【 10年代における鬼キャラの新様式? 】
おでこからツノがじかに生えている鬼キャラのデザインが、ここ数年で一気に普及してきたように見受けられる。ゲームキャラだけでなく、オリジナルキャラのイラストですら、カジュアルにそういう角キャラが描かれるようになっている。
古典的な鬼娘キャラは、頭の左右の後頭部サイドに、短いツノがお飾り程度についているというタイプで(※要は『うる星やつら』のラム)、基本的には人間らしい身体の延長上に捉えることができた。しかし、現代型の鬼キャラは、前額の皮膚からツノが突き出ていて、生え際の様子がはっきりと見て取れる造形であり、異種族らしさを否応なく突きつけてくる。
バンプレスト(ESPRESTO)「シュナ」のフィギュア。『転生したらスライムだった件』の登場人物である。鬼族キャラクターとのことで、白く尖った角が左右に2本、前髪を掻き分けるようにして、額の正面から生えている。
もちろん、00年代以前にもこうした前額型の角デザインは存在したが、かなりマニアックな路線と見做され、世間的には――オタク界隈ですら――なかなか受け入れられていなかったと思う。
鬼娘ルネッサンスは、おそらく10年代半ば以降のことであり、浸透と拡散をリードしたのは『鬼灯の冷徹』(漫画版:2011年-/アニメ版1期:2014年)、『小林さんちのメイドラゴン』(漫画版:2013年-/アニメ化:2017年)、『転生したらスライムだった件』(原作小説:2013年-/アニメ化:2018年)、『プリンセスコネクト!』(第一作:2015年-)、『Fate/Grand Order』(ゲーム:2015年-)あたりかと思われる。LN分野では、例えば『異世界のんびり農家』(web版:2016年-)の鬼人族たちも、まさにこの流行に棹さす造形になっている。
近年のアニメオリジナルの有名作品では、『ガンダム ビルドダイバーズ』(2018)にも、前額に角の生えたキャラクターが登場している。『七つの大罪』(漫画版:2012年-/アニメ化1期:2016年)にも現代型の角キャラが複数人いるようだが、作中での登場時期等は未詳。
角の位置だけでなく、角それ自体の造形も特徴的だ。
00年代以前に支配的であった伝統的な鬼の角は、1)巻き貝のような螺旋模様のある、2)おそらくは骨or角質であるところの、3)比較的短くて太めの突起物として、描かれるのが通例であったと思われる。
しかし、10年代半ば頃から見られるようになったオタク系の鬼キャラでは、大きく異なったものとして描かれる。すなわち、1)動物的な螺旋模様は無く、直線的にすっきりしていることが多い。2)素肌の延長線上にある、血の通った器官のように描かれる。さらに、3)従来のものと比べて細めで、しかもかなり長めに描かれる(十数センチまたはそれ以上)。また、明確な「鬼」モティーフのキャラクターでなくとも、生身の角を持つデザインのキャラクターが、比較的カジュアルに描かれるようになっている。
要するに、10年代の鬼キャラ(角キャラ)に見られる特徴は、
- 側頭部ではなく前額に(左右2本の)角が生えている。しばしば前髪をかき分けている。
- 角の根元は、周囲の素肌ともども露出している(特に生え際)。
- 角は硬質な骨ではなく、血が通ったような生々しい質感で、肌とつながっている。
- 童話の鬼のような短く太い突起物ではなく、細長く鋭利に尖っている。
これらを挙げることができるだろう。
昔ながらの童話的な「鬼」イメージを脱却しつつ、前髪をかき分けるように生やして強く注目を誘い、また根元の素肌との接続も露出させることで異形感を増し、さらに血の通った色合いにすることでなまめかしさをも演出し、そして目立つように堂々と長く突き出ている――現代型の鬼(角)キャラのヴィジュアルデザインは、こういった設計意図と表現効果があると思われる。とりわけ女性キャラクターを描く際に、こうした特徴は有利に作用しているだろう。
何故このような角になったのか。上記のマイルストーン的作品群による芸術的インパクトだと考えてもよいが、文化的要因に遡って考えてみる余地もあるだろう。いずれにせよ、単眼キャラや超巨大バストや青肌キャラのように、90年代以前には極度のマイナー趣味と見做されていたものが、2019年の現代では、ごく普通の「あり得る」趣味の一つとして存在し、数多くのキャラクターが生み出され、無数のイラストが公表され、幸いなことにほとんど反発もなく受け入れられ、そして新たにその趣向に目覚める者を日々生み出している。新しい趣向や嗜好を活発に作り出し、そして健啖に消化し享受していくオタク界隈の活力と健全性は、本当に素晴らしいものだと思う。
