2025/11/15

フレームアームズ・ガール(グランデ)「アーキテクト」について

 フレームアームズ・ガール(グランデ)「アーキテクト」の制作メモなど。

 【 今回のコンセプト 】
 元のFAGキット(約15cm)に対して、グランデキットは約27cmと、ほぼ2倍のサイズになっているが、ディテールはほとんど元のままなので、拡大された分だけ間延びしてしまっている。なので、面のディテールを細かく追加して、空疎感を解消するように制作した。
 方向性としては、スケールモデルのパーツを投入して、陸戦ミリタリー調のリアル感に近づけるようにした。具体的には、ZVEZDA社の戦車「T-90」(1/72スケール)から装甲パーツやアクセサリーパーツを使い、また、Finemoldsの航空機用「フォーメーションライトセット(F-15用、1/72)」で各部のフタやディテールを設けた。さらに、Kotobukiyaのフックセットや、汎用LEDケーブルなども適宜使用した。
 その一方で、実戦寄りの汚しを入れるのは差し控えた。「ラボで実験中のアンドロイド(1/6スケール)」くらいのリアリティを念頭に置いてディテールを調整したつもり。

 塗装について。基本的にラッカー吹き付け塗装。
 ブラック:Tamiyaブラック(ツヤ消し)。
 グレー:Tamiya横須賀グレー。
 シルバー(頭髪):Vallejo「Silver」(新版)を筆塗り。
 レッド:下地ホワイトの上に、キャラクターレッド(+グレー少量)。
 ブルー:Tamiya水性「青竹色」を筆塗り。
 足元など:ツヤ消しブラック+クロムシルバー少量。
 襟元:Creos「クールホワイト」。

 デカールは、MYK(アシタ)の「グッドマークデカール:コーションデカールNo. 02:アヴィエーションテイスト・英語表記#2(レッド&ネオンレッド)」を使った。サイズがちょうど良く、グレーの上でも発色の良いビビッドレッドで、同じマークが大量にプリントされているので、とても使い勝手が良い。


全身像。ブラック/グレーだけでは物足りないので、各部に赤色パーツを入れて彩りを増すようにした(フック、ケーブル、コーションマーク)。アンテナも、メカキャラとして是非とも使いたかったポイント。靴部分が別パーツになっていたので、メタルカラー(ブラック+クロムシルバー)で、重量感と異素材感をちょっとだけ味付けした。基本的なシルエットは、ほぼキットそのまま。
斜め前と、背面からの撮影。前面は丸モールド(ボルト表現)を徹底的に隠してディテールアップしたが、背面はほぼそのままにしてある。丸モールドの大味っぷりはやはりきつい。3mm穴も5mm穴へ拡大されているが、3mm穴へのコネクタパーツがある。
ノーマルFAG版「アーキテクト(Off White Ver.)」と並べて。約2倍のサイズになる。パーツ構成は多少違っているが、基本的な造形はほぼそのままで変わり映えしなかったので、なんとか違いを出すように制作した。
設定画再現に必要な塗り分けは、このあたり。スカートのラインなどは、無水性塗料「青竹色」を筆塗り。太腿のベルトは、設定画ではブラック単色だが、せっかくなのでグレーで塗り分けた。特に脇の下の黒ラインは、塗り分けておくと引き締まると思う。
上半身のアップ。フックは非常に便利で、「緻密感」「立体感」「ミリタリー感」「色彩感」などをリーズナブルに表現できるのがありがたい。もちろん、様々な装備品を取り付けるアタッチメントそのものとしても使える。頭頂部ユニットは戦車パーツで適当にディテールアップした。
頭部を後ろ側から。見てのとおり、合わせ目処理などはしていない。頭髪は、ファレホ(新版)シルバーで毛筋塗装を試みたが、メタルカラーは濃度変化で半透明にすることができないので、頭髪の柔らかさを表現するには不向き。ここは失敗だったかも。
頭部を右側から。何故か、戦車のハッチを頭部に取り付けているという珍造形だが、ここは「なんとなく緻密さを感じさせる」ことを第一目的にしたので、大目に見てもらいたいところ。グリーンのセンサーはBANDAIの汎用パーツ。胸部や上腕の「田」の字ディテールは、航空機用のフレア/チャフディスペンサーを流用。
視線を合わせてみると……。机の上に立たせておくと、椅子や机の高さ次第では、かなり頻繁に目が合うことになる。
やはり無表情キャラは、一人でぼんやりとアンテナ交信しているのがよく似合う。たぶん『雫』の月島瑠璃子さんや『ストライクウィッチーズ』のサーニャで広まったイメージ。
上半身全体をおおまかに撮影。各部のフックやコーションマーク(デカール)で、なんとか間延びを抑制したつもり。デカールは、塗装しなくても(?)様々な色を足せるのが助かる。汎用デカールは数量が多いので、多少失敗しても構わないし。
胴体部分のクローズアップ。追加装甲のリベットの凸部分は、筆塗りシルバーで色を乗せている。ほとんど気づかないほどの違いだが、無意識にでもリベット造形の密度感や質感を感じ取ってもらえれば、という感じ。多重装甲っぽさもわりと上手く行ったかな。
脚部は、この作品の最大の見せどころにするつもりで手を掛けた。制作中は、まるでロボットプラモを作っているような気分になった……いや、それが正しいのか? ここも基本的には、戦車パーツとフックを適当にあしらってデコレートした。
アンダーウェアは、グレーからブラックに塗り替えて目立たないようにした。配線ケーブルはやや作為的だが、実験機らしい強引さだということにしておく。足首は、無印FAG版と同じく、足の甲が引っかかって可動を大きく阻害している。
ここも、背面はほとんど触っていない。四角形のハッチ状パーツは、Kotobukiyaの汎用パーツから。今度は関節部の丸一モールドが悪目立ちしているが、誤魔化しにくい位置にあるし、色変えでもどうにも出来ないので、そのままにしてある。
ノーマルFAGとグランデ版を同じサイズにして並べてみる。全体のプロポーションもパーツ間バランスも、ほぼまったく同じだったというのが見て取れるだろう。


