2018/09/20

アダルトゲームと食の表現

  近年のオタク系諸領域における「食」の扱いをめぐる雑感から。

- はじめに:アニメ、LN、漫画について
- 2010年代の飲食ものアニメ
- 中間考察:飲食表現増加の原因と意義
- アダルトゲーム分野における飲食表現
  1. イベントとしての食事
  2. 飲食店舞台のタイトル
  3. 日常の食事風景
  4. 性表現の一種として
  5. SLG作品における諸事例
- 関連のある論点群:表現形式とヒロイン造形
- おわりに


  【 はじめに:アニメ、LN、漫画について 】

  近年の漫画やアニメで、「食」をフィーチャーした作品や、食事風景が細かく描かれるシーンが増えている(orいた)と感じる。もちろん、90年代以前にも料理人主人公や美食ものの作品は定期的に現れていた。しかし、この10年代のオタク文化にも、飲食への注目という顕著な傾向が生じており、それを主題化した作品がすでにいくつも存在し、また、飲食ものではないタイトルでも摂食プロセスを細かく――おいしそうに――描写することがかなり一般化してきた。

  今回のブームはいつ頃から、どのあたりの作品を契機として始まったのだろうか。正確な時期は憶えていないが、10年代半ば頃(2014~2017年)だったように思う。2018年現在も、似たような趣向の新作が定期的に現れているから、流行は続いている、あるいは食表現を取り込むことが完全に定着したと言えそうだ。


  【 2010年代の飲食ものアニメ 】

 一例として、アニメ分野における飲食ネタを概観してみよう。

  アニメ分野、とりわけTVアニメは、
- 公表媒体(電波)が極端に限られている(漫画やゲームやLNにはそうした制約が無い)。
- 一作品あたりの制作コストが高く、制作期間も長い(漫画等に比べて機動性が低い)。
- 出資者や原作権利者など、多数の当事者が関与する(それらの主張と要望を受け入れる)。
- TVアニメは、大規模な宣伝媒体そのもの(つまりテレビ)と密接に連動している。
こうした性質からして、アニメ分野は今世紀のオタク界隈においても、最もプレゼンス(流行としての影響力)が大きく、なおかつ流行を最も慎重に反映している分野である。言い換えれば、ある流行がアニメに反映されるようになれば、それは前後の時期に亘ってかなり大規模なものであると考えられる。

  2010年代のアニメ分野では、以下のタイトルが飲食ネタを大きく取り上げているようである(※さしあたりwikipedia「日本のテレビアニメ作品一覧 (2010年代 前半)」などからピックアップしている。また、同一シリーズの2期以降は原則として省略している。原作小説や原作漫画は、ここでは単行本基準で公表時期を記しているが、実際にはそれよりも早い時期に雑誌で開始されているのが通例である)。

時期作品概要
2010年04月-WORKING!!(1期)ファミレス舞台。飲食要素は希薄。原作漫画は2005年から。
2010年10月-宮西達也劇場 おまえうまそうだな恐竜主人公。食事要素がある? 原作絵本は2003年刊。
2010年10月-食パン ミミー食パン主人公。食事ものではない?
2010年10月-侵略!イカ娘(1期)海の家が舞台。食事要素は少ない。原作漫画は2007年から。
2011年04月-花咲くいろは温泉旅館が舞台。食事要素は不明。
2011年04月-へうげもの戦国時代もの。茶道要素あり。原作漫画は2007年から。
2011年05月-ごはんかいじゅうパップ食事モティーフ。詳細不明。
2011年10月-ベン・トースーパーでの弁当争奪バトル。原作LNは2008年から。
2012年07月-もやしもん リターンズ(2期)農業大学が舞台。1期は2007年放映。原作漫画は2004年から。
2013年01月-たまこまーけっと商店街の和菓子店(餅屋)が舞台。食事要素や餅作りの描写がある。
2013年07月-銀の匙(1期)農業高等学校が舞台。酪農もの。原作漫画は2011年から。
2014年04月-ご注文はうさぎですか?(1期)喫茶店が舞台。原作漫画は2011年から。
2014年08月-目玉焼きの黄身 いつつぶす?日常グルメものの模様。全4話。
2015年01月-幸腹グラフィティ日常食事もの。原作漫画は2012年から。
2015年04月-食戟のソーマ(1期)学生料理人が主人公。原作漫画は2012年から。
2015年04月-雨色ココア(1期)喫茶店舞台。食事要素は不明。
2015年04月-BAR 嫌われ野菜野菜キャラクター。
2015年07月-ワカコ酒飲酒もの。原作漫画は2011年から。
2015年07月-怪獣酒場 カンパーイ!酒場が舞台。ショートアニメ。
2015年10月-JKめし!学生の日常グルメもの。26話のショートアニメ。
2016年01月-だがしかし(1期)駄菓子屋が舞台。原作漫画は2014年から。
2016年04月-とんかつDJアゲ太郎主人公はトンカツ屋の息子とのこと。原作漫画は2014年から。
2017年07月-異世界食堂原作小説は2013年から。
2017年10月-お酒は夫婦になってから日常の飲酒もの。原作漫画は2015年から。
2018年01月-ラーメン大好き小泉さん原作漫画は2014年から。
2018年01月-たくのみ。日常の飲酒もの。原作漫画は2014年から。

  ブームというほど多くはないが、2015年頃から顕著に増加しているのが見て取れる。子供向けとおぼしき古典的な擬人化ものも定期的に存在するが、2011年の『ベン・トー』(ただしバトル中心)を経て、2015年に立て続けに飲食ものがアニメ化された。2017年になると、異世界ものとの組み合わせや日常飲酒ものなどのヴァリエーションが現れている。

