2016/01/29

多重ウィンドウ、非全画面背景、全画面背景

  AVGの画面構成の話についての、ごく大雑把な覚書。
古典的マルチウィンドウ、非全画面背景、全画面背景の位置づけについて。


  昔のコンピュータAVGは、黒画面の上に時刻表示ウィンドウ、所持金ウィンドウ、立ち絵+背景ウィンドウ、メッセージウィンドウなどが多重(個別)表示されるというものだった。それに対して現在支配的なアダルトPCゲームのスタイルは、立ち絵+背景の表示領域がアプリケーションウィンドウ全体に広がり、その単一ウィンドウの上に(画面下部に)テキストボックスがオーバーラップ表示されるという形になっている。

『学園KING』 (c)1996 alicesoft
前世紀のPCゲームは、アダルトゲーム分野でもSLG(非AVG)が非常に多かった。左記引用画像でも、マップ、現レベル、所持金、十字移動キーなどが常時表示されており、また、一枚絵も画面内の一部領域のみに表示されている。

  これら二者と比べると、以前に論じた非全画面背景のAVGは、原理的構造的に見れば、両者の中間形態であり、あたかも前者から後者への過渡期的形態のように見える。つまり、上下の枠は、まるでいまだ全画面背景が徹底されない盲腸的存在のように見える。……かもしれない。しかし、歴史的には、必ずしもそうではない。全画面背景のアイデアそれ自体は、1992年の(PCゲームではないが)『弟切草』ですでに実行されていたし、もちろんAVG以外のジャンル(アーケードの格ゲー、麻雀、STG等々)でも当然のように行われていた。それに対して、一見中途半端な非全画面背景スタイルは、むしろ後発的な案出であったと言えるかもしれない。そうであるならば、非全画面背景は、単なる歴史的偶然やPC環境のスペック上の制約(表示能力の限界など)によるものではなく、その都度の制作者による美学上/機能上の意識的な選択によるものとして評価すべき余地がある。



  もう一つ、個人的に考え続けている論点として、全画面背景の枠組の中での、現在の主流であるテキストボックスAVGと、VN形式(全画面テキスト)との間の比較論がある。こちらも、構造的に捉えるならば、古典的マルチウィンドウ(3つ以上の独立ウィンドウ)から始まって、それらがほぼ単一化された全画面+下部テキストボックス形式(メインウィンドウと、それにオーバーラップするサブウィンドウ)、そしてそこからテキストボックスという枠をすら除去したものが全画面背景+全画面テキスト形式(完全な単一ウィンドウ)だというように捉えることができる。しかし、実際の歴史的経緯は必ずしもそういう順序ではなかったようだ。上記『弟切草』が1992年発売、PCプラットフォームの『雫』も1995年発売であるのに対して、我々が現在知るような「全画面背景+下部テキストボックス」形式のAVGの最初期の作品群、例えば『Piaキャロットへようこそ!!』は1996年、SS版『下級生』(※先行するPC98版は古典的マルチウィンドウ形式)は1997年の発売。下部テキストボックスのアイデア(の普及)が全画面テキストの発想(の普及)よりも時間的歴史的に先行しているとは、おそらく言えないだろう。

  ちなみに、テキストボックスの従属的性格をよりいっそうはっきりさせる透過テキストボックスは、下部テキストボックス形式の枠中でもごく早期に実装されている(1998年発売の『とらいあんぐるハート』『WHITE ALBUM』など)。全画面テキスト形式が(擬似)透過を実現できているのだから、技術的には下部テキスト形式でも実行可能なのは当然だが。




  【 メッセージウィンドウ? テキストボックス? 】

  「メッセージウィンドウ」と呼ぶか、「テキストボックス」と呼ぶか。上記記事では「多重ウィンドウ」と書いているが、「ウィンドウ」というと、Windowsで管理されるそれと混同されるかもしれないし、一つのwindowの中に存在する下位の単位として「フレーム」(枠)とでも呼称する方がよいのかもしれない。FFDのFloating Frameもまさにフレームであることだし。あるいはダイアログボックスの「ボックス」を使ってもいいだろう。だから、「テキストボックス」(あるいは「テキスト(表示)フレーム」?)と呼ぶ方が、誤解のない書き方になるかもしれない。

  さらに言えば、現在のアダルトゲームでは、画像を極力遮蔽しないように、四方を明確に区切られた「ボックス」ではなく明度を落とした透過領域にしているタイプも多い。また、全画面テキスト表示形式の場合にも、もちろん「ボックス」のイメージでは不適当だろう(――「フレーム」あるいは「レイヤー」と呼ぶ方がよい)。こうした諸側面に鑑みていえば、本当は、「テキスト表示エリア」とでも呼ぶべきなのだろう。 

  ただし、それ以外にも、他の表現要素との間の整合性も考慮する必要がある。例えば、選択肢表示フレームのことをどう呼ぶか、そして概念上これとの関係をどう考えるかは、論点の一つになりうるだろう。一方で、「テキストボックス内に表示される文字列も、選択肢の文字列も、どちらもともにプレイヤーに対して突きつけられるメッセージなのだ(AVGのテキストは、けっして素朴な語りではない)」という観点を重視する立場であれば、両者を等しく包含しうるような用語法を選ぶ方がよいだろう。他方で、「選択肢の文言は特殊なダイアログメッセージであり、それに対してテキストボックス内に表示されるテキストはもっぱら読み物として提供されるものであり、双方の間にはAVGの構造上きわめて大きな相違があるのだから、違うものは違ったように呼称すべきだ」と考えるのであれば、それは用語法の次元にも反映されるだろう。 

  いずれにせよ、一定程度の独立性を持ちつつ、それぞれに特定の内容を管理するための、通常は矩形で、複数並列されることもある、テキスト表示用領域のことだ。

  上の文章で仮に「古典的多重ウィンドウ」と呼んだスタイルについても、何か適当な呼称はないものだろうか。