2025/11/06

2025年11月の雑記

 2025年11月の雑記。

 11/15(Sat)

 グランデ「アーキテクト」がひとまず完成。
 ドールアイ組み込みも、後で試してみるかもしれないが、このツリ目形状だと難しいかも。

 フック表現はとても便利なので多用している。メリットが非常に多くて:
- 表面に緻密さを与えられる。面を埋めるアクセントになる。
- 立体感を付与できる。
- 実用的な機能性を表現できる。
- 本体とは異なるカラーを乗せられる。
- しかも制作(取り付け)はきわめて容易。パーツ入手も簡単だし安価。
- サイズや形状もそれなりに選択肢が多く、柔軟に使える。
- 小さいパーツなので主張しすぎず、アクセサリーとして投入しやすい。
- フックに様々なものを吊り下げるという拡張性もある。
等々。逆に欠点としては、「適さないジャンルもある(例えば航空機)」、「小さく出っ張ったパーツなので破損(脱落)しやすい」があるくらいか。
 同じような機能は、ケーブルやパイプにもあるので、「せっかくだから俺はこの赤のケーブルを使うぜ」と、今回は堂々と併用している。ベタに使えて便利すぎるのでチープになりかねないところだが、スケールモデル以外のモデラー界隈(ロボットとか)ではあまり見かけない。

 形状については、水滴型(馬蹄型)や三角形、四角形、さらには突起型、キーホルダー型、あるいはシンプルな鉤型(J字型)など、ヴァリエーションが多く、しかねもAFVキットからハイディテールなパーツを調達できるのがありがたい。

 ただし、既存のロボットアニメではこうしたフック表現は稀だったりする。例えばガンダムシリーズでも、前世紀までの2D作画アニメでは、ほぼ使われていない(※フックの細かくて立体的な作画が、あまりに面倒で高コストになるからだろう)。そして今世紀のシリーズになると、格好良いガンダム同士が戦うヒロイック路線を志向して、その中では地味な陸戦兵器テイストのフック表現が入る余地はほとんど無くなっていた……ということだろう。例外的に、ちょうどその端境期の『08小隊』(1996-1999年)だけは、OVAという特性もあって、フック(シールドや両肩)やウィンチなどの重機フレーバーを盛り込んでいた。ただし、歴史的にはあくまで例外的な存在だったと言えるのではなかろうか。
 それ以外のロボットアニメでも、例えば『ボトムズ』にはフック表現は無いようだし(※パイプなどの表現はある)、『マクロス』シリーズは航空機ベースなので似合わない。『パトレイバー』も、排気孔やアンテナ、関節部カバーといったリアル路線のディテールはあるものの、警察ロボットという仕様からしてフックの出番は無かった。スチームパンク風の『サクラ大戦』は、さすがに両肩フックを一部のメカに採用している。海外の『トランスフォーマー』シリーズでも、内部メカの細かい配線ディテールなどは試みられていたが、ゴツいフック描写は稀なようだ。