  内容面では、伝統的なグルメものとは異なって、喫茶店や駄菓子といった日常寄りの飲食機会がフィーチャーされているのが、大きな特徴になっていると言えるだろう。これら以外の作品でも、食事シーンを扱っているものが多数存在するが、作品コンセプトに即した食文化描写や、作中世界の生活様式に密着した飲食描写がクローズアップされることが多い。例えば、キャンプものの『ゆるキャン△』(漫画版は2015年から/アニメ化は2018年)は、キャンプ生活における食事を長時間に亘って描写しているし、ダンジョン探索ものの『メイドインアビス』(漫画版単行本は2013年から/アニメは2017年)は、架空世界の奇怪な野生生物たちの珍味をくりかえし描いている。『ゴールデンカムイ』(原作漫画は2014年から/アニメ化は2018年)においても、20世紀初頭の北海道――とりわけアイヌ――の食生活および生活文化が詳細に描かれている。


  【 中間考察:飲食表現増加の原因と意義 】

  飲食表現が増加した経緯については、さまざまな原因が考えられるだろう。例えば、LNの異世界もので、作中世界における生活のリアリティを描写するために食事シーンの詳細に描写する傾向が、他分野にも影響してきたのかもしれない。また、アニメでは、00年代後半以来、料理や食材を精緻に描き込む傾向が強まっている。作画水準の向上が、食事表現に適用された結果であるのかもしれない。RPGやFPSなどのゲーム分野でも、3D技術の普及および進展とともに、リアリスティックな食材表現がいよいよ優勢になっている。あるいは、漫画分野では、昔ながらのグルメ漫画や料理人漫画とは異なる新たなブームとして、日常(一般人)寄りの食事ものが台頭してきたと言えるかもしれない。

  いずれにせよ、食は三大欲求の一つに関わるものであるから、きちんと描けば人気が出るのは当然だろう。時代や地域によって大きな違い(多様性)があるから題材には事欠かないし、食文化としての精神的な側面も扱える。事実上すべての人間が行っている行為であるから、読者みずからの感覚に即して想像力を働かせることもできる。筆者個人はこうした食事ものにはあまり手を出していないのだが、世間的に飲食ものや飲食表現が好意的に受け入れられているというのは、納得できる事態だ。


  【 アダルトゲーム分野における飲食表現 】

  さて、アダルトゲーム分野では、どうだろうか。

  一昔前(00年代半ば頃まで)は、食に対する注目はほとんど現れていなかったようだ。食事シーンが細かく描かれることも少なかったし、CGで料理が緻密に描かれることも稀だった。そうした中で、食に関わる描写が現れる主要な局面は、「1. デートシーン」、「2. 飲食店舞台の作品」、「3. 日常の食事」、「4. 調教シーンや性表現シーン」の4種類に分類できるだろう。さらに、読み物AVGとは異なった独自の表現形式として「5. SLG作品」における諸事例も紹介する。


  【 1. イベントとしての食事 】

  【 デートシーン 】
  白箱系(学園恋愛系)タイトルで、ヒロインと二人で喫茶店などを訪れるシーンは、頻繁に描かれてきた。アダルトゲームにおける飲食表現としては、デートイベントでパフェやケーキを食べる描写が、数のうえで最も多いと思われる。ヒロインと向かい合って着座する形になるため、ヒロインを正面から大写しにできる良い機会であり、実際にイベントCGを割り当てられることも多い。また、見栄えの良いスイーツはCGの華であり、グラフィッカーの腕の見せどころにもなっただろう。
  ただし、あくまで本題はデートである。テキスト上では、ヒロインとの会話に注意が振り向けられており、スイーツを一切れ一切れ食べて味わうようなプロセスが細かく描写される筈もない。ヒロインとのコミュニケーションをないがしろにしてひたすら食事に専心するような主人公は、そうそういないだろう(――ただし、『星空へ架かる橋』[2010]のように、ヒロイン側が食欲旺盛なキャラクターだという場合はある)。

  【 ファストフード(ラーメンなど) 】
  カフェと並んで、頻繁に取り上げられるのが、――意外なことに――ラーメン店である。ヒロインと二人で、屋台などのラーメン屋に入り、席を並べて親しく歓談しながら麺を啜るという描写が、これまで何度も描かれてきた。管見のかぎり、アダルトゲーム分野での最も早い実例は『ONE』(1998)であるが、そこから二十年を閲した現代でも、ラーメン店に入って舌鼓を打つシーンが時折持ち込まれている。あるいは、類似の描写として、初めて食べたファストフード牛丼の味にヒロインが感激するというイベントや、牛丼好きなヒロインのいる作品もある(前者の例として『秋色恋華』[2005]、後者は例えば『Dear My Friend』[2004])。
  何故ラーメンなのだろうか。学園恋愛ものの主人公たちは、たいていの場合、経済力の乏しい学生(高校生相当)であるから、フォーマルな高級レストランよりも、カジュアルなファストフード店の方が適しているということだろうか。あるいは、『恋神』(2010)のような異種族ヒロインや異文化交流ものでのタイトルは、ラーメンを知らないヒロインにその味を教えるというイベントになる。そうした場合に、ヒロインが失敗しても恥ずかしくならないという側面も考慮されているのかもしれない。

  【 ディーセントな会食:レストランやパーティー 】
  その一方、高級レストランでのデートが描かれる場合もある。例えば『ままらぶ』(2004)には、学生主人公が頑張って年上ヒロインをエスコートしようとする――が結果的に喜劇的な展開になる――描写がある。90年代風トレンディドラマのパロディの性質を持つ作品であり、アダルトゲーム分野としてはかなり珍しいシーンである。ただし、本稿の趣旨に関していえば、「気取った会食」という状況設定こそが重要なのであって、料理のディテールや摂食のプロセスを細かく描写するものではなかったと記憶する。

