2018/09/22

原画家の塗りとグラフィッカーの塗り

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  男性向けはグラフィッカー任せが多く、女性向けは原画家自身の塗りを生かす傾向があるという話。興味深い論点だ。


  個人的には、原画家の個性が発揮されるかどうかよりも、女性向けジャンル(特に乙女ゲー)は着彩の多様性が大きいということに関心を抱いている。考えられる原因としては:

  1) ユーザー側。男性向けジャンルでは、ユーザーの購買行動からして、ブランド単位の趣向選択が大きい。これは、ブランド単位でジャンル分化が進んでいるためもあるし、性表現上の嗜好によって大きく左右されるという側面もある。それに対して女性向けでは、クリエイター基軸の評価が多い。つまり、ファンのいるクリエイターがオリジナルの作品を制作するという傾向が、相対的に強いようだ。

  2) 制作サイド(人材調達)。女性向けジャンルの作品は相対的に規模が小さく、一作品毎にワンオフの制作になりやすい。それゆえ、原画家に着彩の個性がある場合には、それをそのまま掬い上げる方向に進みやすい。それに対して男性向けPCアダルトゲームは、総じて作品規模が大きい。それに応じて外注グラフィッカーを用いることも多いようであり、それゆえ新規参加のグラフィッカーでも再現できるようなスタイルが求められがちになる。

  3) 選択機会。作品規模が大きいということは、制作規模も大きいということである。それゆえ、着彩に関しても、原画家一人のセンスだけでなく、多くのグラフィッカーのセンスを含めて、その中で最も優れたものを選択することができる。また、規模の大きな制作では、原画家個人のセンスや嗜好を優遇する必要性が薄い。

  4) 分業の進行。枚数要求の多さなどもあって、男性向けアダルトゲームの原画家は、原画制作のみに集中しがちである。個々の作品のクレジットを見ると、原画家自身が着彩プロセスまで行なっている例は多くないようだ。そして、着彩に関してはグラフィックチーム(チーフ)が権限&責任をもって引き受けている。

  5) クオリティ要求。市場が大きく、発売されるタイトル数が多いため、見栄えのするCGが強く求められる。そうした中で、他のブランドの成功例から摂取しつつ、販売競争を生き抜くために、着彩様式が収斂してきた。白箱系は、カラフルで明るく、髪や瞳のツヤを強調するように。黒箱系は、扇情的な素肌表現や熱っぽい表情表現を。目に見える競争の存在が、着彩に関しても「多数派を取る」という戦略に進んだと思われる。

  6) ノウハウの共有。上記5)を肯定的に述べてもよい。男性向けアダルトゲームでは、外注の多さやタイトル数の多さなどを通じて、着彩に関する共通ノウハウが広く共有されてきた。そして、「受けの良い塗り」のスタンダードや「出来の良い塗り」に関する評価基準が確立されている。それに対して、00年代の女性向けジャンルが未発達であったこと(ノウハウの共有が進んでいなかったこと)が、かえって着彩の多様性を生んだという側面もあったかもしれない。

  7) 性表現との関係。男性向け18禁では、煽情的な素肌表現をする必要があり、それが成立しうるような着彩様式の幅はかなり狭い(と考えられている?)。それに対して、性表現要素を含まないオリジナル全年齢ギャルゲーでは、男性ユーザー向けのタイトルでも、着彩様式はかなり多様である。

  以前の「CGワーク」記事でも述べたように、男性向けアダルトゲーム分野では共通様式がかなり強固に確立されているが、それはグラフィッカーの人材調達の必要性や、学園恋愛ものというコンセプト上の共通性に由来するのだと考えている。「女性の方が総じて色彩認識が繊細である」といった所説を除外するとしても、市場のありよう、業界構造上の事情、ジャンル特性の影響など、さまざまな要因があると思われる。


  実際、BLはともかく乙女ゲーはいくらかプレイしているが、深みのある色彩感や思いきった創意ある着彩を楽しめるし、そして羨ましくも思う。本格派の男性向けアダルトゲームに比べるとCG差分も控えめだったりするが、その都度の作品世界を着彩のレベルから構築しようとする姿勢は、男性向けジャンルにはあまり見られないものだ。

  その一方で、男性向けジャンルでは、ある程度共通のベースはあるものの、個々のブランドは(とりわけ、優秀なグラフィックチーフのいるブランドでは)、自社のはっきりした個性を、複数の作品にわたって継続的に展開している。古典的にはF&Cの華やかな塗りやelfの緻密な塗りがあったし、CUFFS系列のシックな色彩感、FAVORITEのシンプルだが巧緻な着彩、ensembleの透明感のある頭髪表現、わるきゅ~れの肉感性、WAFFLEのおそろしいまでの質感表現、MINKの彩度を下げた柔らかい色合い、PULLTOPの鮮やかな色合い、XERO系列のアニメ塗り、pajamas softの複雑なニュアンスに富んだCGワーク、AUGUSTのゴージャスな塗り込み、等々、ブランド毎の着彩の特徴ははっきりと思い出せる。要するに、原画家の個性に頼らずとも、鑑賞に堪えるだけの着彩の品質および個性を確立しているのだと言うこともできる。

 原画家の着彩センスを尊重している、あるいは売りにしているブランドというと、Littlewitch(大槍葦人)、ORBIT系列(CARNELIAN)、ωstar(八宝備仁)あたりだろうか。Leaf東京開発室も、原画家たちが同時にグラフィッカーとしてもきわめて高水準のセンスを発揮していた。Liar-softも、その都度の作品コンセプトに合わせた絵柄のクリエイターを、原画家(&着彩のベース)として起用していたように見受けられる。