2015/09/15

戦うメイドたち

  「戦うメイド」「武闘派メイド」というキャラクター像について。


  【 はじめに 】
  「戦うメイド」「武装メイド」「強いメイド」のイメージはどのあたりまで遡れるのだろうか。漫画『まほろまてぃっく』でも1998年末からの作品(アニメ版は2001年から)だから、現在に連なる「強いメイド」像は、わりと新しいものなのかもしれない。キャラクター像としては、「執事=護衛」(男性)のイメージがメイド(女性)にも波及したということなのかもしれないし、あるいは「忍者(くのいち)=影の護衛」のイメージから来ているのかもしれない。ボディガードとしてのメイド像は、まさに『メイドさんと大きな剣』(2006)が採用したものだし、護衛としての忍者のイメージは『Rance』シリーズが早くから導入していたようだ(1991年の『RanceIII』あたりから?)。『とらいあんぐるハート』(1998)も、国家資格としての「忍者」(主に護衛の仕事に就く)があった。

  忍者はいったん脇に置くとして、オーソドックスな洋風メイドの範疇で考えると、アダルトゲーム分野では、シンシアによる2作品、『です☆めた』(2004)と『シンシア』(2004)が武闘派メイドの初期の際立った見本になっている。藤崎竜太が描くメイドたちも、軍隊での高度戦闘訓練を受けたメイドであったり、魔術的な戦闘能力を持つメイドであったりする(『ひめしょ!』[2005]、『ドラクリウス』[2007])。

  しかし、最大の産地はおそらくソフトハウスキャラだろう。『LEVEL JUSTICE』(2003)のメイド姿の怪人を皮切りに、『南国ドミニオン』(2005)では元軍人メイド、『王賊』(2007)では超人的な身体能力を持つ女中ルックの忍者、『Wizard's Climber』(2007)でも魔法で身体能力を強化した護衛メイド、『BUNNYBLACK』シリーズ(2010-)ではメイド風(?)ファッションの魔族店長、『アウトベジタブルズ』(2014)でもメイドルックをユニフォームにした怪盗一味が登場する。正統派のメイドでこそないものの、『アルフレッド学園』(2002)の付き人キャラ(魔族)や『雪鬼屋温泉記』(2011)の雇われ女将(妖猫)にも、これに通じる側面が見出される。これらは、企画兼脚本の内藤騎之介氏の趣味も含まれているかもしれないが、それだけでなく、ソフトハウスキャラのシミュレーション世界の特質、すなわち各人が自己の能力才覚で生き延びていくサバイバルの世界であることにも関わっているだろう。



  【 かりそめの水平的展望 】
  これらの他にも、一般人を上回る戦闘能力や身体能力を持つメイドキャラたちは、アダルトゲーム分野においてもしばしば描かれてきた。それらの特徴に基づいて適宜整理しつつ紹介するなら、例えば、以下のようなものがある。

  1)SLG作品でのアクター(行動ユニット)としての戦闘能力。
  『To Heart』(1997)に登場したメイドロボ「HMX-13 セリオ」は、ファンディスクのミニSLG『Leaf Fight '97』では重火器を装備したユニットになった。服装はメイド服ではなく学生服(ブレザー)だが、「メイド」という役割が物理的戦闘力結びついた早期の一例と言っていいだろう。『英雄*戦姫』(2012)のケイも、メイド姿であるが、これはお遊びの側面も強いようだ。Eushullyのブランドマスコットキャラにして恒例ゲストキャラ「メイド天使」たちも、高ステータスのお助けキャラである。上記『LEVEL JUSTICE』の怪人キャラ「アーネウス」も、SLGパートの自軍ユニットとして使える優秀なキャラクターである(が、家事などは一切できない)。

  2)荒んだ世界でのサバイバルスキルとしての戦闘能力。
  『MERI+DIA』(2005)は、地球規模の大災害に見舞われた近未来世界で、賞金稼ぎとして生きる姉妹の物語であり、ゴスロリファッションの三女と同様に、長女もメイド姿をしている(スカートの下には銃器を隠している)。『斬死刃留』(2009)のメイドキャラも、妖怪たちが闊歩する世界で、呪符によって身体能力を強化しつつ近代的銃器でそれらの怪異に対抗している。メイド姿なのは、彼女自身の性格や境遇によるものであり、かなり個人的な理由だと言える。『AliveZ』(2008)のメイドキャラも、食器に刃物(暗器)を仕込んでいる。

  3)ファンタジー世界での、超自然的能力。
  『魔王のくせに生イキだっ!』シリーズ(2012-)の従者キャラたちが、典型的に該当する。『シキガミ』(2011)の双子メイドたちも、頭部に角の生えた妖怪キャラである。『闇の声II』のK(2002)も、身体能力や近代的武装ではなく魔術的な能力によって、人々の生に介入していく。『白銀のソレイユ』(2007)のハガルも、一応ここに含めてよいだろうか。

