2025/05/12

『悪役令嬢の中の人』原作小説版と漫画版の比較

まきぶろ『悪役令嬢の中の人』(原作小説、単巻)と、白梅スズナによる漫画版(全6巻)の内容比較。


 ネット小説由来のコンテンツである本作は、メイン二人がお互いを理想として想いあうテクニカルな構成と、堂々とした復讐物語のカタルシスに加え、原作小説では複数視点によって作品世界の深みを増し、また漫画版ではサブキャラも掘り下げつつメインヒロインの強靱な信念を美しく描いており、どちらも読みごたえがあります。
 それぞれの特徴と創造性を把握するため、双方の描写の異同等を一覧として整理することを本稿では試みています。本作を楽しむ一助になりましたら、一読者として望外の喜びです。

 なお、原作小説のページは「p.」で記し、漫画版のページ番号は「頁」で表記します。

原作小説漫画版
序章(p. 6-9)、第1章(p. 10-33)。地の文が細かい。p. 9は省略。p. 10-の憑依状況説明はわずかに組み替えている。ウィルとの婚約はレミリア6歳の時(p. 16)。p. 17-18のゲーム内シナリオで起きていたレミリアが辿った経緯は、漫画版では省略。デイ。恋の秘薬の効果(p. 141f.)については、弟のモノローグに置き換えられているの兄の名前はシルベスト(※漫画版でも後に登場する)。エミはステファンの魔法の才能も支援している(p. 29)。1巻1話「悪役令嬢は目覚める」。エミの成長からピナとの遭遇まで。地の文だったところは、しばしば絵に委ねている。「スマホ」「ゲーム」への言及はしばしば省略。ゲーム内の孤独なレミリアがウィルに依存執着して、星の乙女を攻撃し、断罪されたあげくに悪魔召喚して「厄災の時」を招いたというくだり(p. 17f.)は、漫画版では省略。クロードの父を助けるくだりを、漫画版では具体的に描いている。
p. 32-48。復讐心の始まりが詳細に述べられている(p. 45-47)。1巻2話「星の乙女と醜悪な嘘」。ピナがエミを陥れ、復活したレミリアが隠棲するまで。エミに対する周囲の評判とピナ入学の描写は漫画版独自(53-58頁)。当初のエミがピナを支援しようとしたところも漫画版独自(67-69頁)。
第2章(p. 49-55, 57-60)。課金アイテムの説明が詳しく、王宮での秘薬使用の顛末も描かれている(p. 56f.)。1巻3話「これは 悪が下す正義(あい)の鉄槌」。ショップ買収まで。パンケーキのくだりは漫画版独自。ショップでの会話の詳細も漫画版独自(134-150頁)。
xxx1巻のおまけ。原作者による書き下ろし小説「悪役だった女の子の話」と、その漫画化「幸福の在り処」。エミ視点からのレミリア観。
第2章(p. 55, 61-62)。2巻4話「救世の乙女」。ダンジョン等で秘かに活躍を始める。魔族店主との会話は漫画版独自のディテール(13-17頁)。コカトリス撃破も漫画版独自のアレンジ(25-37頁)。「星の乙女より先に世界を救う」という姿勢も、漫画版で明確化されている。
第2章(p. 62-65)、第3章(p. 117f.)。2巻5話「創世のユートピア」。村の発展。5本の鍵を集める設定は漫画版独自。村内の描写(48-72頁)は、代理村長の名前(ソーン)を含めて漫画版独自。
第2章(p. 65-67)。ドワーフの姫巫女の名前はプシューク。2巻6話「神殺しの悪役令嬢」。ドワーフ国で聖鎧を受け取る。姫巫女との会話は、原初の時代の歴史叙述を含め、漫画版独自(93-107頁)。姫巫女姉妹のキャラデザも独自。
第2章(p. 67-69)。2巻7話「God's broken heart」。天界の主を撃破。「天界の主」のキャラデザも漫画版独自。荒れるピナの様子も漫画版独自。