  デートと並んでイベント的性格の強い飲食行為として、お茶会がある。二人での親密なティータイムもあれば、多人数による上品で楽しいティーパーティーもある。『アトラク=ナクア』(1997)や『ONE2』(2002)、あるいは『グリンスヴァールの森の中』(2006)の頃から、ティーパーティー風景は時折描かれてきた。『BUNNYBLACK3』(2013)では、紅茶ではなく日本茶での野点シーンがある。『桜花センゴク』(2010)や『淫辱選挙戦』(2013)には、茶室や茶道部室での性行為に際して茶道具を使うというシーンもあるが、もはや飲食の範疇ではない。

  その他、桜の花見や夏祭の屋台で食事を楽しむものもある(前者は『シンシア』[2004]、『魔女こいにっき』[2014]など。後者は『夏めろ』[2007]、『朝凪のアクアノーツ』[2008]など多数)。普段の日常とは異なる開放的な雰囲気の下で、花見であれば「桜とヒロイン」、夏祭りであれば「浴衣姿のヒロイン」といったヴィジュアル面での見せどころがある。ヒロインたちとの親交を深めるプロセスになることも多々あるし、また時には告白シーンの舞台になることもある。食に関しても、18禁ジャンルなので花見酒も堂々と描写できるし、屋台のファストフード類の描写もイメージが湧きやすいだろう。

  小括。
  食卓をともにするという行為は、お互いの親密さを表現するうえで説得力がある。そうした文化的精神的な意味において、華やかで和やかな食事のひとときをヒロインと共有するシーンは、今後もくりかえし描かれるだろう。デートや花見のような特別なイベントであれば尚更である。

『キミトユメミシ』
(c)2016 Laplacian
喫茶店のシーンは、美味しそうなスイーツCGに、ヒロインがそれを楽しそうに食べる様子、そしてデートらしい雰囲気が合わさり、魅力的な見せ場になる。
『カルマルカ*サークル』
(c)2013 SAGA PLANETS
開放的なオープンカフェ。ただし、ドリンクは飲むためというよりは、零して服を濡らす演出のために存在するにすぎない。シチュエーションの主眼はあくまでヒロインである。
『恋神』
(c)2010 PULLTOP
屋台などでヒロインとともにラーメンを食べるシーンは、アダルトゲームでも高い頻度で(しかもイベントCGを投入して)描かれる。アニメなど隣接分野からの影響もあっただろうが、アダルトゲーム分野でもラーメン描写はポピュラーである。
『ままらぶ』
(c)2004 HERMIT
画面四隅の黒ベタによってブラウン管テレビを模していることからも窺われるように、TVドラマ的なコメディを取り込んでいる。記念日に高級レストランに招待するのだが、予想外の知人に遭遇してしまうなどの展開が生じる。
『アトラク=ナクア』
(c)1997/2000 alicesoft
シャイな学生少女と蜘蛛妖怪の女性の運命が交わり合う、百合要素のある短編AVG。夜の学校でひそかに催されるのは、普通の食事ではなく、つつましやかなお茶会であった。
『古色迷宮輪舞曲』
(c)2012 Yatagarasu
一般的なカフェや茶室でお茶を飲むものもある。本作は喫茶店を主な舞台としつつ、運命論にまつわる物語を、独自のキーワードシステムによって展開していく。
『桜吹雪』
(c)2009 Silver Bullet
不思議な常春の学園で、イベント実行委員会の面々が花見の会食を行っている。桜のロマンティックな風景と、会食の親密なムード、飲酒の開放的な気分が一体となる、絶好のシチュエーションである。
『夏めろ』
(c)2007 AcaciaSoft
夏期休暇中の祭イベントは、ヒロインと出会う機会であり、ヒロインの普段とは異なる浴衣姿が披露される機会でもあり、時として告白のチャンスにもなる。飲食に関しても、屋台風景が描かれることが多い。


  【 2. 飲食店舞台のタイトル 】

  ファミレスでアルバイトとして働くSLG『Piaキャロットへようこそ!!』シリーズ(1996-)以来、『いただきじゃんがりあん』(2000)、『ブラウン通り三番目』(2003)、『あると』(2006)、『トロピカルKISS』(2009)、『CAFE SOURIRE』(2011)、『水の都の洋菓子店』(2012)、『にゃんカフェマキアート』(2013)、『しゅがてん!』(2017)、等々、レストランや食堂、酒場、ファミレス、喫茶店、洋菓子店、リゾート施設などを舞台とする作品は多数制作されてきた。

  ヒロインの一人が飲食店で働いているという作品も多い。『秋色恋華』(2005)、『pianissimo』(2006)、『あるぺじお』(2007)、『大阪CRISIS』(2009)、『星空のメモリア』(2009)、『九十九の奏』(2012)、『恋する姉妹の六重奏』(2014)、『アマカノ』(2014)、等々、00年代半ば以降に増えてきた類型であるが、学生アルバイトから飲食店の娘まで、実例に事欠かない。

