップ選択肢とか)の実装を検討する余地はあるだろう。読み物AVGはいざ知らず、SLG作品――しかもソフトハウスキャラのような「やや軽めのシステムで」「賑やかな視覚表現のある」タイトル――は、ゲーム進行の様子を同時にシェアするという実況配信に適しているだろうから。そのあたり、上手くやれないものかなあ。