 新記事:「アーキテクト(グランデ)」について。
 ネット上でも、このキットをちゃんと塗装制作している人がほとんどいないのが悲しい。キャラクター性の観点ではスティレット等に一歩譲るとしても、ロボットキャラらしさは突出して優れているので、モデラーが手を掛けてディテールアップしてやれば十分な手応えが得られる。大サイズなのも、細部の造形を掘り下げられる余裕があると言える。まあ、そういう造形の精度向上はメーカーの仕事だと言うこともできるのだが……。
 まあ、一般的には、無塗装で組んでいろいろ動かして可愛いポーズを取らせて楽しむのが、おそらくガールプラモとしては正道なのだろうけど、しかし造形があんまりあっさりしすぎているのを見ると、一モデラーとしては、ね……。


 次の冬アニメは……うーん。
△『違国』は演出次第。
△『綺麗にして』は、キャストと演出次第。
△『人外教室』は、もう少しキャストが良かったら……。
-『正反対な~』は原作を読んでいるからアニメは観なくていいかな。
-『葬送』も、ここから展開が地味になっていくので、アニメで見直すほどではないかも。
△『ダーウィン』は、原作を途中まで読んで飽きたので……ん? 主演は種﨑氏なのか!
△『DARK MOON』も、演出次第かな。
△『デッドアカウント』は、ファイルーズ氏枠で確保するかも。
△『火喰鳥』は、江戸時代もの。出来が良ければ……。
-『ヘルモード』は、田村(睦)氏主演に小市氏も出演されるが、しかしそれだけでは……。
△『魔法の娘』は、久野氏主演。出来次第では観るかも。
 
えっ……積極的に見たいと思える新作が一つも無い……。オリジナルアニメも無いし、「勇者」ネタが5作品もあるし……。むしろ女性向けが健闘しているかもしれない。
 ちなみに、続編/シリーズものの比率が38%とやたら高いのもガッカリ要因。しかも、2期よりも3期以上の方が多いという有様。

Kotobukiya「メルティーナ」について

 Kotobukiyaのプラモデル「メルティーナ」の制作メモと雑感。
 ※ヘビ人間(ラミア)のプラモデルの写真があります。苦手な方はご注意。

2025/11/02

漫画雑話(2025年11月)

 2025年11月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。

●新規作品。
 及川徹『異世界H英雄伝』第1巻(秋田書店、1-4話)。性的興奮によって知力(予測計算能力)が劇的に高まる主人公が、怪物たちに蹂躙されつつある異世界人類を守るために活躍する話。及川氏らしく、意志的な主人公と、切迫感のあるシチュエーション、異様な緊張感のある背景美術、そしてクリーチャーデザインを初めとしたグロテスクな描写、さらに唐突感のある濃厚なエロ表現(※全年齢)がふんだんに盛り込まれている。初連載の『新世界より』漫画化の時点から、こうした個性は明らかだったし、長期連載の『インフェクション』でもその手応えが常にあった。実は、前作『軍神のタクト』(全3巻、未読)のリメイクのようだ。主人公の名前もキャラの位置づけもほぼ同じで、違いは……性的要素かな?
 ディーン・ロウ『勇者殺しの花嫁』第1巻(少年画報社、原作あり、1-6話)。既成教会権力が、強すぎる勇者を危険視したため、暗殺のために下っ端戦闘員の主人公が送り込まれたという状況。コマ絵の一枚一枚を見るかぎりでは、一級のクオリティがある。繊細な描き込み、美しいプロポーション、異形生物の迫力、瞬間の印象的な切り出し、建造物の質感と存在感、等々。しかし、漫画としてのコマ組みと紙面演出が、どうにもぎこちない。原作に由来するストーリーの強引さも相俟って、ちぐはぐに見えるところが多い。うーん。
 稍日向(やや・ひなた)『ボクはニセモノノキミに恋をする』(GOT、単巻、全10話)。日本神話(イワナガ/コノハナ)のイメージを絡めつつ、禁足地での神隠しネタを描いている。絵も筋立ても、まあ悪くはないのだが、単巻ゆえの食べ足りなさがある。
 7Liquid『なにも理解らない』第1巻(芳文社FUZ、1-16話)。言葉も通じず、現代世界の知識もほぼ無い(記憶喪失)という徒手空拳状態で異世界に転移(?)した若者の物語。コンセプトどおりにそれなりに面白いが、しかしモノローグ中心で、漫画でやる意義がよく分からない。5-6頭身の画風で、メインヒロインのエルフは確かに可愛らしいし、周囲の空間的な広がりやアクションポーズの躍動感は上手く描けているのだが。


