2017/08/16

『領地貴族』体験版感想

  『領地貴族』体験版とデモムービーの雑感。


  08/15

  【 『領地貴族』体験版 】
  メインヒロイン。今回の萌花ちょこ氏は少々きつめのキャラ芝居ではあるが、きちんと状況を理解したうえでの、その必要があっての振舞いなので、風通しが良く心地良い。そして、経営指導に関するくだりも一言一言の芝居に抜群の信頼感がある。さすがは萌花ちょこ氏。その都度の台詞に合わせた表情豊かな芝居も、それぞれにユーモアが利いていてたいへん楽しい。領主の地位の特殊性や経済の仕組みを説明する台詞もかなり多いのだが、この声優さんの朗らかで生き生きとした芝居のおかげで、説明的なしつこさを免れている。ただし、台本それ自体も、語り口がクリアで説明がきれいだが。内藤氏お得意の、架空状況における社会生活のリアリティをうまく織り込んだテキストで、地に足の付いた生活感を楽しめる。

  この世界にもちゃんと判例の蓄積があるのか。オタクフィクションでは滅多に目にしない言葉なので、ちょっとびっくりした。というか、メインヒロインからの最初のプレゼントが法令集&判例集(のようなもの)とは……。

  【人材】:ゲームパートは、デモムービーでも示唆されているように、行動回数を増やせる「騎士」を最初に増やしておくのが効率的だろう。ただ、行動回数だけを増やしても「領民相談」を連打するくらいしか出来なくなるので、人材収容の「家」だけではなく、ちゃんと収入を増やす施設を建てていく必要がある。
  一度雇用した人材を解雇するコマンドは無いようだ。周回前提プレイのようだからそこで再雇用しなければいいし、自動退去する場合もあるが。
  占い師によるプレイ期間延長は、体験版でも効果がある(4年目をプレイできた)。

  【施設】:未確認家が出来てしまうと経済的負担(金がマイナス)になるのが辛いが、ランダム発生だろうか? 行動回数に余裕があれば、適宜撤去してしまえば済む話だが。
  施設建設は上限あり(最大27棟?プラス「水路」などの特殊施設)。追加建設すると自動的にランダムで(?)上書きされてしまうのはなんとかならなかったのか。『グリンスヴァール』の時のように魔法学校舎を整然と並べるといったような楽しみ方は出来ないようだ。

  「領内開発」は、効果が分からない。何かのイベントフラグ、あるいはイベント発生のためのコマンドだろうか? →レオナのイベントが発生した。ヒロインイベント用のコマンドだろう。

  「討伐」コマンドはかなり難しいようだ。「討伐」関係は、難易度が読みづらいし、戦闘中の状況も見えにくいし、効果がはっきりしないので、なんとも手を出しにくい。魔物討伐には、ベトらしき魔物が登場した。

  王都挨拶を繰り返すと(?)各勢力と交渉できるようになる。「王女挨拶」で派閥移動も出来るようになる。交易所を建設すると交易(所持資産を適当に交換)できるようになるが、交換候補がランダム(?)なので実用性は薄そう。

  施設を並べて何年もプレイすると各種資材がかなり貯まるが、資材を大量蓄積することに意味はあるだろうか。特定コマンドの連続実行、戦闘支援、大型施設の建設……デモムービーを見るに、特に派閥関連のコマンドで大量に消費することになりそう。地元から吸い上げた財産を中央政治のために注ぎ込んでいくと考えると、ずいぶん醜いことをしている気分になってしまう。

  人材は23人全員と遭遇、エンディングはノーマルED、怠惰ED、ゲームオーバーに到達。

  一季節一ターンで合計12ターンという情報には驚いたが、一ターン内で実行できることがいろいろあるので、実際にはそれほど短いとは感じない。ゲームシステムの枠内で、プレイイングの幅(=イベントの広がり)がどのくらい確保されているかが肝だろう。

