2014/02/16

海原氏について

  PCゲーム声優としての海原氏についての個人的な雑感。


  海原氏は、昔は苦手だったのだが、それが、出演情報のお名前を見るだけで嬉しくなるくらいのお気に入り声優さんになったのは、いつ頃からだっただろうか。氏の早い時期の出演歴の中で、ヒロイン級の芝居では『C.F. エレンシア戦記』(2003)や『パティシエなにゃんこ』(2003)などで接していたが、いったいどこを向いて演じているのか、キャラクター芝居として何を表現しようとしているのかが理解できず、正直にいえば避けていた。とりわけ、しばしばティピカルな大袈裟さに流れがちなその芝居の中で、発声の中のリズムや運動性、あるいは感情表現の筋道がうまくつかめずに当惑させられることが多かった(――この点では、逢川氏や一時期の深井氏とも共通していた)。その一方、『復讐の女神』(2003)や『夢幻廻廊』(2005)のように、主人公に対して自身の正体を明かさずミステリアスに振る舞うキャラクターを演じられる時は、たいへんな当たり役にもなっていたのだが。それ以降も、氏のヒロイン級として出演されたタイトルに接する機会はあまり無く、『Wizard's Climber』(2008)や『DAISOUNAN』(2009)に至っても相変わらず「よく分からない方だなあ」という認識のままだった。

  それが変わってきたのは、おそらく『忍流』(2009)の時だった。企画兼脚本家の内藤氏としても3度目の協力関係であり、海原氏をどのように配役しどのようなテキストを演じさせるかがよく分かってきたということかもしれず(※もっとも、キャスティング過程はそうではなかった可能性もあるが)、そして実際にも、その「シルヴィア」というキャラクターは、複雑な政治的背景を持ちながら異国への侵攻軍の総指揮官として敢然と戦い、そして敗れたのちさらに数奇な運命に晒される役どころとして、この作品の中でも特別に重要な位置を占めていたが、その成功はやはり海原氏の芝居の中で表現されたその禁欲的な凛々しさ、内心の鬱屈をあえて抑え付けた緊張感、王族役として相応しい十分な品位、その中に胚胎した脆さの予感、そして捕縛後の控えめな親しみと風変わりな愛嬌との両立、これらによってもたらされた成功に他ならなかった(cf. [tw: 6856381900 , 6967985624])。なお、ソフトハウスキャラとは、上記『Wizard's Climber』以降、ブランド最新作『BUNNYBLACK3』(2013)に至るまで8本連続で出演継続しており、そして内藤氏も海原氏の起用回数の多い脚本家としてトップクラスに位置している(――EGScapeによれば、2014年2月現在の最多はタカヒロ氏と尾之上氏の9本で、内藤氏の8本はそれに続く)。

  このほか、同じく2009年に発売された『ぬるぷり』『仏蘭西少女』あたりも、私の中での個人的な「海原エレナ・ルネッサンス」をともに形成している。この年には『幼馴染は大統領』のような派手なスラップスティック作品もあったが、ウェットさとドライさを巧みに切り替えながらその都度の場面に含まれる諧謔味をうまく掬い取って表現される海原氏の芝居ぶりが、私の中でなんとなく腑に落ちてきたのがこの時期だった。『あるぺじお』(2007)も、発売から随分遅れてプレイしたが、作中でたびたび現れる長大なラジオ放送のDJ役――主人公がそれを聴くという体裁になっている――も、普段の海原氏のキャラクター芝居とは異なる趣向で、落ち着きとユーモアを併せ持った懐の深い音声表現を展開しておられた。けだし絶品である。

  役者としての海原氏ご自身に触れることのできる機会は少ない。管見の範囲では、雑誌「TECH GIAN」2006年1月号の特集記事「VOICE ACTRESS CONCERTO! vol.1」のインタヴュー記事(p. 184)、「がっちゅみりみり放送局」のゲスト回(53-54回ほか。2004年か)、webラジオ「中目黒わくわくモンキーパーク」のゲスト回(2、4、5、10、14、15、18、22、23回[2008-9年。伊東名義を含む])、それから個別タイトル関連のフリートーク音声(とりわけWhirlpool公式サイトでは、出演作7本中5本についてフリートークが聴ける)くらいしか存在しない。

  「VAC」のインタヴューは、一ページのみの記事なのであまり立ち入った話はされていないが、「激しいヒステリックな役は苦手ですが、静かで穏やかだけど、実は一番悪いみたいな役は好きです(笑)。そういうキャラクターはお芝居のやりがいがあるので演じていて楽しいですね」と語っておられる。「モンキーパーク」第10回では、動きながら演じる(喋る)のは苦手だったので声優やナレーションの仕事に可能性を見出した、という趣旨のことを仰っていた。

  上記のほか、PCゲーム界で活躍する卓越した歌手の一人としての側面についても、語られるべきことは多い――華やかな「笑顔にメリークリスマス」、ミステリアスな「トキのかたりべ」、テクニカルな名唱「摘まれし花の如く」、深みのある「私の歩幅で」、等々――が、それらを適切に評価し説明しきることは私の能力を超えるため、ここでは断念せざるを得ない。



  追記(2014/04/20)

  「海原エレナといえば紫色髪」というイメージはどこから来たのだろうか。『夢幻廻廊』?

  気になったのでおさらいしてみると、『真剣恋』シリーズ、『Muv-Luv Alternative Chronicles』シリーズ、『BUNNYBLACK』シリーズ、それから『メイドさんひろった!』『寝盗られ女教師』『勇者からは逃げられない!』『夏色ストレート!』『DAISOUNAN』『PYGMALION』『マジカライド』『催眠術2』『ね~PON?×らいPON!』『月光のカルネヴァーレ』『エッチしよっ!』『らぐな☆彡サイエンス』『ついつい』『夢幻廻廊』『最終試験くじら』『姉、ちゃんとしようよっ!2』『犠淫母娘』『SEXFRIEND』『妹☆妹』『黒雪姫』『旅館白鷺』『とらいあんぐるハート3』『プリズム・ハート』で、計26タイトル(プラスそれらのFDや続編群。おおむね発売日降順)。2003~04年以前はキャラクター画像を確認できないものもあったので、まだ何人かはいる可能性がある。黒髪や銀髪と区別しにくいものも多かった(例:『RGH』『涼風のメルト』『装甲悪鬼村正』『姫狩りダンジョンマイスター』『きっと、澄みわたる朝色よりも、』『ましろぼたん』『めがちゅ!』『かみさまの宿っ!』『A.A.A.』『真月下美人』『黒瞳皇』)が、控えめにカウントした。いずれにせよ、紫髪キャラのレアリティからすると、EGScapeでの出演数約300タイトル中26タイトルで8.6%程度――FDや続編の数え方によっては10%を優に超える――というのは、平均よりもずいぶん高めの割合だろう。ちなみに、メイドキャラもわりと多い。