  しかし、それらは総じて、ヒロインの制服姿を美しく描くためのロケーションであって、食事そのものにはほとんど注意が向けられていない。例えば、洋菓子店舞台の『パティシエなにゃんこ』(2003)でも、ヒロインの接客風景はイベントCGで華やかに表現されたが、ケーキそれ自体がCGで出てくることはほとんど無かった。また、洋食屋が舞台の『さくらシュトラッセ』(2008)でも、料理それ自体はあまり描かれていない。これらの作品が、食べる側(客側)ではなく提供側(店側)の物語であるという事実からしても、食事風景がクローズアップされよう筈はなかった。
  暫定的な展望としては、一連の飲食店ものは、人が集まりやすい場所としてのロケーション設定と、ヒロインたちの制服姿を描けるという視覚表現上のメリットという、二つの条件を重視しているように見受けられる。現実問題としても、飲食店は衛生面の考慮から制服に着替えることが多いため、制服描写は十分な説得力を持つだろう。
  飲食店でなくともよいと考えることもできる――実際、『下級生』(1996)の頃から花屋ヒロインや魚屋ヒロインは存在した。しかし、食事は人間の生存に欠かせないこと、単なる買い物ではなく一定時間その場に留まること、毎日くりかえし訪問することもできること、敷居の低い日常的な活動であること、制服姿を描きやすいこと、そして食欲という本能に関わる活動であることから、やはり飲食店設定には大きなアドヴァンテージがある。

  小括。
  飲食店描写のある作品は、主人公を経営者側(例えば喫茶店の一人息子)に設定すれば、ヒロインたちとの交流機会を設けられるし、また、主人公が客側である場合には、ヒロインたちの活動風景を見に行ける理由になる。

『Pia☆キャロットへようこそ!!3』
(c)2001 F&C(FC02)
ファミレス制服を3種類から選択できる(CGが全て描き替わる)という仕様にも窺われるとおり、食事や接客よりもヒロインたちのコスチュームへの注目が重視されている。
ただし本作は、00年代初頭当時、CGワークに関して業界の最先端を走っていたF&Cにとって最大規模の力作であり、人物CGや背景CGだけでなく、料理CGでも高いクオリティを披露している。
『さくらシュトラッセ』
(c)2008 ぱれっと
こちらは現代日本設定の洋食屋を舞台としている。ファミレスSLG『Piaキャロ』シリーズから近年の『しゅがてん!』に至るまで、アダルトゲームではレストランや食堂を舞台としたオーナーまたは店員の側の物語がしばしば扱われる。
『パティシエなにゃんこ』
(c)2003 pajamas soft
タイトルどおり、現代日本の洋菓子店を舞台とする物語。ただし、ケーキを映した一枚絵は少ない。2003年発売のタイトルであり、ケーキを描くCGワークもそれほど凝ったものではない。
『恋する姉妹の六重奏』
(c)2014 Peassoft
華やかなレストランだけでなく、定食屋が舞台になることもある。本作のヒロイン6人のうち2人が、この店の娘(姉妹)である。


  【 3. 日常の食事風景 】

  【 00年代前半まで:コメディシーンとして 】
  日常の食事――食事を楽しむ側――に焦点を当てた作品は、ほとんど無いようだ。例えば『美喰』(2004)というタイトルもあったが、ダーク系の作品であり、料理それ自体はあまりクローズアップされていなかったようである。飲食店ではない場面での食事については、00年代半ば頃までは、「ヒロインが下手な料理を作ってしまって大騒ぎ」という扱いが、まだ定番であったと記憶する。

  【 学校での食事:弁当から学園祭まで 】
  そもそも主人公の日常の食事は、それほど大きく描かれないのが通例である。両親不在の一人暮らしをしている男性-学生-主人公の食事シーンは、華やかなものになりにくいだろう。そうした中で、学校での昼食風景は、描かれる頻度が比較的高い。白箱系を中心として、教室や学食、あるいは屋上などで、友人たち(もちろん後の恋人たちを含む)と一緒に食事を摂る。『ToHeart』(1997)から翌年の『ONE』、『いちょうの舞う頃』(1998)など、この分野で学園恋愛系AVGがジャンルとして確立された当初から、学食や弁当をいっしょに食べるシーンは好んで描かれてきた。ただしここでも、食事の内容よりも楽しい会食をすることが主眼であって、食事の中身に注意が向けられることは乏しい。

  学園恋愛系では、学園祭で喫茶店を開くのも定番のイベントである(例:『片恋いの月』[2007]、『Signal Heart』[2009])。また、学校の授業で料理――とりわけ焼き菓子作り――をするシーンもある(例:『ピリオド』[2007]、『PRIMAL×HEARTS 2』[2015])。そうしたシチュエーションでも、重要なのはやはりヒロインたちのメイド服やエプロン姿である。

  【 00年代後半以降:生活描写の一部として 】
  00年代後半以降、アダルトゲームは選択肢分岐を極小化し、物語的性格を強めている。進行分岐のヴァリエーション管理に煩わされなくなったAVG作品は、キャラクター間の人間関係をよりいっそう緻密な描くことが可能になった。主人公と個別ヒロインの間の一対一関係のイベントを断片的に積み重ねるだけでなく、ヒロイン相互間の関係が共通パートの中で幅広く描かれるようになったり、複数のヒロインを巻き込んだ大掛かりなスラップスティックコメディが発生したりするようになったのである。とりわけ『巫女さん細腕繁盛記』(2004)以降のすたじお緑茶は、キャラクターたちが形成するコミュニティのサロン的な親密さを打ち出してきた先駆的なブランドである。なお、擬似家族ものの『家族計画』(2001)や、学生寮舞台の『この青空に約束を―』(2006)などのよく知られた作品もある。
  10年代に入ると、キャラクター間の人間関係描写はさらに密度を増していく。それに対応するように、白箱系の多人数共同生活ものの流れが現れつつある。具体的には『ゆにばる!』(2010)、『超時空爆恋物語』(2010)、『とらぶる@すぱいらる!』(2011)、『倉野くんちのふたご事情』(2012)、『僕と恋するポンコツアクマ。』(2015)、『恋と魔法と管理人』シリーズ(2015/2016)、そしてとりわけ『アッチむいて恋』(2010)以降の一連のASA Project作品。そして、共同生活描写の一環として、食事風景がクローズアップされることも増えた。近年でも、レストランものや同居シーンなどで食事シーンを詳しく描き込む傾向が多少見出される。