第2章(p. 69-76)。2巻8話「美しいひと」。スフィアを村に受け入れ、そして魔王と対面する。スフィアとの稽古回想を含め、会話内容の拡充は漫画版独自。
xxx原作者による書き下ろし小説「はじまりの村の祭日」と、その漫画化「悪役令嬢に捧ぐ」。村の創立記念祭。
第2章(p. 76-83)。アンヘル視点での番外編(p. 232-239)も参照。3巻9話「新世界」。魔界の過去描写から、魔王との交渉成立まで。村長ソーン視点からの「狂化」の説明は、漫画版独自のもの(7-25頁)。原作p. 232-237も参照。「世界を救いに来たのです」など、レミリアの信念を表明するくだりは漫画版独自の表現もある。
第2章(p. 83-89)。アンヘル視点でのシーン(p. 239-242)も参照。3巻10話「悪役令嬢は微笑む」。創世神の神殿に入るところまで。
第2章(p. 89)。3巻11話「終わりと始まり」。グロい創世神を撃破する。創世神のキャラデザと大迫力の戦闘シーンは、漫画版独自。
第2章(p. 89-90)、第3章(p. 91-93, 100, 105f.)。3巻12話「New World Order」。魔界の瘴気問題を解決する。レンゲとの会話のディテールは漫画版独自。魔国の土地を浄化していくシーンも独自。
xxx3巻おまけ。番外編「あのあとのドワーフ姉妹」。ドワーフの姫巫女姉妹の会話。
xxx3巻おまけ。原作者による書き下ろし小説「あなたに幸あれ」と、その漫画化「待ち人」。クリムト視点で、レミリアとアンヘルを見つめる。
第3章(p. 100f., 118-120)。4巻13話「聖女のお慈悲」。転移門を開いて貿易を開始する。魔国との交易についてはほぼ漫画版独自。原作小説(p.232-235)によれば、ミザリーはアンヘルの妹で、クリムトは末弟。
第3章(p. 118-120, 104)。4巻14話「始動」。ピナの街頭炊き出しや輪栽式農業など、王国側の状況。ピナが青年を籠絡するくだりや、輪栽式農業に関する会話は漫画版独自。
第3章(p. 94-99)。4巻15話「名女優」。過去の水鏡を使って、ピナの謀略を暴く準備。麦畑でのアンヘルとの印象的な会話は漫画版独自。
第4章(p. 122f., 126f.)。リリンの実を用いて、王宮魔導士長(ステファンの父)の病を治したことも述べられている。4巻16話「リリンの実」。元気に頑張るスフィアの様子。村内シーンとスフィアの病気のくだりは漫画版独自。調合師は漫画版独自のキャラクター。
xxx4巻17話「人の心を動かす魔法」。転移門が完成し、ドレリアスたちと交渉していく。ドレリアス伯爵夫人とロレーヌ子爵は漫画版独自。
第3章(p. 105-106)。4巻18話「『魔王アンヘル』」。舞台上演で魔族への好意を浸透させる。演劇とサラの再登場は、漫画版独自。演劇のシーンは、原作小説p. 105-106の記述を拡大したものかと思われる。
xxx4巻おまけ。原作者による書き下ろし小説「遠い国の隣人」と、その漫画化「知の先に広がるは」。スフィアとクリムトが仲良く冒険している。
xxx5巻19話「掌の上で踊れ」。ウィリアルドの苦境と、エルハーシャ登場。ウィルの謹慎やエルハーシャの訪問は漫画版独自。エルハーシャたちのキャラデザも漫画版独自。
第3章(p. 119)。5巻20話「拝啓 愚かなる君へ。」。エルハーシャが村を訪問し、さらに王宮でも存在感を高めていく。エルハーシャ訪問や王宮の会議は漫画版独自。
第3章(p.100-104)、第4章(p. 130)。5巻21話「貿易同盟」。アンヘルが調合師を発見し、レミリアと将来を語り、さらに王国と国交を結ぶ。調合師のくだりは漫画版独自。
第3章(p. 104-106, 113f., 131f.)。5巻22話「だってヒロインは挫けない」。ピナが王宮で空回りする。