●カジュアル買いなど。


●続刊等。

1) 現代ものやシリアス系。
 九重すわ『踊町(おどろまち)コミックハウス』第2巻(6-11話)。ドヤ街のような土地の、妖怪のような大家のいるアパートで、二人の元気な少女が、漫画賞で生活費を稼ごうと漫画制作に取り組みはじめる。00年代初頭風のアナーキー日常ものの雰囲気を継承しつつ、創作同人風の自由な展開を商業作品の枠にぎりぎりまで近寄せてパワフルに進んでいく。丸顔寄りの主人公たちは可愛らしく、絵はハイレベルでポージングもレイアウトも紙面演出も、そして要所の幻想的な表現も、抜群に良く出来ている。そして今巻の最後では舞台の移動と主体の切り替わりというどんでん返しが提示された。
 眞藤雅興『ルリドラゴン』第4巻(25-33話)。体育祭が大きくフィーチャーされた巻だが、テイストはいつも通り。すなわち、自分自身の中の無視できないアイデンティティ上の特徴と、それを巡って生じる周囲の人々との摩擦、そしてそれらを通じて社会の中に存在し続けようとする苦闘、しかしそれにもかかわらず発生する新たな(不本意な)自身の身体的特徴によってさらに攪乱される彼女の思春期の生活。もちろんこれは、「思春期の女性に突然現れる、不本意で苦しくてコントロール困難で、自らの身体的コンディションの変化を恥ずかしくも周囲に晒してしまったり、さらには社会生活に支障を来すことすらある現象」という点では、女性生理と酷似しているという辛さもある。
 とこのま『稲穂くんは偽カノジョ~』第3巻(21-28話)。女装男子+偽装カップル+同居ものという贅沢な設定。導入のきっかけは強引だったし、心情の襞の掘り下げが凄いというほどではないが、絵は穏健にまとまっているし、ヒロイン(仮)のキャラクター個性はユニークだし、恋愛関係のベタベタに踏み込まないのもあってスムーズに読んで楽しめる。


