さえき北都氏の絵についての雑感。
さえき氏は、私としてはトップクラスに好みの絵を描かれる方だが、ちょっと苦手に感じる時もある。どういう点が苦手なのかと考えてみると、身体が硬そうに見えるところかもしれない。前屈が苦手そうというか、背骨がカチカチっぽいというか、そういう感じの。いや、実際にはたいへんダイナミックなポージングを描かれる方だし、堂々とした佇まいの立ち絵は格好良いし、胴周りに引き締まった密度感があって全体のプロポーションに均衡感があるのはとても良いし、身体のリアルな厚みを感じさせるような画風もたいへん魅力的なのだが、しかしながら、そういった一連の性質が、鑑賞時のちょっとした気分の偏りで、「硬そう」というイメージに傾いてしまうこともある。あと、お化粧を頑張りすぎている感じも、(キャラたちのハイティーンなりの頑張りだと思えば微笑ましいのではあるが)美少女ゲームの中で見るとなんだか不憫に見えてくる。
これらは不満とも言えないほどの比較的些細なものだし、むしろ要求が高すぎるとすら言えるものだが。内臓器官が無いのかと疑うほど胴体が寸詰まり(縦に短い)なのは好きじゃないし、ファッションやヘアスタイルも非現実的なものよりはリアルにありそうなくらいが好ましいし、奥行きの感じられない身体よりはしっかり詰まっていそうな身体を描かれる方がよい。ただ、しなやかな曲線美を豊かに取り入れて、誇張気味なくらいにくにゃくにゃとツイストしてみせるくらいの絵も、やはりそれはそれでたいへん楽しいものだったりする。
さえき氏の画業の特質については、以前の文章でも何度か言及している。
旧ブログの2012年3月15日付雑記、2013年3月20日付雑記、「背面立ち絵」記事など。
『九十九の奏』 (c)2012 SkyFish
(図1:)「九条花蓮」の立ち絵。主人公よりも年上の短大生だが、デザインを合わせたイヤリング&ネックレスに、ピンクのネイル、薄いチーク、はっきりしたリップ、現実的なファッションが、二次元的な金髪ツインテールとぎりぎり両立している。
(図2:)不思議なメインヒロイン「伏姫」と、引きこもり読書家の妹キャラ「百日紅鳴」。立ち絵がV字型に広がってみえるのは、二人とも身体を後方にまっすぐ反らしているから。服飾面で二人とも胴周りに布を巻きつけたデザインになっているのも、体幹の直線的印象を強めている。
(図3:)伏姫の特殊立ち絵。正確な奥行き感、腕部から手先までのデリカシー、美しく流れる長髪など、非常に良く出来ている。『ラヴネイティア』(2003)や『るいは智を呼ぶ』(2008)の頃から、ダイナミックな全身運動表現の心地良さに満ちた絵を描いてきた原画家である。