第3章(p. 104, 113f., 121f., 110)。5巻23話「朱き三日月は誓う」。ピナがレミリアを陥れた謀略の真実が、王宮内で露顕しつつある。
xxx5巻おまけ。原作者による書き下ろし小説「第一王子の日常」。第1王子エルハーシャ。
(第4章 p.160)5巻おまけ。番外編「第一王子が来た」。エルハーシャ来訪時の村内の人間模様を描いた四コマ集。
番外編(p. 254-257)5巻おまけ。描き下ろし漫画「魔王様 もっとがんばって!」。アンヘルとの思わせぶりな会話。
第4章(p. 115-138)。夜会には魔界の重鎮たちも同行していることが述べられている。また、レミリアのドレスについても詳細に描写されている。デイビッドやステファンたちの境遇についても、小説には詳細な記述がある(p. 132-134)が、漫画版は周囲の雑談レベルに留めている。6巻24話「インフェルノ」。国交樹立の親善パーティー開始。ピナの言動が問い詰められる。
xxx6巻おまけ。番外編の描き下ろし四コマ漫画(1-2)。魔道具店での出来事。
第4章(p. 138-145, 150)。裏切った使用人たちの処遇計画についても述べられている。6巻25話「この門をくぐる者は」。さらに問い詰められるピナと、レミリアに告白するアンヘル。「わたくしもね/その少女を/よく知っているわ」のくだりは漫画版独自のモノローグ。
第4章(p. 141f., 145-161)。最後のピナの暴言連呼を、アンヘルが魔法で沈黙させている(p. 158)。6巻26話「汝、一切の希望を捨てよ」。ピナの最後の大暴れと問題の決着。恋の秘薬の効果(p. 141f.)については、義弟クロードのモノローグに置き換えられている(p. 164f.)。エルハーシャによる状況整理は漫画版独自。
xxx6巻おまけ。番外編の描き下ろし四コマ漫画(3-4)。魔道具店での出来事。
第4章(p. 161)、終章(p. 162-172)、番外編(p. 218f.)。デイビッドたちの当時の思惑についても語られている(p. 164f.)。また、ピナの偽証に加担した者たちについても、その後の状況が描かれている(p. 167f.)。6巻27話「The End of Revenge」。エミを裏切った護衛と友人に対する後始末。ピナの末路。アンヘルからのプロポーズ。ウィリアルドに対するレミリアの返答台詞は漫画版独自のアレンジ。ピナの末路は、原作小説ではかなり残酷なものだが(p. 165-167)、漫画版では炭鉱内収監に留められている。
番外編(p. 220-231)。6巻エピローグ「悪役令嬢の中の人」。魂の世界での、レミリアと小林恵美の会話。
xxx6巻おまけ。原作者による書き下ろし小説「遠い景色」。再度転生したエミと前世の記憶。
番外編(p. 272)。6巻おまけ。描き下ろし漫画「愛しき日々」。家族4人の日常。
番外編「元婚約者の悔やむこと」(p. 174-196)。ウィリアルド視点で物語全体を回顧する。xxx
番外編「星の乙女の中の人」(p. 197-219)。ピナの身体に元々入っていた魂の視点。かなり不幸な生い立ちで、身体を奪われてからもただ見ているしか出来なかった。ピナの身体に入ってきた現代人少女は「リィナ」といい、こちらは性格の悪さから孤立して引き籠もり死していた。xxx
番外編「悪役令嬢にされた人」(p. 220-231)。エミ視点。上記のとおり、漫画版では「エピローグ」として取り入れられている。
番外編「魔族の王の思うこと」(p. 232-249)。アンヘル視点で物語全体を回顧する(夜会開始直前まで)。xxx
番外編「魔族の王の思うこと 二」(p. 250-271)。アンヘル視点。夜会から結婚、そしてその後の日常生活まで。xxx
番外編「聖女様の宝物(書き下ろし)」(p. 272-280)。その後の日常について、生まれ変わったエミの視点で。xxx