2024/11/02

漫画雑話(2024年11月)

 2024年11月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。

 ケモキャラの新規タイトル。
 rioka『迷子の黒猫とオオカミ娘』第1巻。ケモキャラの少数民族が存在し、その身体能力が軍事利用されているという、20世紀前半くらいの架空世界。獣耳族を人間扱いしない酷薄な軍隊に、そこで人工的に管理されるヒロイン、そして獣耳集落を滅ぼした過去を悔いているヒーローと、なかなかエモーショナルな要素を立て続けに投入しているのだが、ストーリー構成はややもたついている。作者はこれまでに、『中央線沿線少女』などを公表している。
 池田73号『東京異人警察』第1巻は、異種族たちがどこからか唐突に移住させられてきた、2050年の東京。主人公は警察官になったばかりのケンタウロス女性で、異種族(異人)犯罪に対処することになる。不器用で周囲の物を壊してしまうケンタウロスに、発音の苦手なオーク、感覚過敏な小人族など、明らかに現実の障害(者)を連想させる描写に満ちているが、それらの苦難に対して素朴に寄り添うのでもなく、かといって迫害の無邪気なドラマにするのでもないという、かなり微妙なバランスの描き方になっている。実のところ、ストーリー構成も台詞回しもコマ組みレイアウトも作画も、まだまだこなれていないが、挑戦的なネタに取り組もうとする意欲は買いたい。ちなみに、作者が以前に発表した短編「野戦郵便局」も、ケンタウロスヒロインが登場し、人間族社会からの周縁化をテーマにしているし、デビュー作(漫画賞の受賞作)「カンジノジカン」も、日露戦争の戦場での人間性を問う物語になっている。……あっ、しまった、ブシロードコミックス(発行元)はKADOKAWA(発売元)だったか。不正企業KADOKAWAはずっと不買中で、ビタイチ金を落としたくないのだが、このように発売元だけの場合は、うーん、どうしようかな……。

 ケモキャラではないが、オカルト現象が出てくるのが、窓口基『多良さんのウワサ』第1巻。アイデアの新奇性と自由さ、オカルトキャラの視覚的造形のユニークさ、そして解決法の捻りの利き具合と、いずれも抜群の出来。『冒険には、武器が必要だ!』(既刊1巻)ともども、信頼して買い続けてよいクリエイター。


 鳴瀬ひろふみ『元勇者は静かに暮らしたい』第4巻を、カジュアルに表紙買い。カバーイラストのキャラ絵が、エッジの立った物凄いクオリティで、一目見て手に取ったのだが、ま~まれぇどブランドなどで活躍されていたあの原画家の鳴瀬ひろふみ氏じゃないか! 道理で凄味があるわけだ。この漫画は、12ページずつの短めの回を積み重ねるタイプの連載になっている。


 漫画単行本が、巻ごとに節操なくデザインを変えていくのは何故だろう。せめて背表紙くらいは、同じ色で統一してくれると、店頭などでも見つけやすいし、自宅の書棚でも見栄えが良いのだが。
 背表紙統一しているか否かは、だいたい半々くらいだろうか。少年漫画や少女漫画は基本的に同じデザインを維持するが、それに対して青年漫画は、巻ごとにバラバラの色になっている作品も多い。タイトルロゴで統一感が確保されているから、地の色は自由に変えてよいという判断だろうか。


 続刊ものなどのショートコメント。
 LEEHYE『生まれ変わってもよろしく』第2巻。韓国の縦読み漫画を、コマ組み漫画に再編成してフルカラー単行本化したもの。前世もの、というか記憶を維持した来世もの。第1巻のおねショタ時代が好みだったが、この巻は大人時代の距離感と駆け引きが展開される。恋愛ものとしては、00年代のようなちょっと古風な雰囲気も感じる。ちなみに、カバーイラストは第1巻と第2巻でつながっている。
 空空北野田『深層のラプタ』第2巻。第1巻の時点では、古典的なロボット恋愛ものを完全な電子存在(コンピュータの中のヴァーチャル存在)に徹底したような体裁だったが、そこから第2巻では、人類とはまったく別の情動機構を持つ存在とのアブノーマルな恋愛とその危険性へとシフトし、ほとんどホラーめいた状況になっている。インパクトのある絵作りも相変わらず秀逸。
 業務用餅『追放されたチート付与魔術師~』第12巻(原作あり?)。(架空世界とはいえ)ヤクザものを延々展開しているのがきつくて、全部は追って(買って)いないのだが、意志的なキャラクターたちの鮮やかな表情や、異能バトルアイデアの秀逸さ、台詞回しの切れ味、レイアウト(コマ組みと演出)の巧みさなど、とにかく異様な迫力がある。
 石沢庸介『転生したら第七王子~』第17巻(原作あり)。こちらも、上記『チート付与』と同様に、原作の殻を破ってオリジナルの物語を展開している怪作。基本的には魔術バトルものなのだが、戦うキャラクターたちがそれぞれに信念や憧れを賭けている、そうしたバックグラウンドの人格まで真剣に美しく掘り下げているという点でもたいへん興味深い。
 橋本花鳥『ルキオラと魔境の商館員』第2巻。元勇者として魔物と戦うというアイデンティティと、商館員として魔物と戦ってはならないという規範の板挟みになる主人公。ただし、そのジレンマはこの巻ではまだ解決されず、少年漫画らしく微温的に先延ばしされている。幽霊船の骸骨船長やクラーケンといったオーソドックスな魔物たちを登場させつつ、危機的な切所を意志的に乗り越えていく決断の美しさと、その間に時折挟まるユーモラスな雰囲気が、読んでいて気持ち良い。
 小川麻衣子『波のしじまのホリゾント』第3巻。おねショタだが、性的なものではなく、二人の間の関係とその変化――心情の綱引きや困惑や愛着――をきちんとストーリーとして描いているのが好印象(※いくらでも引き延ばしできそうな永続マンネリラブコメ空間は、そろそろ苦手になってきたところ)。