  4)護衛キャラとして。
  上記『メイドさんと大きな剣』がその典型であろうが、比較的早期の実例としては、『とらいあんぐるハート3』(2000)が挙げられる。吸血鬼や忍者が闊歩するこの作中世界で、「近代兵器で武装した」「護衛としての」「ロボットである」「メイド」という複雑なキャラクターである。『かしましコミュニケーション』(2010)のリースも、ボディガードとしてのメイドである。身分の高い人物の付き人という点では、『マブラヴ』シリーズ(2003-)の月詠たちもこれに該当するだろう。『あかときっ!』(2010)のチッカも、1)、3)、4)の要素を含む多面的なキャラクターである。先に挙げた『ドラクリウス』『王賊』のメイドキャラたちも、この側面を持っている。

  5)「黒幕キャラ」像との結びつき。
  フィクションにおけるメイドキャラは、家政を取り仕切ったり様々な事情に通じていたりする立場として描かれることもあり、ここから真相を担う黒幕の位置に置かれることも多い。また、従属的立場にあった筈のキャラクターが事態の決定権を握っていたというギャップや、反逆(下克上)のドラマとして描かれることもあり、また、立場を隠すためにメイドを装うというものもある。『ク・リトル・リトル』(2010)のラスボスが典型的であろう。『クロウカシス』(2009)のメイドも、高い身体能力と手先のスキルをメイドの仕事に活用しているが、実は屋敷に潜入した盗賊であった。なお、『神樹の館』(2004)や『彼女たちの流儀』(2006)、『はっぴぃ☆マーガレット!』(2007)、『デモニオン』(2012)のメイドキャラも、身体能力が特別に目立つわけではないが、物語の黒幕であったり、保護者的役割に立つ超才媛であったり、謎の真相に最も近い人物であったり、影で暗躍していたりする。上記『南国ドミニオン』のメイドも、傭兵の前歴を隠している。

  6)外見とのギャップ。
  『えむぴぃ』(2007)のメイド候補生たちは、銃器を持ち出したりするやんちゃ娘である。リメイク版『痕』(2009)の追加キャラがメイド姿なのも、これと同じ趣旨なのだろうか(未プレイ)。外見上のしとやかさとのコントラストという点では、『魔法戦士』シリーズには、ゴスロリ衣装の暗殺者がいる。『果て青』(1999)の血染めのメイド服ヒロインや、「無能メイド」「不遜メイド」といった類型も、メイドの一般的イメージとの落差を狙ったキャラ造形である(――『Natural Another One 2nd』[2006]、『鋼炎のソレイユ』[2008]、『クロウカシス』、『あかときっ!』、『ラウテスアルタクス』[2015]などがある)。『ひめしょ!』や『Wizard's Climber』のように、軍事行動の際に相手を惑わせるためにあえてメイド姿にしているという描写がなされているものもある。



  【 ひとまずの垂直的展望 】
  このように見てくると、アダルトゲーム分野における「戦うメイド」像は、00年代半ばからの潮流であると考えてよさそうだ。その前史としては、STUDiO B-ROOMが2000年前後に活発にリリースしていた一連のメイドものタイトルは、この分野に対して「メイド」属性への注目を促していたと推測される(『雛鳥の囀』が1997年発売、『渡り鳥に宿り木を』が2003年発売)し、また、ヒロイン全員がメイドという先鋭的なコンセプトの『マージ』も2003年には発売されていた。
  そして、そうした中で、貞淑忠実な従者としてのメイド像を攪乱し解体する動きも、すでに現れていた。ヒロインが自発的に(勝手に)メイドを自称して性的関係を迫るというピンク系タイトル『MAID iN HEAVEN』(1998)や、魔術的な力によってペットたちがメイドになってしまうというスラップスティックコメディ『ぷにぷに☆はんどメイド』(2004)の存在は、メイド概念の解体をリードしてみせただろう。戦闘メイドというアイデアも、そうしたメイド像の現代的な変容乃至拡大の中に位置づけて見ることができるのかもしれない。

  先行研究の一つとして、雑誌「月刊メガストア」2006年9月号の記事「エロゲー人の基礎知識 vol.1 メイドさんパラダイス!」(71-78頁)がある。ここでは、メイド表現にまつわる90年代末頃の特徴として、「ドジっ子メイド」の出現や、現実世界での「メイド喫茶」の勃興、「癒やしとしてのメイド」像などが指摘されており、「戦うメイドさん」像もそうしたメイド観の多様化の一環として言及されている。実例としては、漫画『サライ』『まほろまてぃっく』等と並べて、アダルトゲームプロパーとしては『メイドさんと大きな剣』1本のみが挙げられている。