  食の要素をフィーチャーした近年の重要な作品として『なついろレシピ』(2015)がある。本編中に登場する多数の料理CGは、bcdが手掛けたリアリスティックなものであり、プレイヤーの食欲をも刺激する。ただし、卓上の料理だけを大写しにしたCGは、AVG演出としてはいささか扱いづらい素材であるように見受けられる。また、キャラクターの絵はデフォルメの利かせたあっさりした絵柄なので、料理CGとのギャップも意識される。料理画像は、ただ派手に描き込めばよいというものではなく、たとえばSDグラフィックにして美味しく食べられそうなムードを強調するといったようなアプローチも考慮されるべきだろう。

  【 ピンク系ジャンルとの親和性 】
  ピンク系ジャンルにも、伝統的に自宅舞台の家庭生活ものは多い。古くは『はじめてのおるすばん』(2001)や『シスターコントラスト!』(2003)、そしてとりわけアトリエかぐや作品(例えば『妹汁』[2002])。学園恋愛系でもなくダーク系でもなく、ハーレム的なシチュエーションで性表現を前面に押し出すピンク系ジャンルでは、自宅を舞台にするミニマル志向の設計はオーソドックスなアプローチである。そしてこうした同居生活では、自宅でヒロインが料理を作っている最中に主人公と交わり始めるというシチュエーションも度々現れる(『幼なじみな彼女』[2005]、『彼女×彼女×彼女』[2009]、『妹ぱらだいす!』[2011]など多数)。食事(料理)それ自体はおまけのようなものだが、食に関係するシーンではある。

  小括。
  食事は日常のありふれた活動であるが、90年代後半以来の学園恋愛ものでは、学校生活の大きな楽しみとして取り上げられることが多い。また、10年代に入っていよいよ精度を高めたAVG描写が、キャラクター間関係の描写を細やかにするとともに、個々のキャラクターの生活のディテール描写も強めている。時代によって力点の置き方は変化しているものの、食事風景はキャラクターたちの生活を彩る定期的な行事であり続けるだろう。

『夢幻廻廊』
(c)2005 Black CYC
料理下手は、古典的なキャラクター属性の一つであり、アダルトゲーム分野もそれを受け入れてきた。料理下手ヒロインは『痕』(1996)の頃にはすでに存在したし、本作(左記引用画像)のように料理を失敗するギャグシーンも多用されてきた。
『鬼ごっこ!』
(c)2011 ALcot
料理を失敗するのは、いわゆる「ドジっ娘メイド」の最もオーソドックスな表現の一つである。
『ToHeart』
(c)1997 Leaf
学園恋愛ものの古典とされる作品である。学食でヒロインと昼食をともにするシーンや、ヒロインとファストフード店に行くシーン、幼馴染が朝食を作ってくれるシーンなどがある。
『淫妖蟲』
(c)2005 Tinkerbell
教室や学食での昼食シーンでも、料理が画面上に映されることは必ずしも多くない。退魔師ものの『淫妖蟲』は、黒箱系で弁当そのものが細やかに描かれた、珍しい一例である。
『ピリオド』
(c)2007 Littlewitch
授業で作った焼き菓子を持ってきてくれるシーン。イベントCGは無いが、制服の上にエプロンを着た立ち絵差分は、たいへん貴重な見せ場になっている。また、ヒロインの作ったお菓子を食べられるという喜ばしいシーンでもある。
『Signal Heart』
(c)2009 Purple software
学園祭でメイド喫茶を催すシーンは非常に多い。メイド姿はユーザー人気も高いのか、その前後にメイド姿のままアダルトシーンに入ることもしばしばである。また、男性キャラクター(主人公を含む)が女装させられることもある。
『幼なじみとの暮らし方』
(c)2006 ハイクオソフト
『よつのは』の人気ヒロイン「猫宮のの」をフィーチャーしたファンディスクである。幼馴染は、家族に近い存在として主人公の日常生活に大きく接近しがちであるが、10年代に入るとハーレム的共同生活ものが優勢になっていく。
『アッチむいて恋』
(c)2009 ASA Project
ASA Projectは、00年代以来のすたじお緑茶と並んで、日常志向の家族的コミュニティものを継続的に制作している。作中では、パジャマパーティと夜食や、縁側でスイカと花火を楽しむシーンなど、生活の中の食事風景がたびたび描かれる。
『九十九の奏』
(c)2012 SkyFish
ハーレム同居もの以外のタイトルでも、ヒロイン間の交流が積極的に描写されるようになっている。左記画像のように、主人公が同席していないシーンすらある。
『なついろレシピ』
(c)2015 PULLTOP Air
田舎の食堂を舞台とする10年代のタイトル。「ごはんイラスト」担当としてbcdが何枚ものリアリスティックなCGを制作している。
イベントCGでも、料理は精緻に描かれている。飲食店の物語であるが、接客シーンよりもキャラクターたちの日常の方が重視されている。
『祝福の鐘の音は、桜色の風と共に』 (c)2012 すたじお緑茶
スイーツを小気味よくデフォルメし、明るいパステルカラーで着彩している。10年代はSD画像でイベントシーンの一部を賄う例が増えている。