  キャラクター面では、メインヒロインのレオナが実務面で超有能だがけっして傲慢ではない、バランスの取れた人柄。主人公との関係もなかなかユニークで、領主(政治面)のサポーターであり、経営面を取り仕切ってくれており、そして対等の夫婦として腹を割った会話もできる。内藤氏の理想的なパートナー像なのだろう。
  ヨミは、公式サイトでは戦闘好きとされており、もっとキャンキャンした声のキャラかと予想していたら、体験版の登場シーンを見るかぎりでは、ずいぶんおっとりした性格として描写されているようだ。CVの霧島氏は『勇者砲』のフレア役がうまくマッチしていた方で、その意味ではテキストに合った良いキャスティングだと思う。公式サイトのSD画像[ shchara.co.jp/02top/bnr/obi03.jpg ]でも、明らかに小柄キャラとして描かれているので、万能ではないが真面目な頑張り屋といった感じの位置づけと思われる。
  ロゼは、仕事面での割り切った関係だが、レオナの先輩格のような様子も窺われるのが面白い。派閥政治に踏み込んでいく際にはかなりのキーパーソンになりそう。声はいつもの羽高氏。

  全体として、『門』のセンスで作った『グリンスヴァール』といった印象。施設設置&組織運営がメインと見せて、派閥政治がゲーム進行の主軸乃至目標になりそうなところも。


  「~領」は英語でなんと言うのかとひとしきり考えたが、おそらく『領地貴族』のマップで表記されているとおり、「Territory(<Territorium[独]=領邦)」で合っていると思われる。ドイツ語(ドイツ史上の用語法)であれば、爵位等に続けて"-schaft"と付加すれば「~の領地」という意味で通用するはずだが、これをストレートに英訳(英語化)するのは難しい。


  ああ、そうか、今作のレオナに、どうやら私は『DAISOUNAN』の清倉原凪子を連想していたようだ。要するに、「主人公よりも立場が強そうな金髪メインヒロインに鼻面を引き回される気分」が似通っているという意味で。しかも、凪子役の松永氏とレオナ役の萌花ちょこ氏は、奇しくも『BB』シリーズでメリル役を引き継いだ関係でもある。声や演技が似ているということではないが、落ち着きのあるムードと不思議に心地良いリズム感のある芝居ぶりも連想を誘っていたかもしれない。

  そういえば、ゲームシステムも『DAISOUNAN』の頃よりもさらに『カタン』に近づいたような……。

  ソフトハウスキャラ作品の主人公はたいていは何らかの業務(小規模団体)のリーダーや指導者であって、『DAISOUNAN』や『BB』初期はむしろ例外だった。『領地貴族』も、建前上は主人公自身が領地支配者なのだし。ざっと遡ると、「店長」「船長」「師匠」「魔王様」「団長」「若(※温泉宿の経営者)」等々。広汎な社会的活動を表現するSLG作品であるため、プレイヤーキャラの行動に足枷が嵌められるのは不都合であり、裁量の最も大きい指導者的立場に置かれるという合理的判断でもあろうが、内藤氏個人の趣味のような気配も……。
  主人公がリーダーや指導者や上司でない作品は、『BB』第一作初期(魔王に気に入られはしたが当初は下っ端)、『DAISOUNAN』(異星遭難者の一人)、『Dancing Crazies』(仲間や部下[唯たちを含む]もいるが、基本的には独り立ちした賞金稼ぎ)、『南国ドミニオン』(漂流者の一人)、『うえはぁす』(流浪の外国人ドライバー)。『王賊』『LJ』も、軍師的立場であり、建前上は組織のトップではない。