今世紀のオタク界隈で、和風(東アジア風)ファンタジーの有名な作品というと、『東方』シリーズがある。鬼キャラとしては、「伊吹萃香」(初登場は2004年の作品のようだ)と、「星熊勇儀」(初登場は2008年?)がいるようだ。前者は古典的なツノ造形、つまり、側頭部にツノが伸びており、根元は頭髪の中に埋もれている。後者は額から直接生えている一本角。ただし、角は鮮やかな赤色で、血が通っているような様子ではない。また、web検索で見るかぎりでは大柄で筋肉質であり、現代風の鬼キャラというよりは、古典的な「鬼」のイメージを女性化させたもののようだ。しかし、前額からの露出はインパクトがきわめて大きく、作品自体の知名度の高さも相俟って、これを現代型の角造形の祖型と見做すこともできるかもしれない。
角キャラという観点で見ると、悪魔タイプのキャラクターもある。悪魔キャラでは、ヤギを模した大ぶりな巻き角が側頭部に描かれることが多い。西洋的な悪魔=ヤギのイメージそのものである。こうした悪魔の角は、太く、濃い色で、巻かれていたりねじれていたりして、禍々しい模様を伴っていることが多い。女性の悪魔キャラでは、リボンのように側頭部を装飾している場合もある。こうした「悪魔」タイプの角表現が、10年代の「鬼」キャラの角表現にどのように影響したかは分からないが、2010年代現在ではこうした悪魔タイプの角キャラも多数現れている。
【 アダルトゲーム分野における鬼キャラ(角キャラ)の容姿 】
アダルトゲームでは、90年代の『恋姫』(1995)には水龍ヒロインがいた(※鬼ではない)が、たしか古典的なタイプ、つまり角の生え際が頭髪に埋もれている絵だったと思う。『痕』(1996)にも、鬼の血を引いているとされるヒロインたちが登場するが、せいぜい目つきが悪くなったり爪が鋭く伸びたりする程度で、角は生やさなかった。それ以降も、和風の鬼女キャラはとにかく希少で、実例はなかなか挙げにくい。
アダルトゲーム分野において、現代的な鬼キャラ(角キャラ)デザインへの移行を最もはっきりと指し示しているのは、SLG系のメーカー群だろう。しかも、時期的に見ると、アダルトゲームの角表現は、オタク分野の中でもかなり早い時期に属する。
一例として『神のラプソディ』(Eushully、2015)を挙げよう。この作品に登場する多数のキャラクターの中で、「緝戯(つむぎ)」は鬼狐族という設定であり、2本の角は側頭部や後頭部ではなく、額から斜め前向きに突き出ている。また、竜族の「ノエリア」も、2本の角が斜め前に出ているデザインである。どちらも、古典的な山型の角ではなく、細く鋭く尖ったアクセサリーのようになっている。さらに、軟体動物系のモンスターヒロイン「フォルニスゲイン」では、カタツムリやウミウシのような2本の触角が、はっきりと前髪をかき分けて突き出ている。触角はゼリー状のように着彩されており、ウシやシカのような骨ではなく、明確に「生きた器官」として認識できる。
女性の鬼キャラクターの角デザインに関して、1)額から前側に突き出る、2)前髪をかき分けて生え際を露出させている、3)細く鋭い造形である、といった一連の特徴は、2010年代末現在の特有のスタイルを明確に先取りしている。2015年というと、『鬼灯の冷徹』はアニメ版第1期(2014)がすでに放映されていたが、『転生したらスライムだった件』はようやく小説の単行本が出始めた頃であり、『Fate/Grand Order』では酒呑童子ら(2016-)がまだ登場していなかったようである。
同じくSLG系の老舗であるソフトハウスキャラも、10年代初頭から、最新型の角デザインを披露している。例えば『BUNNYBLACK』シリーズ(2010-)に、鬼魔族のキャラクターが登場する(トージョ、マキ、イシュなど)。彼等の角は硬質な素材に描かれているが、前額に頭髪をかき分けて突き出ている本格的な異種族造形であり、明らかに現代的な角デザインを先取りしている。『雪鬼屋温泉記』(2011)にもサブキャラとして鬼娘が登場する。こちらも同じく、額からじかに生えているタイプだが、角は素肌とは異質の硬質素材として描かれており、皮膚とつながっているという生々しい印象のものではない。『勇者砲』(2015)のユニコーンキャラは、角の根元が前髪に隠されている。
alicesoftやninetail系列の作品には、何人かいたような気もするが、あまりプレイしていないのでよく憶えていない。『紅神楽』(でぼの巣製作所、2012)のサブキャラも、前髪に隠れて根元は見えないようになっている。