  【 4. 性表現の一種として 】

  【 A. 過激表現の一種として 】
  黒箱系(ダーク系)には虐待、拷問、調教の一種として、通常口にしないものを摂食させるというシーンがある(飲尿など)。例えば『夢幻廻廊』シリーズ(2005/2009)には、生ゴミを手料理と称して食べさせるという、過激な虐待シーンがある。

  もちろんこれらは、通常の意味での、つまり栄養摂取のための食事ではない。しかし、摂食行為がその場面において明確な意味を担っている一場面であり、それどころか摂食行為が強度に文化的な意味付けを行っている表現である。『Bible Black』シリーズ(2000-)の頃から、そうした特殊な「食」の描写が丹念に行われてきた。もしかすると、摂食プロセスが最も丁寧に描かれているのは、このジャンルであるかもしれない。

  【 B. 吸血鬼ものとの関わり 】
  吸血鬼キャラが生き血をおいしそうに摂取するシーンも、しばしば描かれてきた。吸血鬼にとっては吸血行為はまさに食事である。吸血鬼ヒロインの激しい吸血衝動を描き、あるいは吸血行為のエロティシズムの側面を強調して描き、あるいは吸血行為の背徳感に苦しむヒロインの姿を描き、あるいは吸血鬼となってしまったヒロインのジレンマを描く。アダルトゲーム――すなわちキャラ萌え要素と性表現要素を併せ持ったジャンル――においても、吸血鬼ヒロインは好んで取り上げられ、そして吸血行為にまつわるさまざまな側面が開拓されてきた。
  異種族ヒロインものの『Dearest Vampire』(1999)以来、ハードな描写の多いダーク系タイトル『MinDeaD BlooD』(2004)、虚弱な吸血鬼主人公のコメディ『です☆めた』(2004)、濃厚な性表現が展開される『宵待姫』(2004)、吸血鬼ハンターが主人公のデジタルゲームブック『蠅声の王』(2006)、吸血鬼キャラクターがメインヒロインのピンク系タイトル『Chu×Chuアイドる』(2007)、伝奇的性格の強い男性吸血鬼主人公ものの『ドラクリウス』(2007)、そして白箱系で吸血鬼ものを展開した『FORTUNE ARTERIAL』(2008)に至るまで、00年代を通じてアダルトゲーム分野では吸血鬼ものが大きく花開いた。
  10年代に入ってからも、異能バトル寄りの『BLOODY†RONDO』(2011)や、ロープライス連作の第一作『美少女万華鏡 -呪われし伝説の少女-』(2011)、吸血鬼ヒロインたちに求められるハーレムもの『ノスフェラトゥのオモチャ☆彡』(2013)、異種族ハーレムものの『Magical Marriage Lunatics!!』(2013)のように吸血鬼キャラクターがメインヒロイン(看板ヒロイン)を務めるタイトルが複数リリースされている。また、黒箱系でも、吸血痕の官能性をイベントCGで鮮烈に表現した『戯ィ牙』(2017)などがある。

  吸血鬼に限らず、異種族ヒロインや異世界存在ヒロインは、アダルトゲームにおいてもポピュラーである。例えば『ひなたのつき』(2013)では、ショタエルフヒロインたちは普段木の実だけを食べているので、肉料理を食べる人間主人公に驚く。あるいは、『Magical Marriage Lunatics!!』では、異世界から来た吸血鬼ヒロインや夢魔ヒロインたちが、現代日本の甘味に舌鼓を打つ。こうした描写は、キャラクターの個性を際立たせることにも寄与するし、作品コンセプトの次元での異文化交流描写としても機能する。

  【 C. その他の特殊な飲食 】
  飲食表現と性表現との組み合わせに関しては、いわゆる女体盛りシーンが描かれることがある。とりわけ『デブプラス』(2010、※のちに「デブトピア」と改題)のそれは強烈な印象を残すだろう。ヒロインの身体にクリームなどを垂らしながら性交するシーンも時折見られる。

  さらに特殊な例として、『雪影』(2006)や『霞外籠逗留記』(2008)には、飢餓の極限状況で、人として食べてはいけない禁忌――つまり人肉――を食べるというものがあった。かなりイレギュラーな表現だが、しかし、これも摂食は人間の生命維持のために必須であるという重要な一側面を扱っているわけだから、飲食表現を突き詰めたものだと見ることもできるだろう。変身ヒロインものやSLG作品でも、プレイヤー敗北時に魔物に捕食されるバッドエンドがある(例えば『魔動装兵クラインハーゼ』[2009]や『鬼神楽』[2005])。

  小括。
  アダルトゲームの性表現や官能表現は、特殊な食材を口にする飲食表現とも結びついてきた。それらは、ただ単に性欲や食欲のような原始的欲求とリンクしているだけではない。むしろ高度に文化的な営みであったり、人間性の限界に挑戦するかのような過激な表現であったり、架空の異種族をモティーフにした観念的で官能的な交わりであったりする。これらもまた、18禁メディアたるアダルトゲームが開拓してきた重要な成果だと言うべきであろう。

『美少女万華鏡 -呪われし伝説の少女-』 (c)2011 ωstar
吸血鬼ヒロインにとっては吸血は摂食行為であるが、プレイヤーはそれを官能的な身体的交わりとして受け取るだろう。
『宵待姫』 (c)2004 ネル
吸血鬼設定のヒロインは、物理的に血液を摂取するだけでなく、他者(主人公)の体液から生命力を取り込むという意味合いからサキュバス(淫魔)的な存在として描かれることもある。
『戯ィ牙』 (c)2107 LiLiM
左記引用画像は、イベントCGの一部。特殊な因子を持つ魔物に噛まれると、吸血されると同時に、被害者は性的興奮を喚起されてしまう。噛みつく場所は首筋に限らず、太腿や乳房、臀部など、シーンによって様々である。柔肌を流れる鮮血の描写それ自体のエロティシズムにおいても、強制的興奮状態を視覚的に示すサインとしても、秀逸な表現である。
『ひなたのつき』
(c)2013 ko-eda
エルフたちが肉料理を味わってみる、食の異文化交流。興味津々の姿勢や、保守的な反応、肉の味を好まないなど、性格の違いも表現される。
『鬼神楽』
(c)2005 studio e.go!
人間性と真っ向から衝突する敵役の、おぞましい邪悪さを表現するうえで、タブーを犯す「食」の描写は効果的である。


