【 古典的な多種族混在世界 】
人類以外の知的生命体が大量かつ公然と人間社会に混じって生きているシチュエーションは、遡れば古典的なSF的多種族世界を描いたアダルトゲーム(例:『ビ・ヨンド』[シルキーズ、1996])にその実例が見出される。また、西洋中世風ファンタジー世界像の作品も、エルフや妖精や魔族などの異種族が自由に闊歩する世界として描かれるのが通例である。実例は、少なくとも『Rance』第一作(alicesoft、1989)までは遡れるだろう。
また、高橋留美子的スラップスティックワールドを志向する作品も、しばしば何の脈絡もなく異様な生物(あるいは超生物)たちが出現する。『LikeLife』(HOOK、2004)、『ぷにぷに★はんどメイド』(Clover、2004)や、『モノごころ、モノむすめ。』(May-Be SOFT、2005)はその典型である。
【 非対等な知的存在との関係 】
人工生命体やロボットヒロインも、とりわけ90年代末からいくつものタイトルが現れてきた。メイドロボヒロインで名高い『ToHeart』(Leaf、1997)を重要なマイルストーンとして、『WoRKs DoLL』(TOPCAT、1999)、『MACHINE MAIDEN』シリーズ(evolution、1999-)、『ラブリー・ラブドール』(Escu:de、2002)、『白詰草話』(Littlewitch、2002)、『LEVEL JUSTICE』(ソフトハウスキャラ、2003)など、主に調教SLGジャンルでこの趣向が用いられていた。ただし、その多くは実験室環境にとどまっていたり、あるいはアングラ活動であったりしたため、一般人が認識し受容している状況とは言いがたい。稀少な例外は、『パンドラの夢』(pajamas soft、2001)だろう。看護用アンドロイドが普及した世界である。
この潮流は、『わんことくらそう』(ivory、2006)や『ワンコとリリー』(CUFFS、2006)、『さくら色カルテット』(アトリエかぐや、2011)のような、人型異種族飼育ものにもつながっていく。
【 異世界との大規模な接触 】
現代日本をベースにした社会に、突如さまざまな知的生命体が出現し、彼等と公然と友好的に交流するようになっているという舞台設定のものが、00年代半ばから制作されるようになった。私が思い当たる最初のものは『ふぁみ☆すぴ!!』(SkyFish、2006)だが、これは
我々人間が住む世界にエルフの世界が融合してしまった不思議な世界。地球には新たな土地が合体し、広さは元の地球のおおよそ3倍に巨大化。文化レベルは現代の地球と同程度で、アスファルト舗装の国道に自動車が走る傍ら、浮遊島には新興住宅地が建設。コンビニではエルフの短大生がアルバイトをし、赤煉瓦の古めかしい魔法雑貨店とテナントビルが並列した町並みの中、冒険者ギルドの看板を掲げたファーストフード店でエルフの女子高生がおしゃべりをしている。」(公式サイトより引用)という世界像である。同様に、『プリミティブ リンク』(Purple software、2007)は、異世界とつながるゲートが発生した世界であり、主人公は異世界への交換留学生として通学しているという状況である。このブランドは、のちに『メモリア』(2009)において再び異世界交流ものを手掛けた。『はなマルッ!2』(Tinkerbell、2008)も、「幽玄種」と呼ばれる異種族が人類と共存している世界である。さらに『恋神』(PULLTOP、2010)は日本神話の神々が人間社会に顕現した(人間の目にも見えるようになった)世界であり、ここでは国政レベルでの対応がなされ、「日本古来の伝統的超越存在の出現に関して発生した各種問題解決の為に我が国が実施する特別措置法」(通称「やおよろず措置法」)が制定されるに至っている。『あかときっ!』シリーズ(Escu:de、2010-)も、「クラヤミ」という異種族たちが現代社会に大量に出現した状況であり、『天色*アイルノーツ』(ゆずソフト、2013)も日本近海上に巨大な浮遊島(ヨーロッパ風の街並みと、獣人やエルフのような住人たちがいる)が出現して平和的に交流している世界である。