  【 レオナの背景事情についての予想 】
  レオナと第二王女コルネは頭髪および虹彩の色が同じなので、ひとまず姉妹であると(つまりレオナは第一王女だと)仮定して、レオナは何故本編のような活動をしているのだろうか。
  1)主人公がレオナのことを(そしておそらくは第一王女のことも?)知らなかったこと。これは、貴族パーティーにすら出席できないような身分の低い貴族としては、あり得ないことではない。第二王女に対しても、領地への出立の際に初めて面会したくらいだし。同様に、ヨミやマイレッド領の一般住民が王国第一王女の顔を知らなかったとしても、おかしなことではない。主人公が気付いていないだけで、周囲の多くの人はレオナを王女と認識しているという可能性も無くはないが、さすがにそんなことは無いだろう。
  2)王女の立場にいないこと。そもそも第一王女については、体験版の範囲では一切言及されていないので、どういう状況になっているかがはっきりしない。しかし、レオナが王女としての活動を一切行っていないことや、特定貴族の領地で好き勝手していても特に問題になっていないことから、正式に「第一王女は居なくなっている」とされているようだ。ただし、国内に居ない筈だと考えられているのか、あるいは死んだと考えられているのかは分からない。
  3)三年間ほどの領地経営の経験があること。ひとまず当人のその言葉を信じるとして、ブラウベルの国内(例えば王族の直轄領)だろうか? もしもそうならば、領地経営のプロセスで彼女の顔を見知っている人は国内に多数存在する筈だし、したがって王都を闊歩していればもちろんのこと、辺境のマイレッド領にいても、遠からずバレるだろう。ならば、国外だろうか。一国の王女が国外に定住することがあるとしたら、婚姻以外には考えにくい。実際、作中世界でも貴族や王族の婚姻は政治の一部であることはテキスト上で明言されている。国外(あるいは王都中心部から遠く離れた土地)である見込みは高いだろう。
  ならば、どうしてその国におらず、ブラウベルに戻ってきているのか。a)スパイという可能性は低いから、b)離縁、またはc)国の滅亡あたりだろうか。正式に離縁したならば、ちゃんとブラウベル王国に戻る筈だから、b)離縁は考えにくい。死別と偽装されている可能性はある(理屈は合う)が、手掛かりが少なすぎるので保留。国家滅亡とともに死んだと思われている可能性はどうか。北のイアド王国は、属国としてまだ存続しているから対象外。もう一つ、体験版の範囲ではマイレッド領の前任貴族レスベル伯爵が滅んでいる。外国ではないが王都から離れた土地であり、しかもレオナがわざわざ新興貧乏貴族ジークに接触したことも説明がつきそうだ。
  4)レオナが正体露見を心配していないこと。王女だと知られれば大問題になる筈だから、何かしら別人だと言い張れるようなネタがあるのかもしれない。領主ジークの妻として市民の前に姿を見せたり、交渉の場に出たり、ヨミと一緒に街中を歩き回ったりしているくらいだから、堂々としていられるだけの余程の根拠があるのだろう。上記の死亡偽装告知くらいでは足りないように思われるが、具体的なことはまだ手掛かりが無い。
  5)ジークの押し掛け妻になった意図。ジーク自身には特別な要素は無さそうだから、一目惚れのような個人的事情を別論とすれば、やはり土地(マイレッド領)に関して何かしらの目的があると推測するのが自然だろう。その土地に思い入れがあるのか、それとも人探しや物探しか……男爵領としては不釣り合いなほどに大きな土地であるらしいから、そこで勢力を増してなんらかの活動(例えば軍事力を用いた復讐)をしたいのか。今のところ手掛かりは無いようだ。
  6)王家の後継者争いとの関係。体験版の範囲では、次代の王が誰になるかに関して、レオナは特に興味を持っていないようだ。また、自身が次代の女王になろうとする素振りも見せていない。ただし、政治文化にもよるが、他国や領内貴族に嫁した王女でも、出自王家での王位継承権を保持し続ける場合はある(逆に資格喪失するという文化もあり得る)。第一王女レオナと結婚していることを公表すれば、ジークが王位に就ける可能性も出てくるかもしれない。もちろん、王女と結婚したからといって夫が王女側一族の地位や当主継承資格を獲得するとは限らないが。
  7)ロゼとの関係。以前から知り合いだったようだ。おそらくレオナの正体も知っているだろう。王女であるならば、超高級娼婦とのコネクションがあっても不思議ではない。ただし、具体的な経緯や利害関係などは一切示唆されていない。
  だいたいこのように推測を積み重ねてみると、「レスベル伯(またはその王子など)に嫁いでいたが伯爵家は滅ぼされ、その際に死んだものとして身分を隠しつつ、なんらかの意図を持って同領後任のジークに接触を図った」といったというのはあり得そうだ。もしかしたらレスベル伯領滅亡の経緯にレオナが関わっていた可能性もある。ただし、領地経営の経験があったのに、その領内の住民に王女(妻)として顔が知られていなかったというのは、かなり不自然になる。なお、王家の後継者争いについては、彼女がどのような考えを持っているかは分からない。
  もしもこの推測のとおりだったとしても、ストーリーがどう展開するかについてはほとんど示唆が得られないし、それ以外の様々な可能性もあるだろうし、そもそも王女ではないという可能性もあるし、さしあたりは彼女が第一王女だとしてもどうということは無いのだが、少なくともゲームのオチに関わってくる可能性は高いだろう。