2) ファンタジー世界やエンタメ寄り。
 石沢庸介『第七王子~』第21巻(175-181話)。榮竜との高速戦闘と、そこで開花するヒロインたちの新たなスキルが華々しくも劇的に描かれる。技のアイデアの独創性と説得力が絶妙だし、それが研鑽と才能と(そして時には悲劇性)によって裏付けられている誠実さも石沢氏らしい。
 宮木真人『魔女と傭兵』第7巻(47-56話)。漫画表現がぐっとこなれてきて、コマの流れも良くなり、コミカルな表現も上手くハマるようになってきた。ただ、やはり、物語の雰囲気が相変わらず酷薄で、とりわけヒロインキャラたちが怯えたり、殴られたりするシーンが頻出するのは少々きつい。まあ、そういう冷酷さは、傭兵という立場での厳しい現場の物語として、筋が通ってはいるのだが。そしてヒロインたちも、基本的にツリ目強気なキャラばかりで、とても魅力的なのだが。そして、バトルシーンのギミックとその説明も説得力があるのだが。
 kakao『辺境の薬師~』第11巻(78-85話)。背景の描き込みが、とんでもないレベルに達している。いくつかのツールは使っているのだろうけど、基本的には全て独自に描き起こしていると思われる。しかも異世界の和風建築の内装の装飾的ディテールから、屋根が並ぶ都市風景の立体感まで、超絶技巧で作画されている。しかも、単なる名技披露ではなく、場面ごとの雰囲気やニュアンスを表現することにきちんと寄り添っているのも凄い。作品全体として見ても、顔アップのコマがかなり少なく、常に空間的な広がりの中で物語が展開されるし、コマ絵そのものも角度と奥行きのある絵で柔軟に描かれているし、さらには壁越しの2部屋をフレームインさせているような技巧的なレイアウトまで使いこなしている……どうしてそこまでするの……。ストーリーそのものはただの天然チート系で、そのうえセクシーで豊満なキャラクターが大量に出てくるのだが(※特におまけ漫画はおねショタ全開のえろになる)、この紙面演出がこの漫画版の圧倒的な迫真性と美術的な没入感をもたらしてくれる。
 大関詠詞『~スローライフの夢を見るか?』第3巻(14-20話)。四十路男性が若い身体で異世界転生した話。お色気シーンもそれなりに多いが、メインヒロイン一人を同行者として確立して、その周囲の問題に取り組んでいくところは好印象。しかも眼鏡ヒロインだし。苦悩や怒りといったキャラクターの心情描写も率直誠実に描かれている。
 恵広史『ゴールデンマン』第7巻(48-56話)。一種の鏡像世界にリープしてから、物語が一気に進んだ。しかも、状況の大転換や、心理面での大きな節目を入れつつ、スピーディーに展開していく。連載開始当初から、このあたりのドラマを目指して積み重ねてきたのだろうか。
 上戸亮『ロメリア戦記』第5巻(21-25話)。島との交渉から衝突へ。少年兵たちと戦うというのは、現代エンタメ作品としては突出して深刻な倫理的困難に直面させる状況であり、物語は苦い懊悩逡巡とともに誠実に描かれている。漫画表現としては、繊細なペンタッチによる緊張感と、丁寧な描き込みによる豊かな質感表現、そしてキャラクターたちは存在感のある表情を見せるし、戦闘シーンも躍動感のあるポージングで説得的に描写されている。
 朝倉亮介『アナスタシアの生きた9日間』第3巻(完結、12-18話)。良い作品だったのに完結とは……巫女が勇者少女を殺害することが予言されているというカウントダウン式ドラマで、一日=一冊のペースでじわじわ進んでいくと期待していたのに……。こういうカウントダウン型の物語はわりと珍しいし、和風異形のクリーチャーデザインも独創的で、コマ組みレイアウトも鮮烈なインパクトがあり、異能のアイデアもそれぞれユニークで、さらにグロめの表現も大胆で、これを9巻まで続けてくれるとワクワクしていたのに、なんと惜しい……。エンディングは、異能スキルを活用して巻き戻すという形で、きれいに筋が通ってはいるのだが、やはり本来想定していたであろう結末まで描いてほしかった。もったいない……。
 古日向いろは『石神戦記』第6巻(25-29話)。所領奪還を果たして、次は少人数で隣接領に潜入することになった。中世日本風の伝奇+政略+合戦もので、喩えるなら和風ルリタニアロマンスのような趣が受けているのだろうか。私はむしろ、おねショタ目当てで読んでいるけど。一歩間違えば短命連載で終わりかねない路線だが、世間的にも好評なようで、連載が続いているのは嬉しいかぎり。くクリアカットな描画と安定感のあるコマ組み進行、そして戦闘シーンの迫力とユニークな石術、さらにキャラクターも人数が多いなりに個性が明確なので、隙がなく80点を取り続けている感じ。ファンを熱狂させるというほどではないが、堅実に読者を惹きつけていけるクオリティが頼もしい。
 緒里たばさ『暗殺後宮』第9巻(45-49話)。9巻まで来ても相変わらず、状況や立場が一つのところに留まらず、どんどん変転していくのが面白いが、今回はついに後宮を追い出されてしまった。いったいどうするんだ……。まあ、なんらかの仕方で楽しく解決してくれるだろうという信頼を作者に預けておいてよいだろう。後宮の複雑な人間関係からいったん離れた主人公が、周囲の人々と穏やかな交わりを獲得しているのが微笑ましい。


 久しぶりに木村紺『神戸在住』(全10巻)を通読した。京都の学生時代に読んだときはあんまり好きではなかったが、あらためて読んでみると、その強い個性に感銘を受ける。手書きで柔らかく、それでいて緻密に描き込む画風の手触りに、内省的独白をコマの間に差し込む独創性(※90年代末当時のちょっとした流行にもなっていた)、大学生の日常ものとしての広がり、そして数年前の震災を初めとするローカルな社会的重層性への、ストレートでありながら距離を置いた視座(※主人公は東京から入学してきた異邦人という位置づけだ)、観光漫画としての先進性(※北野異人館街が扉絵で頻繁に描かれる)、絵画や音楽に囲まれている大学生のアーティスティックな雰囲気、そしてそれ以外も、身体障害や国籍アイデンティティ(中国系2世)、さらには喪失体験(人の死)を掘り下げる際の異様なまでの切迫感。
 現在私がたまたまその土地に住んでいるという事情を別にしても、本作で描かれている30年ほど前の神戸の開放的な風景と、そこで生活した感受性豊かな大学生の内省的デリカシーの陰影、そしてその若者を取り巻く社会の厚みによって特徴づけられた本作は、今なお特異な個性を持っている。