純AVG分野では、『霞外籠逗留記』(2008)に怪力の鬼女ヒロインがいたが、たしかツノは生えなかったと思う。『鬼うた。』(2009)シリーズでは、前額の中央に角が生えているが、小さく尖っており、鉱物のような質感で描かれている。下記引用画像のとおり、額の肉を割って角が生えてきているという、かなりインパクトの強い角表現になっている。これも、現代的な角デザインの先触れの一つと捉えることができるだろう。
アダルトゲーム分野における「女性の鬼キャラ」「鬼娘キャラ」「角キャラ」の扱いを、私なりに、ごくおおまかに展望するならば、以下のようになるだろうか。
1) 全体として、鬼族の女性キャラクターはきわめて稀である。
2) 当初は、ヒロインらしさを保つために、角表現は避けられがちであったようだ。
3) 角を描く場合は、側頭部や後頭部に小さく山型に描く古典的なスタイルが主流だった。
4) 00年代末から10年代に入る頃に、前額に角が突き出るタイプが現れるようになった。
5) この変化は、10年代後半のオタク界隈における鬼(角)キャラの新機軸と、軌を一にする。
『痕』 (c)1996 Leaf
鬼の血を引くとされる一族。普段は人間そのものの姿であるが、鬼の力を解放した状態のイベントCGでは、瞳孔が縦に裂けて、周囲の虹彩部分が赤くなる。角は無い。
『紅神楽』
(c)2012 でぼの巣製作所
鬼娘のサブキャラ。角はほとんどアクセサリーのように、小さく控えめに描かれている。
『雪鬼屋温泉記』
(c)2011 ソフトハウスキャラ
大きな一本角が、額の素肌からじかに生えているのが見て取れる。ただし、素肌とは明確に断絶した硬質な質感で描かれている。10年代末の鬼キャラデザインへの過渡期的様式と言えるかもしれない。
『鬼うた。』
(c)2009 130cm
鬼娘がメインヒロインである。角それ自体は鉱物のように硬く描かれているが、額を割って突き出しているようなディテールの生々しさは、10年代の流儀を予告しているかのようだ。
『BUNYBLACK3』
(c)2013 ソフトハウスキャラ
前髪をかき分けて細長く突き出た二本の角は、10年代末のオタク界隈で流行しつつある鬼(角)デザインを先取りしている。
『神のラプソディ』
(c)2015 Eushullly
カタツムリ系の魔物ヒロインなので、角の部分も血の通った肉の感触を持つ。10年代後半に普及した角キャラスタイルの先鞭を付けている。
木々津克久『アーサー・ピューティーは夜の魔女(1)』(メディアファクトリー、2011年)、96-97頁。他分野でも、前額から生える角(触覚)のデザインは現れている。左記引用画像のキャラクターは悪魔(性別は不詳)。
漆原友紀『蟲師(1)』(講談社、2000年)、78-79頁。もちろん、10年代より前の時代にも、前額に露出する角は描かれている。この「柔らかい角」のエピソードはアニメ版第1期(2005年)でも取り上げられており、視聴した者も多かったと思われる。
【 その他の雑感 】
いずれにせよ、鬼キャラがこれほど好意的に関心を持って扱われるというのは、なかなか不思議な風景だ。昔ながらの「鬼」イメージは巨躯、怪力、粗暴、不器用、知能が低い、醜怪、邪悪といったネガティヴなものばかりで、しかも和風モンスターなので洋風ファンタジー世界との相性も良くない。かなり扱いにくく、魅力を見出しにくいネタであり続けていたと思うのだが、それが今になって鬼キャラが注目を集めるようになるとは……つくづく不思議なものだ。
イラスト投稿サイトやSNSで、「鬼 オリキャラ」で検索してみるだけでも、現代的な角デザインが広汎に普及しつつあるのがはっきり見て取れる。投稿サイトなどで、より多くの実例を収集してデータ化すれば、鬼デザインの変化とその時期をもっと正確に捉えることもできるだろう。
鬼キャラというと、ももぞの氏か梅椿鬼氏が演じそう、という印象。分厚くも鋭利な気迫と、超人的な存在感、そして重々しさの雰囲気を兼ね備えた芝居をやりきれる役者は、さすがにアダルトゲーム界隈でもそういういない。
『エヴァ』の側頭部のアタッチメントも、角のようなイメージで捉えていた人はいただろう。そしてGAINAXは、のちに『放課後のプレアデス』では「角マント」くんを登場させたり、あるいはTRIGGERが『ダリフラ』では鬼モティーフのようなキャラクターをメインに据えたりもした(※設定上は鬼ではないそうだけど)。
alicesoftに鬼キャラっていたかなあとweb検索していたら、
[ www.youtube.com/watch?v=CGrZix_if1c ]
なん…だと……! 期せずして、たいへん素晴らしいオチがついた。