2025/04/03

漫画雑話(2025年4月)

 2025年4月に読んだ漫画の雑感。主に単行本新刊について。

 ●新規作品。
 鴻巣覚『うさぎはかく語りき』第1巻。月からの殺人ウサギたちに乗っ取られた渋谷地下街で、ウサギハンター少女が彷徨する話。ウサ耳美少女が何人も登場するキャッチーな作品で、一種の異能バトルめいた側面もあるが、これはこれで楽しい。作者は芳文社でいくつかの連載経験がある。
 幾花にいろ『国を蹴った男』(上下巻)。戦国時代の鞠製作職人と今川氏真の物語(原作小説あり)。幾花氏が歴史漫画に進出されたのには驚いたが、美形男性もムサい男性も描けるので、これはなかなかの適任だし、甲冑描写なども迫力がある(※ただし、戦争シーンは無い)。

 ●カジュアル買いや単刊作品。
 上田悟司(うえだ・さとし)『現実主義勇者の王国再建記』(原作あり)第13巻。コマ割が非常に不思議な配置で驚いた。見開きやシンメトリーを意識しているのは分かるのだが、極端な縦長コマを多用したり、長方形でない変形コマ(角が90度ではないもの)を組み合わせたりして、非常に珍しいレイアウトになっている。
 私見ではおそらく作者は、縦のコマ進行をベースにしている。一般的なストーリー漫画では、基本的にコマを横に(右から左のコマへ)進めていき、左端に行ったら折り返してまた右のコマから読んでいく。それに対してこの漫画家は、コマを縦に(つまり上のコマから直下のコマへ)読み進めていくことを前提に、コマ組みをしているように見受けられる。そう考えれば、この一見奇妙なレイアウトも筋の通った形で理解できる。いずれにしても、非常に風変わりで珍しい漫画体験を提供してくれる(※もちろん四コマ漫画も、縦に読んでいくスタイルだが、あれはまた別枠の文法があるので、ストーリー漫画とは違う)。
 ただし、ストーリー(状況や台詞回し)はチープだし、台詞を詰め込みすぎていて上手くないと感じるページも多く、極小コマもいかにも説明的で味わいに欠ける。現時点では、総合的には「漫画としてあまり上手くない」と言わざるを得ないのだが、上述のとおり、表現技法としてのポテンシャルは感じるので、作者オリジナルの作品を読んでみたい。
 なお、西洋ファンタジー風の異世界に「龍」(つまり、羽根の生えたドラゴンではない、中国風の長いアレ)が出てきたのはこれまた珍しい。これは原作者(小説家)の功績だが、漫画として視覚化することによって大きなインパクトが生まれている。

同書、第65話より引用。読み進める順序を水色のラインで示した。通常のストーリー漫画とはまったく別の構成原理でコマ配置されているが、読者としては普段どおりスムーズに読むことができる。極端に小さなコマを多用するのは、説明的であまり上手くないと思うが、まあ、作家の個性の範疇だろう。

 冬虫カイコ『土曜日の三重奏』と短編集『回顧』。この作者は『みなそこにて』(全3巻)の頃から読んでいるが、いずれも抑圧的な人間関係に苦しまされる構造を執拗に描いている(田舎の家父長制、教育ママたちの競争心、クラブ活動での嫉妬心、専業主婦コミュニティの内輪性、等々)。狭い共同体のミニマルな抑圧描写は読んでいて嫌気が差すし、ステレオタイプ的な描写もあるが、その一方で人間精神の機微に対する独自のデリカシーある洞察も表現しているので、さしあたりは読み続けていくつもり。


 ●続刊等。
 背川昇『どく・どく・もり・もり』第4巻。背景設定が見えてきた。この作者らしく、孤独なキャラクターに対するコミュニティ(≒マジョリティ≒権力者)からの厳しい圧力と、それに対する抵抗、脱出、解放への切実な希求が織り込まれていて、やるせなくも力強い物語になっている。
 眼亀(めがめ)『ミズダコちゃんからは逃げられない!』第4巻。下品な要素が増え、新キャラも多数投入して、展開もイージーになってきたが、もうしばらくは読み続けてみよう。亜人共存ネタはすでにありふれているのだから、せっかく出来たユニークな個性のキャラクターを丁寧に掘り下げていく方が良いと思うのだが……。
 だたろう『北欧ふたりぐらし』第4巻。スウェーデンで暮らす夫婦の物語で、今回は2回目の冬から春にかけて。北欧の現地文化(日常の慣習から特別な行事まで)を経験していくのが中心だが、スキーの運動描写なども丁寧に描いているし、こういう作品をたまに読むのも良い。
 工藤マコト『不器用な先輩。』第9巻。オフィスラブ(未満)の物語だが、恋愛未満の状態を延々続けるのは、そろそろもどかしい。