2017/01/28

海上人工施設とアダルトゲーム

  海上人工施設を舞台にしたアダルトゲームについての、簡単な紹介と検討。


  海上人工都市(あるいはメガフロート)のロマンは、なんとなく分かるようで、しかしその魅力の勘所が私にはよく分かっていないのかもしれない。先日の記事でも言及した『SeeIn青』(近未来の科学実験都市)、『うさみみデリバリーズ!!』(新船橋市)、『MERI+DIA』(軌道エレベータ基地)、『てとてトライオン!』(元は自然の島だが、高度にIT化されている)、『終末少女幻想アリスマチック』(人工島学園都市)あたりはどれも好きな作品だが。『機械仕掛けのイヴ』にも中古の原子力空母2隻を結合した海上基地があったり。遡れば、SF漫画の『スタンダードブルー』『ダークウィスパー』などもあり、類似カテゴリーの巨大飛行戦艦(『遊撃警艦パトベセル』や小説『境界線上のホライゾン』)や潜水艦舞台(『DOOP』『蒼海』シリーズ)なども含めてSF的シチュエーションの定番ではあるのだが。

  ざっとggったら(cf. wkpd:「人工島を舞台とした作品」)、アダルトゲーム分野の中では『レコンキスタ』(2007)、『StrawberryNauts』(2011)、『DRACU-RIOT!』(2012)、『ソーサリージョーカーズ』(2015)もそうだっけ。未プレイだったり、忘れていたり。



  【 メガフロート設定の意義 】
  フィクションにとって、海上施設にはどのような意義が考えられるか。

  背景制作。現実の日常とは大きく異なる風景を展開できる。しかも、近代的技術と大自然のコントラストを利用できる。さらに複雑な建物や雑多なストリートを避けてかなり自由な造形で建築物等を描くことができる(つるりとしたシンプルな壁面の方が、実験施設らしさを印象づけるだろう)し、水平線背景も比較的ローコストで制作できる可能性がある。

  設定面の自由度。人工的に管理された閉鎖空間であるため、必要に応じて様々な描写や展開が使用できる。モブキャラや住宅地など、ストーリー上の必要のないものは出さなくてもいい。特に、主要登場人物をごく少数の固定メンバーに限定できるというのは、とりわけアダルトゲームにとっては制作上の強みになるだろう(例えば『パトベセル』『蒼海のヴァルキュリア』)。ただし、先進施設だから「様々な不便が無い」という点に関しては、実際にはメリットにならない。不必要なシーンはそもそも描写しなければよいというのがフィクションの自由度なのだから。

  ガジェット面。任意の先進的なツールを登場させるのに説得力があるし、そうしたツールだけが浮いてしまうという虞が無い。『うさデリ』のように卑近な風景と先進的テクノロジーとの間の対比を活用する場合もあるが。

  出来事の影響範囲。私企業の運営する閉鎖空間ということであれば、かなりエキセントリックな事件を発生させても、外部からの介入や社会的影響などをはなから無視することができる。法的ルールを逸脱できる場合もあるし、最後に施設全体を爆破させてしまうといった展開にすることも容易だろう。

  ロマン。SF創作史の蓄積やSF読書歴からの反映もあって、そういう観点も出てくるだろう。



  【 実例検討 】
  『SeeIn青』(alicesoft、2000)の舞台は私企業による先進的な海上実験施設であり、秘密裡に開発された人工生命体や軍事的強化人間が登場するし、閉鎖空間らしいサスペンス展開にもなる。2000年発売の、アダルトゲーム分野においても先進的な作品だった。


  『うさみみデリバリーズ!!』は、ミクロネシア海上の浮遊人工島であり、セグウェイが日常使用されていたり、ジェット加速するローラースケートを履いたキャラクターがいたり、巨大企業の陰謀が進んでいたり、民営警察があったり、軌道エレベータ建設予定地があったりする一方で、台車運送や麻雀対決といったレトロな世俗的描写も併存しており、そうした猥雑なコントラストが本作の特有の雰囲気を作り出している。ヴィジュアル面でも、入道雲の沸き立つ海浜風景から、寂しげな埠頭の倉庫街、人気のない地下の秘密施設まで、様々な背景画像が登場する。

『うさみみデリバリーズ!!』
(c)2003 すたじおみりす
人工島には多くの住民がおり、居住区はこの画像のように利便性と衛生性を追求した作りになっている。その一方で、一部には昭和的な商店街もあり、港湾部はマフィアがたむろしているといったギャップもある。画像左側のキャラクターはセグウェイに乗っている。


  『MERI+DIA』は、全世界的なカタストロフが発生した後の近未来世界である。ここでも、近未来の先進技術と破滅的な社会的混乱との対比が、作品のムードを規定しつつ、ストーリー展開にも深く関わってくる。例えば、月面で発見された超技術を利用することで、人工生命体や軌道エレベータが実用化されており、また、一般人の間でも、遺伝子工学や再生医療技術を利用したカジュアルな整形(例えば長耳化したり瞳の色を変えたりする)が普及している。その一方で、超技術は一部の企業等に独占されており、荒廃したスラム地域で細々とサバイバルしている人も多い。大災害に由来する海面上昇に対して人類は巨大な防壁を構築している最中であり、また、海上に軌道エレベータの基部が建設されていたりもする。

『MERI+DIA』 (c)2005 ぱれっと
アダルトゲームで起動エレベータが描かれた貴重な実例。エレベータのカーゴ内でのシーンもある。


  『終末少女幻想アリスマチック』『てとてトライオン!』は、隔離された実験的な学園島になっている。人々も、事件も、インフラも、現実からいささか逸脱したエキセントリックなものが溢れている。例えば『てとてトライオン』では、実験的な生体波動認証による個人識別システムが導入されていたり、最新の情報端末が実装されていたり、自作の警備ロボット群が闊歩していたりする。

『終末少女幻想アリスマチック』
(c)2006 キャラメルBOX
本作の背景設定も、破滅に瀕した世界というSF的シチュエーションである。古風な装飾性に満ちたヴィジュアルデザインと、ストーリー上のミステリアスな出来事、そして実在の剣術を引き合いに出したバトル表現と、様々な挑戦を盛り込んだ意欲作である。
『てとてトライオン!』 (c)2008 PULLTOP
土台は自然島であり、本土とは橋でつながっているが、各施設が高度に情報制御されている。各施設は、必要に応じて地下に沈めたり地表に浮上させたりすることもできる。建物の内部も可動ブロックシステムになっており、ブロック単位で自由に組み替えて変形/移動させることができる。地下にも関連施設が張り巡らされており、島全体が近未来的な実験施設になっている。


  『機械仕掛けのイヴ』は、企業間の技術開発競争をモティーフにしたSLG作品である。中には実力行使を伴うシーンも含まれ、カードバトル形式の戦闘パートも発生する。新ブランド第一作目に相応しい気宇壮大な描写と、アダルトグッズ開発という諧謔味の取り合わせが面白い。下記引用画像とおり、味方側の拠点として巨大な海上基地が登場する(この飛行甲板上でも、バトルシーンが発生することがある)。

『機械仕掛けのイヴ』 (c)2006 ninetail
本作のほかにも、豪華客船が舞台になっているタイトルや実在軍艦が登場するタイトルは多数存在する(前者は『サフィズムの舷窓』『ツナガル★バングル』など、後者の例は『マブラヴ オルタネイティヴ』など)。