  【 5. SLG作品における諸事例 】

  5番目のカテゴリーとして、SLG作品における飲食乃至料理の描写についても、簡単に概観しておこう。

  経営SLG『悪魔娘の看板料理』(2015)の「クム」は料理人であり、調理場の設計からレシピの改良まで、テキスト上で具体的な描写が存在する。西洋中世風ファンタジー世界で飲食店を経営するSLG作品であり、ゲームパート上でも多数の料理が設定されている。本作を制作したソフトハウスキャラは、経営SLGと得意としており、『悪魔娘』以前にもデビュー作『葵屋まっしぐら』(2000)を始めとして、『ブラウン通り三番目』(2003)、『雪鬼屋温泉記』(2011)をリリースしており、作中には調理風景のイベントCGや料理CGが登場する。また、無人惑星生活SLG『DAISOUNAN』(2009)でも、多数の料理CGを提供している。

  SLG作品やRPG作品は、作中世界における主人公の生活全体を幅広く取り扱うことがあり、それゆえ食事の描写にも注意が向けられやすいようである。Escu:deの魔砲バトルSLG『あかときっ!』(2011)や、alicesoftの3D-RPG『Evenicle』(2015)、studio e.go!のSTG『あおぞらマジカ!!』(2006)など、食事シーンのイベントCGを含む非AVG系タイトルは少なくない。

  珍しい例としては、架空の地球を舞台とする戦争SLG『英雄*戦姫』(2012)は、主人公たちの勢力が世界各地を制圧し支配していくことになるが、支配地で発生するイベントの多くは、ヒロインたちとその土地の名所を訪れたり名物を味わったりする、食べ歩き観光旅行の体裁を取っている。ストーリー性を放棄したかのようなミニイベント集であるが、必ずしも否定的には見られない。ゲーム進行形態(=物語進行プロセス)が無数に分岐するSLG作品ならではの思いきった対処であり、世界各地を訪れるというシチュエーションにも合致しているし、また、本筋とは無関係なフレーバーイベントとしてはこのくらいの軽みであってもよいし、さらにはヒロインたちと楽しい時間を過ごす描写としては目的を果たしていると言える。

  小括。
  読み物AVGとは異なって、SLG系作品ではプレイヤーが主人公キャラクターを操作してさまざまな行動を行わせる。そのため、創意ある架空のシチュエーションでの、具体的かつ能動的な活動が描かれやすい。また、特定の場所に留まらず、長路の旅をすることも多い。そうしたことから、飲食描写がキャラクターの活動内容に絡めて表現されることもしばしばである。

『悪魔娘の看板料理』
(c)2015 ソフトハウスキャラ
西洋中世風ファンタジー世界の食堂経営SLG。ヒロインの一人「クム」は料理人であり、料理の醍醐味や調理プロセスの管理、コックとしての矜持などについての語りが展開される。
『悪魔娘』のSLGパートには200種類以上のレシピが用意されており、プレイヤーはそれらを開発してはメニューを配置し、毎週の売上を出していく。レシピ一つ一つに、画像と説明テキストが添えられているといった凝りようである。
ファンタジー世界の飲食店なので、冒険者たちがしばしば訪れ、酒場のような雰囲気もある。幕間イベントなどで定期的に表示される一枚絵でも、モブキャラたちがおいしそうな皿を囲んでいる会食風景が出てくる。
『Evenicle』
(c)2015 alicesoft
3DベースのRPG作品。ロール・プレイング・ゲームは、生活のディテール描写に親和的であり、拠点に帰還したり宿泊したりする際に食事イベントが発生することがある。
『あかときっ!』
(c)2011 Escu:de
SLG系作品は、コスト配分の都合上、イベントCGの枚数がAVG作品よりも少なめになる場合がある。本作では、ヒロインとの交流もきちんと描かれ、ピクニックなどの日常シーンにもイベントCGが割り振られている。
『蒼海の皇女たち』
(c)2008 anastasia
SLG作品は、非日常、非現実的なシチュエーションにおける活動を扱いやすい。本作は第二次大戦相当の架空世界での潜水艦を舞台としている。


  【 関連のある論点群:表現形式とヒロイン造形 】

  1) AVG形式における飲食表現の難しさ。

  そもそも、一般的なAVGのスタイルでは、食事シーンを描くのがやや難しいように思う。漫画やアニメであれば、料理を映したコマ(orカット)と、それを口に運ぶコマ、そして美味を楽しむ表情のコマを連続して描いていけばよいのだが、アドヴェンチャーゲームでは、それが出来ない。使用できるCG枚数に大きな制約があるし、テキスト進行と歩調を合わせる必要がある。例えば、料理を盛り付けた皿だけを大写しにしたまま、それを食べる様子をテキストで書いても、食事の雰囲気は出ないだろう。