2025/11/01

アニメ雑話(2025年11月)

 2025年11月の新作アニメ感想。

●『悪食令嬢と狂血公爵』
 第5話は、砦で過ごす穏やかな一晩。坂泰斗氏の安定感のある芝居が心地良いし、配下騎士たちも、やけに良いキャストを揃えている。
 ストーリー等はおそらくほぼ原作/漫画版に準拠しているが、ヴィジュアル面での見せどころも、ストーリー面でのニュアンスも、きちんと掬い取られている。
 ドラゴン騎乗時に、風に揺れるアホ毛のアニメーションよ……。

 第6話は魔魚のフライ料理。原作設定の巧みさがあらためてよく伝わる。すなわち、
・グルメものだが、単なる個人レベルの美食ではなく、社会関係の中でそれを扱う。
・食糧難の世界で、主人公は魔物を食用可能にできる知識を活用できるという状況。
・魔物食は世間的には禁忌のゲテモノだが、パートナーは彼女の試みを理解してくれる。
・パートナー公爵の領地で、彼の配下たちとともに魔物食を賑やかに楽しめる。
・双方の固有事情がしっかり噛み合っていて、お互いを支え合う関係に説得力がある。
・二人の関わりも、初心で微笑ましい共同作業の描写に終始する。
 つまり、前世紀的なグルメバトルでもなく、かといって「欲望としての美食」でもなく、必要に迫られつつ、二人のそれぞれのアイデンティティと目的意識が噛み合った結果として、領内に豊かな食生活を創出していくという視野の大きな物語になっている。そして究極的には、「良い食事を通じて社会的な幸福を広めていく」という意味で、グルメものとしての独自の価値をはっきりと提示している。
 ストーリーとしては、「亡母の遺志を継いで魔物食を試みている少女が、それを理解してくれるヒーローとともに賑やかなレア食材パーティーを開きまくる」という、一見シンプルなエンタメなのだが、それを支えている作劇上の構造は非常にしたたかで意欲的な作りになっている(※ちなみに、彼女の魔力吸い出しスキルは、後に魔物食以外にも発揮されるようになる)。
 そして、そういう構造の上に、今のところこのアニメ版は、楽しい美食パーティーを通じた初々しいカップル描写に終始している。12話の短い枠内では、この路線で押しきるのは妥当だろう。
 二人の距離感も良い。露骨なイチャイチャでもなく、コメディに走るのでもなく、えろ要素も避けている。そのうえで、男性側はクールに甘いささやき台詞を口にしながら内面では相手に惚れきっており、その一方で女性側は天然キャラで、恋愛感情を意識していないまま、男性の可愛げをにくからず感じているというバランスで、お互いにちょっとしたことで照れあうという微温的な関係が好ましい。
 今回のアニメ版も、予算規模は小さそうで、動画表現にも限界が見て取れるが、コスト配分にはぎりぎりの取捨選択をしつつ、上記のようなコア部分(コンセプト)をきちんと押し出しているので、総じて印象は良い。



●『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』
 第5話。映像としては月並だが、バトルシーンでの瞬発力と、比較的整った美形作画、そしてからかい系シチュエーションのおかげで保っている。しかしそれも今回のように長所を出せないと、本当につまらなくなる。バトルシーンは止め絵で誤魔化しており、敵役サイドの中途半端なシーンを差し込んでは下品な顔を大写しにしてがっかりさせ、そしてストーリー全体としてもあまり魅力が無いという……。今期はたまたま視聴候補に残ったけど、他のシーズンだったら『ゴリラ』のようにバイバイしていた可能性がある。