  他に考えられる可能性は、王家ではなくレスベル伯爵側の一員であったというパターンか。例えば、レオナは伯爵の娘であり、コルネの母親も伯爵家からブラウベル王家に嫁いでいた(例えばレオナとコルネは従姉妹)といった状況もあり得る。そうすれば、二人の外見上の記号的類似も、領地経営経験も、マイレッド領主への助力も、王位に興味を示していない(?)ことも、一応すべて説明がつく。この場合、言及されていない不在の第一王女はまったく無関係の別人(ミスリードの仕掛け)になる。ただし、反乱貴族の縁者であるレオナが旧領に直接介入までしているのを、王国が野放しにしているのかという点に疑問が生じるし、正体露見せずに何年も過ごしているのがいよいよ不自然になってしまう。ジークがよほど鈍い人物であって、彼だけが気付いていないという可能性も無くはないが。あるいは、ジークもすでに気付いているが、テキスト上では言及していない(いわば読者を騙している)という可能性も。

  ……というか、良く見たら、目の色が同じなのは「レオナとコルネ」じゃなくて、「レオナとヨミ」じゃないか。いったいどうして……謎は深まるばかりだ。

  映画『バリー・リンドン』の主人公も、貴族の女性と結ばれたが、彼自身は爵位を自動的に授かるわけではなく、爵位獲得のために苦労していた。しなくてもいい苦労とか言わない。


  ソフトハウスキャラ作品としては、初めての凡人主人公かな。『魔剣』『勇者砲』もほどほど程度ながらそれなりの実績は挙げていたし、『悪魔娘』もかなりしたたかな人物だったし、『雪鬼屋』ですら東京ではかなりやんちゃをしていたらしいし……ああ、でも、『悪魔娘』あたりから、主人公がわりと普通になってきたと言えるかも。以前のような超人的な能力の持ち主ではなくなってきた。また、ちょうどその頃から、蹂躙的なアダルトシーンが急速に影を潜めていった。


  S/Lなどで毎年一人以上「占い師」を引いてくれば無期限プレイが可能に……はならないだろうなあ。おそらく上限(最長でも何年まで)とあらかじめ設定されているだろう。

  施設をすべて解体(またはマイナス効果の施設だけに)して各種資材も0個にしたら、状況が詰むだろうか。「要望」コマンドと「領民相談」しか実行できなくなるが、ターン経過時にランダムで貴族宅が出来て収入が発生することがあり得るから、完全な詰みということにはならないだろう。試しに資材をすべて0個にしてみたが、べつに破産扱い(ゲームオーバー)にはならなかった。
  期限到来の他には、「防衛戦に負けるとゲームオーバー」(02:52-)になるというのがデモムービーで示唆されている。どういう状況だろうか。国内の政治勢力(他の貴族、他の派閥、または王国それ自体)からの攻撃なのか、野盗などが攻撃してくるのか、それとも外国からの侵略か。条件が成立すればカジュアルに攻撃してくるのか、それとも一定の限られた場面のみのイベント戦闘なのか。体験版段階では分からない。



  08/02
  『領地貴族』OPムービー公開。
  立ち絵ありの男性サブキャラ(?)がいる(0:50-)。きっと一条光ヴォイスだろう。背後には甲冑姿の騎士(?)たちに、ロベルト・カーロンを思い出した。そういえば、今作は久しぶりに味方側での王国軍組織が登場することになりそうだ(――『勇者砲』『魔剣』『門』などでは、そうした描写は省略されていた)。
  00:49-。旗の模様は、ブラウベル王国の国章だろうか。01:14にも同じ紋章の旗がある。
  00:56-には、ブドウ踏みの一枚絵。なんと珍しい。
  01:06-では、看板に独自文字。
  01:17-。この文字配置はまさにSHCのムービー。スタッフもいつもの顔触れなので安心。
  背景制作としてキューン・プラントが入っている。『花咲WS』などの背景も手掛けたらしい。
  01:21-では、背景に風車。建物の様式を見ても、なんとなく北方ヨーロッパっぽい。

  01:12-の「れっんあい」のところでロゼの横向き立ち絵がちょこんと動くのが、もう心が震えるほど可愛らしい。こういうのは大好き。


  『領地貴族』のヨミがなにかを連想させると思っていたが、そうか、たけやまさみキャラか。小柄元気っぽいところと、ほどよくリラックスして愛敬のある表情、くりっとした目元、面長に引き締まった頭部の造形、明るくパリっとしたカラーリングなどが、そういう連想を誘ったようだ。特に『てとてトライオン』『ひめごとユニオン』の頃か。