社会的公然化の度合いがそれほど大きくないか、あるいは比較的狭い範囲の交流にとどまるものとしては、『プリンセスうぃっちぃず』(pajamas soft、2005)、『かみぱに!』(Clochette、2008)、Whirlpoolの『いな☆こい』(2006)と『Magus Tale』(2007)、UNiSONSHIFTの『WAGA魔々かぷりちお』(2005)と『Chu×Chuアイドる』(2007)などがある。これらの作品では、神的存在が現世に顕現し、あるいは異世界の魔法使いが出現している。カジュアルに神的存在が出没する例としては、『きゃんきゃんバニー』シリーズ(1989-)のような先行作品もある。『夜明け前より瑠璃色な』(AUGUST、2005)は、異世界ではないが、交流の乏しい月世界からヒロインがゃってくる物語である。『SHUFFLE!』(Navel、2004)がどこに位置づけられるかは不明(未プレイ)。
イレギュラーな形態として、同一世界の異なる時代とつながってしまうというパターンもある。厳密にいえば「異世界」でも「異種族」でもないが。主人公が『三国志』の世界にタイムスリップしてしまう『恋姫†無双』シリーズ(BaseSon、2007-)や、あるいは逆に過去の偉人たちが現世に召喚されてしまう『超時空爆恋物語』(プリムローズ、2010)などがある。
【 他の知的生命体集団との敵対 】
『斬死刃留』(Amolphas、2009)では、1945年の日本社会に出現した異種族は、古来の妖魔たちであり、暴力的な彼等の跳梁跋扈と彼等がもたらす霊的な穢れによって、作中世界は人々の生活にとってきわめて危険なものになっている。高い知性を持つ異種族との間の非友好的な関係というシチュエーションは、主に変身ヒロインものが好んで取り上げてきたと述べてよいだろう。それらは多くの場合、隠密的侵略とそれに対するヒロインの孤独な奮闘というかたちを取っているが、その一方で『超昂天使エスカレイヤー』(alicesoft、2002)では、侵略者集団に対向するために軍隊(自衛隊)までもが出動しているし、『ヴァルプルギス』(KAI、2010)では「天使」たちの襲撃に対抗するための魔法戦士組織や教育機関が編成されている。『マブラヴ』シリーズ(age、2003-)も、地球外知的生命体からの侵略に、人類社会全体が対抗している世界である。
【 異世界訪問 】
大掛かりな世界接触や、異邦人訪問のパターンだけではない。主人公の方が異文化世界や異世界へ移動するという場合もある。例えば『ヤミと帽子と本の旅人』(ROOT、2002)や『黒の図書館』(ふぉーちゅん♪、2003)はいくつもの架空世界を巡る話だし、『恋姫†無双』(BaseSon、2007)は古代中国(ただし武将たちは女性になっている)に飛ばされた主人公の物語である。上記『マブラヴ』シリーズ(age、2003-)では、主人公は一種のパラレルワールドで目覚める。『うたわれるもの』(Leaf、2002)は、異世界で意識を取り戻した現代人が主人公である(――実際には、一種のコールドスリープによって数千年先の未来に甦っている)。LN分野では好んで取り上げられているシチュエーションであるが、アダルトゲーム分野においても同じような趣向は様々な形で試みられている。
現代のネット小説のような、個人が異世界へ転移or転生するというシチュエーションでは、『永遠のアセリア』(xuse、2003)がある。異世界ものの比較的早い時期の作品であり、しかも、異世界では完全な異言語が話されていて多いに苦労するところから始まるという本格的な異世界描写を展開している。ただし、そういった異世界転移/転生ものはアダルトゲームには稀であり、異世界に行くよりもむしろ仮想世界(ヴァーチャル空間)を楽しむ方が主流であり続けてきた。例えば『バイナリィ・ポット』(AUGUST、2002)、『BALDR FORCE』(戯画、2002)、『こころナビ』(Q-X、2003)、など、00年代前半に好んで取り上げられたネタだが、近年でも『ハーヴェストオーバーレイ』(戯画、2014)のように、「拡張現実(AR)」というアイデアとともに再び注目されつつある。
【 暫定的展望 】
全体をおおまかに展望するには、「対等かどうか」「友好的か敵対的か」あたりを軸にすると分かりやすくなるだろうか。「対等&友好的」は、古典的ファンタジーや異世界融合もの。「非対等(不平等)&友好的」は、ロボットものや亜人飼育もの。「(対等&)敵対的」は、対魔系タイトルや魔法戦士系など。種族レベルの敵対関係である場合には、対等性が保障されているかどうかは問題にならなくなる。