 第6話は、王都を離れて教会編(?)に入った模様。新キャラのディアナは、力の入った作画でその可愛らしい所作を健やかに表現している。ただしそれ以外は、演出もストーリーも空転の気配が兆している。テレネッツァの正体と意図にドラマの焦点が向かいかけていたのにそれを大きく外してきたのは、(少なくともこの時点では)けっして上手い脚本構成とは言いがたい。
 幼き聖女ディアナの役は、前田佳織里氏。難しい低年齢キャラだが、ツヤのある声色で元気良く演じている。ほとんど聴いたことが無いが、『あこがれて』のマジアマゼンタ役か……あまり覚えていないが、印象は悪くなかったと思う。

 第7話。バトル要素はマンネリと省力作画に後退してしまったが、代わりに新ヒロインと主人公兄のロマンスが大きな魅力を発揮している。これはこれであり。



●『終末ツーリング』
 第5話。キャラクターの細かな所作も丁寧にアニメーションさせており、その一方で竜巻乱立のスペクタクルや、水飛沫と大波の動画、そして遠景の緑の廃墟に至るまで、たいへん充実した画面作りになっている。
 ただし、問題もある。シチュエーション頼みで、コンテそのものは平凡だし(移動中の真横カメラ構図はイージーで、非常にダレやすい)、音響表現やカットつなぎもダイナミックな自然現象のインパクトを掬い取るのに失敗している。巨大満月から竜巻の間を渡橋するシーンまで、とにかく見どころ満載の回で、もっと良い映像に出来そうだったのに、もったいない……。主役がどちらも一本調子なのも(片方はひたすら「うわー!」「おおー!」で、もう一方はダウナー系)、抑揚のニュアンスを乏しくさせている。これも監督/音響監督に責任がある。制作素材と現場スタッフは良い仕事をしているのだから、それらを全体としての完成度に結実させていくのはディレクション側の問題だろう。
 月面に、何か巨大な物体が衝突したかのような大きな亀裂(ヒビ)が入っているが、真面目に考えても仕方ないだろう。

 第6話。元々は、OP前のアバンタイトルは特殊な演出だったが、現代ではそれが普通のことになり、かえってアバンタイトルが無いと何か特別な回なのかと感じてしまうようになっている。
 今回は千葉の海ほたる。朗らかな歓談と、周囲の廃墟および窓外の嵐の対比が刺激的。ただし、根本的には驚きが無い。これまでも、戦闘車両に攻撃されたり竜巻群が発生したりといった危機はあったのに、あまりにも能天気なままで来ていたので、改めて深刻な語りをされても肩透かしに感じてしまう。
 主演二人は、稲垣氏も台詞ごとのニュアンスが出てきたし、アイリ役の富田氏も堅実。



●『野生のラスボスが現れた!』
 第5話。キャンピングカーのゴーレムを錬成する……『通販』にも似たようなものがあったが、こういうおバカ進行はわりと好み。ただし、一つの回(話数)ごとのまとまりが無いままなのは、ベタ移植アニメの問題で、とりわけこうした日常寄りのシーンではそれが顕在化しやすい。絵コンテ(レイアウト)も、今回はやや面白味に欠ける。
 動画表現それ自体としては、省力するところは思いきって止め絵で流したりカット再利用したりしつつ、キャラが身体を動かすところは初動のモーションを気持ち良く描いて生き生きした雰囲気を作り出している。なかでも前半の温泉脱衣シーンは、細やかに中割動画を付けている。ディーナが腕を元気よく上に伸ばすのも、キャラ個性の表現として上手くハマっている。アリエスのカラフルな頭髪グラデーションも、現代のデジタル作画ならではの表現だろう。
 サブキャラたちの音声芝居がちょっとひどいが、まあ我慢しよう。

 第6話は、天秤リーブラ編の終わりまで。メカ(アンドロイド)との戦闘を、錐揉みミサイル乱舞やロケット変形などの武器表現から空間戦闘のスピード感、そして大爆発エフェクトに至るまで、贅沢に描き出している。近代兵器キャラと黒翼ファンタジーキャラの戦闘という取り合わせもユニーク。その一方で、情緒のある画面レイアウトや溜めのタイミングコントロールが、主演小清水氏の緻密な芝居とともに展開される。中盤のクライマックスに相応しい回。

 第7話は、これまで培ってきた表現力をシリアス方面に投入してきた。幼少期ルファスを演じているのは誰? これも小清水氏? 「ウェヌス」という魔物もエンドロールにクレジットされていないし(※おそらくディーナとの兼ね役)、「ソル」「ルーナ」というよく分からないキャラもクレジットされているし(※会議していた魔族のようだ)、今回はかなり不思議な内容になっている。