  また、イベントCGでも、画面の様子が固定されてしまい、食事のプロセスが表現しにくい。主人公を画面に登場させるかどうかという問題もある。例えば『エインズワースの魔物たち』(2008)ではショタ主人公という個性があり、上述の『アッチむいて恋』は可愛らしい女装主人公であり、『蒼海の皇女たち』は個性のはっきりした軍人主人公であるといったように、主人公を画面内に登場させやすい条件が整っている。しかし、そうでない場合には、主人公がフレームインしないような作為的なレイアウトで画面構成するか、あるいは前髪で隠した目無し主人公にするといった対処になってしまうだろう。

  ましてや、通常の立ち絵表示状態では、料理を画面に出すのは難しい(※カットインで料理をポップアップさせることは可能だが)。ゲームが食事シーンをあまり描いてこなかったのは、媒体上の適性という形式的事情があったのではないかと思われる。

『エインズワースの魔物たち』
(c)2008 アイル(チーム☆る~にぃ)
洋風世界における会食シーンCGの一例。AVGの基本的なレイアウトは、大きなテーブルを囲む食卓シーンのアングルを少々苦手としており、一枚絵でもあまり描かれない。
『翠の海』 (c)2011 Cabbit
さえき北都の明晰な原画にSkyFishの巧緻な着彩が組み合わさった、業界でもトップクラスのCGワークである。しかし、主人公をフレームアウトさせたため、食卓の傍に立っていることになってしまう。
『秋色謳華』
(c)2005 Purple software
白箱系の男性主人公は、個性を出しすぎないように描かれる。アダルトシーンなどでも極力フレームインしないようにトリミングされるし、やむを得ず画面に描かれる時も、90年代以来の目隠し姿で描かれることがある。


  2) キャラクター(ヒロイン)の性格の傾向変化と飲食表現。

  アダルトゲームは、どのようなジャンルでも、ヒロインとの交流が最も重視されるのが通例である。それゆえ、ヒロインの性格造形やヒロインとの関係描写も、飲食表現の増減と関わってくる。近年の顕著な傾向の一つとして、包容力のあるヒロイン(甘やかしヒロイン)に注目しよう。主人公キャラクターの心身を慰撫し、欲求を満たすことは、アダルトゲームのヒロインが多かれ少なかれ有する物語的役割であるが、10年代のタイトルにはそうした性質を全面的に展開するヒロインが増えており、それとともに食欲の充足もしばしば描かれている。

  雑駁に言えば、90年代には『晴れのちときどき胸さわぎ』(1997)のように、コメディ向けのアグレッシヴなヒロインが多く、00年代前半にはツン&デレの二重性のあるツンデレヒロインが人気を博していた(『巣作りドラゴン』[2004]のリュミスベルン、『パルフェ』[2005]の花鳥玲愛、『処女はお姉さまに恋してる』[2005]の厳島貴子など)。
  それに対して、00年代末から10年代に入ると、当初から一貫して包容力のあるヒロイン像や、いわゆる家庭的なヒロイン像という新たなアプローチが勢力を伸ばしてきた。私のプレイした範囲では、『とっぱら』(2008)あたりで、主人公に対する餌付け要素が出てきたと認識している。それらは白箱系や黒箱系よりもむしろ、『いじらレンタル』(2011)や『妹ぱらだいす!』シリーズ(2012/2013/2018)、『どろり甘エロご奉仕性活!』(2013)、『アイカギ』(2017)、『家の彼女』(2018)のように、ピンク系や中低価格帯を主戦場としている。

  もっとも、『秋桜の空に』(2001)や『水月』(2002)のように、甘やかしヒロインは個別的存在としては以前から存在していたし、それらはしばしば好評をもって迎えられていた。しかし、00年代末以降の甘やかしヒロインは、強化されたハーレム志向の下にあるという点で、00年代以前とは物語構造および趣味嗜好を異にする。

『とっぱら』
(c)2008 キャラメルBOX
独身男性に奉仕することを目的とする妖怪という、設定からして徹底的な甘やかしヒロイン。当然ながら食事提供という形でも主人公に甲斐甲斐しく尽くす。
『どろり甘エロご奉仕性活!』
(c)2013 HEAT-SOFT
生活能力を失い、生きる気力も喪失しかけている主人公を、ヒロインが甘やかしながら元気づけようとする物語。一点突破のロープライス作品であり、エキセントリックなまでに徹底的な甘やかし描写が展開される。


  【 おわりに 】

  アダルトゲームのまだ若い歴史の中で、さまざまな料理&飲食の表現が行われてきたことを、筆者の知りえた範囲で概観してきた。その豊かな数十年の過程で、ヒロインとのデートシーンからSLG作品の生活風景に至るまで、飲食に関わる描写はさまざまな局面で現れてきた。デートイベントや飲食店舞台での食事表現は早い時期から頻繁に描かれてきたが、10年代に入ってからは日常の食事風景描写が増えているように思われる。この傾向は、キャラクター間関係を密に描くコミュニティものの増加や、包容力のあるヒロインとの耽溺的な交流といった、アダルトゲームに特有の文脈の下に現れており、アニメなど他分野における近年の飲食ものブームとは、いささか事情を異にするように思われる。

  ただし、アダルト要素の重視される商業作品であるという分野的前提と、大多数のタイトルが「立ち絵+背景」の組み合わせをベースとするAVG形式であるという媒体上の制約からして、料理に焦点を当てるような作品はなかなか現れにくい。それでもなお、食の楽しさを物語展開の中に取り込んで活用する作品や、あるいは過激なアダルトシーンの一種としてサドマゾヒズムやフェティシズムと結びついたよりいっそう大胆な飲食表現は、今後もさまざまな形で展開されていくだろう。本稿で紹介した『なついろレシピ』や『夢幻廻廊』、『どろり甘エロご奉仕性活!』などは、萌え要素を伴った18禁分野ならではの自由さを、すでに存分に享受していると言えるだろう。