2025年12月の新作アニメ感想。
●『悪食令嬢と狂血公爵』
第10話は、主人公の驚異的なスキルを巡る政治的な配慮から、パートナーは魔鳥討伐のためにいきなり数日不在にするという宙吊りの展開。とりたてて上手いわけではないが、ざっくりした進行の中に挟み込まれる相互の情愛が美しい。公爵役の坂泰斗(ばん・たいと)氏は、穏やかでよく通る声色で、細やかなニュアンスを台詞に乗せている。
残りは、狩ってきた魔鳥の料理と、結婚式のイベントかな……今のペースだと残り2話で語りきれるのか、ちょっと心配になるくらいののんびり進行。
●『終末ツーリング』
第10話。満開の桜に蝉の鳴き声がオーバーラップするのはともかく、さらにしばらく進むといきなり紅葉の山々になっているというイージーさ。うーん。落石を雷が壊してくれたというのも、お仕着せの御都合主義そのもので驚きが無い。アニマルアニメとしても、ペンギンからイルカ、そしてシカにサルと、かなりベタな顔触れ。
ただし、弁慶のような入道雲のカットは、ちょっと粋な演出。良い箇所もあるにはある。また、カット数が少ないにもかかわらず、間延びした印象を免れているのは、やはり背景美術の彩りと存在感のおかげだろう。原作の浅さをアニメ版スタッフの尽力で、なんとかぎりぎり映像作品として成立するようにしている(※ストーリーの骨格は、ノスタルジーとナルシシズムを混ぜ合わせたような代物なので、こんなストーリーはいっそ放棄して、ただのイラスト集で良かったのでは……とすら思う)。
第11話は、とても不思議な雰囲気のSF回。前半では、神秘的なものの訪れをかすかに予感させつつ、アイリが夜の墓群遺跡を彷徨い、そして超自然的な出会いをする。このあたりの映像進行はとても好み。ただし後半は異星人の設定を語りつつ日本史をなぞるという凡俗な展開になる。今回は徳本監督自身による絵コンテで、風景の広がりと、そこにひそかに漂う緊張感を伝える秀逸なクオリティ。
なお、紅葉の季節から蝉の鳴き声と、今回も季節表現が錯綜している。これはストーリー的にも演出的にもあまり意味が無さそうで、ただ混乱を誘うばかりのように思える(※見栄えの良い季節を、その都度適当に選んでいるだけなのかもしれない)。
異星人が作った遺跡……『七夕の国』かな?
●『野生のラスボスが現れた!』
第10話は設定開示の回。前半は大迫力の空間戦闘をたっぷり描き、そして後半は一転して、画面そのものは止め絵で保たせつつ、明暗の濃いレイアウトと声優の芝居と真相への興味で引っ張りきった。何をどのように見せるべきかの取捨選択と、演出効果の最大化が巧みにコントロールされており、たいへん心地良い。コンテも小気味良く、激しいバトルシーンの中でも大胆な奥行きパースを設けたり、ユーモラスな瞬間を挟み込んだりしている(※今回の絵コンテは田中智也氏、演出は福元しんいち氏)。
薄井氏(ディーナ役)も、丸々20分間を小清水氏と一対一で渡り合いつつ変幻自在の芝居を展開するという力演を披露している。
それにしても、もう10話。残り2話でどのように締め括るのだろうか。配信視聴数などに鑑みて、続編(2期)もありそうだが……。
プレイヤーたちの行動を組み込んで公式ノヴェルにするというのは、古式ゆかしきPBM(プレイ・バイ・メール)のシステムを思い出す。私自身はそういう企画に参加したことは無いけど。あるいは、TRPGリプレイ小説にも同じような性質がある。
第11話は、勇者召喚から魔王出現から世界設定の謎への言及まで、いきなり忙しく新ネタが連発された。これはさすがに、全12(?)話中の11話目でやることではない。前回の最後に顔見せで登場したベネトナシュの件も宙吊りのままだし……。とはいえ、この一話だけで見ると、派手なバトルと小気味良い演出で24分間を一気に突っ走り、充実した見応えを提供してくれている。
魔神王を演じているのは速水奨氏。そして勇者一行の魔法使い少女は、なんと、遠藤綾氏。さらに、もう一人の同行女性はニケライ・ファラナーゼ氏が演じている(※イラン系の方とのこと)。ディーナ役の薄井氏は、主演を食いかねないほど存在感ある芝居を全開にしている。
……あっ! 原作者の炎頭氏って……『欠けた月のメルセデス』の作者でもあるのか。『メルセデス』は漫画版で読んでいて、江戸屋氏の筆致が素晴らしいのだけど、ストーリーは地味なところから丁寧に積み上げていくタイプの作劇で、『ラスボス』の外連味あるフィクションとはずいぶん趣が異なっているので、まったく気づかなかった。
今期は、OPよりもEDの方が、好みの曲が多かった。『終末ツーリング』も、『最後にひとつだけ』も、『悪食』も。前期は『クレバテス』が、OP/EDともに好みだった。